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元司書による読書備忘録ブログ。思ったことは全部書き、何様気取りの感想だったり平気でネタバレしたりします。
『ホテルローヤル』  桜木 紫乃
2018-10-05 Fri 15:44
ホテルローヤル
ホテルローヤル
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桜木 紫乃
集英社  2013.01
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 女子高生と教師の心中をきっかけ経営が傾き、閉鎖され、やがて廃墟となったラブホテル「ホテルローヤル」。そのホテルを軸に時間を遡りながら、大なり小なり関わって来た人々の行き詰った心情を描く短編集。


「シャッターチャンス」
 付き合っている男性に頼まれて、ヌード雑誌に投稿するための写真を撮影を承知した加賀屋美幸。気は進まないまま廃墟となったホテルローヤルに赴き、唯一使用感のある部屋で男に頼まれるがままポーズを取る。

 短大を出て13年目の美幸、という事は33歳くらいか。薹が立った女性と、再会した元上級生との恋人関係は、多分流れってやつなんだろうなと感じさせられる繊細な描写は凄い。ただ、面白くはないかな。
 計算された文章である事はもちろんの前提だけど、男の空虚を埋めるために自分自身を空虚にしていく感じが気持ち悪い。


「本日開店」
 「歓楽寺」の住職の妻である設楽幹子は、寺のために檀家4人の老人と交代で関係して、経済的に困窮している寺を助けることで容姿の劣った自分の役割を見出していた。しかし総代だった佐野家が代替わりし、老人ではなく比較的若い佐野敏夫に抱かれたことが奉仕ではなく快楽であることに戸惑う。
 別の日、幹子は建築会社の社長・青山の相手をしている時に、今は廃墟となったホテルローヤルの社長・田中大吉が死んだ話を聞かされる。その話の最中、幹子はかつて付き合っていた男から300万円を騙し取られた場所がホテルローヤルだったことを思い出す。
 誰も引き取りたがらなかった遺骨を預かっていた青山は、幹子に供養を託した。

 養護施設で育ち、劣った容姿のために里子になることもできないまま成長した幹子が心の拠り所を探したことを考えると哀れだと思う。
 寺の存続と、老人の萎れた欲望。人格者だけど男性として不能の夫と、自分の中の女性としての快楽。バランスの取れた需要と供給ながら、何だか絶妙に醜くて哀れで、変な嫌悪感を覚える。本尊の足元に置いたお布施が翌朝には消えていること、代替わりした佐野からのお布施だけは残り続けることが嫌悪感をさらに煽っていると思う。
 

「えっち屋」
 雅代の父・田中大吉がホテルローヤルを建ててから30年が経ち、雅代の母親が愛人を作って逃げてから10年が過ぎ、ホテルローヤルの3号室で心中事件が起こってから半年。雅代は父に代わって管理していたホテルローヤルを廃業することにした。
 営業を前日に終えて、アダルト玩具販売店「えっち屋」の営業・宮川に在庫を引き取りに来てもらった。世間話的に宮川の妻の話を聞いていた雅代は、ふと思い立って心中が起こった部屋で宮川とアダルトグッズを使おうと提案する。

 1話目、2話目で廃墟だったホテルローヤルが、閉鎖される日の話。ひとつ前の話で何気なく読んでいた田中大吉という人物が、急に実態を持って現れてびっくりする。そして1話目にあった3号室のベッドの乱れ、ボイラー室の鍵が開いていた件にも繋がってている。
 ただ、前の2話に漂う閉塞感と違って、前進する力強さや希望を感じて一旦ほっとできる話だったと思う。両親が自分もホテルローヤルも捨ててどこかに行ったというのに逞しくて前向きで、1話目や2話目の時代ではどこかで肝っ玉母ちゃんにでもなってて欲しい。


「バブルバス」
 高校受験を控えているが成績の悪い息子、学校へ行ったり行かなかったりの小6の娘、個人経営の家電販売店を畳んで大手家電量販店に再就職したものの収入が厳しい夫、狭い我が家で同居することになった気難しい舅、そんな家庭内の不満を、どこにも吐き出せない様子の恵。
 お墓にお経をあげてもらう予定だった住職のダブルブッキングで、突然5千円が浮いた恵。5千円あれば家計が非常に助かると知りつつ、恵は夫をホテルローヤルに誘った。

