元司書による読書備忘録ブログ。思ったことは全部書き、何様気取りの感想だったり平気でネタバレしたりします。
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『海の見える理髪店』   荻原 浩
2017-01-13 Fri 12:32
海の見える理髪店
海の見える理髪店
posted with amazlet at 17.01.12
荻原 浩
集英社   2016.03.25
売り上げランキング: 2,356

 どこか歪になった家族の短編集。表題作は直木賞受賞作品。

「海の見える理髪店」
 密かに通う大物有名人もいるという理髪店をインターネットで探し当てた語り手の「僕」は、髪を切られながら店主の半生を聞く話。店主は、戦争やその他の色んな苦労を経験しつつも成功を収めた話を、なぜか一見さんに独白のように話し続けた。

 ずーっとずーっと続く穏やかな語りから、突然始まったラストの衝撃が凄い。だけど、結婚の報告だけして帰ろうとする「僕」が歯痒い。言おうとして飲み込んだ言葉は、結婚式への招待だと思う。どうして言わなかったんだろうか。
 でも最後の店主の言い訳にも似た遠回しな愛情が、もう全部吹っ飛んだ。親子の再会の喜びと同時に、別れる羽目になった哀れみとで、1行ちょっとの文を何度も何度も読んでしまった。おい主人公、何で結婚式に来てくださいって言わないんだよー。この後言えよー。
 イメージ的には寡黙そうなのに、やたら語る店主。でも退屈じゃない、穏やかで安らぐ雰囲気に飲み込まれてしまう不思議な話だった。戦後からの文化の移り変わりをくぐり抜けてきた話なのに、この丁寧で上品で美しくて、優しげな口調が伝わってくる文章だった。


「いつか来た道」
 弟から頼まれて16年ぶりに実家を訪ね、母と再会した私。あれほど厳しかった母は足が弱って車いすを使い、整っていたアトリエは雑然としていた。「私」は母とのやり取りに違和感を覚えつつ、叶わなかった母自身の夢を「私」達姉妹に押し付けてきた過去を思い出す。

 主人公の目的が不明なまま風景描写が長々と続いて、やっと物語が動き出した最初の一文で、なんか飽きた。弟からの「会ってやってよ、ママに」の言葉で、どうせ変な母親から逃げたけど久々に会ったらボケててショック受けたとかそういう話でしょー。ほら来た、なんか態度が変。家もあちこち変。
 あちこち違和感あるのに認知症の事は思い当たりもしない主人公も変だけど、退行現象が見られる母親に何だかんだ和解を示そうとしてるのにモヤモヤする。叱られ、否定され叱られ罵られ続けた幼少期に作り出した自分の分身の存在も中途半端。漂う薄幸感の中に、やたら繊細な風景描写がダラついて感じるのも、ちょっと苦手。
 結局40歳過ぎても親に愛されたかった願望には逃れられなくて、ボケた親からようやく自分への愛情を見付け出して、許すのって陳腐。年齢的には厳しいから、この先の大きな幸せも期待は薄い。フィクションなんだから、仕事かプライベートのどっちかはもうちょっと幸せになってて欲しかった。
 

「遠くから来た手紙」
 残業続きの夫に腹を立てて、1歳の娘を連れて実家に帰った祥子。自分が使っていた部屋は同居し始めた弟夫婦が使っているために、かつて祖母が使っていた仏間で過ごす事にした。居心地の悪さから目をそらしつつ過ごす祥子に、見慣れないアドレスから古臭い文章のメールが届いた。

 おっさんが考える底浅い主婦像?それとも、狙ってこういうキャラなの?仕事が忙しくて育児を手伝えない夫に腹を立てる人なんて、私の周囲には1人もいない。旦那さんが土日も忙しくて母子家庭状態って人も何人もいるけど、こんな「仕事と家庭どっちが大事なのよ」的な頭悪い不満持つ女、なんなの。でもって実家で弟嫁に対して小姑丸出しで偉そうにしてるとか、なんなの。返信不要と送っておいて返信ないと怒るとか高校生かよ。もしかしてギャグなの?
 腹いせ以外の何でもない迷惑な家出で実家に帰って孝之との交際や遠距離恋愛での手紙のやり取りを思い出していくんだけど、 取り立てて珍しい事もない恋愛だし。これでムカつく頭の悪い女に対してちょっとした霊的現象でしたとかズコーッてなるし、迎えに来ると思われる孝之とわざと入れ違いになるように帰るとか頭も性格も悪すぎる。
 

「空は今日もスカイ」
 母親が離婚して、母子でおじの家に身を寄せた小3の茜は肩身の狭い生活に嫌気が差していた。海を見るために家出をして寄り道をした神社で、ゴミ袋を被った少年に出会う。彼をフォレストと名付けて、海に誘った。
 海に着いて遊んだものの暗くなると心細くなって帰りたくなった茜と、帰らないと父親にぶたれると震えだすフォレストは、ホームレスの男に見付かって一晩お世話になる。

