元司書による読書備忘録ブログ。思ったことは全部書き、何様気取りの感想だったり平気でネタバレしたりします。
『ハーバードでいちばん人気の国・日本』  佐藤 智恵
2017-04-26 Wed 15:42
ハーバードでいちばん人気の国・日本 (PHP新書)
佐藤 智恵
PHP研究所 2016.1.29
売り上げランキング: 12,211

 世界最高峰の大学・ハーバードでは、「ケース」と呼ばれる教材をもとに議論を行う。その中で取り扱われた日本が題材の「ケース」を紹介する。


 浅い本だなぁと思ったら、PHP新書か。司書時代、何度も選書で弾いてきたなぁ。タイトルは面白いんだけど内容はどっかで読んだ話の劣化版、それがPHP新書。
 日本の「ケース」であるトヨタやホンダ、新幹線清掃会社のテッセイなどを紹介してあるんだけど、本当に紹介で留まってる。「ケース」の概要と、時々教授のコメント。日本を研究してる外国人のコメントより、天才、秀才達のディスカッションそのものを読みたいんだけどなぁ。浅い感想が少し書かれてるだけで、しかもよくある日本ヨイショみたいなやつばかり。これじゃたまにバラエティ番組なんかでやってる、「凄いニッポン人!」みたいなのと変わらない。この内容で「いちばん人気」というのは、大袈裟だ。
 序盤に、研修旅行で一番人気なのは日本であり満足度も高い、ゆえに「いちばん人気」と書いてある。もしかして「いちばん人気」って、この部分のこと!?それは観光地としての日本が良かったという事じゃないか。あと、幹事を務めた日本人留学生のプランが良かったんだろう。
 あと、この手の本を読むと、あまりにも自分とかけ離れた世界で妙に眠くなっちゃう。半身浴のお供にしたら、何度かお風呂の蓋の上に突っ伏してた。背伸びして社会学の本を読むもんじゃないな。
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『誘拐』  有栖川 有栖 他8名
2017-04-20 Thu 03:47
誘拐
有栖川 有栖 霞 流一 山口 雅也 五十嵐 均 折原 一
角川書店   1995.01
売り上げランキング: 2,076,962

 「野生時代」の1994年8月号に掲載された、「誘拐」をテーマにした8人のミステリー作家によるアンソロジー。


「二十世紀的誘拐」  有栖川 有栖
 学生アリスシリーズ。推理小説研究会の望月と織田はひょんなことからゼミを受け持つ酒巻教授の自宅を訪れ、酒巻教授の弟・聡に会った。
 その翌日、推理小説研究会のメンバー・江神、織田、望月、アリスは酒巻教授から絵の誘拐の相談を受ける。価値はないし犯人も聡としか考えられないものの、いつどうやって盗んだのかが謎だという。千円という破格の身代金を預かって、4人は誘拐犯の指示に従う。

 学生アリスシリーズで、マリアちゃんが入会する前の話なのかな?短い話だったから、出てこなかっただけ?どっちにしろ、マリアちゃんいないとむさ苦しいな・・・。
 事件そのものが小さいし、短い中に訴える物があったわけでもないから、あんまり面白くなかった。アリスどころか、江神さんの存在感さえ薄くて、読み応えがない。ラストの、二十世紀はコピーの時代ってところがもうちょっと掘り下げて欲しかったなぁ。
  

「セコい誘拐」  五十嵐 均
 娘のまみ子が誘拐された不動産会社の社長・上条敏夫は、三千万円の身代金を用意できずに同業者でも羽振りのいい後藤田の孫・慎治を誘拐した。手助けするふりをして慎治の身代金をまみ子の誘拐犯に渡す事に成功した上条だったが、後藤田の息子夫婦が警察に通報してしまう。

 上条はなかなか非道な事をしてるけど、どことなく小者感が拭えない感じが上手い。
 全てが上手くいったと見せかけて、ラストの犯人の手紙で窮地に追いやられた事を匂わせて終わり・・・だったんだけど、私の理解力が追い付かなくて、え?何?どういう事?犯人誰だったの?と、登場人物に犯人がいたと勘違いして混乱してしまった。
 何度か読み返して、理解。犯人に再脅迫されただけね。で、上条自身が誘拐と脅迫に手を染めたから、絶対に警察は頼れないって事ね。こんな単純な事がわからないなんて、大丈夫か、私・・・。
 あとこれは、いち母親としてとっても引っ掛かる点なんだけど、事件解決後に夫婦でいちゃつくシーンが気に食わない。子供が誘拐されて戻って来た直後なのに、母親が目離す?用心のために縁側の鍵を二重に掛けたって、そういう問題じゃないと思う。トラウマになって、娘から一刻も離れられなくなるもんじゃない?と、モヤモヤした。
 作者プロフィールで夏樹静子が実妹と書いてあってびっくりした。兄妹で推理小説家って凄い。作品数が段違いということもあって、知名度は妹の方が上かな?


