元司書による読書備忘録ブログ。思ったことは全部書き、何様気取りの感想だったり平気でネタバレしたりします。
『ビブリア古書堂の事件手帖―栞子さんと奇妙な客人たち』  三上 延
2015-11-24 Tue 12:10
ビブリア古書堂の事件手帖―栞子さんと奇妙な客人たち (メディアワークス文庫)
三上 延
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 去年だっけ?ドラマで見ていた。本をほとんど読まなくなってたとはいえ、本が絡むと聞くと「ん?どんな感じで本を絡めて物語を作るの?」と興味を持ってしまう。視聴率は低かったみたいだけど私は面白いと思ってたし、書籍全体への造詣が深い剛力彩芽を尊敬してた。いや、凄いのは剛力彩芽ではないんだけど。

「夏目漱石『漱石全集・新書版』(岩波書店)」
 主人公の「俺」こと五浦大輔は大卒就職浪人中で、幼い頃に祖母の本に触ってひどく叱られたトラウマから活字を長く見ると気分が悪くなる体質の持ち主。その祖母が亡くなり、遺品整理の際に夏目漱石全集の1冊に著者サインがある事を発見する。本物かどうか鑑定してもらうためにビブリア古書堂を訪れるが、実は数年前に古書堂で見かけた働く美しい女性店員に会えるかもしれないという下心も抱いていた。
 現在怪我で入院中である店主・篠川栞子は内気で寡黙な性格ながら、並々ならぬ古書の知識を持っていた。本の事となると話が止まらなくなる癖を持っており、読みたくても読めない体質の「俺」と次第に打ち解けていく。

 1話目ということでお手柔らかに的な感じなのか、事件そのものも大した事ではない。サインがあった巻はかの有名な「それから」、なんか形式がおかしい献呈署名、書き込みに関する注意書きのないビブリア古書堂の値札、主人公の名前は「ダイスケ」。ああ、もしかしておばあ様、不貞ですか?って思ってるところに追い打ちで叔母の話。まあ、私のは推測レベル。篠川さんは、状況証拠レベルまで高めてあるから、あんまり自慢気に書くことでもないんだけど。
 この話のメインはサインの謎ではなくて、本を読みたくても読めない体質の「俺」と、本の話をすると止まらない篠川さんの出会うところ。そして「俺」がビブリア古書堂の店員としてスカウトされるところ。今後が楽しみになりそうな序章だった。
 

「小山清『落穂拾ひ・聖アンデルセン』(新潮文庫)」
 「俺」が働き始めたビブリア古書堂に、志田と名乗るホームレスのせどり屋が訪ねてきた。常連だという彼は、篠川さんに失くした本を捜す協力を依頼したいと言う。本はどうやら、たまたま志田の自転車とぶつかった女子高生が持ち去ったらしかった。

 なぜ古びた文庫小説なんかを盗んだのか、志田の話を読んでも、本を盗んだと思われる女子高生と会話をしたせどり屋仲間の笠井の話を読んでも、私は全くわからなかった。今回の安楽椅子探偵っぷりは、なかなかだったと思う。解明された謎は相変わらずショボいけどね。
 今回は志田の優しさを噛み締める回かな。大切にしていた本のスピンを切られた事より、他人の本を盗んでまで好きな人へのプレゼントを完璧な形で渡そうとした小菅奈緒ちゃんの女心の方を「・・・・・・ああ、かわいそうにな」と言える優しさが素敵。
 ドラマでは志田は高橋克実が演じていたけど、気さくで豪快でちょっと汚いホームレスせどり屋役が合っていたと思う。


「ヴィノグラードフ クジミン『論理学入門』(青木文庫)」
 ビブリア古書堂に、坂口という男性が『論理学入門』を売りに来た。査定は翌日になると話して商品を預かったが、そのしばらく後に坂口の妻と名乗る女性から本を返して欲しいという旨の電話がある。不審に思った「俺」は、査定のために篠川さんを訪ねた折りに一連の出来事を話す。篠川さんは坂口が持ってきた本に服役囚の私物本に貼る「私本閲読許可証」が貼ってある事に気付いた。

 奥さんが言うには、坂口はその本をとても大切にしていたそうだ。なぜ売ろうとしたのか、それが今回の謎。うーん、地味。真相も地味。この話のメインも、謎そのものではない。多少おバカながら真っすぐ前向きに坂口を愛するしのぶの姿に感動するヒューマニズム小説だと思うと、まあ成り立つかなぁ。
 でも、もうちょっと視力障害についてそれっぽく書いて欲しかった。一連のやり取りは篠川さんの病室で行われたから、それなりに明るい場所のはず。隣に座っている妻の顔さえはっきり見えないとすると、結構重度の視力障害を患いつつあるんだと思う。だとすると、薄暗い店内じゃ買取票を書くことも困難なはず。白い紙だったら存在くらいは見えるだろうけど、字が枠からはみ出すどころか住所氏名をどこに書いたら良いのかさえ見えないと思う。そもそも病院までたどり着くのも難しかったろうに・・・あ、タクシー使ったとか?
 謎の地味さや設定の適当さからして、次の章冒頭の篠川さんの隠し事告白をスムーズにするために存在する話なのか。でも、しのぶさんがダラッダラ話すわりには、読み飛ばすほど退屈な話でもなかったと思う。話が面白い女性の、多少長い話を相槌もなしで「へー」って思いながら聞いた気分かな。


