元司書による読書備忘録ブログ。思ったことは全部書き、何様気取りの感想だったり平気でネタバレしたりします。
『ドラゴン・ティアーズ―龍涙 池袋ウエストゲートパーク9』 石田 衣良
2015-11-20 Fri 13:38
ドラゴン・ティアーズ―龍涙 池袋ウエストゲートパーク9
文藝春秋 (2012-09-20)
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 再読じゃない読書、久し振り。5~6年振りかな。読書すると集中しちゃうのは人間の性だし、私の仕事モードスイッチでもあるから、なるべく読まないように過ごしてきた。私的記念すべき第一冊目は、サクッと読めて展開も何となくわかっちゃうけど飽きるようで飽きないシリーズ物の新刊。
 それにしてもタイピングが退化したな・・・。速度は変わらないけど、頭の中にある次の文字を打っちゃう不思議現象が・・・。以前はSEの配偶者より速くて正確だったのに。
 さて、久々にレビュー。

「キャッチャー・オン・ザ・目白通り」
 タカシからの紹介で、有名エステで大金を騙し取られた女性達からの依頼を受けたマコト。テレビに出るほど有名なオカマエステティシャン・ブラッド宮元に近付くため、マコトとタカシはまず求人案内に応募して何の苦も無くキャッチとして相手の懐に入った。
 
 何だか、タカシがいかにイケメンかって事を描くのに躍起になってる気がして鼻についた。でもって、今回の件を解決に導いた案はタカシ。顔と戦闘とカリスマはタカシだけど、頭脳は断然マコトっていうIWGPセオリー形式が好きな私としては、久々に読んだ1話目がこの展開っていうのに何だかちょっとがっかりだった。
 最後の短い戦闘シーンも、マコトもいいけどタカシはもっとかっこいいみたいな。これはいつも通りなんだけど、前半にマコトの活躍が少なかった分、最後までマコトが冴えない感じでちょっと寂しい。
 流れはいつも通りの勧善懲悪で、すっきり解決だったんだけど。

「家なき者のパレード」
 今回もタカシからの紹介で、ホームレスの支援組織「絆」のヨウスケからホームレスに関する依頼。行政の働きで最近街でホームレスを見ることが少なくなったが、彼らの数が減っているのではなく分散して生活せざるを得なくなっているうえに不況の煽りでますます生存競争が厳しくなっているそうだ。そんなホームレス達の中で、時々ひどい怪我をしている者がいると言う。話を聞こうとしても何があったのかは教えてくれない。問題のありかも解決の方向もわからない件を丸投げする依頼だった。

 ヨウスケとタカシのつながりは、Gボーイズメンバーにもホームレスがいるからだそうだ。第一巻が出たのはもう20年近く前。あの頃の怖かっこいいストリートギャング団は物悲しさ漂うようになってきてるんだなぁ。微妙に流行ったカラーギャング闘争を模した1巻最終話・・・タイトルは忘れた・・・は、なかなかのわくわく感と感動を持って行ってくれたというのに。タカシは相変わらず羽振りいいけどね。
 マコトが話を聞いたホームレスに圧力をかける者が現われて手掛かりが聞き出せなくなっていき、ついには重傷を負うホームレスまで出た。腕の骨を折られたホームレスのガンさんの発起で、事件が実態を現す。ホームレスが働けなくなった時に一定期間収入を保証する「日雇労働被保険者手帳」通称「あぶれ手帳」を騙し取る、城用建設の存在が明るみになった。
 無血闘争に近いデモで解決したその饒舌っぷりこそが、このシリーズの見どころだと思う。こういう話を最初にして欲しかった。

「出会い系サンタクロース」
 一見マンションに見えるが中は壁が薄くて狭い部屋がたくさんあって、そこでいわゆる「素人」の女性と、時間単位でお金を払う男性とが会って話をする「出会い部屋」という物があるという。太めのサラリーマン・ヒデトは、その出会い部屋で知り合ったアヤに恋をした。アヤは母親の借金返済のために出会い部屋で働かされているそうだが、それでも足りずに身体を売るように圧力をかけられているそうだ。ヒデトはアヤを助けてほしいとマコトに依頼する。
 風俗の事ならプロ・・・暴力団の本部長代行・サルの協力を得ながら、ヒデトが通う出会い部屋「カルプス」について調べていく。

 暴力団が絡むと、ザ・アンダーグラウンドって気がするのは私が凡人過ぎるからだろうか。暴力団の人達ってどうやってお金を稼いでいるのか全く知らなかったから、IWGPに書いてある事が私が知ってる暴力団知識の全てだ。だから、何だかよくわからないけどかっこいいイメージがあるのはマコトの友達の羽沢組部長代行・サルのせいだと思おう。
 新しい稼ぎ口として出会い部屋に手を出したいサルとの利害が一致したマコトは、世間知らずが故に法外な利子の付いた借金を背負うアヤを出会い部屋から救い出す。マコトは完全に虎の威を借る狐状態なのは2話目と一緒だけど、こういう軽くて読みやすいアングラ話は結構好きだ。

「ドラゴン・ティアーズ―流涙」
 中国の戸籍制度は厳しく、生活も労働も生まれた場所でしかできない。貧しい農村で生まれた者は、どう足掻いても一生貧しさから抜け出すことはできないそうだ。そんな農民達は、日本への出稼ぎを夢見て外国人研修制度に選ばれる事を切実に願っている。日本では3K長時間過酷労働でも、彼らにとっては3年で中国での生涯収入に匹敵する賃金を得られるそうだ。
 今回河南省から送られてきた労働者250人のなかで、クーシュンクイという女性が脱走した。彼女が1週間のうちに見付からないと、他の250人も強制退去させられる上に、中国の送り出し組合も3年間派遣を禁止されるという。今回マコトは、送り出し組合からアドバイザーとして雇われた日本国籍を持つ中国人リンからクーシュンクイを探すように依頼される。
 池袋の中国人組織「東龍(トンロン」)が絡んでいるらしいとの事で、マコトは今回もサルに協力を仰ぐ。サルの方はサルの方で、東龍とみかじめ争いが起こっていた。サルが所属する羽沢組のライバル京極会が、東龍のバックについているらしい。

 よくある事だけど、やっぱり表題作が一番面白い。
 東龍のボス・楊は、低賃金重労働から逃げ出して当然だと言う。リンは、逃げ出した女性を風俗業に就かせる違法就業であり、脱走は他の中国人にも過大な迷惑を掛けると言う。マコトも私も、多分他の読者の方々も、何が正しいのかわからなくなる。
 しかしながら、制度の網を潜り、楊の面子も潰さないたった一つ・・・少なくとも私には他の方法は考えられないたった一つのやり方で、クーは救われる。マコトのお母さん、やっぱいいわー。マコトのお母さんとリンのやり取りで、こんな方法があったんだ、リンの帰化の話はただの生い立ち話じゃなくて伏線だったんだと感激がじわじわ押し寄せた。クーに「書類のうえだけでもマコトの妹になってみないかね」と言うその穏やかな言い回しが、マコトのお母さんの温かさズドンと伝わってきた。
 ラストがいいよね。「かわいい妹と花見をする。そいつはなにを隠そう、おれのガキのころからの夢なのだ」っていうこれ、些細ながら叶わない夢を淡く抱き続けてきた感じが、マコトがとても可愛く思えた。
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