「二重誘拐」  折原 一
 編集部とのファックスのやり取り、また編集部宛ての文章を書いている体の小説。
 覆面作家・西木香は締切から逃亡して車で雨の山道を走っていたところ、崖から落ちてしまった。気が付くと山小屋のベッドに寝せられていたが、腰を強く打ったせいか足に感覚がない。助けてくれた自称ファンの女性から自分のためだけに小説を書くように頼まれるが、断ると五百万の報酬を提示してきた。
 半ば脅されて小説を書くことを承知したが、女性が外出中に警察に電話をしようとして、誘拐の身代金を要求する電話が録音されていることに気付いた。西木が報酬の受け取りを渋ると女は身代金の受け取りに不備があった事にし、金額を増やして西木の前にお金を積んでいく。

 これも書簡小説っていうの?ファックスだけど。ていうか、ファックスっていうのが時代を感じる(笑)。
 名前もわからない太った女のヒステリーが気違いじみてて、ちょっと怖くて面白かった。一連の事件から西木が逃げ出した後の編集者からの手紙で、これは西木が書いた作品だったってこと?と一瞬思わされたところに、女からの手紙で再びゾッとさせられて、短編らしい後味の良さと悪さがある。
 ところでこの事件、逆探知で警察が来た時に西木はこのまま軟禁生活が続くことを懸念してたけど、女は西木に罪を着せるつもりだったんじゃないだろうか。状況証拠的にどう見ても西木が犯人にしか見えないのに、どうしてあの性悪そうな女が狂言を告白すると思うんだろうか。
 犯人が西木にしか見えないから、車もお金も盗んで逃げる時に「警察の不審訊問に引っかかっても、私は自分の身の潔白を証明することができる」という点がどうもわからない。声紋鑑定したら、女の自作自演がバレるからって事?となると、一旦は捕まるわけだから、文脈的に違うか。小説の報酬としてもらっておくぜって事?でも、車を盗んだ理由にはならない。うーん、わからん。


「知らすべからず」  香納 諒一
 ひき逃げ事件で死亡した被害者は、大金と行動を指示する手紙を持っていた。どうやら誘拐事件の身代金を届ける途中に事故に遭ったらしく、捜査一課が呼ばれた。身元がわかる物も持っていなかったため、ひき逃げ事件と誘拐事件の両方の捜査が始まった。
 庄野部長刑事、中本係長らは被害者の足取りを追っていく。

 ハードボイルド系の雰囲気の中、身代金運搬中に事故死から始まって捜査がサクサク進んでいって最後にどんでん返しっていうのが面白かった。被害者宅を突き止めたと思ったら誘拐されたのは猫だった・・・というのは犯人の機転で、実は加害者だった事に庄野と中本気付く瞬間の刑事の勘っぽい感じがかっこいい。
 描かれているのは庄野と中本ばかりだけど、捜査に携わるチョイ役の人達も名前がどんどん出てきてちょっと混乱した。もしかしたら、「学生アリスシリーズ」みたいに何かのシリーズの短編なのかもしれない。


「スイカの脅迫状」  霞 流一
 葬式の直前に成井光邦の死体が誘拐され、一千万の身代金が請求された。ショックを受けて倒れた住職・笠木梅玄に呼ばれて、漢方医の「私」こと篠上が呼ばれた。死体があったはずの棺桶には脅迫状と、割れたスイカがあったという。身代金の受け渡しに指名された後妻の連れ子・成井守は指示であちこちに奔走させられたが、遺体はバラバラの状態で返された。
 その日の夕方、成井光邦の親友・倉石越介が自殺した。発見者は成井光邦の三男で倉石越介の娘婿の成井宗が、後輩の宇賀だった。

 関係者がわちゃっとしてて、混乱する・・・。主人公と住職の親しさ度合いもよくわからないのに、主人の奥さんの兄が居候だの、後妻の連れ子の三兄弟だの。
 トリックは面白くて、スカイの使い方も秀逸。ただ、このトリックを実行する人は単なる遺産目当てってだけじゃ腑に落ちない。死体を切り刻んだり、腕やら頭部やらを入れたバッグ類を主張してみたりと、なかなかのサイコパス。そこをサラッと流されてるのは、短編だからなのかなぁ。本格系っぽくはあるかな。


