元司書による読書備忘録ブログ。思ったことは全部書き、何様気取りの感想だったり平気でネタバレしたりします。
『私が語りはじめた彼は』  三浦 しをん
2008-06-15 Sun 23:51
私が語りはじめた彼は私が語りはじめた彼は
三浦 しをん

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 不思議ともてる冴えない中年男の村川によって、日常が歪んでいった人達を描く連作短編集。

1話目「結晶」
 村川が学生と関係を持っていることを告発する怪文書について、村川夫人に話を聞きに行った助手の三崎。村川夫人は既に何度も浮気をされており、離婚の話が進んでいた。村川夫人と話をするうちに、村川が講師を務めるカルチャースクールの生徒・太田春美ではないかという疑惑が持ち上がる。また三崎は、尊敬する村川から怪文書の差出人として疑われていること、恋人の倉橋香織も村川と関係を持っていることを知る。

2話目「残酷」
 賢司は有権者・飴屋の家に婿養子に入っていた。お嬢様生活が抜け切れない妻の真沙子をどことなく蔑み、訪ねる人のほとんどいない大屋敷に住んでいる義父を憐れみつつも、妻と娘を愛していた。しかし真沙子がカルチャースクールの講師である村川と浮気をしていることを知り、呆然とする。信じられない気持ちのまま問い詰められずにいると、その日から賢司は飼っているうさぎ達が自分の上で丸くなっている夢を見続ける。
 ある日持家のことで喧嘩になり、耐えかねた賢司は浮気のことを持ち出した。悪びれることもなく村川の良さを語る真沙子を、賢司は思わず殴ってしまう。真沙子は娘の千沙を連れて父の元へ行ったが、翌日仕事から帰ると家にいた。千沙が泣きながら仲直りするように言い、同じクラスの村川のむすめ・ほたるに怒鳴ってやったと言い出した。
 この話は1話目から何年か経っているようだ。1話目では夫の浮気に無感情になってしまっていた村川夫人が真沙子を訪ねてやってくるし、大学2年生だったほたるが小学生の千沙のクラスメイトとして登場する。

3話目「予言」
 父から突然、母と離婚するから家を出ていくと言われた中学生の呼人(よひと)。高校に入ってからはバイクを乗り回したり女遊びをしたりするようになった。風除けと顔隠しの意味で水中メガネをしてバイクを走らせていたが、隣のクラスの篠原椿がバイクを見せてほしいと言ってきた。約束をすっぽかして父親の家を訪ねてみた呼人だが、父親は2人の娘がいるおばさんと同棲していた。父親は平然と接し、おばさんはあからさまに邪険にする。耐えかねて帰った呼人だったが、家の前では椿が待っていた。それから2人は何となく仲良くなっていく。
 しばらく経ったある日、自分が通う高校の付属小学校の制服を着た父の新しい娘が呼人の教室まで訪ねて来た。彼女は、自分の家のドアに腐った豚肉をなすりつけたりするのはやめろと言って走り去る。
 これは1話目の直後~数年後の話だ。村川は太田春美と再婚していた。またこの話の終盤で、姉の婚約に触れてある。これは5話目につながるようだ。

4話目「水葬」
 依頼により村川綾子を観察している渋谷。完璧なカモフラージュをし、よりよく知るために綾子の有人・佐原直絵と付き合う。しかしその視線に綾子は気付いており、渋谷を母親が依頼した殺し屋だと勘違いしていた。妻子ある身の父を奪って結婚した母は、今度は自分が奪われる番だと思い込んでいるらしい。綾子は父の弟子と付き合っていたために、父と綾子の関係まで疑うようになった母が自分に殺意を抱いてると思っていた。殺されるよりは自殺するから渋谷に見守っていて欲しいと言う。

