元司書による読書備忘録ブログ。思ったことは全部書き、何様気取りの感想だったり平気でネタバレしたりします。
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『本バスめぐりん』  大崎 梢
2017-11-13 Mon 11:26
本バスめぐりん。
本バスめぐりん。
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大崎 梢
東京創元社
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 システムエンジニアだった照岡久志は、定年退職後に移動図書館バス「めぐりん」の運転手を務めることになった。これまでの会社勤めとは全く違う職業に戸惑いつつ、明朗快活な若き有能司書・梅園菜緒子ことウメちゃんとのコンビで市内を巡回する。
 久志はテルさんと呼ばれながら次第に移動図書館の仕事に馴染んでいく中で、「めぐりん」の周辺で起こる小さな問題・事件をウメちゃんと共に解決していく。
 人々の本との関りを描いていくほのぼの短編集。
 

「テルさん、ウメちゃん」
 久志がめぐりんの運転手になって2ヶ月半が経つある木曜日、とある利用者が大切な写真を本に挟んだまま返却してしまったという相談があった。該当する本は貸出中だったが、相談者がいる次のステーションで返却された。借り手の女性・寺沢は心当たりはないと言ったが、彼女の態度は明らかにおかしかった。

 コージーミステリーという名称、聞いたことはあっても初めて意味と一致した。ウメちゃん、ありがとう。私、本当に司書だったんだろうかと、我ながら思うわ・・・。
 1話目で設定を色々説明しておきたかったんだろうけど、時系列が急に戻ったりしてちょっと煩わしかった。久志の業務への戸惑いや、前任者の友人・賢一の適任ぶりを描きたかったのか?文字数稼ぎなのか?初出一覧によると隔月誌に掲載されてたらしいけど、例えば私が図書館業務が未知の世界だったとしたら序盤で読む気失っただろう。内容は面白いのに、それがもったいなかった。
 

「気立てがよくて賢くて」
 久志が「めぐりん」の運転手になって5ヶ月目。「めぐりん」が巡回するステーションの見直し会議で、利用者の少ない殿ヶ丘住宅街を削る案が出た。周辺に図書館やそれに代わる施設がないため、数は少ないながら熱心な利用者がいるステーションだ。七十歳前後と思われる男性・三浦などは到着後の開館準備を手伝ったり、何かと機転を利かせてくれる有難い存在だった。
 今のところ芳しくない方針に向かっているために悩む利用者と久志・菜緒子だったが、近くにある「たんぽぽ保育園」の子供達を呼び込めないかという案が出る。張り切る三浦に、年配主婦の若林は険しい顔で反対をした。
 そもそも二十年前に保育園ができる時、町内会が大反対したらしい。役所への申請は通っているため建物は完成したが、住民の要望を呑むこととなった。その要望の中に殿ヶ丘分譲地内の立ち入りを禁止する項目があり、たんぽぽ保育園園長は「めぐりん」の利用を例外的に認めるよう頼み込んだが却下されたらしい。

 移動図書館だけじゃなくて、図書館自体が「気立てがよくて賢い」存在だよなぁ。利用権利は全住民、古今東西の知識、思想、空想を内蔵して佇む。二千数百年の図書館史の中で最大のライバルであるインターネットが台頭し、電子化も進んでいって、もしかしたら未来に図書館はなくなってるかもしれないけど、でも概念だけはずっと残っていくだろうなぁ。図書室を充実させつつも、他所でも本と出会わせたいと考えた園長先生、素晴らしい。
 昨今問題になっている幼稚園や保育園建設反対の話がうまく絡んでて、前向きに頑張ろうとするウメちゃんや利用者が嬉しくて、ラストで和やかに移動図書館利用に向かう園児達が描かれていて、素敵な話だった。図書館は「みんなのもの」であり、ただ内包して、そこにあるだけ。使う側があれこれ衝突するのは悲しい話だ。できれば館長とか教育委員会とかが間に入ってくれたら良かったのになぁ。でも、数十年を経て解決して良かった。
 ただ・・・。殿ヶ丘住宅街は図書館または代替施設がないんだったら、数人の利用者の権利を踏みにじってステーション廃止にするのはおかしい。ウメちゃんが会議でそこを突いたら良かったのに。法の下の平等または学問の自由に反してますよって。ステーションが足りないなら予算を増やして人員を確保すべき。「めぐりん」2号的な感じで、中古のバンを用意するくらいは普通でしょ。市役所の公用車を調整してもらうとか。
 あとこれはイチャモンのレベルだけど、16ステーションがぎりぎりってのは少な過ぎ。私が勤めていた図書館は倍のステーションがあったよ。田舎は図書館、分館、公民館図書室さえ少ないからねぇ。16だったら週8ステーションで、かなり少なめに見積もっても午前2ステーション午後2ステーション1日4ステーション。移動図書館、週2日しか運行してない感じ?いやいや、運行日増やそう。人件費とガソリン代だけなんだから。
 図書館を題材にする本を読むたびにこういう事を考えちゃうから、我ながら粗探し人間だと思う。


