元司書による読書備忘録ブログ。思ったことは全部書き、何様気取りの感想だったり平気でネタバレしたりします。
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『悪人』  吉田 修一
2009-02-01 Sun 10:54
悪人悪人
吉田 修一

朝日新聞社 2007-04-06
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 福岡で保険外交員を務める石橋佳乃は、友人達に増尾と付き合っていると嘘を言っていた。その日も出会い系サイトで出会った長崎に住む清水祐一と会うのに、増尾と会うことにして出掛ける。その夜佳乃は帰って来ず、翌日三瀬峠で見付かった女性の遺体が彼女のものだと判明した。
 増尾は以前バーで知り合った佳乃と偶然会った。待ち合わせしていた別の男をほったらかしにして自分の方に来た佳乃を車に乗せてドライブに出たが、段々とイライラして来て彼女を車から放り出して走り去った。失って
 双子の妹と佐賀で暮らす馬込光代は、以前出会い系サイトで知り合ってメールのやり取りをしていた祐一に3ヶ月ぶりにメールをした。それ以来光代は彼に夢中になり、祐一も光代を求めて止まなくなる。

 石橋佳乃が殺されて、長崎の土木作業員が逮捕されたところから物語が始まる。そこから時間は遡ったり進んだりしながら、主要人物の家族や友人、佳乃が出会い系サイトとで知り合った男、祐一が利用していた風俗店の女など、実にさまざまな人物の口を借りて全体像が浮かび上がっていく。
 何より吉田さんの人物の描きっぷりが凄い。見栄っ張りで嘘つきで他人を見下してるところがある佳乃、陰気な祐一、軽薄な増尾と、主要登場人物にはムカッ腹が立つ。でも佳乃を失って茫然自失の父親や、祐一に頼りつつ生きている祖父母、双子の妹と一緒に暮らす29歳の光代の寂しさなんかは、読んでてリアルに胸に迫って来る。
 増尾と会うと嘘をついて祐一に会う予定で出掛けた佳乃だったけど、祐一と光代の様子を読んでいくうちに私は祐一が犯人ではないことを願うようになっていた。2人の求め合い方がそれほど切実で、このまま幸せになって欲しいと願うほど。でも祐一はやはり佳乃を殺していた。
 逃亡の末に捕まり、「ねぇ?そうなんですよね?」と問いかけで終わるラストでようやくタイトルの重みを知った。光代のために悪人になり切ろうとしている祐一と、その行為と世間からの洗脳でわからなくなりかけている問いかけ。もう少し時間が経ったら、きっと光代は自分は被害者だった思うようになるんだろう。祐一もそう願ってるけど、起こったことを事実として読んで来た読者である私はそれが寂しくてたまらない。でも同時に、それが光代のためであることもわかってる。
 祐一が母親から捨てられるシーンを読まされたら、何でこの人ばかりこんな目に遭うんだろうと思う。祖母は最後にはしゃんと前を向いて歩くことを決意するけど、母親が自分こそ被害者だと言い張っているその醜さでまた祐一に同情してしまう。考えようによっては、幼少時代の不遇さが裁判で優位に働くかもしれない。
 人物をさらっと書いてるようで、そこに彼らの本質が見えてしまう作家さんなんだなぁ。本当、凄い。それだけでなく、老人介護のこと、老人相手の悪徳商法、マスコミ報道の無責任、被害者や加害者の家族への悪質ないたずらなどもしっかりと盛り込まれてあるのがまた見事。
 ラストの光代の疑問が、エコーのように未だに効いている。
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