5話目「冷血」
 どこからともなく白い背中が現れるという夢を見続ける中学教師の律は、婚約者のほたるに父の再婚相手の連れ子の死を調べて欲しいと言われる。ほたるの義理の妹は村川綾子という名前で、海で死んでいた。ほたるは結婚式に参列してほしいと父に連絡したが、娘の死を理由に断られたことに傷付いていた。
 律は昔、どこかの社長の愛人の愛人だった。愛人達を管理する江畑という男にも気に入られていた。しかし愛人女性の太ももにある蜥蜴の刺青と同じ物を自分の腰に施し、一緒に暮らしたいと言うようになってから江畑から「潮時だ」と言われる。愛人女性の暇つぶしの礼に一度だけ力になるという約束をしてくれた江畑を、村川綾子の件で頼る。調査の結果わかったことは、村川綾子は海に入る時に揃えた靴と共に殺し屋が彼女について書いた観察記録を残していた。村川綾子は自分の筆跡がわかるものを残していなかったために捜査は難航したが、結局は彼女の創作として片付けられていた。
 律は村川綾子が住んでいた地を訪ねる。観察日記に殺し屋として登場する渋谷俊介とは連絡がつかず、友人だった佐原直絵とは会うことができた。
 村川の離婚はほたるが20歳頃だと書いてあった。村川綾子が死んだのは大学1年の18歳。母の再婚が小6だったことは4話に書いてあったから、ほたるさんは26~27かぁ。淡々としている律だけど、幸せになって欲しい。

6話目「家路」
 三崎は恩師・村川の死を新聞の訃報欄で知った。彼は村川教授とは決裂し、女子大の講師となっていた。妻の伊都との間に子供はできずに2人で暮らしている。伊都が知り合った奥村君という少年が毎日夕食を食べに来ているが、全くの他人である奥村君が来ることに三崎は何も言えないままでいた。
 九州まで行って村川の葬式に参列した三崎は、太田春美が村川と関係があった女性を見付けだして自分と優劣を付けようとしていることを悟ってぞっとする。その帰り、奥村君が幼少の頃に誘拐された話を聞かされた。彼の真意が読めずに怯えた三崎は、伊都との仲への疑惑と相まって家に来るのを止めるように言う。
 村川の実娘・ほたる伝いにお墓の場所を知らされた三崎は、遠くから納骨式を見た。骨壷を抱えて砂浜を一人歩く太田春美を見て、村川に愛し愛された女性達の間に理解はなかったことを悟って憐れみを憶える。

 適当に三浦しをんの作品を借りたんだけど、前回読んだ『むかしのはなし』に引き続き連作短編を引き当ててしまった。ジャンル的には苦手だけど、やっぱ上手いな、三浦しをん。1話ごとに語り手だけじゃなく時代も変わり、その多角性にに混乱させられる。でもきちんと整理ができて人間模様を理解するのに時間は掛ったけど、三浦しをんって並みじゃないなと改めて思った。エッセイではあんななのに・・・とどうしても思ってしまう。
 ちなみに、2話目「残酷」の10年後が1話目の「結晶」、その直後が3話目「予言」で、7年後が4話目の「水葬」、そのまた1年後が5話目の「冷血」、二十数年後が6話目の「家路」となっている。
 解決してないことはたくさんある。怪文書を書いた犯人についての記述はないし、太田春美の家のドアに腐った豚肉をなすりつけた犯人も不明。渋谷俊介の正体も何だか曖昧だ。大学に学生のふりをして潜入してしているだけのようだけど、綾子の死後に警察から取り調べを受けていて何も出てないってあり得るか?綾子は自分の肉筆の物を全て処分して死んだらしいけど、大学への提出物は?忍び込んだりなんかして回収したの?伊都と奥村君の関係は実際のところどうなの?という疑問が浮かんでくる。
 まあこうやってつい現実的にはどうかと考えてしまうこともあって私は、心情を丁寧に描いた本が苦手でもある。ていうか、表現が丁寧になるとどうしても事象の濃度が薄れる。私は事象を読みたいから、この本は評価するけど好みではないかな。何だか退屈に感じる。三浦しをんをこの本から読み始めてたらあまり好きにならなかったかもしれない。代表作『まほろ駅前~』や『風が強く~』やエッセイから読み始めたから好きかなって思い始めてるところ。
 それにしても物語の描き方の多様性に驚かされている。
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