元司書による読書備忘録ブログ。思ったことは全部書き、何様気取りの感想だったり平気でネタバレしたりします。
『とりつくしま』  東 直子
2008-08-31 Sun 21:21
とりつくしまとりつくしま
東 直子

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 死んだ主人公に「とりつくしま係」が、この世の何かに取り憑くことができると言う。生き物にはなれないけど、物にならなれる。主人公が選んだ物は・・・。という11編の連作短編集。

ほんの少し一緒にいるだけでいいと、息子が野球の試合で使うロージンバッグの中の白い粉になる「ロージン」

夫の愛用するマグカップになり、夫の新しい恋人を目の当たりにする「トリケラトプス」

ばった公園のジャングルジムになる「青いの」

ときどき顔を見るだけでいいと、敬愛する書道家・浜先生へプレゼントした白檀の扇子になって先生と奥さんの会話を聞く「白檀」

図書館でいつも自分のような浮浪者に微笑みかけてくれる小雪さんの名札になる「名札」

アドバイスを送りたいと、母親の補聴器になる「ささやき」

妻が自分に宛てた手紙として書き続けている日記帳になる「日記」

リビングで家族を見守りつつ、家族をマッサージしてあげたいとマッサージ器になる「マッサージ」

好きな先輩の彼女のリップクリームになる「くちびる」

孫がレンズで覗くものを一緒に見たいと、孫に買ってあげたカメラになった「レンズ」

番外編として、病に伏した娘に頼まれて髪の毛をびわの樹の下に埋める話。髪を埋めた辺りから宿り草が生えてびわの樹を枯らしてしまった。びわの樹は、娘が好きだった新右衛門の食べたびわの種を娘が植えたものだった。新右衛門はその木が枯れた日に死んでおり、宿り草からは娘が喜ぶ声がした。

 誰もが読みながら、自分なら何を「とりつくしま」にするだろうと思った事だろう。私は何だろうか。考えたけど思い付かないんだな、これが。やっぱり配偶者を見守りたいとは思うけど、別の人と幸せになって欲しいと思うから長く使う物は困る。ていうか、配偶者が悲しみに暮れるのを見とくだけっていうのも嫌だし、あっさり立ち直ったんなら見守るまでもなく私は昇天したいかなぁって思う。子供がいるんなら変わってくるのかもしれないけど、今のとこは死んだらさっさと地獄にでも行くか。というわけで、私の結論は「とりつかない」。短編なので息抜きを交えながら、こんなことを考えつつ読んだ。
 ひとりひとりが営んできた人生の果てにある、優しいような悲しいような物語。奥付の著者紹介見て知ったけど、歌人さんだとか。どうりで文章のリズム美しくて、すーっと心に入ってくると思った。
 私は「くちびる」が良かったな。池上先輩が好きだけど、彼女の綾香先輩のことも尊敬してる。綾香先輩のリップになって、彼らの様子にドキドキしてる主人公がかわいい。特に最後のキスシーンで、綾香先輩のドキドキと主人公のドキドキがかわいいなと。
 やるせない気分になったのは「ささやき」。我儘な母のために補聴器になったけど、この傲慢な母親の様子が何ともイラつく。「わたし」のことも面倒がってた母親だけど、それでも愛していた主人公。でも「わたし」た取り憑いてる補聴器も捨てられて終わりだなんて、何ともやるせない。最初の「ロージン」で母親としての心配を描いておいて、これなんだもん。
 同じく身内に裏切られる「レンズ」では、自分が死ぬとさっさとカメラを売ってしまった孫に腹は立った。でもこのおばあさんがさっさと切り替えて、中古ショップで自分を買ってくれたおじいさんが撮ろうとする風景を見るのも悪くないと考える。新しくてのどかな幸せの予感がして、いい。
 今後どうなっていくのは気になる話も結構あって、少しモヤッとした物が残ったりするのもあった。思い返すと「ロージン」が一番いい終わり方のような気がする。
 全体的にあまり大きな起伏はないぶん安定して読めた。最近続けてダークでディープな本を読んでちょっと影響を受けて陰鬱とした気分になってたから、非常に心に沁み入ってきたように思う。
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