元司書による読書備忘録ブログ。思ったことは全部書き、何様気取りの感想だったり平気でネタバレしたりします。
『ロシア紅茶の謎』  有栖川 有栖
2017-03-31 Fri 15:32
ロシア紅茶の謎 (講談社ノベルス)
有栖川 有栖
講談社 1994.7.28
売り上げランキング: 69,343

 作家アリスシリーズの3作目で、シリーズ初の短編集。


「動物園の暗号」
 大阪の動物園の猿山で、飼育委員が撲殺された。被害者は暗号やパズルを作るのが好きで、右手に自作の暗号を握りしめて絶命していた。
 大阪府警の船曳警部が火村助教授に助けを求め、火村英生助教授から「推理小説家好みの事件が起きたから一緒にこい」と呼び出された「私」こと有栖川有栖。火村と一緒に、暗号の謎に取り掛かる。
 
 有栖川有栖さんの作品を出版順に読んでいるけど、ずっと長編ミステリーだったんで今回もそのつもりで読み始めてたんでちょっとびっくり。どうりで暗号の謎が解けるの早いと思った・・・。
 それにしても有栖川さんの短編、いいね。元々心理描写があっさりしてて、ロジカル重視で感情移入皆無の作品を書く人だけど、短編だとそのあっさり感が読みやすさとわかりやすさを生んでると思う。被害者が作った暗号の答えがたまたま加害者の事で、絶命間際にポケットから取り出すという辺りにはやや都合の良さを感じなくもないかな。
 あと、警察が火村を呼び出すのが早過ぎるのも疑問。警察、頼りなさすぎ。もうちょっと捜査してから外部の手を借りてくれないと、私が関係者で事情聴取を受ける立場だったら不信感出しまくるし、クレームの電話もするし、マスコミにリークするかもしれんわ。
 ところで、確かアリスって大阪市内に住んでたはずで、市内の動物園といえば天王寺動物園!?偶然にも、ちょっとした用で大阪行くついでに家族で天王寺動物園行くつもりの時にこの小説を読んだんで、内心盛り上がった。小説内では阿倍野動物園って書いてあるけど、天王寺区じゃなくて隣の阿倍野区にあるって設定がわかったのも嬉しい。ただ、帰ってからこの感想を書いているんだけど、猿山なかった・・・。猿系は、基本的に檻に入ってた。猿山は必要でしょ、天王寺動物園。


「屋根裏の散歩者」
 またまた火村に呼び出された有栖川有栖は、船曳警部と共に殺人現場に向かう。アパートを経営している独居老人が殺害されたが、彼はアパートの屋根裏を歩き回って住人を覗き見して日記に綴る趣味があった。日記によると、住人の中に巷で騒がれている女性連続殺人事件の犯人がおり、その人物にそれとなく探りを入れたらしい。5人の住人を記すときには「大」「太」「く」「卜」「I」と記されて、誰の事かわからない。
 聞き込みが終わった火村は、夜中に出直したいと言った。

 連続殺人事件犯に覗き趣味と、大小はあれど二つの異常性が面白かった。ただこの話、火村さんの推理は光ってなくない?行動力の問題というか、夜中に屋根裏から覗いてみるのは警察がやるべき仕事だったのでは?いや、大家殺しで自重するだろうから、張り込みやら家宅捜索やらの手間を省いたって事なのか。
 「大」と「太」の違いは、ちょっと微妙な気分になる。いや、わかりやすいというか、ユーモアって言い分もわからなくもないんだけどね。我ながら、小娘じゃあるまいしと思うけど、何か微妙な気分になる。良し悪しは置いといて印象には残ったから、被害者のダイイングメッセージがわかりにくいながらも面白いかな。


