元司書による読書備忘録ブログ。思ったことは全部書き、何様気取りの感想だったり平気でネタバレしたりします。
『精霊の守り人』  上橋 菜穂子
2008-05-25 Sun 19:30
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上橋 菜穂子 二木 真希子

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 短槍使いの女用心棒のバルザは、川に落ちた新ヨゴ皇国の第二皇子チャグムを助けた。そのお礼にとチャグムの母である第二王妃の館に招かれた折、夜中に王妃がチャグムを連れて密かに訪ねてきた。彼女はバルサに、チャグムは体に何かが取りついたために命を狙われている、この子を守って欲しいと依頼する。
 新ヨゴ皇国の先住民ヤクーの伝承によると、チャグムの体に宿ったのはニュンガ・ロ・イム<水の守り手>という雲を作る精霊だった。この世「サグ」と重なるように存在する「ユナグ」の生き物ニュンガ・ロ・イムが百年に一度サグの人間に卵を産む時期には干ばつが起こる。卵を産みつけられた人間はニュンガ・ロ・チャガ<精霊の守り人>としてラルンガ<卵食い>から卵を守り切れなければ、干ばつがそのまま続いて大きな被害が出ると言い伝えられている。
 新ヨゴ皇国の歴史書では建国者トルガルは200年前に水妖を倒してその地に豊作をもたらしたとされるが、それは塗り替えられた英雄譚だった。宮では若い星読師シュガが、聖導師に才能を認められて歴史を紐解くうちに段々と真実を知っていく。

 上橋菜穂子さんは、日本の現代児童ファンタジーの最高峰だと思ってる。しっかりした骨組みと厚みある内容、都合の良さや無駄な見目麗しさのない作品達はライトノベルと確実に一線を画していると思う。司書としての知識だけでそう思ってて、実際ほとんど読んでないといういい加減っぷりの私ですんません。良質ファンタジーとしての評価がとっくに定着したこの「守り人」シリーズを今頃読む私って司書としてどーなん?と思いつつやっと借りた。
 まず主人公が30歳の女性であることにちょっと驚く。少年少女が活躍するラノベとは明らかに違う。でも内容は、最初の方は意外と普通で“ラノベと変わらんなぁ。こんなもんか・・・”と思いつつ読み進めた。ところが物語が複雑さを増してきた頃からどんどん面白くなって引き込まれていった。
 新ヨゴ皇国の歴史、ヤクーの伝承、「サグ」と「ユナグ」のことなど、複雑ながら説明は簡潔でわかりやすい。バルザの人生や、皇国の星読博士、<狩人>の存在なども含めて、何もかも根底をきっちり書いてあるから浮ついた所もない。そうやって進めていく話自体も当然面白い。ネーミングや街並みはアジアンテイストだけど、思想は日本的であるとこも入り込みやすかった。皇国の神話なんか、日本の神話にあってもおかしくなさそうな内容だ。
 序盤はイメージが悪かった新ヨゴ皇国だけど、トロガイからの手紙で考え改めて歴史の真実を調べ始める星読博士や本当に必要なことを知ってバルザ達に協力的になる狩人に考え改めさせられる。お互いに支え合って存在するサグとユナグ、ヤクーの伝承部分と皇国の歴史書、お互いの必要性を感じ始める星読師と呪術師など、一方の独善性だけじゃなくて両方の必要性を描いてるその巧さに脱帽した。
 もちろん人物も良かった。体も精神も鍛え抜いたバルザが、弱くも知性あるチャグムに第二皇子としてではなく人として向かい合う。バルザの幼馴染で呪術師を目指す青年タンダと、タンダの師匠で最高の賢者であるトロガイもだ。また、政に携わっていくうちに大切なことを伝えられなくなっていった星読博士や国のために汚い仕事を請け負う狩人が持つ国を守りたいという気持ちも、ちゃんと彼らの思想を描いている。それでいて登場人物達の中の特定の誰かに偏りすぎた書き方はせず、平等に好ましく描く著者の姿勢も好きだ。バルザとタンダが想い合ってることも、さらりとさり気なく描かれていていい。
 一致団結したクライマックスの後にはちょっとほっとしたような寂しいような結末を迎える。評価の高い児童ファンタジーとは思って読んだけど、もっと評価されていい作品じゃないかこれは。漢字使いは小学校低学年向けだけど、対象年齢はもっともっと高くても充分楽しめるはず。
 私は和製ファンタジーって結構好きだけど、日本のファンタジーはどうしてもラノベにくくられがちでつまらない。もっと本格派書ける人が育ってくれたらいいのになぁ。
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