「太宰治『晩年』(砂子屋書房)」
 前章の坂口夫妻が帰った直後、篠川さんは誰にも話さなかった秘密を「俺」話し始めた。入院に至るほどの怪我を負った理由を雨の日に石段から足を滑らせたからだと周囲には話していたが、実は誰かに突き落とされたのだと言う。犯人に関してわかっている事は、『晩年』に収録されている「道化の華」の主人公・大庭葉蔵の名を名乗っている男性であるという事、篠川さんが大切にしている太宰治『晩年』のサイン入り初版本を大金を積んででも欲しがっている事だけ。人に話せば店に放火すると脅迫されているので、警察に訴える事もできない。彼女は「俺」に犯人捜しを頼んだ。

 やっと事件らしい事件なんだけど、太宰のサイン&一言が書かれた本に400万円出すと言ったのに売ってもらえなかったからっていう常人離れした動機が凄い。私は太宰の事はスケコマシ中二病の天才作家としか思ってないけど、今でも熱烈なファンがいて命日にお墓で泣いてたりするようなスーパーカリスマ作家だと聞いた事がある。あながち酔狂な話とも言い切れないところが、この話の魅力。
 篠川さんは偽の太宰本で犯人をおびき出して屋上で燃やしてみせるけど、ちょっ!屋上から火の点いた本落とさないで!!!と思わずツッコミ。賢い篠川さんの事だから下に何もない場所を狙って落としたんだろうけど、火が点いてるって時点でやばいでしょ。風で飛んでったりしたら・・・。
 男の正体は、田中敏雄。1話目で出てきた「俺」の祖母の不倫相手、田中嘉雄の孫。つまり、腹違いのはとこだった。ここにきて、なかなかの偶然が発動。なんか唐突過ぎて、一瞬置いてけぼりを食らってしまった。でも、出自の秘密を知ったばかりの「俺」が、実の祖父について知ることができて良かったと思う。できれば別の出会い方をして、仲良くして欲しかったという寂しい気持ちもあるけど。今後出てくる事はあるかな?傷害罪で今後服役するだろうから、ないかな。篠川さんに一生に関わるかもしれない重傷を負わせてるから、絡みようがないか。
 あと、前章に出てきた坂口夫妻がちょっと出てくるけど、店の看板に放火した犯人を目撃した坂口氏が状況説明。おいおい、お前実は見えてるだろ!?って読者は誰もが思ったはず。これ、編集者か誰かツッこまなかったのかな?黒っぽい服着た人がどちら向きにしゃがんでたかなんて、見えないってば。
 今回も、ちょっとそこんとこもうちょっとリアルに書いて欲しかったわーって箇所がちょっとあったけど、これもラストの「俺」と篠川さんのやり取りにニヤニヤするための前ふりでしかないと思えば、まあいいか。


 好き嫌いは分かれそうだし、何やかんやツッこんだけど私は好きかな。「人の手から手へ渡った本そのものに、物語があると思う」という篠川さんの気持ち、結構同感。私程度の読書家が言うのはちょっと恥ずかしいけど、物語や内容以前の本そのものの存在が好きだとずっと思ってきた。だから、ほとんどの話が誰も傷つけず優しい事件だった事が、ちょっと嬉しい。唯一篠川さんは、本を巡って大怪我してるけどね。
 序盤はちょっとダラダラ長かったけど、「俺」と篠川さんが出会ってからは淀みない安楽椅子探偵っぷりが面白かった。センセーショナルな事は起こらないけど、穏やかな雰囲気が終始している。ただその分、読後の余韻は浅いと思う。ライトな小説、つまりライトノベルってわけで。見るからにラノベだから、それはいいんだけどね。
 23歳のはずの「俺」が高校生みたいな恋をしてるとこもちょっと不自然だけど、そこは私が清らかさを失って久しいからと解釈しよう。ちょっと納得いかないのは、「俺」が活字が苦手な原因が結構些細である事。それだけの事でトラウマ抱えてたら世の中どうなるんだ。トラウマ抱えるってもっとこう、「それから」を暗唱できるようになるまで怒鳴られ続けたとか、そういうレベルでしょ。・・・どんなシチュエーションかって我ながら思うけど。暗唱はさておき、もっと他に何か良い設定はなかったんかいと思う。
 色んなツッコミ所を内包しつつ、穏やかにパラパラと読めた。
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