元司書による読書備忘録ブログ。思ったことは全部書き、何様気取りの感想だったり平気でネタバレしたりします。
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『陰日向に咲く』  劇団ひとり
2008-06-25 Wed 00:53
陰日向に咲く陰日向に咲く
劇団ひとり

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 芸人・劇団ひとりが書いた話題の小説で、5人の駄目人間を描く短編集。

1話目「道草」
 重大な仕事を任される立場にもあり、妻も娘もいる「私」。しかしホームレスに憧れてホームレス生活をしていたことがあった。ある日、有名野球選手が父親を探しで雇った探偵がやってきた。ホームレス達の間大ボラ吹きで有名な男であり、「私」が尊敬していたホームレスのモーゼが父親だった。
 モーゼが野球選手と一緒に暮らすために公園を出て行った後、「私」は一人の青年ホームレスとコンビニ弁当を取り合っている時に我に帰って家に帰ることにした。好奇心からモーゼの段ボールの家に入っていると、一人の男から声を掛けられた。しばらく刑務所に入っていたという男は、その段ボールの家の本当の持ち主、つまり野球選手の本当の父親だった。
 してやられた感じと、腑に落ちない気持ちを同時に味わった。でもホームレスになりたいって、何かわかる気がするなぁ。全てを捨てたいって気持ちってたまに湧きあがってくるよね。ただ、多くの人がやっぱり捨て切れなくて自分の地位を守るんだけど。

2話目「拝啓、僕のアイドル様」
 マイナーアイドルであるミャーコの熱心なファンである「僕」は、ミャーコへの愛なら誰にも負けないと自負する。ミャーコにパソコンやブランド物などをプレゼントするために極貧生活までしているが、ファンである以上愛は一方通行だ。ミャーコがゴールデンタイムの番組に出ると知って楽しみにしていたが、役割は健康番組でドロドロ血液の「ドロ子」。見ていられなくなってテレビは消したものの、愛するミャーコのために番組のホームページに色んな人になりすましてミャーコを絶賛する書き込みを百件以上書きこんだ。その甲斐あってかミャーコは、今度は同じ健康番組の生放送にスタジオ出演することになった。そこでの放送事故で、彼女は一躍有名になる。「僕」は心の痛みを感じながら、ミャーコから卒業する日が見えるようになる。
 以前極貧のあまりコンビニの廃棄弁当を取り合ったホームレスと再会したが、社会の勝ち組になっていて「僕」にブランドもののスーツを買ってくれた。その男に電話をして「社会復帰できました」と報告すると、彼は自分のことのように喜んでくれた。
 最初は度を越したオタクの話かと思ったら、最後の話でちょっと切なくなった。ミャーコは「僕」の小中学時代の同級生で、かつて一度だけ現実の恋をしたYさんだった。つまり「僕」はミャーコにしか恋をしたことがない。私は外見に気を使わないオタクは正直キツいと思ってたけど、この「僕」の今後は応援したい。普通の恋ができるといいですね。でも「僕」が外見重視なら、いたずらに彼女いない歴=年齢を更新するだけだよね。

3話目「ピンボケな私」
 飲み会の席で皆が将来の夢を語る中、何も考えてなかった「私」は勢いで「カメラマンになる」と言ってしまった。その嘘を嘘じゃなくするためにデジカメを買ったが、説明書を読む気になれず、パソコンの設定もできないからプリンターで印刷することもできず、メモリーカードのこともわからない。仕方なく、
本体に保存できる16枚が限度の使い捨てカメラだと割り切ることにした。
 ある日、親友ミキの大学の飲み会にお邪魔した時に出会ったタクミ君に恋をした「私」。遠まわしなアピールが利いたのか、後日タクミ君から誘いが来た。居酒屋で飲んだ後にタクミ君の部屋で体の関係を持ち、付き合うことになったのだと浮かれていた「私」。しかしその後タクミ君と音信不通になったために彼の部屋を訪ねると、ケータイを失くしたと言っていた。タクミ君の部屋には友達が来ていたけど、友達が買出しに行ってる間にセックスをした「私」と「タクミ君」。友達が戻って来てタクミ君が出て行った後、今度は土下座されてその友達ともセックスをしてしまう。
 この女、最後までアホすぎる。ミキについての叙述トリックはお~!と思ったけど、それにしてもこんな女のどこが良かったんだろうか?放っとけない感じ?女の私にはわからない部分なのかもしれない。とりあえず、顔はいいんだろうな。
 