「トランスミッション」  法月 綸太郎
 ハードボイルド小説を書く「僕」のもとに、身代金請求の間違い電話が掛かって来た。寝ぼけていたために誤解を解けないまま電話が切れてしまったために、「僕」は全く同じ内容の電話を脅迫相手の安永和彦の家に掛けた。身代金請求と受け渡し方法の指示まで仲立ちを務めたが、気になって身代金受け渡しの場所に来て隠れているところを犯人グループに見付かって拘束される。財布に入っていた、自身が書いている小説の主人公の名刺「私立探偵 羽佐間彰」の名刺から誤解される。
 安永氏が雇っていた本物の探偵に助けられ、人質を送り届けると家には誰もおらず手紙があった。仕方なく自分の家に連れ帰って手紙を読むと、安永夫婦から「僕」に事情があって姿を消すから息子を預かって欲しいと記されていた。手紙の文字は、子供が病気で死んだ後に離婚した妻の文字に似ていた。

 何この、モヤッと謎を残したまま終わる感じ。前半の脅迫仲立ちは若干無理やり感があったし、捕まったところまでは普通の展開かと思ったけど、最後のびっくり展開から真実が想像つかないくらい謎過ぎる。助けてくれた本物の私立探偵が「踊り続けるしかない」と言っていたけど、一連は仕組まれた事だったわけだよね?脅迫されていた安永和彦は元妻の久美子と再婚相手?いや、何がどう仕組まれた事なのか全然わからないから、再婚したとも限らないわけか。
 人質だった子供・トモユキは、病死した「僕」の子供が成長した歳と同じくらいということは・・・どういうことか全然わかんない。生き別れじゃなくて病死だから、実は「僕」の子ってわけじゃないだろうし。
 読者も主人公も、真実がわからないままという見たことない展開。短さゆえに苦痛ではないけど、何が何だか。調べたけど、続きがあったりシリーズ物だったりとかするわけでもなさそう。初めて読んだ法月綸太郎作品、難解すぎ。


「さらわれた幽霊」  山口 雅也
 二十年前に、当時人気女優だったアン・ピーブルズの三歳の息子・ジミーが誘拐された。犯人の指示に従って身代金を準備し受け渡し場所に行ったが、犯人からの接触はなくそれきり迷宮入りしていた。ところが二十年後、ジミーの歌声が聞こえる電話が掛かって来た。その翌日に、二十年前と同じ内容の脅迫状が届いているのを秘書のミス・シンプスンが発見した。
 執事・ブランドンから別件で依頼を受けて居合わせた探偵士・ブル博士と刑事・キッドとピンクは、この件を調べ始める。

 昔のイギリス風推理小説っぽいと思ったけど、携帯電話が出てきたから現代の設定か。探偵が刑事を引き連れているのも変な感じだけど、もっと驚いたのは事件の真相に行きついて語り始めたのががキッドだった事。ブル博士が解決するんじゃないんかーい!ま、キッドの解決は小気味よかったからいいけど。真相も面白かったし、このアンソロジーの中で一番面白く読めた。
 探偵士って言葉も変だし、刑事がパンクなスタイルしてたり、探偵が刑事を顎で使ってたりと、何だか変な設定だと思って読み返したら、「探偵たちが社会を支配するパラレル・ワールドの英国」「特権階級の探偵士」とか書いてある。何だかちょっと面白そうだなぁ。いつか読んでみたい。・・・いつになる事やら。


「誰の眉?」  吉村 達也
 五歳の梨田健太が、公園で遊んでいるところを連れ去られた。居合わせた子によると、犯人は自分の眉を指さして「ダリノマユ?」と聞いたそうだ。父親・充は目撃証言から、犯人は自分の父親・竣蔵であると確信して警察ではなく精神分析医で名探偵の氷室想介に相談する。

 入り口であるタイトルの野暮ったさにちょっと期待したけど、一文目の「ダリノマユ?」にズコーッと来た。え、なに、有栖川有栖先生と仲いいの?そうでないと、この無理やりな「ダリノマユ」は不自然過ぎでしょ。竣蔵が氷室をヒムラと間違えたってシーンもねじ込んだ感があるし、「火村」という字を想像したという指摘まで怪しく見える。ちょっと吉村先生、お遊びが過ぎますよ。氷室想介が氷室京介っぽくて笑えるっていうのがどうでもよくなるくらい、お遊びが過ぎますよ。
 でも、『ダリの繭』のダジャレで眉をやたら強調しといて、ちゃんとそこに意味を持たせてあるのは脱帽。昔、若手作家のアンソロジーで西尾維新が乙一の『GOTH』繋がりで「ごすっ」という擬音から始めてたのを思い出したけど、やっぱ腕が段違いだ。
 本格推理というより心理描写メインの話だけど、それにしてもその理由で誘拐はないわーって思う。誰の眉か聞くだけなら良かった。でも、誘拐しちゃいかん。この浅さからも、「ダリノマユ」って言葉が使いたかっただけなのが伺える。


