元司書による読書備忘録ブログ。思ったことは全部書き、何様気取りの感想だったり平気でネタバレしたりします。
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『終末のフール』  伊坂 幸太郎
2009-05-20 Wed 12:11
終末のフール終末のフール
伊坂 幸太郎

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 8年後に小惑星が衝突し、地球は滅亡するという発表から5年が経った世界。一時期大変な混乱に陥った社会は諦めによる落ち着きを取り戻し、残る3年を静かに迎えようとしていた。そんな世界の、仙台市にあるマンション・「ヒルズタウン」の住人達を描く短編集。

「終末のフール」
 10年前、成績が良く器量も良かった娘・康子は父親である「私」と喧嘩して家を出ており、その2ヶ月後に成績が悪く不器用な息子・和也が自殺し、「私」は妻の静江と過ごしていた。しかしその日、康子が来ると言う。
 この「私」は家族に対して「馬鹿」というのが口癖なんだけど、私の父親と一緒だ。読んでてそれがすごく不快だった。私も康子みたいにブチ切れられたら少しはすっきりしたのかなぁ。でも私はあまり賢くないし体も弱かったしその他諸々で兄妹一金のかかる子だったから、その後ろめたさでやっぱブチ切れるのは無理だな。結婚して自分にとってのホームが配偶者と暮らす家になった時に初めて、そんな事を言われる筋合いのない人間になれた気がした。父親もそれを察してるのか私が結婚したからなのか、私に対してあんまり「馬鹿」とは言わなくなったかな。それか、結婚してからはそんなこと言われるような会話をしてないのかもしれない。
 とまあ、かなり私事を書いたけど。「私」は息子のことを「失敗作」と言うような男だ。静江さんはこんな男と結婚して生活を続けて、幸せなんだろうかと本気で思う。でも静江さんと和也にはこの父娘を仲直りさせるだけの物があったのは事実で、「私」と康子の方は今後の3年間は幸せなんじゃないかな。
 話としてはいいのかもしれないけど、どうしようもなく相当個人的な理由でモヤモヤくる話だった。 

「太陽のシール」
 世界が残り3年になって妻の美咲が妊娠した。子供は3歳までしか生きられない。産むべきか産まざるべきか、優柔不断な「僕」は悩む。そんな折、高校時代の友人と再会してサッカーに誘われた。約束の日に土屋と再会した「僕」は、土屋の子供が先天性で進行性の病気を持っている話を聞かされる。
 この話は産むか産まないかの選択が出た時点で、どうせ“産む”を選択するんだろってわかってしまったのが良くない。最終的に“産まない”を選択してくれたら凄いなと思いつつ読み進んだけど、案の定“産む”を選ぶし。だからラストにあまり感慨はなかった。オセロにはちょっと笑ったけど。

「籠城のビール」
 俺」と兄貴の妹の暁子はかつて人質事件の被害者となるも無事生還したが、その後執拗にマスコミに追いかけられるようになった。犯人が死んだこともあって何の罪もないはずの暁子が根も葉もない記事を書かれ、マスコミの対応を一手に引き受けていた兄もどんどん無表情になっていく。結局暁子は自殺し、その後母親も自殺した。杉田が司会をしていた番組は特に悪質だったため、「俺」と兄貴は小惑星に先を越される前に復讐しようと杉田の家に押し込みをした。
 うーん、いまいちリアリティに欠ける話だったかな。凶悪殺人の被害者ならともかく、強盗に人質に取られた程度の被害者をマスコミがいつまでも追うかなぁ。「俺」は妹の器量が良かったことも関係したと考えてるけど、それだけじゃこのマスコミの執拗さを描くにはちょっと弱い。
 起承転結の「起」の部分で引っかかっちゃうと、後々まで引きずってしまう。杉田一家が本当は自殺をしようとしていたという辺りになっても、ふーんとしか思えなくなっていた。ドアに耳を当てたくらいで警察の喋り声が聞こえるのも何だかなぁ。
 こういう物語は人の営みを見ればいいとわかっていても、リアリティがないと何か入り込めない。

「冬眠のガール」
 両親が自殺して1人残された「わたし」は、「お父さんとお母さんを恨まない」「お父さんの本を全部読む」「死なない」を目標にしていた。4年かけて書斎にたくさんあった父親の本を全て読み終えた日、スーパーで会った中学時代の同級生から「彼氏なしのまま終わりなんて寂しい」と言われ、恋人を探しを新たな目標にする。
 この話は面白かった。恋人探しを始めた美智がビジネス書に書いてあった「新しいことをはじめるには、三人の人に意見を聞きなさい」を実行するんだけど、意見を聞きに行った先での会話が和やかで楽しい。最後にドラマチックな出会いを見付けられそうな辺りで終わるけど、これが出会いだといいなって素直に思えるような可愛い人だった。

