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元司書による読書備忘録ブログ。思ったことは全部書き、何様気取りの感想だったり平気でネタバレしたりします。
『平成くん、さようなら』  古市 憲寿
2019-05-07 Tue 00:18
平成くん、さようなら
古市 憲寿
文藝春秋  2018.11
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 安楽死が合法的に認められた近未来的な日本を描いた話。
 「私」こと瀬戸愛は、平成を象徴する人物である「平成(ひとなり)」くんと同棲している。聡明でクールで合理的な平成くんは、ある日突然、「安楽死を考えている」と「私」に告げる。平成の時代と共に終わった人間になるという理由に納得できないまま、愛は平成くんと一緒に安楽死の現場に見学に行った。
 そんな折、年老いた愛猫ミライが重い腎不全を患った。平成くんもミライを可愛がっていたが、「私」の不在時に容体が悪化したために勝手に安楽死させて火葬してしまっていた。少しでも長く一緒にいたいと思っていた「私」は、苦しむミライを見ていられなかったと言う平成くんに激怒する。


 知的毒舌全開の古市さんが結構好きなんで、読んでみた。
 冒頭からラブグッズの話とか、いきなり心折れそうになる。テレビの中の人とはいえ見知った人が描く性的な場面表現って、セクハラ場面を目撃したような気まずさがあると思う。ましてや古市さんは「キスは汚い」とか発言してることもあり、こんな場面が出てくるなんて想像もしてなかったのに初っ端からなんて。安楽死の話とギャップになる話題を選んだらそうなったのか?まだ物語に入り込んでもなくて、これが古市さんの本か―とか思ってる時に、これは嫌だった。
 とはいえ性的な接触を嫌う平成くんや、 同棲してるのにどこか淡泊で、お互い踏み込み切れてない雰囲気とか、やっぱ古市さんみたいな変人を想像してしまう。そう思うと、知らない新人が書いた小説よりも彩りが見えて面白かった。
 UBERが頻繁に出てくるだけで未来っぽいと思ってしまったけど、よく考えたら平成が終わりゆく話をしているんだから現代なんだろう。安楽死が合法化した、別の世界の話なのか。安楽死が許されている世界で、平成くんの死に対する考え方が非常に他者を遮断している感じが羨ましくもある。心残りとか、自分の死で誰かが深く悲しむのが嫌だとか、そういうのはないんだな。
 平成くんのキャラとか、それを時々振り回す愛ちゃんとか、作品の雰囲気は面白い。でももうちょっと、安楽死の歴史を深く読みたかったな。きっともっと激動の何やかんやがあったに違いないのに。
 で、安楽死がどうのこうのと散々言っておいて、
 死んで誰からも忘れられるのは悲しいこと、身近にいる人の大切さに気付くこと、自分の中にある物を誰かに覚えてて欲しいと気付くことが結末なのが、ちょっと興ざめ。なかなかベタな結論になったなぁ。もっと違った境地が見られるのかと思ってた。そもそも安楽死の理由が本当は徐々に盲目になる病気って、ちょっとそれは死を冒涜してる。目が見えなくなって死にたくなる気持ちあり得そうだけど、小説の題材にするにはもっと慎重にやって欲しい。
 愛ちゃんにとって平成くんは過去の人になったようだけど、平成くんは結局、死んだんだろうか、どこかで何かして生きてるんだろうか。平成は終わって、令和になったよ。元号が変わるって、こんなに賑やかで華やかで感慨深いって思わなかった。古市さんにとって、思った通りの改元だったろうか。
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