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2008-08-25 Mon 00:54
腐野花(くさりのはな)は震災で家族を亡くして、9歳の時から15歳年上の腐野淳悟に育てられている。24歳で尾崎美郎と結婚を迎えるが、花にとって「私の男」である養父・淳悟とは見えない鎖で繋がったまま逃れられないでいる。 結婚前日に花、美郎、淳悟で食事をし、結婚式を済ませてハネムーンに出かけ、戻ると淳悟はいなくなっていた。古い知り合いである小町さんが来て、淳悟は死んだと言う。それが嘘であることをすぐに見破った花。物語はそこから、視点を変えつつ花を中心に過去へと遡っていく。 2章は21歳の花と出会い、淳悟とも知り合ってその不思議な親子関係を見せつけられる美郎。仕事も付き合いも要領よくこなし、複数の女性と付き合いつつも花が気になり始める。 次の3章は、東京で16歳の花を貪りつつ見守る淳悟の視点。バイク便の仕事をしながら花を養っている最中、故郷である「北」で知り合った田岡が訪ねてきた。田岡は半年前に「北」で起こった殺人事件の犯人を花と確信しており、全てを悟られていると知った淳悟は田岡を殺害した。 4章の半年前で紋別市にいた頃の花の視点。身も心が淳悟を求めて止まず、海上保安部に所属する彼が巡視船で出かけて留守にする度に海の方を見ながら過ごす。しかし2人の関係が地元の人々から「親父さん」と慕われる大塩に知られてしまい、花は淳悟と離れて暮らすよう説得する大塩を流氷に乗せて蹴りつけ殴り、流れゆく流氷に置き去りにした。 5章は淳悟の恋人・大塩小町が12歳の花を好きになれずに警戒している。本家の祖父や紋別警察署の田岡は震災孤児の花をかわいがるが、小町から見ると花は得体が知れなくて何となく怖かった。淳悟と花の奇妙な親しさの親子関係に、小町は花が淳悟から何かを奪っていったのではなくて淳悟が花から何か大切なものを奪い続けていることに気付く。 そして最後の9章は9歳の花の視点。地震による津波で両親と兄と妹を失って避難所にいた花のもとに、淳悟が来て紋別に連れ帰った。淳悟は花が暮らしていける準備をサクサクと整え、若い独身男性に子育てができるはずがないと反対する連中を説得して、花を正式に養女にする。淳悟の母親の墓参りに行った日、夜中に淳悟は「ものすごく、さびしい」と言う。花が抱きしめていると、淳悟は花の服を脱がせて全身を舐めまわした。 若い男が9歳の主人公を引き取って肉体関係を結びつつ、主人公は大人になる。主人公は彼が実の父親だと知っていた・・・という前知識を、同じ職場の人から教わっていた。彼女はこの本が気持ち悪くてたまらなかったらしい。図書館に予約しててまだ読んでない私にいかに気持ち悪いか話してくれたけど、深く語ると泣くんじゃないかって思うくらいに時々言葉が震えていた。47歳で、娘が冒頭の花くらいの年齢だから読むのが苦しかったのかもしれない。 タイトルで既に女の業のようなものを感じていた私は、その話を聞いて万全の警戒心で手に取った。直木賞受賞してなかったら確実に避けるところだけど、職業上そうもいかないんで心をフル装備にして読み始める。 半分くらいまでは確かに気持ち悪かった。でも、時系列が段々と遡るにつれて2人の心の闇を理解させられていく。父親が死ぬと同時に、母親が父親のように厳しくなってしまった淳悟。自分だけ父親が違うことは知らないで育ったものの、家族の中で浮いているために出来るだけぼんやりと過ごしてきた花。耐えられない寂しさの満たし方を知らない淳悟から、愛情という物を初めて向けられた花が受け止める・・・と書くと月並みだろうか。 私事だけど、うちの両親は家を支えるために一生懸命働くあまり、子供への愛情の示し方が手間とお金だけという人達だ。精神的に支えてもらったことがない。