元司書による読書備忘録ブログ。思ったことは全部書き、何様気取りの感想だったり平気でネタバレしたりします。
『塩の街』  有川 浩
2008-05-18 Sun 00:59
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有川 浩

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 ある日突然、いくつもの巨大な塩の塊が降ってきた。その時から、生き物の体が塩そのものになって死んでいくという奇妙な現象「塩害」が起こり始める。ライフラインも危うく、社会秩序も崩壊しつつある世界で、17歳の真奈は秋庭という青年の許に身を寄せる。
 塩害のどさくさに紛れて警視庁科学捜査班所属から陸上自衛隊立川駐屯地の司令になった入江は、空から降ってきた塩は生命体であるという説を唱えて東京湾に突き刺さっている巨大な塩の塊を攻撃しようとしていた。その役に白羽の矢が立ったのは航空自衛隊の戦闘機乗りだった秋庭。さらに秋庭は、塩塊に攻撃をする戦闘機を米軍から奪うという計画を立てた。立川に来てから何となく秋庭を遠く感じていた真奈だったが、その話を聞いて彼への恋心を抑えきれなくなる。

 「図書館戦争」シリーズの作家さんだけど、文芸誌やネットで見かけると「自衛隊三部作」とやらに触れてあることが多い。どんなもんかと図書館で予約してみたんだけど、カウンターで受け取った瞬間うげって顔になったと思う。なにこのイラスト。こりゃまた下手なイラストレーターですなぁ。家に帰って口絵を見て、さらにげんなり。イラストに関してはツッコミどころに事欠かなかった。
 しかし内容は面白い。最初は塩害のことにはあまり触れず、何となく混沌とした世界で起こる出来事が連作短編のように描かれている。体がどんどん塩になっていってやがて死ぬという設定を活かした前半2編が好きだった。重そうなバッグを持って群馬から歩いてきたという青年・遼一は塩化した幼馴染の女性が入っていた。彼はその女性を静かに海に流し、その後自分も塩化した。
 次の話はその帰りのこと。車が銃を持ったひとりの男に襲われた。その男は真奈に銃を突きつけ、2人の家に連れて行けと言う。彼は脱獄した囚人だったが、塩化現象の研究のために人体実験をさせられていた。どんどん塩化していきながら、彼は高校時代に好きだった女の子の話をする。
 そこまでの話は面白かったんだけど、何かメインストーリーの塩塊攻撃辺りから何となく物足りなさを感じた。何かいきなり好き好きモードになったと思ったら、「愛か世界か」みたいな話になった。真奈は世界より秋庭がいてくれることを求めるんだけど、そんな選択は誰にでもできるからわざわざフィクションストーリーで持ってこられてもお腹いっぱいって気分になってうんざり。それまでは真奈のこと結構好きだったけどなぁ。
 さらに戦闘機のことがゴタゴタと書いてあって、基本読み飛ばさない主義の私は眠くて眠くて何度か落ちかけた。あってもなくてもストーリーに影響しない専門知識は、ストーリー展開を邪魔しない程度に書いてほしいと思う。
 専門知識をさんざん披露しておいて、電信が「猫は巣を飛び出した」と「バベルの塔は崩壊した」だってんでこれはもう笑ってしまった。暗号電文ってもうちょいかっこいいイメージなのは、トラトラトラの影響か?
 頭がいいという設定の入江に頭がいいエピソードがあまりないのも、何か拍子ぬけ。塩害の原因を突き止めたことがそういうことって言いたいのかもしれないけど、些細な閃きと膨大な実験データに依ってたんだったら「天才」とは言わないよなぁ。周囲を阿呆に描いておいて、ちょっとだけ鋭い演出を「頭がいい」という役にするのは無理がある。これは「図書館」シリーズも然り。まあこの『塩の街』はラノベだからこの程度も・・・って、作者がこれでデビューしたのは30歳越えてからか~。うーん。
 さらに私はこの作家と相性が悪いのかもしれないと思うことがある。「図書館」シリーズは私の専門分野のために、あれ?と思うことが多くて物語に集中できない部分が多くあった。そして今回。私のかつての知り合いに航空自衛隊の戦闘機乗りがいてさー。かなり親しかったんで戦闘機についてはほんの少しは知ってるわけで。マニアよりは知らないだろうけど一般人よりはってレベルなんだけど、おかげさまでこの本でもあれ?と思うことが何点かあったんだよなぁ。些細過ぎるけど、戦闘機乗りが英語が堪能じゃないから米兵と意思の疎通が難航するとかあり得ないから。ただのサル芝居のシーンでもあり得ないから。そりゃねーべと思ってしまうと集中力が削がれるのは悪い癖なんだろうけど。
 何かこう、前半の2話が面白かったのに後半が残念。そして一番残念なのはこのイラスト。骨格や肉付きがおかしかったり、同一人物が違う人に見えたりと、ストーリーを損なってる。去年ハードカバーで改訂増補版が出てるけど、そっちは変なイラストはなし。さらに大幅に改稿してあるらしいから読んでみようかな。
 ところでこの本、「自衛隊三部作」の陸自編らしい。確かに拠点は陸自だったけど、活躍してるのは空自なんでずっと空自編だと思ってた。
別窓 | [あ行の作家]有川 浩 | コメント:0 | トラックバック:0 |
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