元司書による読書備忘録ブログ。思ったことは全部書き、何様気取りの感想だったり平気でネタバレしたりします。
『非正規レジスタンス―池袋ウエストゲートパーク8』  石田 衣良
2009-04-26 Sun 17:20
非正規レジスタンス―池袋ウエストゲートパーク〈8〉非正規レジスタンス―池袋ウエストゲートパーク〈8〉
石田 衣良

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「千川フォールアウト・マザー」
 3歳の息子・カズシを保育園に預けることもできず、昼は育児、夜は労働という生活を送るシングルマザーのユイ。マコトと母親は、彼女に売れ残りの果物をあげていた。そのユイからマコトは、コンサートに行きたいから明日カズシを預かって欲しいと頼まれた。人と会う約束をしていたので断ったが、翌日の新聞にカズシの転落事故が載っていた。
 マスコミに責めたてられて参っていたユイが、ある日突然派手な格好をして訪ねてきた。どうやら新しい男ができたようだ。調べてみると、その男は人妻狙いの風俗スカウトマンだった。

 ユイは一生懸命がんぱってる人だとは思う。でも私は基本的に、離婚によるシングルマザーは本人の責任だと思っている。出来婚して相手が碌な男じゃなかったからシングルマザーって、そんな男を選んで付き合ったのも自分だし、無責任なセックスをしたのも自分なんだし、そんな状況で産む決意をしたのも自分だ。ただ、男女間のことなのに女性が担う負担が大きすぎるというのは同情すべき点ではあるけれども。
 ユイは2年間休みなしで頑張ったのに、わたしが息抜きするのは贅沢なのかと言う。贅沢だと私は思ってしまう。子供はそこに確かに存在するんだから、息抜きしたいけどしてはいけないと私は思う。男と無責任な付き合い方をした代償は相当大きいって、考えればわかるんじゃないだろうか。
 マコトの母親もシングルマザーで、この話の肝心の所は彼女が掴んでいる。でも彼女は寡婦だから、ユイとは違うと思う。
 こう考える私とは全く関係ないところで、マコトの母親はユイとカズシを救いあげた。モノローグでマコトは、母親には熱烈なファンがいると言う。多分読者のことだろう。熱烈ってほどじゃないと思うけど、私も結構彼女のことは好きだ。今回の話でもかっこ良かった。彼女のマコトに対する想いには、じーんときた。

「池袋クリンナップス」
 池袋の街で月曜の夜にゴミ拾いをすることが流行っていた。発起人であるカズフミは桂リライアンスの社長の一人息子。彼はタカシから紹介されたと言ってマコトに話しかけてきた。
 そのカズフミが誘拐されて、3千万円が要求された。警察に知られたくないと警備会社を利用した桂リライアンスだったが、身代金の受け渡しに失敗してマコトのもとにやってきた。身代金は3億円になり、公証人にマコトを指定してきたのだと言う。

「定年ブルドッグ」
 マコトはタカシからの紹介で、元カレからSMプレイの写真をばら撒かれたくなかったら200万円用意しろと言われているハルナの依頼を引き受けた。その帰り道、マコトはハルナを脅迫している池本と間違われて60代の大柄の男から襲われる。彼は警察官であるハルナの父親の部下だった。
 2人は協力して池本をこらしめることにした。

「非正規レジスタンス」
 マコトは店の果物を物欲しそうに見ながら何度も通り過ぎる青年に気付いて声を掛けた。彼は低賃金で働かされるネットカフェ難民で、サトシと名乗った。
 後日、タカシからの紹介で東京フリーターズユニオンのモエがやってきた。サトシが何者かに襲われたらしい。東京フリーターズユニオンは人材派遣会社ベターデイズに対してインフォメーション費のことで訴訟を起こしていた。サトシはその訴訟団のひとりで、メンバーが襲われるのはこれで3人目だと言う。
 マコトはベターデイズに登録して内部を探ることにした。

 シングルマザー同様、ネカフェ難民も自己責任だと思っていた私。この前の冬に派遣切りが問題になってた時も、自己責任だと思っていたくらいだ。ただ、この話に出てくるベターデイズみたいな会社が派遣会社となると、やっぱひどい。現状ってここまでひどいのか。
 ネカフェ難民のドキュメンタリー番組を見たことはあったけど、なぜか石田さんの小説の方に説得力を感じてしまった。やっぱTVだと見てる私だけじゃなくて取材している人もどっか他人事で「こんなにひどいんです」と訴える声が空々しかったからだろう。
 石田さんはどこまでネカフェ難民について本気で考えてるのかはわからない。ただ小説のネタとして使ったのかもしれない。ただ、マコトの語りを通して描かれたネカフェ難民の現状は大きな説得力を持っていた。

 いつも通り軽快なマコトの語りと、私の全く知らないアンダーグラウンドの世界で起こる世界事件達を楽しむことができた。まだ続けるんだこのシリーズ、って思うけど、毎回きちんと面白い。
 特に今回は、1話目と4話目で低賃金労働ゆえに低賃金から抜け出せない弱者を描いてる所がこれまでのIWGPとはちょっと違う感じはした。そのぶん、サルやタカシとの絶妙な関係があまり見られなかったのは残念でもある。タカシはファンサービス程度にちょいちょい出てはきたけど。
 社会の底辺の人々はマコトの目に付いた人だけ救っても、社会構造が変わらないとどうにもならないことだろう。だから、深く考えると楽しめない本でもある。ただマコトのフットワークや悪知恵を楽しむだけにしておかないと、現実を考えると暗くなる。
 このシリーズの特徴のひとつである、物語の冒頭のマコトのモノローグは結構好きだ。最初はちょっとキザ臭いと感じてたけど、本題に入ると納得ができるようなことが書いてある。
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