元司書による読書備忘録ブログ。思ったことは全部書き、何様気取りの感想だったり平気でネタバレしたりします。
『マドンナ』  奥田 英朗
2009-05-22 Fri 16:58
マドンナマドンナ
奥田 英朗

講談社 2002-10
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 40代で課長職にある男達を描く短編集。

「マドンナ」
 妻子ある春彦だったが、部下を好きになって夢想だけで恋愛を楽しむことが何度かあった。その春彦のいる営業三課に、定期人事異動で倉田知美がやってくる。二十代半ながら落ち着いた知美を好きになった春彦は、毎日落ち着かない日々を過ごすことになった。28歳の山口も知美を気に入った様子であり、春彦と山口は次第にむきになっていく。
 かわいいような間抜けなような・・・。いや、やっぱり間抜けかな。知美が想いを寄せる人が突然現れて振られる2人が、またさらに間抜けで。いや、28歳独身の山口はいいんだろうけど、春彦はちょっとなぁ。世の中こういう間抜けな男もいるんだろうか。それとも男ってこんな間抜けばっかなんだろうか。既婚者としては、前者であってほしいところ。

「ダンス」
 第一営業部の課長5人中4人が、飯島部長に合わせて早めに出勤している。田中芳雄も出世のために毎日そうしていたが、出世に興味がない浅野だけは定刻に出勤し、社内のイベントにも一切参加していなかった。浅野のことが気にくわない飯島部長は、芳雄に浅野の5課を他の課に吸収させようという言う。同期の浅野が自分の部下になるのは嫌だし、他の課に吸収されて最大勢力になられるのも嫌だと思った芳雄は浅野を会社の運動会に参加させる約束をしてしまう。
 家では高2の息子・俊輔が大学には行かずダンススクールに行きたいと言い出したと妻の千里から聞かされる。芳雄は絶対に反対だったが「父親は最後の砦だ」と、説得は千里に任せていた。
 赤の他人として見るなら、お金は自分で稼いでダンススクールに行きたいと言う俊輔の目標は立派だと思う。大学くらい出ろっていうのはありがちな親の意見だけど、やっぱ自分の子供にはそう言っちゃうもんなんだろうか。息子と直接話すのは妻に任せて、話そうとしない姿は情けないと思う。うちは、やりたいことがあるならお父さんに自分で言いなさいって家だからなぁ。
 でも、芳雄自身はいい人で弱い人なんだろうなぁ。浅野のために上司に掛け合ったり、運動会では庇おうとしたり。男って・・・と思わずにはいられない話だった。

「総務は女房」
 一度事務系部署へ異動させられることが出世コースだという会社で、恩蔵博史は総務部第四課への異動を喜んでいた。しかしその課は会社の購買部に入っている商店と癒着していた。博史があるべき姿に変えようとすると、部下からも総務部の上司からも反対に遭ってしまった。お歳暮・お中元にもらっている商品券がもらえなくなるのは困るし、どの課もやっていることだからと言う。
 なるほど、会社ってこんな感じで旨い汁を吸うわけか。それで不況になると、公務員叩きをするんだよなぁ。と、公務員一家だった私(過去形)は思う。いやまあ、あんまりこの本には関係ないんだけど。
 私から見ると博史がやってることは正しい。ただ、営業が会社を支えてきてるというのにという傲慢のようなものも見え隠れする。
 この話では博史の妻・幸子が相当むかつく。専業主婦で地域のエコロジー活動をがんばってるのはいい。ただ、エコ見学のためにドイツに行きたいというのはどういうことか。それだけならまだしも、難を示した夫に文句を言うとか。専業主婦は家事奴隷になれと言うつもりはない。ただ、2週間て長すぎだろと思う。たくさん稼いでくれる夫のおかげでPTAのリサイクルなんかに専念できるのに、何だそれ。キレられて言い返せない博史も情けない。最後には、土下座しにきた松田商店の社長との話に勝手に割り込んでくるし。こういう女は嫌。

「ボス」
 田島茂徳の部の部長に、浜名陽子が任命された。彼女は部内の禁煙、ノー残業デー、休日の接待ゴルフ禁止など、次々と新しい取り決めを打ち出す。従来のやり方を曲げられてやりづらさを感じる茂徳は反発するが、いつも理路整然と言い返されていた。
 これの前の話と、上司と部下の立場が逆だな。内容は全然違うけど。これも男共は情けない。自分がやってきたことが正しいと思ってるなら説得してくれよ~と思うけど、茂徳はいっつも説得されてしまう。でも浜名陽子の言うことは受け入れられない。彼女のやり方で全員の士気が下がってるんならともかく、受け入れている人もいて業績も上がってるんなら言うことはないんじゃないだろうか。
 この話も妻の美佐子がうっとおしかった。それ以上に、主人公の茂徳が情けない。さらに、浜名陽子がノー残業デーにこだわった理由がわかったラストでは、ちょっと不愉快になった。

「パティオ」
 鈴木信久が勤務する土地開発会社で再開発した港パークは「職」「遊」「住」をテーマにしていたが、お台場に客を取られて「遊」が失敗していた。信久は港パークの中庭・パティオで毎日読書をしている老人が父親を思い出させて気になりだした。ある日その老人に話し掛けてみたが、翌日から彼は来なくなった。
 パティオで行ったバザーが成功に終わり、上司はもっと客を集めるために次々と案を出してくる。老人がいつも本を読んでいる藤棚を取り壊すと言い始め、信久は正面から反対した。
 信久は老人を見て、自分の父親を思い出していた。信久の母親は去年亡くなっており、父親は寺から借りている畑で家庭菜園を再開したばかりだった。しかし寺は住職が代わり、檀家にお布施や煤払いの人手を要求した挙句、畑として貸していた土地を売ると言いだしていた。
 これはなかなか心温まる話。信久が上司と対立している時に部下・加奈子から老人の情報を聞いて、上司そっちのけで話を聞くシーンなんか楽しくなる。で、オチが藤棚は緑化促進で区の補助金もらってるから無理で、上司の思い通りにはいかないことにスカッとする。
 信久の妻・順子もなかなかの人。寺と檀家の関係に、不満はがつんとぶつけることができる。その分信久の父親に矛先が向いても、きちんと怒れる人だと思う。父親が借りている畑はきっと潰されるんだろう。元気だったお年寄りを老けたなぁって思う時って何だか寂しい気分になる。父親を見る信久からそういう気持ちが伝わってきた。

 会社勤めの男達を描いてるのに堅苦しくなく、安易に不倫とか出てくることもなく、精一杯頑張ってるのに小物感が否めない5人の課長達。ずっと公共施設で働いてきた私には会社の中ってよくわからない。両親は公務員で出世レースとはほぼ無縁だし。これを読んで、中年男の悲哀と苦労が見えてきた。彼らを描いて生き生きと見えてくるのは、凄い。
 しかしこの話に出てくる妻の何人かに腹が立った。私の母親はずっと正社員で働きながら、家事もちゃんとしてきた人だ。私のような人間が出来上がってるから、もしかしたら子育てはちょっと疎かだったかもしれない。まあ少なくとも、犯罪犯したり暴力振るうような人間にはなってない。母親がそうやって生きてきたのを目の当たりにしてるから、専業主婦風情が威張ってると不愉快だ。それを受け入れてる夫も、何なんだろうか。専業主婦の、家族のために自己を犠牲にしているつもりになっている様子は醜い。
 奥田さんはこういう女性までリアルに描いちゃってるから困るな・・・。こういうムカッ腹も含めて、面白い本だった。
別窓 | [あ行の作家]奥田 英朗 | コメント:0 | トラックバック:0 |
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