元司書による読書備忘録ブログ。思ったことは全部書き、何様気取りの感想だったり平気でネタバレしたりします。
『ゴールデンスランバー』  伊坂 幸太郎
2009-05-10 Sun 12:05
ゴールデンスランバーゴールデンスランバー
伊坂 幸太郎

新潮社 2007-11-29
売り上げランキング : 739
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

 青柳雅春は大学時代の友人・森田森吾に呼び出される。ファーストフード店では学生時代と変わらない様子だった森田森吾だったが、彼の車で移動後におかしなことを言い始めた。自分は何者からか青柳雅春を誘導するように命令されているから、逃げろと言う。
 仙台出身の金田首相が凱旋パレードを行う中、爆弾を取りつけたラジコンが飛んできて金田首相が暗殺された。森田森吾に言われるがまま逃げ出した青柳雅春は、自分が首相暗殺の容疑者として追われていると知る。
 学生時代に青柳雅春と付き合っていた樋口晴子はニュースを見て驚くが、次第に彼が犯人ではないと確信を深めて、些細な形ながら自分にできることをやっていく。しかしその行動は青柳雅春にとって大きな助けとなる。
 身に覚えのない罪で追われることとなった青柳雅春の3日間の逃亡生活と、逃亡しながら思い返す学生時代を描く。

 2008年の本屋大賞受賞作品。ケネディ暗殺事件の犯人にされたオズワルドをモチーフにした小説であり、同時に個人情報を監視されることになった社会というIFワールドも作りだしている。
 伊坂さんの作品って読み終えた直後にもう一度読みたくなる物が多いけど、これは違った。読んでる最中に最初から読みたくなったという不思議な小説。最初から読みたくなるけど、続きも気になるという物凄いジレンマだった。結局、とりあえず全部読むことを優先させたけど。
 仕組まれた出会い、予め捏造された数々の証拠、街中に設置されたセキュリティポッドからの情報監視により追ってくる警察と、まるでアメリカ映画にありそうなストーリーだった。でも絡んでくる人物達に深みがあるのは小説ならではだと思う。ちょっと展開が強引なところもあるけど、その強引さこそエンタメとして楽しめる箇所なんじゃないだろうか。
 面白いのは構成。最初にニュースを通した般市民の視線から入り、次に20年後にこの事件を調べたルポライターか何かの視線になり、それからやっと当事者・青柳雅春の視線になる。冒頭から引き込まれるという感じではないけど、「ん?何が起こるの?何が言いたいの?」というモヤモヤ感が青柳雅春の主観になった途端に一気に解放されていく。私は3章までをサクサクと流し読みしたから、4章に入って事件が起こった瞬間から最初から読み始めたくなったわけで。20年後の視点で事件の関係者達がどうなったかを先に説明されてるから、「この人は今後こうなっちゃうんだよね」と思いながら読むのは意外と快感だった。
 逃亡に関わっていく人達がなかなかクセがあって、その辺はやっぱ伊坂さんだなぁと思った。殺人鬼の「キルオ」なんか殺人鬼なのに憎めなし、私はむしろあの飄々とした感じは好きだ。コンビニにたむろしている若者達もピリピリした中で和んだし、保土ヶ谷さんの胡散臭さも面白い。ただ、偽青柳雅彦がいるという情報があった病院と、カズが殴られて入院した病院と、保土ヶ谷さんが入院している病院が一緒っていうのはちょっと強引すぎかなと。一緒の病院でないと話が繋がらないし、それまでの強引な展開は楽しめたんだけど、クライマックスにつながるシーンが強引だとちょっとだけ萎える。
 とはいえさすが伊坂さん。人間同士のつながりに、じんとくるものを残してくれる。樋口晴子だけじゃなく、2年前に強盗から助けたアイドル、学生時代にバイトをした花火屋の轟さん親子なんかの協力で見事逃げ切るわけだけど、そうやって助けてくれた人達の存在こそが青柳雅春の人生だったんじゃないだろうか。
 読み終わっていまいちスッキリしないのは、青柳雅春の逃亡が成功して終わりだという点。ケネディ暗殺事件同様、誰が仕組んだ陰謀だったのか等の真相がわからない。青柳雅春もオズワルドのように暗殺されるかと思ったけど、最終的には逃げ切れた。じゃあ真相究明に関しても違っていいじゃないか!誰が仕組んだのか知りたいんですけど!みたいな。
 自分の無事を知らせる方法は面白かったんだけど、できれば青柳雅春には大手を振って歩ける生活ができるようになってほしかった。でも敵は結構ビッグな存在だろうから、真相を暴いて世間に公表するような話となると伊坂ワールドじゃなくなるかな。悪い言い方をすると、伊坂さんの手には余るストーリーになってしまいそうだ。この辺は好みの問題で、ただ単に私が勧善懲悪が好きってだけなんだけど。悪い奴はちゃんとお仕置きされてほしい。
 事件が起こってからの疾走感は、さすが本屋大賞受賞作だけある。やっぱこの賞が一番ハズレがない。ていうか、この賞ができて以来ずっとノミネートされてる伊坂さんが凄いんですけど。今回ようやくの大賞受賞、おめでとうございます。
 余談だけど。ルポライターみたいな人がこの20年後にこの事件について調べたって設定のせいなのかな?登場人物がずっとフルネームで書かれてた。だから私もそれに合わせて感想書いたけど、なかなか面倒だった。あんまり親近感湧かないし。勝手に感想書いてる私の心情の問題なんだけど。
別窓 | [あ行の作家]伊坂 幸太郎 | コメント:0 | トラックバック:0 |
<<『QED ~ventus~ 御霊将門』 | よむよむ記 | 『ダーリンは外国人  with BABY』>>
この記事のコメント
コメントの投稿
 

管理者だけに閲覧
 

この記事のトラックバック


| よむよむ記 |