元司書による読書備忘録ブログ。思ったことは全部書き、何様気取りの感想だったり平気でネタバレしたりします。
『百瀬、こっちを向いて。』  中田 永一
2009-02-19 Thu 23:05
百瀬、こっちを向いて。百瀬、こっちを向いて。
中田 永一

祥伝社 2008-05-10
売り上げランキング : 54448
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

「百瀬、こっちを向いて。」
 人間的なレベルが2程度であることを自覚し、目立たないように生きている「僕」こと相原ノボルは、幼馴染みの宮崎先輩から彼女の彼氏であるふりをして欲しいと頼まれた。宮崎先輩は資産家のお嬢様である神林先輩と付き合いつつも、百瀬という少女とも付き合っていた。神林先輩が気付き始めてるため、その疑惑を反らしたいのだと言う。
 「僕」は百瀬と付き合っているふりをするうちに、彼女のことが好きになってしまう。
 理由があって一緒にいるうちに恋が芽生える、というのはよくある話だ。フィクション・ノンフィクションに関わらず、どこにでも落ちている。けど、メリハリが効いてて面白かった。
 最初は宮崎先輩を、何て都合のいい加減なこと言う男なんだろうと思う。でも読み進めると、神林先輩との交際は父親の会社を立て直したいためかと思えてくる。それでもやっぱり百瀬に惹かれたのかなーとか、はっきりとは書いてないけど感じた。こういう、説明は簡潔だけど感じ取れる文章を書ける人って好きだ。
 最後にピリッと引き締まるラストが良かった。

「なみうちぎわ」
 家庭教師をしていた生徒・小太郎を助けようとして溺れたことから昏睡状態に陥った「わたし」こと姫子。5年間の昏睡状態から目が覚めると、21歳になっていた。小太郎は高校生になっており、毎日「私」の様子を見に来てくれていたらしい。徐々に体力を取り戻していく「わたし」のもとに、小太郎は毎日会いに来ていた。
 5年前に助けた子が美形に育って、しかもどうも「わたし」のことを想っているようだという設定に、いやいやそんな都合よく・・・って思う。でも何か、小太郎が抱いている気持ちが明確な“恋心”って感じじゃないのがいい。小太郎をかわいいと思ってしまう私は、もう歳なんだろうか。さらに読み進めると“罪悪感”が絡んでくることがわかるけど、決してそれだけじゃないような。この淡さは、何かいい。

「キャベツ畑に彼の声」
 女子に人気の本田先生に「わたし」こと小林久里子も恋心を抱いていたが、遠くから眺めることしかできずにいる。ある日、人気作家・北川誠二の取材のテープおこしを引き受けた「わたし」は、彼の声が本田先生と同じであることに気付いた。
 提出ノートに、北川誠二=本田先生という疑問を書いて提出した「わたし」は、次の日本田先生から職員室に呼び出される。「わたし」と本田先生は度々話すようになり、彼の妹と住む家で鍋を囲むまでになった。
 前の2編は、あれ?両思い?みたいな感じで終わったけど、この話は片思いのままっぽいな。先生の秘密を共有したこと、さらにその裏にあった事実を当てたことで先生との距離は縮まりはしたっぽいけど。いや、先生の妹の結婚式に出席したって書いてあったから、もうちょい深い仲になったのか?
 片思いの気持ちをキャベツに例えてるのが、上手いようなわざとらしいような・・・。

「小梅が通る」
 「私」こと春日井柚木は美しい自分の顔が嫌いで、普段は「ブスメイク」をして変装していた。ある日素顔の時にクラスメイトの山本寛太に会ってしまい、とっさに妹の小梅だと嘘をつく。翌日学校で、どうやら「私」の素顔に一目惚れしたらしい山本寛太からもう一度小梅に会いたいと言われ、数学のテストで70点以上取れたら会わせてやると約束した。 何かと山本寛太に話しかけられるようになった「私」は、次第に彼のことが気になり始める。しか、その美しい顔にコンプレックスを持つ「私」は、素直になることができなかった。
 なんつーか、かわいい話だな。必死に二役演じる柚木が。そして、オチが。山本寛太のように、最終的にでもいいから女は顔じゃないって言ってくれる男はどれだけいるだろうか。いないだろうなぁ。高校生男子なんて、鏡も見ないで「俺はメンクイ」とか言う奴ばっかだもん。
 柚木と山本寛太の掛け合いが面白かった。

 アンソロジー小説『I love you』『LOVE or LIKE』で読んだ話が2話。その時にも書いたけど、この覆面作家は私が敬愛する小説家・乙一だと言われている。実際のところはわからないけど、文章はよく似てるなっていうのが私の印象。私は乙一の文章が大好きなんで、同一人物か否かは置いといて、よく似た文章の中田永一さんの文章も好きだと思ってる。
 この本はどれも、「ねーよ!」って感じの話ばかり。でも、柔らかい文章なのにさらっとユーモアが効いてたり、ラストにちょっとひねりがあったりして、リアリティの追求から目を背けさせられる。上手いよなぁ。こういうとこも乙一っぽいんだが。
 私的には、中田永一さんは乙一じゃない方がいいな。こんな文章を書く作家が2人に増えるとは、喜ばしいことじゃないか。 
別窓 | [な行の作家]な行その他の作家 | コメント:0 | トラックバック:0 |
<<『ラッシュライフ』  伊坂 幸太郎 | よむよむ記 | 『メディエータ3 サヨナラ、愛しい幽霊』  メグ・キャボット>>
この記事のコメント
コメントの投稿
 

管理者だけに閲覧
 

この記事のトラックバック


| よむよむ記 |