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元司書による読書備忘録ブログ。思ったことは全部書き、何様気取りの感想だったり平気でネタバレしたりします。
『銀河鉄道の父』  門井 慶喜
2018-08-30 Thu 11:55
銀河鉄道の父 第158回直木賞受賞
門井 慶喜
講談社  2017.09
売り上げランキング: 9,510

 明治中頃。京都へ単身赴任していた宮沢政次郎は岩手県の花巻にある実家から、玉のような男の子が生まれたという電報を受け取った。政次郎不在の間に家を守っていた父・喜助から、子は政次郎の弟が「賢治」と名付けたと聞かされる。
 跡取り息子として厳しく育てたが、非凡ながら家業の質屋に向かない人間に育った賢治。政次郎は憂い悩みながらも、賢治が思うままに進学をさせ、賢治が生きる道筋を作り続けていった。
 かの宮沢賢治の生涯を、父親の視点から描いた物語。


 死んでから有名になった人の日本代表のような宮沢賢治。正直大して好きではない私でさえ、「かたゆきかんこ しみゆきしんこ 狐の子ぁ嫁ぃほしいほしい」は小学校の教科書で読んで以来何十年経った今でも頭から離れないし、「どっどど どどうど どどうど どどう」っていう聞いただけで自然現象が荒れ狂う様が浮かんでくる独特な表現は凄いと思う。『雨ニモマケズ』は面白みのない人物像のようで好きじゃなかったけど、政次郎による「言葉遊びをしていただけ。『そういう人間』に私はなりたい』、つまりなっていない人間による言葉遊び」という解説に初めて納得がいった。きっと賢い人や心がきれいな人は、ちゃんと解釈を見付けて宮沢賢治を好きになっていくんだろうなぁ。
 政次郎は明治の父親像とはかくやという立派な人物ながら、いざ我が子が病に伏すと周囲の反対を押し切って付きっきりの看病をする父親だった。喜助に「質屋に学問は必要ない」と言われながらも、賢治の望むままに進学をさせて援助を惜しまない。それに対して賢治は、賢いながらちょっと心の弱い、それでいて頑固な青年に育っていった。
 日本の文学界からすると宮沢賢治は偉大な人ながら、あまり知識のない私は、貧しい山小屋で自給自足を営みながら児童文学を追求し、病に倒れた人だと思ってた。この作品でボンボンだと知って、ちょっとがっかりした気分になってしまった。読めば読むほど金持ちのドラ息子的なイメージで、対して政次郎の立派な事この上ない。
 ただ、賢治の方にも偉大な父を持ってしまった苦悩や反発があったと知って、はっとさせられた。物事の一方だけを見て批判するのは私の悪い癖だ。確かにこの父親は立派過ぎる。子の危篤に直面してまでも、遺言を問い書き取ろうとする政次郎の、悲しくも取り乱さない姿は本当に立派だけど、立派過ぎて近づきがたい。賢治の反応の方が普通のはずなのに、賢治を情けないと感じてしまうほど立派だった。でも政次郎も内心は終始迷い、案じ、憂いていた。だから、弟の清六が質屋ではないながら新しい事業を始めて軌道に乗った時は、宮沢家がきちんと代替わりしたことに私まで心底安心した。
 賢治の死後、賢治の作品が徐々に認められていったことは有名な話。でも、こんなに死後間もなく認められていたんだ。賢治の分身とも言える作品が世に出て人々に愛されていくのを政次郎が目の当たりにできて良かった。そういうい意味でも、半永久的に残っていく「文学」という存在は本当に凄い。
 とても表現力に富んだ作品で、政次郎の立派な父親像や憂い、子を亡くす親の悲しみが深く痛いほど伝わってくる。宮沢賢治の生涯であることを抜きにして、物語として読んでも十分に面白かったと思う。
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