 なかなか豪華なメンバーだけど、普通の新書サイズに8人は多過ぎなんじゃないかなぁ。短さが効いてる話より、もうちょっと説明して欲しい話の方が多かった。半分がシリーズ物の話だから、魅力ありそうでその魅力が説明されてないキャラも多かったし。「トランスミッション」に至っては、是非長編で書き直してくださいと土下座したくなるほどのミステリー。作者さんの中には真実はあるんだよね?掲載された「野生時代」に、インタビューとか載ってないかな?
 「誘拐」っていうテーマだけでこれだけ特異な話が出来上がるのは凄いけど、身代金の受け渡しで場所がどんどん変わっていくタイプ、8編中3編は多いでしょ。長編だと臨場感が出そうだけど短編では、またこのパターンか、と思っちゃう。
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『あたたかい水の出るところ』  木地 雅映子
2017-04-11 Tue 00:46
あたたかい水の出るところ
木地 雅映子
光文社   2012.04.18
売り上げランキング: 951,987

 高3の「わたし」こと大島柚子は、銭湯「松の湯」をこよなく愛し、生き甲斐にしている。ある日いつも通り松の湯を堪能してから外に出ると、高そうなバイクが停まっていた。湯上りのテンションで調子に乗ってバイクにいたずらをしていると、持ち主の大学生・瀬田川福一と言い合いになる。
 和み系で癒し系の「わたし」は、家では恋愛至上主義で自分勝手な長女、神童だったために親の期待を過度に受け根暗な内弁慶に育った三女、朝早くから夜遅くまで働いて滅多に家にいない父、家事のほとんどを「わたし」に任せて妹の教育費のためにパートに勤しむ常に不機嫌な母との4人家族で、誰とも衝突しないようのらりくらりと生きていた。


 のほほんとした序盤に、小3の時に感じた地下を流れる温泉のうねりを感じた体験、サウナでトリップした体験が効いてるほんわか小説かと思ったら大間違いだった。友人に恵まれ、何も考えてなかった就職先も先方から望まれ、お風呂の事以外は何も考えないでぽや~っと生きている幸せそうな地の文のなのに、家庭のドロドロが重苦しい。無意識ながらそれを必死に包み込もうとしているように見えた。
 主人公は柚子だけど、核は母親かな。三女に過度の期待をし、家事のほとんどは柚子に任せ、八つ当たりし、挙句に就職したら家から通ってお金を入れろ。つまり家政婦兼搾取用の子になれってあからさまに言ってるのに、自分がどれだけ歪んだ事を言っているのか気付いていない。期待を掛けた三女の心が壊れつつある事にも気付かないで、三女のためだけに家族を動かそうとしていて、その醜さがじわじわと柚子の笑顔を塞いでいくようで恐ろしかった。
 柚子と福一が体験した世界、「悟り」ってやつかと思ったけど共有できるんならやっぱりどこかの精神世界に行ったんだろうか。そのトリップがあってさえ存在感が薄かった福一が迎えに来てくれたのは、忘れていたとはいえ若干唐突だったように思う。
 ファーストコンタクトは印象最悪で、後々惚れられるという王道に何か引っ掛かりを覚えるのは、柚子が福一のバイクにいたずらしたせいだろうか。お気に入りの銭湯に不釣り合いだからって理由だけでバイクにシャンプー垂らすとか、正直民度が低い。せいぜい、うっかりシャンプーこぼしたって程度にしていて欲しかった。セカンドコンタクトがトリップで、次がもう待ち伏せって展開が早過ぎる。
 さらに、あれだけあの不思議な世界に留まろうとした福一が急に心入れ替えて求婚っていうのも唐突過ぎて、もうちょっとワンクッション欲しい。求婚まで飛ばさないで、傍にいてくれってくらいだったら納得いったような・・・いや、やっぱ唐突だな。唐突と言えば、ゴミ捨て場で予言を告げて立ち去ったおばあさんも然り。あくまで個人的な好みなんだけど、不思議現象は柚子と福一の精神世界だけにしておいて、あとはあくまでリアリティが良かったかな。章題にある「魔法使いのおばあさん」は、平松さんでしたってオチの方が、平松さんの存在の面白さと有難さが際立つような気がする。
 でも、のらりくらりする柚子追い詰めていく母親から、福一が救ってくれて良かった。柚子の存在が福一にとっての救いになるようで、良かった。ずっと影の薄い父親だったけど、最後に柚子に居場所を作ってくれて良かった。あの家庭が出来上がった責任の一端は父親にもあるとは思うし、あの母親の元から柚子を連れて行ってからの離婚はかなり難しいだろうけど、せめて穏やかな余生を過ごして欲しい。