「鋼鉄のウール」
 小学生の時に小惑星衝突の発表があり、自分の部屋から出てはならないと言われていた「ぼく」。あたふたと怯え切った父親を見るのがつらいまま、5年が過ぎて16歳になった。相変わらずの父親に自分の家は終わってると確信をして外出したところ、以前通っていたキックボクシングのジムで会長と苗場さんがトレーニングを続けているところを見かける。「ぼく」は再びジムに通い、苗場さんを見ながら5年前までの苗場さんの様子を思い出す。
 終末が来ても変わらないストイックな苗場さんもかっこいいし、死んだ富士岡とのタイトルマッチの対策を続ける会長もいい。けど、父親に「逃げるな」と言えた「ぼく」もかっこいいと思う。苗場さんとのスパーリングは、多分負けるだろう。けど、この終わり方になんだか充足感を感じた。

「天体のヨール」
 首を吊った時に学生時代の友人で天体オタク・二宮との会話が浮かび、そのままロープが切れて自殺に失敗した「俺」こと矢部。もう一度自殺をやり直そうとした時、その二宮から新しい小惑星を見つけたかもしれないと電話があった。「俺」は二宮に会って話しながら、学生時代の彼との会話や後に結婚する千鶴のことを思い出す。
 二宮が話す天体のことや恐竜の話なんかが意外に面白い。そんな中でぽつんと語られる千鶴の死が、そこだけ変に浮かび上がってくる。これまでの5話が変にまとまりがいい分、再び自殺することをほのめかす最後の一文新鮮でもある。直前に「冬眠ガール」の美智らしき女の子が彼氏ができた様子なんでこっちも喜んでたら、最後にふっと鎮めてくる感じ。

「演劇のオール」
 女優の夢を諦めて仙台に戻っていた「わたし」は、インド出身の俳優に感化されて他人の家族を演じていた。早乙女さんの孫、亜美ちゃんの姉、勇也と優希の母をそれらしく演じ、同じマンションの一郎と付き合っている。その日は犬を見付けたため、犬の飼い主も演じてみた。
 「わたし」が別々に接してた人達が最後にしゅっと集まる感じが楽しい。「わたし」が拾った犬が勇也と優希の飼い犬タマ、一郎が実は整体師で早乙女さんの腰を治し、亜美ちゃんが獣医の卵でタマの皮膚病を治そうとし、早乙女さんの家で見たかったビデオが見付かり・・・こういうごちゃごちゃしつつ繋がってる感って結構好きって気付いた。
 短編同士の繋がりが伊坂さんらしいと思いつつ読んでたけど、この話は単品でも伊坂さんらしさが詰め込まれている。

「深海のポール」
 レンタルビデオ屋を営業し続ける渡部の父親は、2年前に同居を始めた時からマンションの屋上に櫓を組み立てている。小惑星がぶつかった直後には洪水が起こると聞いて、人々が水に飲み込まれていくところを見物する予定なのだと言う。
 こういう話って、何かしながら昔のことを思い出すのがデフォなんだろうか。新興宗教にはまりかけてた母親を父親が連れ戻した話や、延滞ビデオを取りに行った蔦原が語る警察官だった父親の話なんかを読んで、この話も思い出満載かとちょっと食傷気味。
 でも、櫓を組み続けるお父さんはやっぱりちょっと愉快で楽しかった。

 同じマンションの住人達を描いてるから物語同士に繋がりがあって、さっきまで主人公だった人が通りかかったりする様子を読むって楽しい。こういう連鎖モノって好き。
 地球の終わりが発表されて荒れた時期を過ぎ、人々が運命を受け入れる心境になりつつある時代を描くというのは新しかった。でも、8人の主人公達全員が達観しててちょっとつまらなくも感じた。みんなして良い子ちゃんすぎだな~と。だから全部同じような雰囲気しか感じられなくて、途中で飽きた。できれば1~2人はっちゃけた人も見たかったな。地球滅亡発表直後に人を殺しまくった人とかさ。はっちゃけた人はみんな通りすがり程度の脇役でしかなかったのが、ちょっと物足りなかった。
 それにしても、8年後に地球滅亡ってなかなか早めの終了宣言だよなぁ。3日後に滅ぶとかだったら、私は閉じこもって家族と過ごしたいと思うところなんだけど。8年だと、滅亡まで生きるか今すぐ死ぬかを選ばないといけない。できるだけ長く家族が一緒にいることを選んだとしても、そのために日々の糧を得る努力が必要だ。そうして外に出て、誰かに殺されたりするとか嫌だし。自分がそうなるのも嫌だし、配偶者がそうなったのを知らないで家で待ち続けるのも嫌だ。だからと言って一緒に出掛けようものなら、いざという時に配偶者の足を引っ張るのは私になってしまって怒られそうだ。うーん、地球滅亡宣言はギリギリの間際まで国家機密でお願いします。
別窓 | [あ行の作家]伊坂 幸太郎 | コメント:0 | トラックバック:0 |
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