 ダブルブッキングで来なかった住職が、どうやら前話の幹子っぽい。西教と幹子が結婚して間もない頃っぽいから、2話目から10年前か。
 家業を畳んで家と土地を売りアパート暮らしになり、そのお狭いアパートも舅との同居でプライバシーも何もない。3話目でちょっと希望のある話になったと思ったら、また閉塞感が押し寄せて来て苦しい気分になる話になった。終盤で舅が死んだために少しさっぱりした様子を見せる恵に、リアルなあるある感を覚える。いや、私はまだ経験ないけど、たまに聞く話ではあるなぁって。


「せんせぇ」
 木古内の高校に単身赴任中の野島広之は、3連休に帰るとを妻に伝えないまま我が家のある札幌に向かった。5年前に結婚した妻が、実は自分に妻を紹介した校長と20年来関係を持っていたことを嫉妬することさえできないでいた。
 途中で会った生徒・佐倉まりあがなぜかずっとついて回る。札幌までの道のりで、彼女は両親が家を出て行ったと言う。
 佐倉まりあを追い払えないまま自宅マンションまで来た野島は、妻が不倫相手と家に入っていくところを見てしまう。

 突然今後が閉ざされた女子高生と、妻と尊敬する相手との不倫の受け止め方がわからないでいる高校教師。最後までホテルローヤルは出てこないけど、この2人が3話目の雅代が回想していた心中の二人のようだ。3話目に戻って、雅代が2人の死体を発見した時の回想を思わず読み返す。
 野島もまりあも、何で死を選んだのか。野島は絶望か、当てつけか。2人の間にどんな会話や了承があって一緒に死ぬことにしたのか、どうやって死んだのか。どちらに起こったことも、死ぬほどのことなのか。あんなに邪険にしていたまりあと、手を繋いで死んだのはなぜ?
 そこら辺の詳細を書き切ってしまわないところが、もどかしいけど美しいと思う。


「星を見ていた」
 60歳になる山田ミコは、ホテルローヤルで清掃の仕事をしていた。10歳年下の夫は優しいし毎晩ミコを求めてくるが、働かない男だった。
 愚直に働く彼女は、何度も流産しながら3人の子供を産んだ。成長した子供達の中で、真ん中の次郎だけが年に一度電話をくれる。その次郎が、ホテルローヤル内ミコ宛に現金3万円が送られてきた。会社が変わって給料が良くなったから送ったという手紙に書いてある。その翌日、次郎が殺人容疑で逮捕されたニュースを同僚から知らされる。次郎はミコに言っていた左官職人ではなく、
暴力団に入っていた。

 ただひたすら、真面目に黙々と生きているはずのミコには不幸が多過ぎる。それを不幸と思わずじっと耐えると、周囲の人が優しくなると思っている。いや、その通りなんだけど、そうじゃない方法もたくさんある。その方法を知らず、考えもしないで生きてきた哀れな老女に見える。もしかしたら知的障害があるのかもしれない。
 ホテルローヤル、全盛期と思われる。雅代の両親であるるり子と社長が出てくるが、既にるり子の不倫が始まっている様子で、閉鎖への歯車が動き出した気配もする章だと思う。


「ギフト」
 42歳の看板職人・田中大吉は、妻と息子がありながら団子屋の店番の若いるり子に夢中になった。
 時代はバブル後期、建築会社とリース会社から持ち掛けられたラブホテル経営の話に乗り気だったが、妻と義父からは反対されている。その反対を押し切って判を押した大吉だったが、妻は実家に帰り、義父からも足蹴にされてしまった。
 
 愚かな男の、愚かな夢の話。愚かな女の、行き当たりばったりの行く末を先に見ちゃってる話。3話目でまた一緒に暮らしていたことを匂わせていた田中大吉と元女房だったけど、2話目で元女房が遺骨を引き取らなかった訳がわかった気がする。別れた理由がホテル業を始める事だったのに、最期の言葉が「本日開店」だったら愛想尽きちゃうよね。
 ここまでずっとあった生き辛い人々、漂う閉塞感を眺めていたホテルローヤルがこうやって始まり、そこに華々しさもなかったことがこれまた悲しい終わりの始まりってやつだった。


 愚かなことは、幸か不幸か。主題は違うかもしれないけど、ずっとそう感じながら読んだ。愚かなことを不幸だと感じて心中した野島達は、荒廃の始まりを作っただけ。愚かながらも生きていくしかないと思った他の面々は、窮屈に感じながらも生きていく。どっちが良いのか、どっちもどっちなのか。
 何というか、自分の幸せを噛み締めたくなった読後感がある。
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