元司書による読書備忘録ブログ。思ったことは全部書き、何様気取りの感想だったり平気でネタバレしたりします。
『ビブリア古書堂の事件手帖2 栞子さんと謎めく日常』  三上 延
2016-04-16 Sat 12:11
ビブリア古書堂の事件手帖 2 栞子さんと謎めく日常 (メディアワークス文庫)
三上 延
アスキー・メディアワークス (2011-10-25)
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 1巻でビブリア古書堂を辞めた主人公「俺」こと五浦大輔が、再びビブリア古書堂で働き始めているところからプロローグが始まる。
 
「プロローグ 坂口三千代『クラクラ日記』(文藝春秋)」
 篠川さんの自宅部分からお店に運ぶよう頼まれた本の中に、『クラクラ日記』が5冊あった。篠川さんは珍しく、この本を「好きになれない」と言う。そのわりに5冊も自宅に持っていた事をちょっと疑問に思いつつ、「俺」はすぐにその疑問を忘れた。

「第一話 アントニイ・バージェス『時計じかけのオレンジ』(ハヤカワ文庫NV)」
 1巻最終話でビブリア古書堂の店長・篠川栞子の本への執着に疑問を抱いて半ば衝動的にビブリア古書堂を辞めた「俺」だったが、店長・篠川栞子の謝罪の気持ちを受け取って和解した。就職活動に失敗した事もあり、篠川さんらしい奥手な依頼で再びビブリア古書堂の従業員に戻る。
 篠川さんと「俺」がいるビブリア古書堂が通常営業になりつつある折、2巻の「小山清『落穂拾ひ・聖アンデルセン』(新潮文庫)」で関わった小菅奈緒が訪ねてきた。優秀で自慢の妹・結衣が書いた読書感想文が問題になっており、両親が妹の事を束縛するようになった事を相談したいと言う。

 前回はゆったりした流れの中に篠川さんの精鋭な推理が面白かったけど、今回の1話目は微妙だったかな。結衣ちゃんの感想文が盗作で、実は過去に篠川さんが書いた物だったって読者でも気付いちゃうよ。流れ的にね。そこはまあ物語なんだから野暮言いっこなしって事にしても、ロジックとしてどうなのかと。結衣ちゃんの嘘を追い込むのに、スリップが売られてる時の状態のまま数ページに渡って挟んであるからって言うのが若干の取って付けた感を醸し出してる気がしてならない。次に何かもっと大きな証拠を出すと思いきや、結衣ちゃん参りました状態になるし。
 そりゃ動かぬ証拠かもしれないけど、結衣ちゃんが私みたいに読み始める前にスリップを抜いて捨てちゃうタイプだったら?こういう「たまたま」はちょっと興ざめ。それより、動かぬ証拠として篠川さんの名前入りの感想文を最初からバーンと出しちゃった方がすっきりするな。篠川さんの優しさプライスレスみたいな演出が、説得力の点から見たらマイナスポイント。
 そして『時計じかけのオレンジ』は、たぶん私も読めないと思う・・・。さすがにタイトルくらいは知ってるけど、旧版と新版の違いすら知らなかったくらい無知です、はい。


「第二話 福田定一『名言随筆 サラリーマン』(六月社)」
 友人を通して、高校時代に付き合っていた高坂晶穂と再会した「俺」。彼女から古本の買取を依頼され、篠川さんと晶穂の家を訪れた。
 晶穂の腹違いの姉から、高価な本があるらしいと言われたものの、そのような本は見当たらなかった。

 一話目で国枝史郎『完本蔦葛木曽棧』の在庫問い合わせの電話があったもの「俺」が上手く対応できず電話が切られたシーンがあったけど、ここに繋がるとは。短編でこういうのがあると、流れが感じられて好き。
 謎の方は篠川さんが体調不良で解くのに時間が掛かりましたという事態でなんだそりゃ状態だけど、これは「ビブリア古書堂シリーズあるある」で、メインはそこじゃないはず。篠川さんが体調不良かつ晶穂に影響される形で、うっかり「俺」のことを「大輔さん」と名前呼びしちゃって、「俺」もどさくさに紛れて「栞子さん」と呼び始めた事がメインなんだろう。元カノと現在気になる相手との間で甘酸っぱい気まずさを抱える「俺」も、わざとらしくなくいい感じ。
 それからこの作者が上手いのは、次の話への流れが凄く自然に絡んでくるところだと思う。「俺」が発熱した栞子さんを自宅へ運んだ際、栞子さんそっくりな古い肖像画を発見したところで終了。ベタに肉親なんだけど、次の話へのきっかけになってて、いい流れに感じる。


