元司書による読書備忘録ブログ。思ったことは全部書き、何様気取りの感想だったり平気でネタバレしたりします。
『心にナイフをしのばせて』  奥野 修司
2007-05-07 Mon 23:31
心にナイフをしのばせて心にナイフをしのばせて
奥野 修司

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 神戸の「酒鬼薔薇事件」の28年前に起こった「サルジオ事件」という少年犯罪の被害者を追ったルポルタージュ。「酒鬼薔薇事件」で神戸家裁の調査官が参考にしたというほど、「酒鬼薔薇事件」に似た事件だったらしい。
 ある男子高校生が同級生をナイフで滅多刺しにしたうえ、首を切り落としたという事件があったそうだ。その事件で遺族となった母親と妹に数年間に及ぶ取材を行ったのがこの本。父親は数年前に癌で他界したそうだ。
 幸い私は身近で殺人事件なんて起こった事ない。当然ながら想像を絶する世界だった。母親の人格障害や記憶障害、悲しみに耐えて妻を支えようとする父親、両親への反抗やリストカットで精神のバランスを取ろうとする妹。
 ルポルタージュなんで、文学と違ってやや読みづらい感がある。被害者家族の話も、冗長に書かれている。でも、被害者家族の事件後を知った著者の衝撃が表れた書き方だと思った。
 一番の驚きは、この何とも無残な結末。加害者側からは謝罪の言葉はなく、700万の賠償金も少しだけ払って行方不明。被害者遺族は「あんな事件を起こしたからまともな職にも就けなくて、謝罪に来れないに違いない」と思っていた。
 しかし著者・奥野さんも手伝って現在の居所を突き止めると、加害者だった少年は国家から人権を保障され、教育を受け、弁護士になっていた。しかも、事務所を経営するほどの成功。被害者が連絡を取ると、被害者の生活困窮につけ込んで「賠償金は払うつもりはない。50万なら貸してやる」だそうだ。
 やっぱ少年法って腐ってるよね。まあ私がここで少年法について語ってもどうしようもないし、過激なことしか言わない自信もあるけど。
 ただこの本が出た事でこの事件が再び有名になり、某有名掲示板で個人が特定されて実名が晒され、イタイ人から事務所に電話かかってきたりしたのは、まあちょっとは社会制裁かもしれない。些細だけど。


 私はこの本、ずっと小説だと思って読んでた。だから最後まで、何かしらの進展があって終わると思って読み続けて、救いのない結末に驚いた。読み終わってからルポルタージュだと気付いたけど、現実って本当に苦しいなぁ。
 きっと似たような犯罪者がもっと存在するんだろうな。賠償金を平気で踏み倒したり、口先だけの反省で減罪されたり、いわゆる“更正”を語って税金でその後の人生方向が保証されたり。数年前に釈放された神戸の「酒鬼薔薇事件」の少年も、あの頃14歳で良かったとか思ってそうで怖い。
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