元司書による読書備忘録ブログ。思ったことは全部書き、何様気取りの感想だったり平気でネタバレしたりします。
『あたたかい水の出るところ』  木地 雅映子
2017-04-11 Tue 00:46
あたたかい水の出るところ
木地 雅映子
光文社   2012.04.18
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 高3の「わたし」こと大島柚子は、銭湯「松の湯」をこよなく愛し、生き甲斐にしている。ある日いつも通り松の湯を堪能してから外に出ると、高そうなバイクが停まっていた。湯上りのテンションで調子に乗ってバイクにいたずらをしていると、持ち主の大学生・瀬田川福一と言い合いになる。
 和み系で癒し系の「わたし」は、家では恋愛至上主義で自分勝手な長女、神童だったために親の期待を過度に受け根暗な内弁慶に育った三女、朝早くから夜遅くまで働いて滅多に家にいない父、家事のほとんどを「わたし」に任せて妹の教育費のためにパートに勤しむ常に不機嫌な母との4人家族で、誰とも衝突しないようのらりくらりと生きていた。


 のほほんとした序盤に、小3の時に感じた地下を流れる温泉のうねりを感じた体験、サウナでトリップした体験が効いてるほんわか小説かと思ったら大間違いだった。友人に恵まれ、何も考えてなかった就職先も先方から望まれ、お風呂の事以外は何も考えないでぽや~っと生きている幸せそうな地の文のなのに、家庭のドロドロが重苦しい。無意識ながらそれを必死に包み込もうとしているように見えた。
 主人公は柚子だけど、核は母親かな。三女に過度の期待をし、家事のほとんどは柚子に任せ、八つ当たりし、挙句に就職したら家から通ってお金を入れろ。つまり家政婦兼搾取用の子になれってあからさまに言ってるのに、自分がどれだけ歪んだ事を言っているのか気付いていない。期待を掛けた三女の心が壊れつつある事にも気付かないで、三女のためだけに家族を動かそうとしていて、その醜さがじわじわと柚子の笑顔を塞いでいくようで恐ろしかった。
 柚子と福一が体験した世界、「悟り」ってやつかと思ったけど共有できるんならやっぱりどこかの精神世界に行ったんだろうか。そのトリップがあってさえ存在感が薄かった福一が迎えに来てくれたのは、忘れていたとはいえ若干唐突だったように思う。
 ファーストコンタクトは印象最悪で、後々惚れられるという王道に何か引っ掛かりを覚えるのは、柚子が福一のバイクにいたずらしたせいだろうか。お気に入りの銭湯に不釣り合いだからって理由だけでバイクにシャンプー垂らすとか、正直民度が低い。せいぜい、うっかりシャンプーこぼしたって程度にしていて欲しかった。セカンドコンタクトがトリップで、次がもう待ち伏せって展開が早過ぎる。
 さらに、あれだけあの不思議な世界に留まろうとした福一が急に心入れ替えて求婚っていうのも唐突過ぎて、もうちょっとワンクッション欲しい。求婚まで飛ばさないで、傍にいてくれってくらいだったら納得いったような・・・いや、やっぱ唐突だな。唐突と言えば、ゴミ捨て場で予言を告げて立ち去ったおばあさんも然り。あくまで個人的な好みなんだけど、不思議現象は柚子と福一の精神世界だけにしておいて、あとはあくまでリアリティが良かったかな。章題にある「魔法使いのおばあさん」は、平松さんでしたってオチの方が、平松さんの存在の面白さと有難さが際立つような気がする。
 でも、のらりくらりする柚子追い詰めていく母親から、福一が救ってくれて良かった。柚子の存在が福一にとっての救いになるようで、良かった。ずっと影の薄い父親だったけど、最後に柚子に居場所を作ってくれて良かった。あの家庭が出来上がった責任の一端は父親にもあるとは思うし、あの母親の元から柚子を連れて行ってからの離婚はかなり難しいだろうけど、せめて穏やかな余生を過ごして欲しい。

 作者名、数回調べてもまだ読み方を忘れる。「きじ かえこ」さんと読むそうだ。きっと後でこれを読み返した時もまた忘れてそうだと思って、ここに記しておく。
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