元司書による読書備忘録ブログ。思ったことは全部書き、何様気取りの感想だったり平気でネタバレしたりします。
『動機』  横山 秀夫
2008-05-20 Tue 23:37
動機動機
横山 秀夫

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 4編の短編集。

「動機」
 警察官は勤務時間外も警察手帳を持ち歩くように義務付けられている。J県の警視である貝瀬はその制度に疑問を持ち、勤務時間外の警察官の手帳を一括保管する案を起こして強引にテスト導入に踏み切った。しかしテスト導入が始まった矢先、U署で保管されていた警察手帳30冊が盗難に遭った。内部者の犯行の可能性も考えて記者会見発表まで2日の猶予をもらい、貝瀬自分なりに調べようとする。
 追い詰められていく貝瀬、警察内部のぎすぎすした人間関係、家族への思い、常に警察官であることを課せられ続けた人が退官する際に不安定になってしまう「揺らぎ」、そしてその先にあった犯人の動機に、緊張していたものがフッと和らぐのを感じる。横山さんの作品の、和らぎ好きだ。それから益川との喧嘩のシーンではぐっときた。

「逆転の夏」
 妻の妊娠中に行きずりの女と関係を持った山本。その女は事後に女子高生であることを告げ、山本を恐喝してきた。カッとなった山本は彼女を殺してしまう。13年後に出所した山本は、保護司の及川の世話で遺体搬送の仕事に就いた。淡々と真面目に働く山本に、ある日殺人依頼の電話がかかってくる。
 話を聞いてくれただけで数十万のお金を通帳に振り込んでくれるカサイという男を最初はうさんくさく思っていた。しかし元妻の静江に償いとして給料の中から送金していた山本は、静代を喜ばせたい一心でこのお金を静代に送った。さらに殺人の謝礼金欲しさに殺人依頼を承諾する。
 犯した罪を考えると同情の余地はないんだけど、出所してからは妻と息子に送金することだけを生きがいにしている山本は読んでて哀れで仕方ない。さらに全員が哀れに思えてしまう結末が切ない。せめて静代さんは幸せになってほしい。

「ネタ元」
 女性記者である水島真知子が三か月前に書いた記事が地元住民の不興を買い、「県民新聞」は読者離れが深刻になっていた。そのため、一週間前に起こった主婦殺人事件を書くことで読者離れに歯止めを掛けようとしていた。
 女性であることで記者の中で一線ある扱いを受け続けていた真知子は特ダネを抜くよう圧力をかけられながら奔走し、そのストレスから万引きを繰り返していた。その真知子に、大手新聞者の「東洋新聞」から引き抜きの誘いがある。東洋新聞は真知子のネタ元を欲しているようだが、特ダネを教えてくれた地裁の庶務・佐伯美佐子とは顔見知り程度でしかない。男社会で働く者同士の共感から特ダネを教えてくれたと推測されるが、自分から教えてくれとは言い出せずにいた。
 元事件記者の横山さんが、警察組織ネタと並んで得意な記者世界。これといって大きな出来事は起こってないんだけど、何か引き込まれてしまうんだよなぁ。不思議。

「密室の人」
 裁判中に居眠りをしてしい、寝言で妻の名前を口走った裁判長の安斎。裁判コラムに書くかもしれないと言われて眠れない夜を過ごしている時に、妻が服用している睡眠薬と自分が常用している整腸剤が瓜二つであることに気が付いた。
 居眠りは記事にならなかったが、今度は弁護士が記者会見で公表すると言っている。そのゴタゴタで、上司が自分の妻を思わず呼び捨てにしてしまったのを聞いて固まってしまう。裁判中の居眠りに根深く複雑な背景があったことを、安斎は遅ればせながら気付いた。
 これは横山作品で唯一読み終わってから悶えた。「うおぉぉぉ!それでどうなったんの!?扉開けたらどうだったの!?」と。横山さんだから、きっと美和はいたんだろうなぁと思いつつも美和のしでかした事の大きさを考えると・・・と、考えてもどうしようもないことを考えてしまう。
 仕事男の持つ家族愛。横山さんがこれを書くと、どうしてこうも男臭くてかっこいいんだろうか。

 すべてが横山秀夫の得意分野となっていて、相変わらずどれも面白い。そして短編は絶品。短いけど物足りなくはない。苦悩や葛藤をしっかり書いてるけど、書きこみ過ぎてもない。今回もすごく面白かった。
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