小さい頃くらいはあるのかもしれないけど、記憶を小学生くらいまで遡らせても思い当たらない。でもい両親から愛情をいっぱい受けて育った配偶者から向けられる物には、男女間の愛情と共に別の物を感じていた。考え抜いて、これが家族愛ってやつかなぁと思い始めてる今日この頃。例えば今、彼の愛情は変わってないのに問題があるから一緒にいてはいけないと言われたとして、私は大丈夫だろうか。 読後に何となく寂しい気分になって身を寄せると、「その本に何か寂しい事が書いてあったの?」と言ってきた私の配偶者。いきなりズバリと当てられて仰天すると同時に、理解してもらえてる安心感から離れることができるか自問自答。難しさを改めて実感した。 書評サイトで叩かれてるのを読んでて想ったんだけど、成長過程で両親の愛情に疑問を感じなかった人には理解し難い作品かもしれない。理解できる人が不幸な家庭ってわけじゃないだろうけど、理解できない人達は幸せな人達なんだろうなと思う。 私だってどう見ても普通の家庭の部類で、こんな深いとこまで行きつくことはできないだろう。でも深い所に来てしまっているこのフィクションを全力で否定することはできない。6章の出会って間もない頃、若い男らしい乾いた愛情を娘に注ぐ淳悟と、その愛情を受けて離れられなくなった花。まだ健全な頃のやりとりが可愛らしくて、次第に不健全になっていく過程を読むために章ごとに逆に読んでいくと切なくなる。 面白い小説というわけじゃないけど、私の内面をグサグサほじくり返して潜り込んでくるような作品だった。独特のひらがな使い、読点使いにも魅せられて、どうにもこの作品が頭から抜けない。淳悟、どこ行ったんだろうなぁ。花は幸せになってほしいなぁ。淳悟と花の母親はどうやって関係を持ったのかなぁ。 それにしても、これが直木賞?わかりやすめの芥川賞じゃなくて?これのどの辺が大衆文学なんだろうか。少なくともR指定は必要なんじゃなかろうか。多感な年齢の子にはとても読ませられない。 |
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2008-08-19 Tue 00:46
磐音は品川柳次郎、中川淳庵、おこん、幸吉、おそめの6人で紅葉狩りに行くことになった。お艶のことで磐音とおこんに礼をしようとするも断られた今津屋・吉右衛門からの心遣いだ。船で海晏寺に行き、紅葉を楽しみ、今津屋のコネで流行りの店で食事をする。それだけなのに、相変わらず磐音は揉め事に巻き込まれる。店から金を取ろうと直参旗本の愚息共が料理にあたったと騒いでおり、診察を申し出た淳庵を威嚇する。深川育ちのおこん、貧乏御家人の柳次郎の啖呵で逆上した輩達に磐音が灸を据えるも、帰り道でも襲われた。さらに彼らは今津屋にまで乗り込んで来たが、いつも通り磐音が切り捨てる。 冬になり、竹村武左衛門が石垣工事の仕事中に怪我をしたと聞いて見舞いに行った磐音と柳次郎。しかし武左衛門は給料のことでもめていた。当初の予定の日数を働いていないために日当を下げられた武左衛門だったが、危険な工事にも関わらず酒を飲んでいたことが判明する。武左衛門の妻・勢津と子供達に同情した柳次郎は、残りの日数は自分が働くと言い出した。工事現場の親分はなぜか磐音も一緒に働くことを条件に、武左衛門の給料の件を承知する。 寒い場所で水に浸かりながらの作業もあり、仕事はつらかった。そんな折、磐音は奈緒を追って旅をしていた時に世話になった鶴吉と再会する。用件を言わないまま宿に戻った鶴吉が気になって地蔵の竹蔵に調べてもらったところによると、鶴吉は江戸の三味線職人の次男で、長男の富太郎を凌ぐ腕の良さが評判の職人だった。兄弟は2人共お銀という娘に惚れていたが、彼女はどうやら鶴吉の方を憎からず思っていたらしい。父親の芳造が跡継ぎに悩む際、富太郎が後継ぎは鶴吉に譲るからお銀を娶りたいと言い出した。まずは本人の気持ちが大切と、芳造の友人の息子・長太郎という青年が確かめに行く。