元司書による読書備忘録ブログ。思ったことは全部書き、何様気取りの感想だったり平気でネタバレしたりします。
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『名もなき毒』  宮部 みゆき
2009-02-09 Mon 14:23
名もなき毒名もなき毒
宮部 みゆき

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 妻の父親が立ち上げた大手企業で社内報を作る編集部に所属している「私」こと杉村三郎は、アルバイトの原田いずみのことで手を焼かされていた。彼女は仕事をなかなか覚えず、失敗しても非を認めず人のせいにした揚句に喰ってかかり、トラブルメーカーとなっている。揉め事を大きくしていく原田いずみを調べることにした「私」は、私立探偵・北見の所で未知香という少女と出会った。彼女は連続無差別毒殺事件の被害者の孫で、母親が祖父殺しの犯人と疑われていることを相談に来ていた。
 「私」は未知香の相談に乗るうちに少しずつ事件に足を踏み入れるようになるが、同時に原田いずみの件も事が大きくなっていく。

 読み始めるまで知らなかったんだけど、以前読んだ『誰か』の登場人物達じゃないか。全く違う事件を扱ってるから続編って言うと違う気がするけど、『模倣犯』と『楽園』の関係と一緒。あの人は今、みたいな。
 彼らが織り成す話となると、『誰か』があまり面白く感じれなかった私は最初っからちょっと気合いが抜ける。しかし読んでみたら意外と面白かったんで、これまた騙された感が・・・。でも主人公一家へ感情移入できず、何となく家族関係の記述を煩わしく感じてしまうのは相変わらずなんだけどね。
 最初はいかに原田いずみがやっかいな人間かを描き続けていたけど、その原田いずみのクレイジーっぷりが凄い。ていうか怖い。理屈が通じない人間、話を理解できない人間って本当に怖い。それが気にくわないとヒステリーを起こして暴れたりするとなると、ぞっとする。結局彼女は何だったんだろうなぁ。鬱とかいうレベルじゃない。もっと精神を病んでるか、脳障害を持ってる人が感情を暴走させているような不気味さが常にある。
 彼女の父親から兄の結婚式での出来事を聞いた園田の想像が原因かと思って読み進めた。しかしあれは嘘だと本人が言う。何が原因で原田いずみがああいった虚言癖を持った攻撃的な性格をしているのか不明なまま、終わってしまう。理由不明のクレイジーさは、実に不気味だった。
 毒殺事件の犯人挙げは軽い盛り上がりを見せたものの、その後の原田いずみが起こした事件のせいで霞んでしまったように思う。原田いずみがはそれくらいアクの強い人物だった。とはいえ、最初は青酸カリのことかと思われたタイトルの「毒」が実はもっと深刻な社会問題的「毒」を示した・・・と見せかけてさらに深い人間の「毒」まで持って行くのが見事。タイトルが効いていると、おお~って思う。
 しかし何となく全体的にぼんやりしてしまうのは、やっぱ宮部みゆき作品なのに彼女の得意な人物掘り下げがないからだろうか。主人公の「私」も何だかつかみどころがないし、その他の誰も掘り下げてない。ページ分以上の掘り下げで下地を作っておいて事件が進んでいく、あの凄技っぷりは好きなんだけど。
 あと、主人公の一家が好きになれない。「私」とその妻・菜穂子、そして義父・嘉親。育ちの良さからお金を使うことに惜し気なく、それを当然と考えている菜穂子に「私」は多少の反発というか、僻みというか、まだどういう感情に成長するのかわからない感情を抱いている。「私」は菜穂子のどこが好きなんだろうか。まずそれがわからない。守ってあげたいタイプの性格でもなく、体は弱いのに芯がしっかりしているとかでもなく、特筆すべき性格が表れてなくて、家のこと以外で何をやってるのか不明。しかし家のこと、娘のことにはお金を掛ける。そのお金も出所は父親っぽい。読み聞かせのボランティアをしてるらしいけど、そのシーンがあるわけでもない。なかなか彼女の人物像に迫れない。「私」が時折“妻はこういう所がある”と語るだけなんだけど、それがかえって煩わしい。
 つまり良家のお嬢様ってだけで、飾り物に似た存在でしかない。夫婦仲は良く、「私」は妻に何でも話す。その妻がしたり顔で口を挟んでくるんだけど、あんた世間知らずのお嬢様のくせに何その分析ってな感じで。実際こんなふうに育ちのいいお嬢様が世間知らずのまま結婚して、親の庇護下から出ないまま生きたらこうなるのかもしれない。ただ、フィクションなのにそのキャラがそれ以上でもそれ以下にもならないのが、この人いなくてもいいじゃんって思う。しかしまあ、実際お金は空から降ってくるもののように考えてる菜穂子は羨ましくもあるな。いやだからって、僻みで「こいつ嫌い」とか言ってるわけじゃないよ。そりゃ確かに、せめて恵まれた環境に感謝する人間なら好感が持てたかもしれないけど。
 私が初めて読んだのが『模倣犯』で息を飲む展開に驚いて、ああいう話を書く人と決めてしまってるのかもしれない。だからつい、こういう繊細な部分を内包した話に物足りなさを感じてしまうのかもしれない。作品にその作家「らしさ」を求めて読むと、物語の面白さを損なうのは当然なわけで。もうちょっと宮部みゆきを知ってからでないと、私はこの作品を評価しない方がいいのかな。もちろん、『誰か』も含めて。
 でも、ありきたりだろうけど秋山省吾、五味淵まゆみのコンビは読んでて愉快だった。シリーズ化するって噂をちらっと見かけたけど、それが本当ならこのコンビはじゃんじゃん出て欲しい。シリーズ化していくうちに、「私」が菜穂子に抱く反発のような僻みのような、その芽のような感情が何になるのかわかるかもしれない。菜穂子の存在が意義あるものになってくるかもしれない。
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