「第三話 足塚不二雄『UTOPIA 最後の世界大戦』(鶴書房)」
  ビブリア古書堂に本を売りに来た男性は栞子さんに『UTOPIA 最後の世界大戦』の売値を聞いた直後、車の移動に行ったきり戻って来なくなった。残された本達と途中まで書かれた買い取り票の住所から男の居住を推理した栞子さんは、訪ねたアパートで30年前に栞子さんの母親が同じ状況でその家にたどり着いた事を聞かされる。
 マンガ本コレクターだった須崎の父はビブリア古書堂にコレクションの一部を売りに行ったが、そこでずっと欲しかった藤子不二雄の最初の単行本『UTOPIA 最後の世界大戦』の初版が安く売られているのをを見付けて慌てて買って帰った。売りに行った本は店に忘れて帰ったが、店にいた女性はなぜか須崎達のアパートを見付け出して訪ねて来た。藤子不二雄マンガコレクターだった須崎の父に、栞子さんの母親は教えて欲しい事があると頭を下げたと言う。
 須崎宅からの帰りに話してもらった栞子さんの推理は、『UTOPIA 最後の世界大戦』はビブリア古書堂で安く売られていた物ではなく須崎の父が万引きした物である事。間違えてビブリア古書堂に売る本の中に紛れ込ませてしまったために栞子さんの母親が気付いたが、万引きが発覚しないようビブリア古書堂で売っていた事にして須崎の父や自分を「善意の第三者」にする代わりに、須崎の父のコレクションの中からめぼしい物をを持ち帰ったという物だった。
 その母は、10年前栞子さんに『クラクラ日記』を残して失踪していた。

 洞察力は母親似ながら性格は違う・・・ような瓜二つなような。栞子さんは家族を捨てた母親を憎んでいるけど、栞子さんが1巻で太宰治のサイン入り『晩年』初版本への執着は決して母の事ばかりを咎められない行動であり、栞子さんも自分の性分を理解して苦々しく思っているみたい。現に、藤子不二雄コレクションを譲ってもらえなくなる事を懸念して、自分の推理を須崎に話さなかった。
 ドラマでは安田成美が母親役をやってて、演技力でも美貌でも剛力彩芽を飲み込んでて失笑した。原作では、母親はどう描かれてるのか楽しみ。この人の描くヒューマニズムは穏やかで好きだし、1巻最終話の田中敏雄のように急に悪人が出てきてピリッとするのも面白かった。
 

「エピローグ 坂口三千代『クラクラ日記』(文藝春秋)」
 栞子さんがまた『クラクラ日記』を3冊売ろうとしているのに気付いた「俺」は、その理由を尋ねる。秘密だと言う栞子さんに対して、当てに掛かる「俺」。
 失踪した母親が残した『クラクラ日記』は処分したと言うが、もしかして書き置き等があったのではと思い直して『クラクラ日記』を片っ端から確認しているのではないかという推理に対して、栞子さんは当たり外れの条件だった古書店行きを頼んだ。

 「どこでも栞子さんの好きな所に連れて行く」「じゃあ古書店へ」っていう条件、当たった時なのか外れた時なのかイマイチわからん。普通は回答者が外したら条件を飲むんだから、外れたら古書店行きだと思う。休日に横浜への古書店行きを頼まれたという事は、「俺」は外れ?でも会話の雰囲気的には当りっぽいから、ちょっと混乱して何度か読み返した。うーん、やっぱりイマイチわからん。
 

 今回も、古書の造詣と主人公らの青春が楽しい。まあ、大輔がいい歳こいてドギマギし過ぎなのは相変わらず疑問だけど。栞子さんの巨乳と無防備さへの記述が多過ぎると感じるのは、私の嫉妬でしょうか・・・。美人で細身なのに巨乳で世間知らずの天然ちゃんとか、何その男の理想の女性像。
 『時計じかけのオレンジ』の感想文に対する大輔の反応を気にしたりとか、大輔との出張買取を楽しみにしてるとか、名前呼びとか、コーヒー回し飲みとか、もうどう見てもカップルじゃないか。高校生ならともかく、20代の大人がコレで何も起こらないとかおかしいでしょ。こんなのせいぜい、大学生まででしょ。栞子さんが奥手でも、大輔は高校も共立なんだし大学にも行ってたんだし。まあ、栞子さんが奥手で世間知らずだから、押しすぎると関係が崩れる懸念?いや、いい感じの甘酸っぱい関係で、読んでてスピードワゴン並みの「あまーーーーい!!!」を叫びたくなるんだけど、まさに今が旬な年齢の男女がやってると思うとちょっとね・・・。
 今回初めて母親の存在と、栞子さんが自分の中の母親に似ている部分に恐れみたいな感情を抱いてると書いてあった。これでようやく大輔が栞子さんにアタックしづらい状況に言い訳が立ったけど、その設定もうちょっと早く出した方が良かったんでない?
 でも、大輔って優しいと思う。最初、作者は女性なんじゃないかと思ったくらい優しく見守って、栞子さんを大切にしている。そんな大輔、私も好きだ。はよくっついて夫婦になっちまいなって、ここにいる野次馬は思ってる。
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