元司書による読書備忘録ブログ。思ったことは全部書き、何様気取りの感想だったり平気でネタバレしたりします。
『海のある奈良に死す』  有栖川 有栖
2017-05-26 Fri 10:27
海のある奈良に死す (双葉文庫)
海のある奈良に死す
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有栖川 有栖
双葉社 1995.03
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 シリーズ4作目。
 「私」こと有栖川有栖は、東京の出版社・珀友社で推理小説作家仲間の赤星楽に会った。彼は取材旅行に「海のある奈良」に行くと言って出発したが、翌日、「海のある奈良」とも呼ばれる福井県の小浜で赤星の死体が発見された。
 作品のVシネ化の話でプロダクション「シレーヌ企画」の社長・穴吹奈美子とプロデューサー・霧野千秋と会った後に赤星の死を知った「私」は、東京で可能な限り事件を調べて関西に戻り、友人の臨床犯罪学者・火村に相談した。
 赤星の元恋人で推理小説作家仲間の朝井小夜子を火村に紹介して話を聞いたが、彼女が赤星と別れたのは、赤星が穴吹美奈子に心変わりしたからだと言う。
 その後、赤星の従弟・近松ユズルが服毒により死亡した。

 アリスの新刊が『セイレーンの沈黙』、赤星の執筆予定作品が『人魚の牙』、プロダクション名「シレーヌ」はセイレーンの語源、伝説の人魚の肉を食べたように若さと美しさを保っている穴吹美奈子、八百比丘尼伝説が残る小浜、とやたらと人魚を絡ませてある。若干強引さを感じなくもないくらい、人魚だらけの話。それに纏わる歴史文化的な引用がちょっと退屈かな。
 有栖川先生2作目かつシリーズ初の旅情ミステリーなわけだけど、『マジックミラー』の時も思ったけど、有栖川先生はクローズドサークルより旅情モノの方が面白い気がする。もちろんあくまでこの時点での「今のところ」であって、デビュー30年を誇る有栖川先生のたかだか6年目8冊を作家の方向性として語るのは変なんだけど。
 アリスと火村のやり取りが今まで以上に軽妙だし、アリスの作家としての人付き合いがちょっと見えたり、火村の心の闇も垣間見えたりしてシリーズとしてキャラクターの輪郭が明確になってきて面白かった。今回の序盤はアリスが単独で積極的に情報収集をするから、いつもより頼もしく見える。事件の展開も、本格ミステリーにふさわしい流れ。今まで物語においてオマケっぽかったアリスだけど、今回は自分の職業を活かして聞き込みする辺りは有能だ。
 そんな感じで、途中までは楽しく読んでいたわけなんだけど、殺人トリックの話になった途端、滑らかだった話の流れに淀みを感じ始めた。特に、サブリミナル効果にはがっかり。それでウイスキーを飲ませたくさせるって当たるも八卦みたいなやり方はミステリー小説としてどうかと。そもそも、サブリミナル効果ってデマなんじゃなかったっけ?この年代って、まだ信じられてた?私がサブリミナル効果を知るきっかけになったトンデモ漫画『MMR』が90年代前半だったと思うから、まだ一般的には信じられてたのかな?
 さらに、赤星殺人のトリックもトリックってほどではない小手先の物だったんで二度目のがっかり。動機が嫉妬っていうのも浅いけど、実は穴吹と霧野は親子でしたっていう展開もモヤッとした。このモヤッとは、『46番目の密室』で動機が同性愛者による嫉妬という時と似てる。好みの問題かもしれないけど、ミステリー小説は事件とトリック以外は普通であって欲しい。そもそも穴吹は男関係が派手だったっぽいけど、何で赤星と付き合った時に特別に嫉妬したんだろうか。ただの噂に過ぎなかった近松まで、確かめもせずに殺したのかも謎。
 ていうか、事件に学文路が関係あるかも、って話が出たから片桐編集者が有休使って行ってくれて人魚伝説で真相きたか!?と思わせといで、こっちで事件解決って殺生じゃない?エピローグ読む限り無駄足やん。石童丸伝説とか、何のために掲載したんだ。ずっと謎だった、「海のある奈良」の真相とも関係ないし。
 そんなこんなで事件が解決したわけだけど、ラストはちゃんと事件の真相を明らかにしてから捕まるなり自害するなりして欲しかった。霧野の遺書が部分的に意味が通らず、火村が語った推理が確実に正解と言えない状態で終わっるって、そんなあやふやな・・・。
 という感じで、前半面白かったけど後半ちょっと不満。アリスと火村がレンタルビデオ屋に行くところまでは面白かったけど、借りてからがあんまり好きじゃないかな。
 火村が人を殺したいと渇望したのは特定の誰かを殺したかったのか、殺人そのものに興味があったのか。夜中に悲鳴を上げて起きる理由、今後わかるんだろうか。アリスは学生時代から気付いてるらしいけど、ばあちゃんこと篠宮時絵も気付いてるのかな?死別してる両親が関係あるのか、「ロシア紅茶の謎」のラストで言ってた「胸を掻きむしられる想い」をした相手か、はたまた自分自身か。まだまだシリーズ4/27だから、先は長い。つーか、シリーズ長いな・・・。
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