 作者名、数回調べてもまだ読み方を忘れる。「きじ かえこ」さんと読むそうだ。きっと後でこれを読み返した時もまた忘れてそうだと思って、ここに記しておく。
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『ロシア紅茶の謎』  有栖川 有栖
2017-03-31 Fri 15:32
ロシア紅茶の謎 (講談社ノベルス)
有栖川 有栖
講談社 1994.7.28
売り上げランキング: 69,343

 作家アリスシリーズの3作目で、シリーズ初の短編集。


「動物園の暗号」
 大阪の動物園の猿山で、飼育委員が撲殺された。被害者は暗号やパズルを作るのが好きで、右手に自作の暗号を握りしめて絶命していた。
 大阪府警の船曳警部が火村助教授に助けを求め、火村英生助教授から「推理小説家好みの事件が起きたから一緒にこい」と呼び出された「私」こと有栖川有栖。火村と一緒に、暗号の謎に取り掛かる。
 
 有栖川有栖さんの作品を出版順に読んでいるけど、ずっと長編ミステリーだったんで今回もそのつもりで読み始めてたんでちょっとびっくり。どうりで暗号の謎が解けるの早いと思った・・・。
 それにしても有栖川さんの短編、いいね。元々心理描写があっさりしてて、ロジカル重視で感情移入皆無の作品を書く人だけど、短編だとそのあっさり感が読みやすさとわかりやすさを生んでると思う。被害者が作った暗号の答えがたまたま加害者の事で、絶命間際にポケットから取り出すという辺りにはやや都合の良さを感じなくもないかな。
 あと、警察が火村を呼び出すのが早過ぎるのも疑問。警察、頼りなさすぎ。もうちょっと捜査してから外部の手を借りてくれないと、私が関係者で事情聴取を受ける立場だったら不信感出しまくるし、クレームの電話もするし、マスコミにリークするかもしれんわ。
 ところで、確かアリスって大阪市内に住んでたはずで、市内の動物園といえば天王寺動物園!?偶然にも、ちょっとした用で大阪行くついでに家族で天王寺動物園行くつもりの時にこの小説を読んだんで、内心盛り上がった。小説内では阿倍野動物園って書いてあるけど、天王寺区じゃなくて隣の阿倍野区にあるって設定がわかったのも嬉しい。ただ、帰ってからこの感想を書いているんだけど、猿山なかった・・・。猿系は、基本的に檻に入ってた。猿山は必要でしょ、天王寺動物園。


「屋根裏の散歩者」
 またまた火村に呼び出された有栖川有栖は、船曳警部と共に殺人現場に向かう。アパートを経営している独居老人が殺害されたが、彼はアパートの屋根裏を歩き回って住人を覗き見して日記に綴る趣味があった。日記によると、住人の中に巷で騒がれている女性連続殺人事件の犯人がおり、その人物にそれとなく探りを入れたらしい。5人の住人を記すときには「大」「太」「く」「卜」「I」と記されて、誰の事かわからない。
 聞き込みが終わった火村は、夜中に出直したいと言った。

 連続殺人事件犯に覗き趣味と、大小はあれど二つの異常性が面白かった。ただこの話、火村さんの推理は光ってなくない?行動力の問題というか、夜中に屋根裏から覗いてみるのは警察がやるべき仕事だったのでは?いや、大家殺しで自重するだろうから、張り込みやら家宅捜索やらの手間を省いたって事なのか。
 「大」と「太」の違いは、ちょっと微妙な気分になる。いや、わかりやすいというか、ユーモアって言い分もわからなくもないんだけどね。我ながら、小娘じゃあるまいしと思うけど、何か微妙な気分になる。良し悪しは置いといて印象には残ったから、被害者のダイイングメッセージがわかりにくいながらも面白いかな。


「赤い稲妻」
 夜の雷雨の中、京都府内のマンションでアメリカ人女性モデルが転落死した。目撃証言によると、バルコニーで誰かともみ合った末の転落らしい。しかしマンションは鍵もチェーンも掛けられており、犯人が脱出した形跡はない。京都府警の柳井警部に頼まれて現場を訪れた火村は、その奇妙な事件に有栖川も呼び出した。
 被害者のパトロンは、妻が踏切で電車と衝突事故を起こして死亡したために亀岡警察署にいた。事故の時刻は、モデルが転落死した時間と30分ほどしか変わらないかった。

 目撃者が火村の教え子という事もあって呼び出されたらしいけど、こういう美味しそうなネタは長編でじっくりやって欲しかった・・・。これ、目撃者が誰であろうと視力さえ良ければ成り立つ話で、設定の無駄遣いに感じる。生徒から見た助教授・火村像やら、犯罪学をちょろっとレクチャーする図とか、見たかった。
 トリックは面白かったし、火村が犯人を追い込むシーンもかっこ良かった。
 