しかし実は長太郎もお銀に惚れていた。鶴吉の名前で呼びだしてお銀に乱暴をしようとしたところに鶴吉が駆けつけて刃傷沙汰になり、彼は江戸を出ていたそうだ。 富太郎はお銀を娶り、父親の跡を継いだ。しかし夫婦は上手くいかず、お銀は長太郎の愛人になった。芳造が長太郎の所へ話をつけに行ったが、死体になって発見されたという。鶴吉はそれを知って江戸に戻って来ていた。 磐音は鶴吉に、事情を調べたことを正直に話してから手を貸すことを約束した。長太郎は船を賭博場に改造しているため、笹塚に訳を話してから2人は賭博船に乗り込む。結果、富太郎、お銀、長太郎が命を落とし、笹塚の配慮で鶴吉は旅に出ることにした。この件で奉行所から褒賞として200両をもらった磐音だったが、鶴吉が江戸に戻った時にすぐに職人として働けるようにと全額今津屋に預けて由蔵に呆れられる。 褒賞金を受け取った際に笹塚から、中川淳庵と共に「ターヘル・アナトミア」を訳した前野良沢が襲われたと聞いた磐音。淳庵を心配して訪ねると彼は無事であり、前野良沢も命に別条はないらしい。カピタンが出府するという噂に、血覚上人を頭とした一派の活動が再び活発になっているようだ。隠居した上役元用人・岩村籐右衛門の痛風を診に行きたいが外出ができないと愚痴る淳庵に、磐音が同行を申し出る。 磐音には因縁がある血覚上人一派が岩村宅を襲って火を点けるも、賊は磐音が倒し、火も消し止められた。さらに今回の件では、血覚上人の裏に「鐘ヶ淵のお屋形様」と呼ばれる人物が存在することがわかった。 江戸に戻った磐音は、今度は今津屋の老分・由蔵から能登湯という湯屋の用心棒の仕事を紹介される。能登湯2階の休憩所で度々会合を開いている浪人達がいるが湯屋が面倒に巻き込まれては困ると、主の加兵衛からの依頼だった。 会合を近くで聞いていた磐音は、聞こえてきた情報から野々村仁斎という男に行き着く。彼は佳代という御家人の妻の愛人であり、佳代は品川柳次郎と古い知り合いであった。佳代は夫の通夜の席で、家を守るために義弟と結婚してはどうかと親戚から言われる。しかし病気の夫に代わって家を支えるために体を売っていたことで非難されて、結局は家を出ていた。 能登湯での会合は磐音の説得で場所を変えてもらったが、柳次郎は姉のように思って佳代が気になる。義弟が佳代を慕っていたと彼女の体を買いに来ていたが、そこに踏み込んだ野々村仁斎に斬られ、佳代も彼に殺された。柳次郎が何とか仇を討とうとした時に磐音が駆け付け、「代わろう」と声を掛ける。 この一件を聞いて、由蔵は能登湯に必要経費を請求せずに赤字になった磐音に腹を立てる。のんびりした磐音に代わって請求してくれた由蔵は、近年になく早い時期から狐火がよくでると評判の王子稲荷参りの付き添いを依頼した。途中の茶店で代金を強請ろうとしていた浪人を成敗した磐音。その後狐火を見物していると、おこんがいなくなっていた。 茶店で追い払った連中に違いないと捜し回るが見つからない。狐火の探索に来ていた同心木下一郎太と偶然出会い、農家が貸している小屋に女を連れ込んだという浪人達がいるという情報を入手した。小屋の外で様子を伺うと、嫌がる女に手をかけたという話が漏れ聞こえる。耳を塞ぎたくなるのを堪えて踏み込むも、女はおこんではなかった。 一旦番屋に戻ると、稲荷社へ向かう山道に侍の黒焦げ死体があるとの知らせが入る。死体は茶店で磐音が追い払った浪人であり、雷に打たれて死んでいた。さらに首筋には奇妙な歯形がある。おこんは稲荷社の中で発見されたが、童女のように歌いながらぼんやりしていた。磐音が振るった入魂の一閃がおこんの脳天直前でぴたりと止まると、光が抜け出ておこんは正気に戻った。 その後江戸では、金兵衛とおこんが稲荷様を信仰していると面白おかしく取り上げられていた。 今回は比較的のどかな話の中に揉め事が盛り込まれている。