「赤い稲妻」
 夜の雷雨の中、京都府内のマンションでアメリカ人女性モデルが転落死した。目撃証言によると、バルコニーで誰かともみ合った末の転落らしい。しかしマンションは鍵もチェーンも掛けられており、犯人が脱出した形跡はない。京都府警の柳井警部に頼まれて現場を訪れた火村は、その奇妙な事件に有栖川も呼び出した。
 被害者のパトロンは、妻が踏切で電車と衝突事故を起こして死亡したために亀岡警察署にいた。事故の時刻は、モデルが転落死した時間と30分ほどしか変わらないかった。

 目撃者が火村の教え子という事もあって呼び出されたらしいけど、こういう美味しそうなネタは長編でじっくりやって欲しかった・・・。これ、目撃者が誰であろうと視力さえ良ければ成り立つ話で、設定の無駄遣いに感じる。生徒から見た助教授・火村像やら、犯罪学をちょろっとレクチャーする図とか、見たかった。
 トリックは面白かったし、火村が犯人を追い込むシーンもかっこ良かった。
 

「ルーンの導き」
 火村の下宿先を訪ねた有栖川は、何か面白い話があれば聞いてやると話を振る。火村は、2年ほど前に起こった事件を話し始めた。
 英都大学のイギリス人講師が嵐山のログハウスで殺人事件に巻き込まれ、火村を呼んだ。刺殺されたアメリカ人被害者は、ルーン文字が書かれた石を4個握りしめて絶命していた。火村は馴染みの柳井警部と共に現場検証と事情聴取を行う。

 今まで火村の人間関係は大学来の友人である有栖川と、フィールドワークの重要な協力者である警察しか描かれてなかったけど、ちゃんとお友達いるんだね。根暗な変人と思っててスンマセン。まあ、友達というより同僚っぽいけど。
 関係者が外国人だらけでちょっと戸惑ったけど、混乱するまでもなくすぐ解決したのが短編の良いところ。外国文学では毎度誰が誰だかわからなくなる私だけど、人物紹介を兼ねた事情聴取の後にすぐ解決編に入ったから読みやすかった。ダイイングメッセージのわかりにくさと状況証拠のあやふやさは、ちょっと引っ掛かるかなぁ。一応私も元司書なんで、和書のISBNは4から始まるのも知ってる。英語は0と1、フランス語が2、ドイツ語が3、とか一応知識はあるけど、これが超身近だったとして死に間際にこんな曖昧なダイイングメッセージ。うーん、藁をも掴む感じで残す・・・?殺された事ないから、わからなくて当然か。でもなんかこう、わかる人にしかわからない暗号の登場はモヤモヤする。というか、思わせぶりだったルーン文字は関係ないのかよっ!とも思うし。
 死にゆく被害者の気持ちはわからないから置いといて、多国籍な集まりだったり、出版が絡んでたり、ルーンの占いでミスリードしておいたり、ジョージの中国表記が「佐治」という偶然があったりで、トリックありきのストーリー感がちょっとすっきりしない読後感を醸してるかなぁ。


「ロシア紅茶の罠」
 有栖川を訪れていた火村に、兵庫県警の樺田警部から電話があった。火村が興味を持ちそうな事件が起こったという連絡に、有栖川と共に神戸に赴く。
 自宅パーティーの最中に、家主である作詞家が毒殺された。妹が淹れたロシア紅茶を飲んだ直後に絶命したが、犯人がどのようにして毒持ち込み、どうやって盛ったのかさえわからなかった。集まったメンバーは、妹以外は全員恋愛絡みで被害者を恨んでいた可能性があった。