「ルーンの導き」
 火村の下宿先を訪ねた有栖川は、何か面白い話があれば聞いてやると話を振る。火村は、2年ほど前に起こった事件を話し始めた。
 英都大学のイギリス人講師が嵐山のログハウスで殺人事件に巻き込まれ、火村を呼んだ。刺殺されたアメリカ人被害者は、ルーン文字が書かれた石を4個握りしめて絶命していた。火村は馴染みの柳井警部と共に現場検証と事情聴取を行う。

 今まで火村の人間関係は大学来の友人である有栖川と、フィールドワークの重要な協力者である警察しか描かれてなかったけど、ちゃんとお友達いるんだね。根暗な変人と思っててスンマセン。まあ、友達というより同僚っぽいけど。
 関係者が外国人だらけでちょっと戸惑ったけど、混乱するまでもなくすぐ解決したのが短編の良いところ。外国文学では毎度誰が誰だかわからなくなる私だけど、人物紹介を兼ねた事情聴取の後にすぐ解決編に入ったから読みやすかった。ダイイングメッセージのわかりにくさと状況証拠のあやふやさは、ちょっと引っ掛かるかなぁ。一応私も元司書なんで、和書のISBNは4から始まるのも知ってる。英語は0と1、フランス語が2、ドイツ語が3、とか一応知識はあるけど、これが超身近だったとして死に間際にこんな曖昧なダイイングメッセージ。うーん、藁をも掴む感じで残す・・・?殺された事ないから、わからなくて当然か。でもなんかこう、わかる人にしかわからない暗号の登場はモヤモヤする。というか、思わせぶりだったルーン文字は関係ないのかよっ!とも思うし。
 死にゆく被害者の気持ちはわからないから置いといて、多国籍な集まりだったり、出版が絡んでたり、ルーンの占いでミスリードしておいたり、ジョージの中国表記が「佐治」という偶然があったりで、トリックありきのストーリー感がちょっとすっきりしない読後感を醸してるかなぁ。


「ロシア紅茶の罠」
 有栖川を訪れていた火村に、兵庫県警の樺田警部から電話があった。火村が興味を持ちそうな事件が起こったという連絡に、有栖川と共に神戸に赴く。
 自宅パーティーの最中に、家主である作詞家が毒殺された。妹が淹れたロシア紅茶を飲んだ直後に絶命したが、犯人がどのようにして毒持ち込み、どうやって盛ったのかさえわからなかった。集まったメンバーは、妹以外は全員恋愛絡みで被害者を恨んでいた可能性があった。

 前作『ダリの繭』で出てきた兵庫県警の樺田さん・野上さんコンビ再登場。『ダリの繭』を読んだ時には気付かなかったけど、野上部長刑事ってドラマでは優香演じる小町ちゃんか。野上は自分の凡才を棚に上げて火村を目の敵にしてる姿がちょっと腹立つけど、優香は可愛かったから目の保養にはなってて、私的には良い改変だったと思う。むさいおじさんより可愛い女性がいいのは当然だし、若すぎない優香を使ってるのも良かった。演技は上手くはなかったけど。
 さてこの話、表題作だけあって一番トリックが面白かった。真ん中に毒を閉じ込めた氷を口に含むという、自殺行為ギリギリの殺人というスリルが加害者の深い気持ちを表していると思う。その命懸けの殺人を火村が暴き、火村を快く思ってないはずの野上がすかさずサポートするとこが面白い。
 あと、現実ではあり得ない推理小説あるある的なサイトを最近読んだんだけど、青酸カリって殺すなら意外と量が要るし、独特の味と臭いがあるらしいから紅茶みたいな繊細な飲み物だとバレると思うし、もし犯人の口で溶けたとしてもすぐ吐き出してうがいと胃の洗浄すれば大事には至らないはず。ということは、死を掛けた殺人ってほどじゃない。でもって何より、紅茶冷めない?なんて考えながら読むと滑稽だけど、リアリティよりファンタジーと思って読めば、やっぱ一番面白かった話だと思う。
 樺田さんには有栖川向けの事件とか言われつつ、結局火村が解決してる。あれ?デジャブ?と思ってページを戻ると、一話目でも有栖川が期待されつつスベッてたな。
 ところで、最後のやり取りがいただけない。「俺だって、胸を掻きむしられるような想いをしたことはあるさ」「本当か、先生」「多分」という会話、それって有栖川にってことじゃないですよね・・・とBL嫌いの私でも思わずにはいられない唐突さ。こりゃラノベ化した時にやたらBLっぽい絵になるはずだわ。対象が完全に腐女子やん。
 作家アリスシリーズはまだ序盤だけど、ち、違うよね?変な展開になったりしないよね?うーん、どうもこの本に入ってから2人の関係が怪しいというか、男臭くなさすぎて気持ち悪いんだよなぁ。ドラマの終盤も、愛の告白めいててキモかったし。独身社会人同士の友人関係って、もっとこう・・・。あれ?どんなだっけ?そういや、そういう本ってあんまり読んだことないな。せいぜいIWGPのマコトとタカシとサルくらいしか思い付かない。やっぱ、有栖川の必要性の薄さが駄目だと思う。


