元司書による読書備忘録ブログ。思ったことは全部書き、何様気取りの感想だったり平気でネタバレしたりします。
『格闘する者に○』  三浦 しをん
2008-07-05 Sat 00:39
格闘する者に○格闘する者に○
三浦 しをん

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 就職活動を始めた大学生の可南子は、マンガに出てくる編集者の仕事なら楽そうだと出版社に就職しようとする。就職活動を始めた時期は遅めだし常識知らずだが、友達の砂子と二木君はもっとのんびりしていている。家は父の義母と弟との3人暮らし。父の再婚相手である義母とは適度な距離を保ちつつ、半分だけ血の繋がった弟・旅人(たびと)とはそれなりに仲良く、暗黙の了解を保ちながら家族の形を保っていた。
 そんな可南子の行き当たりばったり就職職活動と、家でのゴタゴタと、七十歳前後の脚フェチのおじいさん・西園寺さんとの恋愛や、砂子や二木君とのゆるい会話を描く・・・と書くとすごいぐっちゃんぐっちゃんな話なんだけど、これがきちんとまとまるのが三浦しをんだ。彼女のデビュー作だけど、何作かしか読んでない私が抱いてる彼女そのものの世界が凝縮されている。当然、面白い。
 可南子の家、藤崎家は複雑だ。政治家だった可南子の祖父が後継者を育てる前に他界。一人娘だった可南子の実母は、父親の秘書の中で一番若かった可南子の父を婿養子に選んだ。しかし可南子の母も可南子を産んだ後に他界し、父は別の女性と結婚して旅人が生まれた。ここで後継ぎ問題が生じる。藤崎の血を引くのは可南子しかいないが可南子に政治家の器はないし、なりたくもないと思っている。旅人は優秀だけど、こちらも政治家にはなりたくないと言う。しかし本人達の意見を無視して、親族・後援会は可南子派と旅人派に分かれている。特に旅人を溺愛する父の秘書・谷沢は、旅人の進路に口出ししたり可南子の就職活動先に口添えしたりして煙たがられていた。
 三浦しをん作品の、読み進めてようやくじわじわと背景がわかってくる感じは好きだ。伏線だけぽんぽんと置いておいて、物語の流れに合わせて後々わかってくる。ミステリーだとよくある手法かもしれないけど、ヒューマンノベルみたいな話で使って、それがスッと物語に溶け込む。物語において重要な事柄でも、最初は雰囲気だけ匂わせておいて後から事実がやってくる。そこが面白い。
 例えば、可南子と西園寺さんの関係は脚フェチ変態じじいとの援助交際と思ってら、西園寺さんといる時の可南子は穏やかで、本当に愛し合ってたりする。微妙な人間関係の藤崎家において中核にいながらほとんど家にいないという可南子の父親はどんな冷徹人間かと思ってたら、意外とおちゃめなお父さんだったりとか。そもそも可南子の父親が政治家で藤崎家の直系は可南子しかいないということ自体が、西園寺さんにペディキュアを塗ってもらいつつ九十歳のタネばあさんにマニキュアを塗るという変なシーンで語られる。普通ならヒロインが誤解されないように、西園寺さんとの良好な関係は彼のことに触れた時点で語るもんじゃないか?そこを、誤解させておいて後から説明する。可南子の家の事情も家のことが書かれた時点で説明するのがセオリーだろうに、最初は家の雰囲気だけ書いておく。そういう技法が型破りに見えるし、使い方が絶妙すぎ。
 就職活動のことは、作者自身の実体験だろうな。どこまでがリアルなのかな?面接官とか面接内容とか、全てだったら面白いな。
 タイトルの「格闘」は、就職活動のこと?家のこと?両方?と思ってたら、就職試験会場で「カクトウするものに丸をしてください」と言う男のセリフから。二木君の推理で「該当」のことらしいとわかるけど、恥ずかしい間違いと思うと同時にタイトルはここから!?とどうでもいい場所から取ってることに笑えてくる。
別窓 | [ま行の作家]三浦 しをん | コメント:0 | トラックバック:0 |
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