4話目「Over run」
 ギャンブルにはまり過ぎて多重債務者になってしまった「俺」。借金は気が付けばどうにも返せないほとに膨らんでいて、自殺をしようとするも逆に自殺しそうな若い女に生きるための説教をしていた。そんな「俺」が思い付いたのが振り込め詐欺。失敗を繰り返した後につながった電話は、「俺」を「健一」と呼ぶ老女だった。「健一」になりすました「俺」は、その後毎日その老女に電話して色んなことを話す。しかし借金の返済日はどんどん迫り、意を決してお金のことを切り出そうとした「俺」。何とか50万円を用意してもらえることになり、友達に取りに行かせると行って自分で老女のアパートに向かった。しかしその老女と会う直前、老女は心不全で亡くなっていた。
 単純かもしれないけど、これはきた。特に最後の手紙が。老女は全て知っていて、「俺」と「健一」を重ねていた。「健一」の母親と自分を重ねようとしていた。そこにささやかな幸せを感じたであろう老女に泣けた。このアホンダラはちゃんと更生したのかなぁ。

5話目「鳴き砂を歩く犬」
 鳴子は不幸な自分に気付き、東京に行くことにした。東京には、かつて修学旅行で東京に来ていた鳴子にしょうもないギャグを聞かせまくった挙句にお尻を出して警察に連れて行かれた男がいる。その男を好きになっていた鳴子は東京でいくつもの劇場を見て回るが見付けられず、やがて手持ちのお金がなくなる。ストリップ劇場で下働きをさせてもらおうとしていた矢先、そこのショーで司会をしていたあの男を見付けた。相変わらず全く面白くないその男―プードル雷太に、鳴子はコンビを組むことを提案する。
 雷太は鳴子が苦手だったが、鳴子が作ったネタはお客さんを笑わせることができる。しかし雷太には全く面白く感じなかった。以前修学旅行生にネタの一環でお尻を出そうとして警察に連れて行かれた雷太は、警察署でジュピター小鳥というストリッパーと出会った。自分のことをヌードアートと言う彼女と共に働くことになった雷太は、ずっとジュピターさんに心惹かれていた。
 体調が悪いと言って劇場を休んだジュピターさんを見舞いに行った雷太は、アメリカ兵のジュピターさんの彼氏と揉めたことをきっかけに芸人を辞める決意をする。最後の最後に、「アメリカ兵をぶん殴った話」というネタを作って、鳴子とのコンビを解消する。

 それぞれの話が微妙にリンクしているこの話。ホームレスごっこのおっさんはオタク男とコンビニの廃棄弁当を取り合ったことがあり、娘がカメラマンを目指すことになったアホ女だ。そのアホ女がタクミ君を追いかけて写真を撮りまくってたところを自殺の可能性ありと駅員室に連れて行った駅員がギャンブラーで、振り込め詐欺の電話をかけた老女がジュピターさん。お金を取りに行ったアパートで老女の葬式にいたのが年をとった雷太だ。
 些細過ぎて見落としかけた共通点が、「アメリカ兵をぶん殴った話」をするおっさん。「道草」では主人公がモーゼと呼ぶホームレス。「拝啓、僕のアイドル様」では主人公の高校時代、好きだった女の子が引っ越す日に電車で泣いた主人公に説教する爺さん。「ピンボケな私」ではタクミ君と体の関係を持った日に浮かれてタクシーで帰る主人公が、タクシーの中で聞いたラジオにリクエストをしていた人のペンネーム。「Over run」では老女のお通夜にただ一人いた老人。「鳴き砂を歩く犬」でそれが雷太だったことがわかり、「Over run」の老女がジュピターさんだったことがわかる。最後の最後で本人が出るとは。
 人間関係が混乱しそうだったから図にしたら、

陰日向に咲く


 図が汚いとか置いといて、見事に四角くなってまた驚き。この図は最初、雑紙の裏に手書きしたけどあまりにも汚かったんでペイントで書いてみた。エクセルにすりゃ良かった。いや、そんなことどうでもいいんだけど。
 諸事情で読むのがこんなに遅くなったけど、流行りに乗り遅れまくったのがちょっと悔しくなるくらいには面白い。芸人にしてはとかじゃなくて、普通に作品として面白い。売れ続けたのには書いた人の知名度も大きいだろうけど、劇団ひとりではなく川島 省吾で出してたとしても結構売れたと思う。話もいいし、構成もすごくいい。何より何人もの視点で描けるこの引出しの多さはすごい。主人公によって語り口が全く違うのも上手い。
 この本が出てから2年以上経つけど、もう書かないのかな?また書いてほしいけど、私は劇団ひとりの芸人としてのネタも結構好きなんだよね。お笑いは知性がないといけないとは思うけど、作家っていうわかりやすい知性があまり定着し過ぎるとお笑いとしては難しいと思うなぁ。そういうイメージとかを凌駕する面白い芸人かつ作家になってくれると、それはそれで面白い。
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