 前作『ダリの繭』で出てきた兵庫県警の樺田さん・野上さんコンビ再登場。『ダリの繭』を読んだ時には気付かなかったけど、野上部長刑事ってドラマでは優香演じる小町ちゃんか。野上は自分の凡才を棚に上げて火村を目の敵にしてる姿がちょっと腹立つけど、優香は可愛かったから目の保養にはなってて、私的には良い改変だったと思う。むさいおじさんより可愛い女性がいいのは当然だし、若すぎない優香を使ってるのも良かった。演技は上手くはなかったけど。
 さてこの話、表題作だけあって一番トリックが面白かった。真ん中に毒を閉じ込めた氷を口に含むという、自殺行為ギリギリの殺人というスリルが加害者の深い気持ちを表していると思う。その命懸けの殺人を火村が暴き、火村を快く思ってないはずの野上がすかさずサポートするとこが面白い。
 あと、現実ではあり得ない推理小説あるある的なサイトを最近読んだんだけど、青酸カリって殺すなら意外と量が要るし、独特の味と臭いがあるらしいから紅茶みたいな繊細な飲み物だとバレると思うし、もし犯人の口で溶けたとしてもすぐ吐き出してうがいと胃の洗浄すれば大事には至らないはず。ということは、死を掛けた殺人ってほどじゃない。でもって何より、紅茶冷めない?なんて考えながら読むと滑稽だけど、リアリティよりファンタジーと思って読めば、やっぱ一番面白かった話だと思う。
 樺田さんには有栖川向けの事件とか言われつつ、結局火村が解決してる。あれ?デジャブ?と思ってページを戻ると、一話目でも有栖川が期待されつつスベッてたな。
 ところで、最後のやり取りがいただけない。「俺だって、胸を掻きむしられるような想いをしたことはあるさ」「本当か、先生」「多分」という会話、それって有栖川にってことじゃないですよね・・・とBL嫌いの私でも思わずにはいられない唐突さ。こりゃラノベ化した時にやたらBLっぽい絵になるはずだわ。対象が完全に婦女子やん。
 作家アリスシリーズはまだ序盤だけど、ち、違うよね?変な展開になったりしないよね?うーん、どうもこの本に入ってから2人の関係が怪しいというか、男臭くなさすぎて気持ち悪いんだよなぁ。ドラマの終盤も、愛の告白めいててキモかったし。独身社会人同士の友人関係って、もっとこう・・・。あれ?どんなだっけ?そういや、そういう本ってあんまり読んだことないな。せいぜいIWGPのマコトとタカシとサルくらいしか思い付かない。やっぱ、有栖川の必要性の薄さが駄目だと思う。


「八角形の罠」
 有栖川が書いた推理劇の練習を見学に来た有栖川と火村だったが、劇団内の揉め事が起きたので席を外している間に男優が毒殺された。被害者の襟元には蛍光塗料が塗られており、練習室の電気が突然消えた隙に毒を注射したようだ。8人の劇団関係者達は恋愛関係や借金や劇団の脱退を巡る問題などで複雑な人間関係を抱えていたが、殺人に発展するような深刻な問題はなかったという。
 兵庫県警から樺田警部と野上部長刑事が捜査に当たる最中、別の男優が煙草を吸った途端に苦しみ出した。

 この小説は、作者の有栖川有栖さんが実際に原案を書いた犯人当てゲームイベントをノベライズしたものらしい。1993年に尼崎市の施設で行われたイベントらしいけど、都会って面白いイベントがあるもんだ。それにしても、演目が『八角館の殺人』だなんて、綾辻行人過ぎて笑える。
 これも面白かった。共犯者オチがわかりやすかったのは、実際のイベントでこのトリックを使って犯人当てゲームをしたからだろうな。原案ってことだから、有栖川と火村、樺田警部達は出てこないで事件だけを扱ったのかも。実際当てれた人はいるんだろうか。私は、絶対わからないだろうなぁ。文字で読んだから、犯人は2人以上ってパターンかなって思った程度。犯人を当てるなんて無理に違いない。
 それにしても、自分が原案を書いた舞台を火村に観せたがって稽古に呼ぶなんて、なんかこう・・・私の知ってる三十代男同士の友情ではないんだよなぁ。じゃあ具体的にどうかと言われると難しいんだけど、時々居酒屋なんかで会って「舞台の原案書いたんだぜ」とか自慢する程度なイメージ。舞台が観に来れないから稽古だけでも観て欲しいって、何か気持ち悪い仲だなぁと思う。


