元司書による読書備忘録ブログ。思ったことは全部書き、何様気取りの感想だったり平気でネタバレしたりします。
『図書館危機』  有川 浩
2007-09-15 Sat 22:44
図書館危機図書館危機
有川 浩

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 メディア良化委員が設立されたという設定。不適切な表現が見られるメディアを摘発する委員会と、

一、図書館は資料収集の自由を有する。
二、図書館は資料提供の自由を有する。
三、図書館は利用者の秘密を守る。
四、図書館はすべての不当な検閲に反対する。
図書館の自由が侵される時、我々は団結して、あくまで自由を守る。

の理念の下に戦う図書館を描くシリーズ第3巻。
 女性戦闘要員司書の郁の周囲で様々なトラブルも起こりつつ、メディア良化の問題も少しずつ深刻化していく。
 いいテンポで話が進み、持ち上がった問題に体当たりでぶつかる主人公。それを支えたり引っ張ったりする周囲の人々ともますます結束が固まりつつ、ラブい話があちこちで持ち上がっている。郁が少しずつ成長しているのもいい。読むだけならとても面白い。
 でも単行本で出すならもうちょっと掘り下げて欲しいと思う。メディア良化委員会ばかりが悪者になってるけど、この法律自体の葛藤とかもっと書いてほしいなぁ。図書館=善、メディア良化=悪という単純構成が一元的すぎじゃないか。
 「床屋」や「魚屋」は不適切表だから使えないというのは実際にある規定だ。それに対して「誰が決めたんだ。おかしいじゃないか」というのは浅はかだ。決めたのはどっかの偉い人だろうけど、この言葉を公然と使うことで「傷付いた!賠償金払え!」と言う奴がいるのが現実なんだよね。そこまで書き込んで欲しいと思うのは贅沢ですか?
 あと、戦争放棄している日本なのに図書館VS.メディア良化委員会の抗争が内紛レベルにまで大きくなっており、それでも右翼が何も言わないのは不思議だとか言っちゃいけないんだろうか。どっちも税金で運営されてる機関なのに、「一般人は興味がない」とかあり得ん。法案が持ち上がった時点であちこちの政治討論番組でギャンギャン言われるはず。

 ここからは感想ではなくて司書としてツッコミ入れておきたいこと。大規模図書館なのに司書が暇すぎるとかはまあいい。作者は司書じゃないんだから。
 でも、これだけは言いたい。あの「読み聞かせ」がテーマになった話は結構頭にきた。図書館での読み聞かせは幼稚園や学校の先生、または教育テレビで俳優がやるような読み聞かせとは異なる。優秀司書という設定のはずの柴崎さんの読み聞かせは、児童担当司書の中じゃ「勉強不足なのに目立ちたがるボランティアレベル」だ。キャラによって声色変えるとか、失笑されるっつーの。
 あと、イソップの「すっぱいぶどう」を読んだ手塚の最後のトーク。あれもNGだ。内容を踏まえて人生訓につなげるなんて、司書はしてはいけない。司書がやるのはあくまで本との架け橋まで。主観を入れちゃいけない。本書の内容のように子供の方から問いかけてくることもあるけど、そこは“答えらしきもの”は言わないでちょっと考えさせる手助けをする程度に留めるのが仕事。
 どっちも入門書に書いてあること。入門書の入門書ってくらいのやつにも書いてあった。優秀司書というキャラ設定のこの2人が読んでないという方が不自然。
 この著者は図書館が抱える問題とか、日常でよく起こるトラブルなんかをそれなりに勉強して書いているとは思う。読み聞かせもどっかの図書館に見学とか行ってそうだけど、どうも客寄せのために本来成すべき形とは違った方向に行った図書館にでも行ったんじゃないか。
 それから、図書館を託児所代わりにして子供を置いてどっかに出かける親と、教育がなってなくて騒いだり喧嘩してる子供達にお仕置きする柴崎さん。そういう子達を上手に手懐けて、図書館大好きっ子にできるようなお母さんタイプのベテラン司書はこの図書館にはいないんだろうか。かわいそうな図書館だし、かわいそうな子供達だ。
 この章は全体的にひどい内容だった。私が司書じゃなかったら楽しめたのかな。
 この本を読んだ図書館司書がどう感じたのか聞いてみたい。前の職場を辞める直前に職員さんの中でも責任者的立場にいた人に勧めてみたけど、読んでくれたかな?そうたくさん本を読めないくらい忙しい人だったから、どうだろうか。
 ストーリー展開は面白かったから、多分全く知らない職業について書いてあったら騙されて面白がってたと思う。自分がたった6年司書やったせいで、素直に楽しめないのはある意味残念。
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