「八角形の罠」
 有栖川が書いた推理劇の練習を見学に来た有栖川と火村だったが、劇団内の揉め事が起きたので席を外している間に男優が毒殺された。被害者の襟元には蛍光塗料が塗られており、練習室の電気が突然消えた隙に毒を注射したようだ。8人の劇団関係者達は恋愛関係や借金や劇団の脱退を巡る問題などで複雑な人間関係を抱えていたが、殺人に発展するような深刻な問題はなかったという。
 兵庫県警から樺田警部と野上部長刑事が捜査に当たる最中、別の男優が煙草を吸った途端に苦しみ出した。

 この小説は、作者の有栖川有栖さんが実際に原案を書いた犯人当てゲームイベントをノベライズしたものらしい。1993年に尼崎市の施設で行われたイベントらしいけど、都会って面白いイベントがあるもんだ。それにしても、演目が『八角館の殺人』だなんて、綾辻行人過ぎて笑える。
 これも面白かった。共犯者オチがわかりやすかったのは、実際のイベントでこのトリックを使って犯人当てゲームをしたからだろうな。原案ってことだから、有栖川と火村、樺田警部達は出てこないで事件だけを扱ったのかも。実際当てれた人はいるんだろうか。私は、絶対わからないだろうなぁ。文字で読んだから、犯人は2人以上ってパターンかなって思った程度。犯人を当てるなんて無理に違いない。
 それにしても、自分が原案を書いた舞台を火村に観せたがって稽古に呼ぶなんて、なんかこう・・・私の知ってる三十代男同士の友情ではないんだよなぁ。じゃあ具体的にどうかと言われると難しいんだけど、時々居酒屋なんかで会って「舞台の原案書いたんだぜ」とか自慢する程度なイメージ。舞台が観に来れないから稽古だけでも観て欲しいって、何か気持ち悪い仲だなぁと思う。