あちこちで諍いフラグを立てまくる磐音がかわいそうになってきた。だらしなさ全開の武左衛門も、ちょっとイラッとする。要するに、すこ〜し飽きてきたなと思ってきた。ワンパターンの中にも楽しいことや悲しいことが盛り込まれてるんだけど、今回の話はすべて“あーなってこーなって解決するんだろうな”と容易に想像つくものばかりだ。私はスタンダードやワンパターンはある程度歓迎するけど、ここまでくるとなぁ。 しかしそんな中で一番の見せ場はおこんの告白。「居眠り磐音さん、もし刀を捨てて町人になるというのなら、おこんが嫁に行ってあげるわ」と、別れ際にさらりと言う。今までは所々で磐音を想ってるような素振りを見せていたけど、磐音の心には奈緒しかいないこともちゃんと理解して出しゃばらなかったおこん。しかも磐音は豊後関前藩のため、武士の身分を捨てることはないってこともわかってるはず。その上での逆プロポーズに、おおおおお!!!となる。 私は恋愛モノが嫌いな理由は、しょうもない事でうだうだ悩んでる話が嫌いだから。何事も結論を急ぐのは、数ある私の短所のひとつだ。でもこんなふうに、自分の気持ちを整理して理解し、相手のことも理解し、どうあるのがベストか最善の状況をわかった上で、それでも好きだから想ってるっていう現状維持は健気でいい。とてもいい。しかしまあ、その後は何事もなかったように接してる2人なんだが。 それでいて、同じように相思相愛の人を諦めざるを得なかった鶴吉と語り合うシーンでは磐音の気持ちもわからされて、しんみりとくる。奈緒と再び会えることはあるのかなぁ。まだ7巻までしか読んでないけど、先日26巻が出てたなぁ。佐伯さん、筆早すぎ。 豊後関前藩でより良い海産物を作らなければいけないが、領民から思いのほか反発を受けているという中居からの手紙も気になる。 ワンパターンと書いておきながら、やっぱり登場人物は皆好きなんでどうなっていくのか見て行きたい。 |
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2008-08-15 Fri 22:34
たまに活字離れしたくなる時があり、たまにネット離れしたくなる時がある。最近それが同時に起こってしまって、ここんとこずっと更新してないまま気付いたら半月以上経ってた。本がたまりまくり。まだ読んでないのに図書館に返しちゃったりとか、大好きな作家の本をやっと買ったのにまだ読んでなかったりとか。
このブログは誰かに向けて発信してるもんじゃなくて、自分が仕事をスムーズに行うための記録ブログ。だから、 ブログの更新がない ↓ 仕事のための情報収集が進んでない ↓ 社会人としてダメ人間 とか勝手に思い込んでしまって一人落ち込む。 とりあえず、ボチボチ読んだり書いたりしていこうかと思ってるっていうか、していきたいなと希望的観測で他人事のように思ってる感じ。 |
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2008-07-31 Thu 01:18
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2008-07-21 Mon 00:00
寿命以外で死ぬ人間の前に人間の姿で現れ、7日間調査して「可」または「見送り」の判断をするのが調査部に属する死神の仕事。ほとんどの場合において「可」の決断が出るという儀式的というかお役所仕事的な調査でも、「私」は真面目に調査を行う。 死神は調査対象に合わせた外観になることができ、ミュージックをこよなく愛し、素手で触られた人間は気絶し寿命が1年短くなる。食事や睡眠の必要はなく、電波に乗った音声を聞き取ることができる。調査対象の人間は調査中の7日間は死ぬことはない。 これは雨男の死神「千葉」の仕事を描いた6編の短編集。 