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元司書による読書備忘録ブログ。思ったことは全部書き、何様気取りの感想だったり平気でネタバレしたりします。
『悼む人』  天童 荒太
2019-04-22 Mon 11:07
悼む人
悼む人
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天童 荒太
文藝春秋 2008.11
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 坂築静人は、全国を放浪しながら死者を悼む旅をしている。老若男女問わず、死因を問わず、遺族にどう思われようとも、一人ひとりの死をただ覚えておくために旅をしている。そんな静人を想う、3人の人物を描く。
 雑誌記者の蒔野抗太郎は、かつて父親に捨てられた過去を持つ。恨んでいる父親が危篤だから会いに来て欲しいと何度も連絡を受けていたが、無視していた。暴力や愛憎絡みの事件の記事を得意とし、人から嫌われながら追い荒んだ生活を送る蒔野は、元妻のホームページにある息子の日記を読むのが唯一の癒しだった。
 人伝に静人の存在を知った蒔野は、北海道に行って彼の話を聞く。不躾な質問を投げかけても揺るぎない答えを淡々と答える静人に苛立ちを覚えたが、東京に戻ってからも忘れ難く思い、サイトで情報を募ったり静人の実家を訪ねたりしていくうちに、蒔野自身も人の在り方が次第に変化していく。

 静人の母親・坂築巡子は末期がんを患い、余命宣告を受けた。明るく活動的な巡子は在宅ホスピスを選び、夫と娘の協力を得てボランティア活動を再開させながらも静人の帰りを待っていた。
 がんと前向きに戦おうとする巡子だったが、娘であり、静人の妹である美汐が妊娠している事を知る。美汐は静人の存在を理由に、恋人・高久保から別れを告げられていた。巡子は高久保とその兄に静人の信念を丁寧に説明し理解を得たが、受け入れてもらう事はできなかった。巡子は静人の帰りを待ち、美汐の妊娠を憂いながらも、持ち前の明るさでがんに立ち向かう。
 闘病する巡子、対人恐怖の気がある夫の鷹彦、未婚で子供を産み育てようとする美汐を、甥の怜司が精一杯明るく支えようとする。

 いつも気が付けば交際相手に暴力を振るわれるようになる奈義倖世は、結婚相手からの暴力から逃げて訪れた寺で甲水朔也と出会った。朔也が運営するDV被害者のシェルターに保護された倖世は、求められて朔也と再婚した。幸せだと思っていたが、、ある日朔也から自分を殺して欲しいと頼まれた。断ったものの、精神的に追い詰められ続けて殺人を引き受ける。
 刑期を全うして出所した日、倖世の右肩に朔也の幻が現れた。朔也は倖世に、誰かに倖世自身を殺すように頼めと言う。殺してくれる人は見付からず、自分で死ぬこともできず、朔也を殺した場所を訪れた倖世は、静人に出会った。静人の話に不信に思っていたが、やがて静人の行動に惹きつけられて共に行動するようになる。


 強迫観念症と言っても過言ではないような・・・。静人も、静人の帰りを待つ末期がんの巡子も、妹の美汐も、巡子の後を追おうとする鷹彦も、蒔野も倖世も、他人から見ると不幸な人達ばかりだけど、なぜか一欠けらの美しく輝く物が垣間見える気がして、何となく惹きつけられてしまった。他人の死を悼む旅をする静人は、巡子の死は同じように悼むんだろうか。それとも、違う悼みになるんだろうか。行動には全く共感できないし、薄気味悪いものさえ感じる。小説内でも、人々は否定的な意見が多い。ただ、どこまでも真摯に人の死を悼み、揺るぎなくその全てを自身に刻んでゆく静人の急き立てられるような旅に哀れさは感じる。
 遺族を怒らせる事も警察を呼ばれる事も多いようだけど、一部の人には静人の行動が救いにもなっているわけで、これは世が世なら新しい宗教になっていると思う。残念ながら現代日本では、薄気味悪くて哀れな人で、物語は静人の孤高を強調するかのように終わっていく。
 薄気味悪い印象が拭えなかったけど、倖世へ気持ちを伝えるシーンはぐっと来た。愛し合うようになった2人だけど、やっぱり静人は変わることはなかったことが当然なような残念なような。妊娠、してるかな?巡子の死の際に美汐の子供も生まれたみたいだし、鷹彦はどうなっていくんだろうな。
 ゲスい人間だった蒔野が静人の話を聞き、サイトで情報を募り、巡子の話を聞いていくうちに、ほんの少しだけど変化していったけど、運命が残酷なのか、自業自得なのか。死を意識した時に静人の存在を拠り所にしたけど、病魔が進んだ巡子を訪ねてきたのは幻だったんだろうか、本物だろうか。幻だったように思うけど、本物だったらいいなと思わされる。
 どうか、巡子を失って悲しみに暮れる坂築家に静人が帰ってきますように。信念を曲げられないなら、ほんのしばらくの滞在でいいから。
 生と死が本当に身近であることを見せつけられたような、尊い気持ちになってしまうような本だった。
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