 序盤のルー大柴ばりの英単語が鬱陶しかったけど、それが後半から出てこなくて最後まで全く活きてなくてただダラダラ長いだけだった。あの辺、大幅にカットして英語への現実逃避のとこだけの方が私は好みだなぁ。不要な情報が長くて役に立ってない話は苦手だ。1章目の「海の見える理髪店」は、あの長さが活きてたんだけど。
 小説家を目指すも失敗続きで酒乱の父親も駄目だけど、田舎にある身内の家に世話になって田舎だから仕事がないと言う母親も駄目だ。男を見る目がなさすぎるのと、そんな男と子供を作ったことも駄目だけど、田舎には仕事がないのは常識だし病院がなくなってるのもすぐわかる事なんだし、どんだけ情報弱者なのか。早めに見切りをつけて都会で母子手当もらいながら頑張る方が得策って早く気付いてほしい。
 いまいちな話が3章続いて、ちょっと苦痛になり始める。


「時のない時計」
 父親の形見に貰った古い時計を、商店街の外れにある古い時計屋に修理に持って行った「私」。店主は修理・分解掃除をしながら、店内にある思い出の時間で止めてある思い出の時計の話をする。結婚した時の時計、娘が生まれた時の時計、娘が死んだ時の時計・・・。時計の話を聞きながら、「私」は見栄っ張りだった父親の事を思い出す。

 主題はどこなのか。父親の思い出なのか、止められた時間なのか。薄暗い店内を彷彿とさせるどことなく薄暗い文章の中で、娘が死んだ話はまだ小さな驚きだった。店主が帝王切開を拒んだせいで娘が障害を患った話が、とても重い。些細な見栄が、一生かけても償えない罪を背負っていると思うと、重い。
 ただ、思い出の時間に囲まれた店主に対して主人公の「私」がどうも薄っぺらくて、彼の思い出話はかなりどうでも良かった。


「成人式」
  15歳で亡くなった娘・鈴音のことを5年間引きずったままの夫婦の下に、成人式の着物のカタログが届いた。それをきっかけに、「私」は妻に鈴音として成人式に出席することを提案する。乗り気になった妻・美絵子を前に撤回できなくなった「私」は、自分も男物の晴れ着を着て一緒に参加することを決意する。

 読んでて痛々しい。娘を失って5年が経ち、平静を取り戻しつつあるのにふとしたきっかけでパニックを起こす美絵子が、情熱を傾けられる事を見出したことは喜ばしいと思う。でもやっぱり、本当に成人式に行っちゃうのはやっぱり痛々しい。鈴音の友達に会えて集団に紛れさせてもらえたのは救いだけど、痛々しさを少し薄められただけだったと思う。
 喜ばしいことに子供を失ったことはない私だけど、子供に先立たれた親はこれだけのことを成し遂げられる負のパワーを秘めてるんだろうか。一人娘が先立たれて、人は悲しみながら生きていけるものなんだろうか。私は子供が死んだら生きていけないと思ってるけど、後ろ向きながらも生きていくものなんだろうか。死んで5年経ったら、友達にはナチュラルに忘れられるんだろうか。
 ちょっと考えさせられる話だった。


 最初の話はすごく良かった。『明日の記憶』だけ読んだことあるけど、やっぱ美しくて哀しい話が上手い人なんだなぁって思った。でも残りの話はちょっとイラッとなる事が多発。
 母ちゃん娘に夢押し付けんなよ、娘も振り切るなら振り切りなってば。余計なものがそぎ落とされてやっと見えた愛情に縋っちゃいかんよ、幸せになりなよ。
 忙しい夫に何やってんだよ、夫に非はないじゃんよ、世の中子供が1歳になる前から預けて働いてる人もいるのに我が儘過ぎ。怒ってみせて相手がじゃあもう帰ってくんなってなったら、離婚に不利になるのはアンタなんだよ。なんで相手の愛情が尽きることは想定にないんだよ。妻子の幸せのために働いてるんだろうに、息抜きは上手にやれよ。
 小3の子供に罪はない。主人公の両親がクズで、フォレストの両親はもっとクズで、どうなってんのマジで。フォレストの両親は虐待の罪で捕まりますように。茜の母親は、ちゃんとハロワで検索地域の範囲を広げなさい。公共施設で一定時間自由に使えるパソコン使って調べてもいいんだから。それか、前住んでた街の前に就いてた仕事に戻らせてもらって、役所に行って母子手当関係をちゃんと聞きなさい。
 意地とか見栄とかで辞表出すな。庶務課が何で駄目なのか。庶務課から営業なら大変かもしれないけど、営業から庶務ならいいじゃん。給料下がるかもしれないけど、57歳で無職よりは絶対いいって。局長が上層部からの覚えがめでたくて、自分は局長から煙たがられて異動って、被害妄想じゃなくてあり得るの?今の世の中、ベテラン営業マンを異動させても大丈夫なくらい安泰の会社って何系よ。そんな簡単に飛ばされるような成績しかなかった営業マンだったって事なんじゃないの?
 お父様とお母様は・・・うーん、事情が事情だけに、ご自重くださいとしか言えないわ・・・。
 と、架空の人物に真面目にツッコミ入れてしまうくらいのリアリティがあったのは確かだ。
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