「死神の精度」 大手電機メーカーの苦情処理をする二十二歳の藤木一恵に近付くことに成功した「私」。外見も性格も地味な彼女の仕事はただでさえつらいが、最近は特に変な人がいると言う。苦情の電話で自分を指名して文句を言うが、何度も謝らせたり何か喋れと言ったり、故障の原因を説明しろと言ったり、歌ってみろと言ったり、最終的には会いたいと言ったり。彼女はその仕事がつらいと、鬱々と死にたがる。しかしその男は実は音楽プロデューサーで、藤木一恵の声に才能を感じて電話をかけ続けていたらしい。ミュージックをこよなく愛する死神として「私」はしばらく悩んだが、この調査を「見送り」にした。 死を扱う短編物語で、いきなり死なないはなしかい!とちょっとがっかり。何かちょっと物足りない気がするのは、藤木一恵自身の感情が沈みっぱなしで終わったからだろうか。 「死神と藤田」 調査対象である藤田は、今時任侠のやくざらしい。栗木の組から命を狙われ、今は藤田を崇拝する阿久津に身の回りの世話をさせながらマンションに隠れている身だ。しかし上役が藤田を裏切り、彼を売ろうとしているらしい。組と藤田の板挟みになっていた阿久津だったが、やはり藤田が負けるのが許せないと「私」を連れて栗木を殺しに行った。しかしあっけなく捕まり、藤田を呼び出す人質にされてしまった。 これは途中でオチがわかっちゃったなぁ。いちやくざに狙われたくらいで、幹部だか組長だかの栗木が用心棒を新しく雇うわけがない。鉄砲玉(表現古い?)はたくさんいるだろう。ということは話の流れ的に、栗木の横にいたのは死神か。とか冗談半分で思ってるとビンゴ。こういうの、当たってもあんまり嬉しくないなぁ。楽しめないじゃないか。 でも、後日談好きな私がちょっと後日談を考えてみる。絶対絶命の藤田が生き残って栗木が死に、翌日に藤田が何らかの事故で死ぬとしたら、阿久津の中で藤田は神様になるだろうな。阿久津はきっと立派なやくざになるだろう。そう考えると、ちょっと楽しい。 「吹雪に死神」 「私」の調査対象は田村聡江という中年女性。旅行ペアチケットが当たって夫婦で洋館に泊まっているが、その洋館の宿泊客の何人かは死神の調査対象になっており、既に「可」の報告が出ているらしい。他に権藤父子、女優の卵の真由子、童顔の料理人、が来ており、真由子の恋人が遅れてくることになっていた。 調査部の話によると、雪の中の洋館で次々と人が死ぬことになるらしい。その言葉通り、まずは田村聡江の夫・幹夫が毒死し、次に権藤父が刺殺された。全員が沈み込む中、やってきた真由子の恋人は「私」の同僚だった。同僚によると、真由子が死ぬのは明日らしい。翌朝「私」は真由子が刺殺されたのを確認してから全員に報告し、自分が考えた真相を語る。 いきなり定番ミステリーだけど、その死全てに死神が絡んでるっていうのが面白い。謎解きには死神でしか知り得ない事から得たヒントもあってずるい!と思う反面、死神という設定が活きたミステリーでもあった。 「恋愛で死神」 調査対象の荻原は、毎朝バス停で会う古川朝見に恋をしていた。調査を始めた初日にその事を知った「私」だが、彼女は荻原のことを最近頻繁に電話してくるストーカーと勘違いしていた。詳しく聞くと、最初はマンション購入の勧誘から始まった電話がエスカレートしてきているらしい。その話を聞いた日から2人は急速に仲良くなっていった。 外見がいいことがコンプレックスになってダサい眼鏡をかけ続ける青年が恋をするという話だけど、荻原が死んだシーンから始まってるから変な期待をせずにその死を受け入れられた。そして、恋愛ごときで死神が「見送り」を出さなかったことがむしろあっぱれ。1話目では最愛のミュージックのために「見送り」の判定を出したけど、重視されがちな恋愛では心を動かされることなく「可」にする。そういうクールな感じ、かなり好き。まあ、古川さんはかわいそうだけども。 