元司書による読書備忘録ブログ。思ったことは全部書き、何様気取りの感想だったり平気でネタバレしたりします。
『東京島』  桐野 夏生
2008-08-26 Tue 01:05
東京島東京島
桐野 夏生

新潮社 2008-05
売り上げランキング : 345
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

 ヨットでの旅行中に遭難した隆と清子夫婦。与那国島での過酷な労働から抜け出したものの遭難した若い男性達、銃を突き付けられながら島に降ろされた中国人達。彼らは周囲を激しい潮流で囲まれた南海の無人島で、脱出もできず救出もないでいた。
 島は若者達によって「トウキョウ島」と呼ばれ、「シブヤ」「ジュク」「コウキョマエ」などの地名が付けられた。どことなく弱々しいトウキョウ人達と、ヤンをリーダーに高いサバイバル能力を持つ「ホンコン」と呼ばれる中国人達はテリトリーを別にして暮らしている。
 清子が漂着してから5年。32人中で中年とはいえたった一人の女性である清子は男性からもてはやされていたが、次第にその権力を失いつつあった。夫の隆が死に、島で結婚したカスカベも死に、清子の結婚相手は2年ごとにくじ引きで決めることになる。ノボルとの結婚生活を終えて2回目のくじ引きの日から物語は始まる。
 くじによって記憶喪失のGMと結婚した清子だったが、ホンコンが不法投棄されているドラム缶から船を作ったことを知った。ヤンに取り入って船に乗せてもらうも、船は嵐を抜けたと思ったらトウキョウ島に戻っていた。GMは記憶を取り戻してリーダーになっており、清子がホンコン達と逃げたことをワタナベが吹聴したことでますます除者にされていく。しかし彼女が妊娠したことで、再び注目されるようになった。父親はGMこと森軍司かヤンなのかは時期的に微妙であるが、清子は森軍司の子だと言い張る。
 再びトウキョウ島に戻ってからは隠れるように生活していたホンコン達だったが、彼らは船を持つ別の漂着者達と一緒にいた。それを見付けた清子は、子供の父親はヤンだと言い張って何とか船に乗せてもらおうとする。船は修理中だったが8人乗りである。選出は船の持ち主であるフィリピン人歌手のマリアに委ねられていた。

 桐野さんワールド全開のすごい話だった。いや、読んだのまだ4作目くらいだけど。グロい気持ち悪さを放ってるのに先を読みたくなる。
 彼女の手にかかると無人島生活も何かどす黒いんだけど、『ロビンソン・クルーソー』や『十五少年漂流記』よりも現代味を感じる。普通に考えて、今の日本人ががロビンソンのように逞しく生きることは不可能なわけで、追い詰められたらこうなっちゃうだろうなって思う。
 彼女が描くのは人間が持つ欲望なんていう純粋なもんじゃなくて、年齢を重ねるほどに培われるどす黒い物のように思う。しかしまあ相変わらず、女性なのによくもここまで女性を醜く描けるもんだ。本当に女なのかと疑うこともあるくらい。この作品では清子は女であることを唯一最大の武器にするけど、傲慢であり身勝手であり、それを自己正当化して考えている姿に女性らしさは微塵とも感じない。妊娠した時に、女性ホルモンがあったことに驚いたくらいだ。
 清子だけじゃなくて、ワタナベや森軍司なんかもそう。人間のマイナス面が汚く描かれてるけど、衣食に関わる欲求以上の物が上手いこと描かれてる。極限状態で獣化するんじゃなくて、宗教を持とうとしたり、文化を築こうとしたりと、遭難物を一歩超えた創造性を持つ物語になっている。しかもそれが微妙に上手くいかないのがまた、桐野さんらしくもありリアル。
 清子がフィリピン女性の船に乗せてもらいたくて、産まれた男女の双子をダシにしてる辺りで残りのページが少ないことに気付いた。どうやってこの短いページ数で終わるの!?と心配していたら、スパッと切り捨てるように潔い終わりを迎えて驚く。度肝を抜かれた最後の数ページだった。
 これまで大人数の男と中年女性1人だったけど、中年女性がいなくなって若い数人の女性が数人現れたらこういう小集落のようになっていくのが人間の性質なんだろうな。
 『残虐記』では「新潟少女監禁事件」を、『グロテスク』では「東電OL殺人事件」を彷彿とさせる・・・ていうかモデルにしてるっぽいけど、この話もどっかで似たような事件を聞いたことある。調べてみると、「アナタハン島事件」というやつだった。設定がちょこちょこ被ってるんで、元ネタと思って間違いないだろう。この事件で唯一の女性は若かったけど、敢えて中年女性で年齢の澱のような醜さを描き切っている桐野さんが恐ろしくもある。
 
別窓 | [か行の作家]か行その他の作家 | コメント:0 | トラックバック:0 |
<<『QED ~ventus~熊野の残照』  高田 崇史 | よむよむ記 | 『私の男』  桜庭 一樹>>
この記事のコメント
コメントの投稿
 

管理者だけに閲覧
 

この記事のトラックバック


| よむよむ記 |