 暗号、ダイイングメッセージ、技巧を凝らしたトリックと、本格ミステリーが短編でキュッと詰まってる感じで面白かった。と同時に、色んな設定が判明したのも読んでて楽しかった。主人公2人の年齢が、「ルーンの導き」までは33歳なのに「ロシア紅茶の謎」では34歳になっててちゃんと加齢してたりとか。有栖川は名目上、火村の助手という事で殺人現場に同行させてもらってるんだとか。大阪府警、京都府警、兵庫県警の3府県の警察捜査一課と懇意にしてるんだとか。小説に描かれている以上に、火村が解決した事件や有栖川も同行した事件が存在することが匂わせてあったりとか。
 シリーズ1作目の『46番目の密室』で有栖川は初めて火村のフィールドワークに立ち会ったって言ってて、『ダリの繭』では有栖川の助手名目は出てこなかったと思うけど、『ダリの繭』以降「動物園の暗号」まででいくつか事件に関わったって事か。しかも各県警とすでに数回ずつ絡んでるみたいだから、相当な数の事件に同行させてもらってるのか。私が読んだ事ある探偵物って警察と関わって段々と信頼を得ていく過程も描いていくものがほとんどなのに、既に関係が出来上がってるこのシリーズの描かれ方は斬新に思える。絡んでる事件は全部読みたい!という気持ちと、そこまで民間人巻き込むのもどうなんだろうかという、複雑な気持ち。
 この本では警察がちゃんと時間を掛けて捜査をすれば解決しそうな事件を火村が早期解決というパターンが多かったと思う。「屋根裏の散歩者」では家宅捜索すれば解決しそうだし、「赤い稲妻」では火村も言ってたけど被害者宅を詳しく調べればいずれ逮捕できそう。「ルーンの導き」も、人間関係を徹底的に洗えば判明しそう。暗号は解けなかったかもしれないけど、実際の事件で暗号やらダイイングメッセージをそこまで真剣に捜査するとは思えないし。となると船曳、柳井、樺田は、面子より早期解決を優先する柔軟な方々なんだろうな。
 「作家アリス」シリーズをamazonで検索すると、数種ある新装版の中でも角川ビーンズ文庫版はちょっと異彩を放ってる。昔の有名出版物をラノベっぽい新装丁にして出版して売る手法を聞いたことあるけど、なぜこんなBLっぽい絵柄なんだと情けない気持ちを抱いていた。気になってイラストレーターを検索すると、BL作家。なぜそっち方面に持って行く!?と、世の腐女子を情けなく思ってたんだけど。こりゃそっち方面に行かせちゃうのもわからんでもない展開だわ。2人の関係が2人で完結しすぎてる。火村は有栖川がいなくても解決できそうなのに会いたいから呼び出してるようにしか見えないし、被害者や警察関係の人と話す時は淡々としてるのに有栖川と話す時だけ砕けた話しぶりという二面性。そう言えば、『ダリの繭』では野郎2人でちょっと高級そうなレストラン行ってるし。三十代前半の男友達とちょっといい物食べるって、肉じゃないの?焼肉。食後はキャバクラとか行かないの?私の男の友情像、歪んでる?
 有栖川は『ダリの繭』で高校時代の失恋のトラウマ話をしてたし、「ロシア紅茶の謎」でモデルに見惚れるくらいだからノーマルっぷりが伺える。けど火村がね・・・。ウィキで人物紹介読むと、女嫌いって・・・、待て待て待てーい!そんな設定止めて・・・。この人間関係なら、女好きにしてくれた方が清々しいわ。
 何だか、ミステリー以外のところでモヤモヤしてしまった。
別窓 | [あ行の作家]有栖川 有栖 | コメント:0 | トラックバック:0 |
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