「旅路を死神」 調査対象の森岡耕介は、「私」が調査部に言われた通りに車を運転していると血の付いたナイフを見せて乗ってきた。彼は母親を刺し、街で若者を刺したという彼は、十和田湖の奥入瀬に行くと言う。「私」は彼に言われるがまま運転した。移動しながら森岡は、少しずつ自分のことを語った。幼少の頃に誘拐されたことがあったが、その犯人グループの一人と母親が繋がっていたことを知って母親を刺し、街で馬鹿笑いしていた若者に腹が立って刺した。短絡的思考の森岡はさらに電話の相手の居場所を調べ、犯人グループの一人だった深津を殺しに行こうとしていた。 この話の中で、駐車場の壁に落書きをする青年が出てくる。吹き出しそうになるくらい驚いた。『重力ピエロ』の春くん?春くんがが落書きしてるとこじゃないか。あの作品は結構好きだから、春くんに思いがけず再会できたことは嬉しかった。でも同時に、あの幸福と不幸がごちゃまぜになった作品の切なさも思い出す。 調べてみるとやっぱ春くんだった。あと、泊まったホテルも『重力ピエロ』で落書きされたホテルだったらしい。それは気付かなかった。『重力ピエロ』には『オーデュボンの祈り』の伊藤が出てきてたし、この著者はこういう作品同士のリンクをする人みたいだね。 「死神対老女」 この話の調査対象である七十歳の美容師の老女は、「私」が彼女の死を見届けに来た事に気付いた。彼女の周囲では不慮の事故で亡くなる人が多いと言う。そのため、人が死ぬ時の空気に敏感になっているそうだ。 街に出てCDショップに行こうとする「私」に老女は、街で若者を数人、明後日髪を切りに来るように声を掛けて来て欲しいと頼んだ。最初は苦戦したが、見かねたビラ配りの男が色々教えてくれて当日は自分が声を掛けた中から5人の若者が来ていた。 翌日、老女が「私」に頼みごとをする時に居合わせた女性が、どうして客を呼びたくなったのかを聞きにきた。老女には息子が2人いたけど、長男が落雷で死んでから母親としての仕事を放棄した彼女に怒ったのか呆れたのか、次男は音信不通になっていた。しかし急に電話があり、孫の存在を教えた。孫は老女に会いたがってるが次男は会わせたくない。そのため、孫にはあくまで客として行くこと、余計な話はしないことを条件に出していた。老女は孫に会うのが怖いし緊張するし恥ずかしいと、老女は孫が来ることになっている日に何人か若者を呼び、どれが孫かわからないようにしたかったらしい。その日「私」は初めて晴天を見た。 1話目の藤木一恵が歌手デビューしてて彼女のCDが「だいぶ前のCD」として出てくるし、終盤近くで老女が古川朝美だったことが判明する。なぜか美容師に職業換えしてるし。昔は映画の配給会社に勤めてるんじゃなかったっけ?古川さんはなかなか不幸な人生を送ったみたいだけど、50年くらい経ってこんなに素敵なおばあさんになってるとは。 そうそう、「私」が最後にきれいな晴れを見ることができて良かった。 死神て・・・・。淡々としてるくせにいきなりのファンタジーカラーにびっくりした。最初の数ページはかっこつけた導入だと思ってたら本当に「死神」だなんて、なかなか引き込ませられる導入じゃないか。そして寿命以外の不慮の死は全て死神が決めているという理不尽さと、「私」のクールさで妙なかっこよさがある。それなのにミュージックへの愛はとても深い。その設定が面白い。 でも何でだろう、何か物足りないんだよなぁ。人気作者の人気作品なのに、楽しめない自分が不甲斐ない。天然風の死神「私」が他の登場人物と交わす会話は愉快だし、死を与える死神から見た人間模様も面白いけど、物足りない。結局物語の中では死なないからだろうか。ちゃんと死に様を描かれてたのは荻原だけだったからかな。死に様を描かない代わりにこちらの感情を揺さぶってくれるようなシーンがあったら良かったんだけど、とりあえず私の感情は揺さぶられなかった。 うーん、やっぱこの作家さんとは相性悪いな。 |