 暗号、ダイイングメッセージ、技巧を凝らしたトリックと、本格ミステリーが短編でキュッと詰まってる感じで面白かった。と同時に、色んな設定が判明したのも読んでて楽しかった。主人公2人の年齢が、「ルーンの導き」までは33歳なのに「ロシア紅茶の謎」では34歳になっててちゃんと加齢してたりとか。有栖川は名目上、火村の助手という事で殺人現場に同行させてもらってるんだとか。大阪府警、京都府警、兵庫県警の3府県の警察捜査一課と懇意にしてるんだとか。小説に描かれている以上に、火村が解決した事件や有栖川も同行した事件が存在することが匂わせてあったりとか。
 シリーズ1作目の『46番目の密室』で有栖川は初めて火村のフィールドワークに立ち会ったって言ってて、『ダリの繭』では有栖川の助手名目は出てこなかったと思うけど、『ダリの繭』以降「動物園の暗号」まででいくつか事件に関わったって事か。しかも各県警とすでに数回ずつ絡んでるみたいだから、相当な数の事件に同行させてもらってるのか。私が読んだ事ある探偵物って警察と関わって段々と信頼を得ていく過程も描いていくものがほとんどなのに、既に関係が出来上がってるこのシリーズの描かれ方は斬新に思える。絡んでる事件は全部読みたい!という気持ちと、そこまで民間人巻き込むのもどうなんだろうかという、複雑な気持ち。
 この本では警察がちゃんと時間を掛けて捜査をすれば解決しそうな事件を火村が早期解決というパターンが多かったと思う。「屋根裏の散歩者」では家宅捜索すれば解決しそうだし、「赤い稲妻」では火村も言ってたけど被害者宅を詳しく調べればいずれ逮捕できそう。「ルーンの導き」も、人間関係を徹底的に洗えば判明しそう。暗号は解けなかったかもしれないけど、実際の事件で暗号やらダイイングメッセージをそこまで真剣に捜査するとは思えないし。となると船曳、柳井、樺田は、面子より早期解決を優先する柔軟な方々なんだろうな。
 「作家アリス」シリーズをamazonで検索すると、数種ある新装版の中でも角川ビーンズ文庫版はちょっと異彩を放ってる。昔の有名出版物をラノベっぽい新装丁にして出版して売る手法を聞いたことあるけど、なぜこんなBLっぽい絵柄なんだと情けない気持ちを抱いていた。気になってイラストレーターを検索すると、BL作家。なぜそっち方面に持って行く!?と、世の腐女子を情けなく思ってたんだけど。こりゃそっち方面に行かせちゃうのもわからんでもない展開だわ。2人の関係が2人で完結しすぎてる。火村は有栖川がいなくても解決できそうなのに会いたいから呼び出してるようにしか見えないし、被害者や警察関係の人と話す時は淡々としてるのに有栖川と話す時だけ砕けた話しぶりという二面性。そう言えば、『ダリの繭』では野郎2人でちょっと高級そうなレストラン行ってるし。三十代前半の男友達とちょっといい物食べるって、肉じゃないの?焼肉。食後はキャバクラとか行かないの?私の男の友情像、歪んでる?
 有栖川は『ダリの繭』で高校時代の失恋のトラウマ話をしてたし、「ロシア紅茶の謎」でモデルに見惚れるくらいだからノーマルっぷりが伺える。けど火村がね・・・。ウィキで人物紹介読むと、女嫌いって・・・、待て待て待てーい!そんな設定止めて・・・。この人間関係なら、女好きにしてくれた方が清々しいわ。
 何だか、ミステリー以外のところでモヤモヤしてしまった。
別窓 | [あ行の作家]有栖川 有栖 | コメント:0 | トラックバック:0 |
『アブダラと空飛ぶ絨毯―ハウルの動く城2』  ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
2017-03-21 Tue 23:10
アブダラと空飛ぶ絨毯―ハウルの動く城〈2〉
ダイアナ・ウィン ジョーンズ
徳間書店   1997.08
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 夢見がちな若い絨毯商人のアブダラの店は、ある日店を訪ねてきた男から空飛ぶ絨毯を買った。その夜、絨毯の上で眠ったアブダラは、目を覚ますと自分の空想の中に出てくる庭にそっくりの場所にいて、美しい女性に出会った。<夜咲花>と名乗るその女性は父親以外の男性を見たことがないほど世間知らずだったが、アブダラは彼女と恋に落ちて結婚の約束をする。その矢先、<夜咲花>は魔人(ジン)に攫われてしまった。
 <夜咲花>は自国の王女で、王のスルタンは魔人の存在を信じずにアブダラを投獄したため、アブダラは脱獄して王女を救出することにする。途中、1日1つだけ願いを叶えてくれる精霊(ジンニー)、旅の兵士、猫の<真夜中><はねっかえり>と出会い、一緒にインガリーの魔法使いに会いに行くことになった。
 

 『魔法使いハウルと火の悪魔』はいかにも正統派って感じのイギリスファンタジーだけど、これは中東色がかなり濃い。というか、アラビアンナイトのオマージュ作品になっていて、1巻とは全然違う文化様式が面白い。中東の人って本当にこんな美辞麗句を言うんだろうか。それともこの本の中だけの設定なんだろうか。途中からアブダラが勝手に言ってるだけな感じになってて、それはそれで面白かった。
 アブダラは運命と恋愛感情に突き動かされていくんだけど、インガリーの魔法使いの家で急に1巻の『ハウルの動く城』と繋がった。訪ねた魔法使いはサリマンでレティーと結婚してるし、一緒に旅をしてきた<真夜中>は魔法で猫に変えられたソフィ―で、行方不明の宮廷魔法使いとはハウルの事。前作の主人公が出てきて活躍するって設定、君はここにいてきちんと活躍して生きていたんだねって感じがして大好物だ。
 1巻では「悪魔」が敵だったんだけど、2巻では「魔人」が敵。最後のドタバタ乱闘は1巻のラスボス戦を彷彿とさせて、やっぱりこのシリーズの最終決戦はこうじゃなきゃって思わされた。で、結局ハウルは出てきてないやーん!カルシファーは?マルクルは?と思ってると、ジンの事が片付くと同時に謎は解けた。扱いづらいジンニーがハウルで、物語の序盤から登場していた魔法の絨毯がカルシファー。ジンニー、確かに発言がハウルっぽかった。<真夜中>がソフィーだった時点で気付くべきだった。気付かされないほど没頭してたんで、騙されたけどいい気分。マルクルが出てこなかったのは残念だけど。
 ハウルとソフィーはいい夫婦になってるんだなーとか、ハウルとアブダラも仲良くなれるかなーとか、ジャマールと犬は最初はただのチョイ役だと思ってたけど最後まで大活躍だったなーとか、兵士は実は王子だなんて唐突過ぎて1巻のかかしと同じパターンやんとか、最後の最後に全員が幸せに終わるってやっぱりいいなーとか、幸福な読後感に浸れる本だった。
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