FC2ブログ
元司書による読書備忘録ブログ。思ったことは全部書き、何様気取りの感想だったり平気でネタバレしたりします。
『舟を編む』  三浦 しをん
2019-04-15 Mon 10:39
舟を編む
舟を編む
posted with amazlet at 19.03.19
三浦 しをん
光文社 2011.09
売り上げランキング: 69,562



 玄武書房の営業部所属の馬締光也は、新しい辞書『大航海』の編集メンバーとして引き抜かれた。対人コミュニケーションは下手で営業部では変人だと疎まれていた馬締だったが、言葉への拘りや整理整頓の術など辞書編集部では不可欠な能力が辞書編集部では大きく買われる。
 そんな折、馬締の下宿先に大家の孫・香具矢が引っ越してきた。板前を目指す美しい彼女に、馬締は一目惚れしてしまう。
 辞書作りは、これまでの担当者・荒木の退職に始まり、『大渡海』の編纂中止命令、既存辞書の改訂命令、先輩社員・西岡の異動、辞書原稿執筆を依頼した教授のいい加減な原稿と訂正への不満など、様々な問題が巻き起こっていく。
 後半は、異動してきた入社3年目の岸部みどりの目線で語られる。ファッション誌の編集部だった岸部は、辞書編集部が島流しのごとく社内の辺鄙な場所にあることや、異動初日に主任・馬締の奇人ぶりを垣間見て気落ちする。しかし全く知らなかった辞書作りの世界を知っていくうちに、やりがいを感じていく。


 辞書は言語の海を渡る舟。だから新しい辞書の名前を『大渡海』にした。わりと序盤にあるこの話に、ズキューンときた。その「舟」を編集する仕事、まさに『舟を編む』というタイトルに美しさを感じる。地味な装丁だけど、『大渡海』の装丁だと知ると感慨深い。
 もう大昔の話だけど、大学で国文学を学んでた私は辞書を使うことが非常に多かった。ちょっとしたニュアンスの違いも重箱の隅を突く勢いで先生に聞かれ、詰めが甘いと鼻で笑われてたから、時には図書室で何種類かの辞書を並べて調べ事をしてたりしてた。で、本当に何気なく使っていた辞書だし、むしろ読むのも好きだったくらいだけど、その辞書がどれだけの苦労をして作られたものか考えたこともなかった。
 もちろん、言葉を集め解説を作っていくだけでも大変だろうとは思う。ただ、編集者達が様々な物を犠牲にして、日常生活でもアンテナを張り、どんな言葉にも拘り、会社上層部や辞書原稿の依頼のことで頭を悩ませていることなんて、考えたことなかった。
 紙についても、辞書って本はページ数の割に薄くて、ページをパラパラッと繰ってもある程度ゆっくりめくれて、目的のページでピタッと止めやすい紙だとは思ってた。辞書用の紙という物が共通して存在すると思ってたら、それぞれの拘りでその辞書専用の紙が作られるとは考えたこともなかった。
 辞書作りの話、本当に面白かった。ただ、その周囲にある良くも悪くも三浦しをん先生らしい人間模様が、今回は苦手に感じた。馬締の変人ぶりや空気の読めなさが変人というより発達障害レベルというか、もうこれ自閉症スペクトラムじゃ?って感じでちょっと引く。一昔前だったら自閉症って名前的に誤解されがちだったけど、出版2011年なら世に知られて来てる頃だったと思う。でも、自閉症に触れないことで、いわゆる「グレーゾーン」によるリアリティなのか?それにしても度が過ぎる。
 さらに営業部では疎まれてたのに、異動したら急にみんなが暖かく見守ってるなんて人生甘っちょろすぎ。およそ恋愛に関わらなさそうな人生を歩んできた馬締の恋・・・ハイハイどうせ美女と結ばれるんでしょ、とか。原稿を依頼した教授の暴走の治め方が、たまたま教授の弱みを握ってるとかスッキリしない。
 ラノベっぽいというか、ご都合設定というか・・・。って、さすがに言い過ぎだけど、辞書作りの周囲で起こる軋轢とは相反して、馬締の人生が好転しすぎてつまらなかったのは事実。その辺がライトに読める反面、人間模様の浅さからつまらなく感じた。
 だけど終盤で如実に年老いていく松本先生には、憂いを感じる。松本先生には辞書完成に立ち会って欲しかったなぁ。完成目前で死んでしまったことに、美談を感じられない。そういう残念美談は現実だけで十分で、フィクションなら手に取って捲って死ぬんでもいいから、完成に立ち会って欲しかった。
別窓 | [ま行の作家]三浦 しをん | コメント:0 | トラックバック:0 |
<<『悼む人』  天童 荒太 | よむよむ記 | 『蜜蜂と遠雷』  恩田 陸>>
この記事のコメント
コメントの投稿
 

管理者だけに閲覧
 

この記事のトラックバック


| よむよむ記 |