「ランチタイム・フェイバリット」
 久志が移動図書館の運転手を務めるようになったのと同じ頃に、駅近のワーキングエリアに設けられたステーションに野庭という青年が通うようになった。読書の習慣はあまりなかったそうだが、カードを作って菜緒子に本を紹介してもらったりしているうちに「めぐりん」の常連になっていった。また彼は、菜緒子の気になる相手となっていったようだ。
 野庭が広場の一角に時々視線を送ることがあることを、何となく気にしていた久志と菜緒子。利用者同士も和気あいあいとしたステーションだったが、利用者がやたらと移動販売車「森のシチュー屋さん」のシチューを勧めてくることに気付いた。
 
 司書と利用者の恋、憧れるような、ちょっとやだなと思っちゃうような・・・。ま、実際のところ全く聞かなくもない話ではあるんだけど。
 謎そのものは大した事ではないし、私は淡い恋愛には特に全く興味ないし、11月下旬から話が始まったと思ったら急に4月に遡って出来事を追ってようやく11月に戻って来るという構成でちょっと目が滑って混乱して、取り立てて面白いとは思えない話だった。
 けど、ウメちゃんが野庭に本屋で気になる本があったら買うように勧めるシーンは大賛成の拍手喝采。「いっぱい借りて、いっぱい買って、いっぱい読む」って等身大のいい言葉だと思う。本を買うことで出版界に貢献し、支えないと図書館も困るわけで。本当に本当、皆、本買おう!


「道を照らす花」
 10月。宇佐山団地のステーションに引っ越してきたばかりの中学生・宮本杏奈が通うようになった。美しい顔立ちをした彼女は母親を亡くしたばかりらしく、ステーションのメンバーは何かと話しかけては気にかけていた。
 毎回本を借りていた杏奈だったが、ある2月の日、突然泣き出したまま何も借りずに立ち去ってしまう。利用者一同騒然となった。

 亡くなった母親から聞いたことがある移動図書館で、母親が好きだった『モモ』を借りてひっそりと偲ぶ様子がいじらしい。
 「本って、変わらないのがいい」。ウメちゃん、私も本当にそう思うよ。どんな気分で開いても同じ世界があって、同じ本を親子で読み継いで、大昔の物語さえ寸分変わらず存在する。紙や印字が劣化しても、中身は全く変わらないでこちらに語りかけてくる。知識ある全ての人間は、その語りかけを知ることができる。私は本のそういうとこが好きだと思うし、尊敬というか崇拝に近い気持ちを抱いている。「(中略)『モモ』の中身はこれからも変わらなくて、ふらりと手に取り開いたら、大好きな世界がそこにある。」本当、そこが本の素晴らしいところ。
 杏奈ちゃんが毎回借りていく本が『モモ』っていうのもいいよね。あれは本当に名作だ。ていうか、ミヒャエル・エンデは偉大。


「降っても晴れても」
 久志が「めぐりん」の運転手になって2回目の夏を迎える頃、「めぐりん」の存在を広く市民に知ってもらうために10月の市民祭りに参加する事になった。各ステーションの利用者達も様々なブースを出す事になっていて、話が盛り上がる。
 「めぐりん」をどう売り込むか意気込み過ぎて空回り気味の菜緒子だったが、野庭との距離が縮まらない事も久志は気になっていた。
 そんな中、図書館宛てに、移動図書館の運転手が特定の女性とばかり親しくし過ぎるという投書ハガキが届く。久志本人はもちろん、菜緒子にも心当たりはなかった。

 苦情の件はすぐ解決するんだけど、市民祭りで利用者もちょっとだけ浮足立ってるのが楽しい。当日は各ステーション利用者が市民祭りに参加していて、これまでの登場人物大集合。それぞれ交流はないけど「めぐりん」を仲介して繋がっていると思うと、暖かい気分になれた。もしかしたらテルさんとウメちゃんが、市民祭りでいい感じに繋いでくれるかもしれない。
 菜緒子と野庭の仲も少しずついい方向に進んでいるような、平行線のような。ま、相手も憎からず思ってるみたいだから、きっと段々と深まっていくんだろうよ。
 

 移動図書館として、いや図書館全体としての理想が詰まってて、私が本や図書館に対する想いもいい感じで散りばめられていて、読んでて嬉しくなる本だった。きっと私だけじゃなくて、本好き図書館好きは誰しも思っていることに違いない。それを上手く物語に組み込んであるところが見事で、ウメちゃんもテルさんも大好きになった。
 私も司書時代は移動図書館に乗ることもあったけど、こんな風に愛されてはなかったかなぁ。マイカー1人1台の田舎住まいで、本を借りたい人は図書館行くから利用者は少なかった。当然そのせいにしちゃいけないわけで、移動図書館を担当する事を軽視していた自分を思い出して恥じ入りながら読んだ。
 これ読むと、利用者として移動図書館に行ってみたくなる。ただ、万人受けの本ではないかな。題材の地味さはさておき、文章が何というか・・・女性がストレス解消で話す無駄話に似てる。始まったと思ったら話が飛んで過去になってて、いつの間にか現地点に戻ってて、どうでもいい回想入って、結末はふんわりとどうでもいい感じ。気付いたら相手の返事が明らかな生返事になってて・・・つまり、私の無駄話でもあるわけなんだけど。地の文である久志の視点すら女々しくて、女性作家による女性向け小説って感じ。
 ほんわか系は苦手だけど、移動図書館がテーマで「あるある!」とか「こんな感じ、まさに理ですわー」とか思えたからそれなりに楽しく読めた。でもテーマが例えば看護婦とかだったとしたら、最初の数ページで読むの止めてたと思う。
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