元司書による読書備忘録ブログ。思ったことは全部書き、何様気取りの感想だったり平気でネタバレしたりします。
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『むかしのはなし』  三浦 しをん
2008-04-08 Tue 00:33
むかしのはなしむかしのはなし
三浦 しをん

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 昔話からイメージを膨らませて綴られた7編の短編集。少しずつ繋がりがある話もあり、4話目以降は地球に隕石がぶつかるという話に絡めた話となっている。

「ラブレス」(かぐや姫)
 話全体が「お前」宛に送るメールの文章になっている。
 「俺」の父親も祖父も27歳で死んでいた。母親に「27歳の一年間はあまりで歩くな」的なことを言われて育たが、問題なく27歳の誕生日を迎える。人気ホストの「俺」は色んな女からプレゼントを貰うが、神保という女性は子どもをプレゼントすることにしたと言う。
 そんな「俺」は今、城之崎組に追われていた。晴海埠頭の倉庫に潜み、「お前」になぜ追われることになったのかを全て語る長いメールを送る。

「ロケットの思い出」(かぐや姫)
 「俺」が弁護士だか取調官だかへの語りは、子どもの頃に飼っていた犬の話から始まる。ロケットと名付けられたその犬の散歩を毎日欠かさずしていた「俺」は、散歩中によそ様の家を観察するようになった。そうするうちに家を見るという特技を身に付け、空き巣を生業にするようになる。
 「俺」はたまたま空き巣に入ったマンションは高校時代の同級生・犬山のもので、運悪く早く帰ってきた犬山に見付かってしまう。彼は警察に通報しない代わりに、元カノの家に空き巣に入ってほしいと言い出した。交際中に自分がプレゼントした物を全て取り返したいためだそうだ。こうして「俺」と犬山は一緒に空き巣をすることになった。

「ディスタンス」(天女の羽衣)
 「あたし」がカウンセリングの一環でで自分の内を書いている。実の叔父と愛し合い、14歳で肉体関係を持った「あたし」だが、両親にそのことがバレてしまった。「あたし」は鉄八だけを想って生きてきたのに、誰からの理解も得られない。当然、鉄八は「あたし」の家を出入り禁止になるが、「あたし」の方から鉄八に会いに行く。しかし最近、勉強が忙しいと言って鉄八と会えなくなってきた。
 思い返せば、鉄八は中学を卒業する頃から「あたし」の写真を撮らなくなっていた。それでも鉄八を信じ続ける痛切な想いを語っている。
 どう見てもロリに引っかかった女の子が成長と共に飽きられてるんだけど、それでも信じ続けてる。鉄八が吐き気がするほど卑怯な男で、「あたし」がかわいそうで、でも「あたし」から見たらそんな大人の意見なんて関係なさそうな強い想いが痛々しくて、悲しい読後感だった。

「入江は緑」(浦島太郎)
 海が大好きで、毎日舟屋で寝起きしている「ぼく」は日記をつけ始めることにした。今回は、物語全体が「ぼく」の日記になっている。
 久し振りに帰ってきた幼馴染の修ちゃんが、きれいな女性を連れて来ていた。日本政府から国民に向けて重大な発表がある日、「ぼく」はその女性・カメちゃんと修ちゃんを船に乗せて入り江に出た。重大発表の内容はカメちゃんが知っていて、教えてくれた。三ヶ月後に、地球は大きな隕石と衝突する予定らしい。脱出用のロケットは一千万人しか乗れず、科学者であるカメちゃんとその伴侶になる予定の修ちゃんは乗れることが決定しているそうだ。
 政治家や科学者が乗った後の残りの枠は一般公募で抽選になるから、「ぼく」も応募すべきだと修ちゃんは言う。

「たどりつくまで」(鉢かつぎ)
 地球滅亡が近付き閑散としていく街でタクシードライバーを続ける「私」は、タクシードライバーをしている「私」は、観葉植物に読み聞かせるために覚え書きをつけている。その日「私」は銀座で、大きな帽子を目深にかぶり、長いコートを着て、顔に包帯を巻いた女性を乗せた。「私」とその女性は雑談をする。彼女は死を目の前にして整形をしている最中だと言う。また、彼女は「私」を女として扱ったが、「私」の乗務員証の名前が男のものであることには何も触れなかった。
 なんでもない雑談なのに、何だかしっとりとした雰囲気で読まされてしまう。不思議な話だった。

「花」(猿婿入り)
 ほとんど詐欺的方法で元カレの友達「サル」と結婚させられた「私」。観賞用の花を開発する仕事をしていたサルは科学者として脱出用ロケットに乗る権利を得たけど、「私」はただサルに押し切られただけ。「私」は、もしサルが「私」を愛することを止めたら・・・と不安になる。
 地球に隕石が衝突し、宇宙のどこかに作られたドームで不安に駆られ続ける「私」がカウンセリングロボットに語る。
 読んでから、すごく寂しい気分になった。この話の時には、もう脱出用のロケットは地球を出発している。「私」が「地球はどうなったかしらね」と言っているから、たぶん隕石は衝突したんだろう。それが寂しい。そして、直径五キロのドームで暮らすいち女性の空虚も寂しい。寂しさが上手く重なって、読んだだけなのに喪失感さえ感じさせられた。

「懐かしき川べりの街の物語をせよ」(ももたろう)
 モモちゃんこと神保百助にはたくさんの伝説があり、高校では恐れられた存在だった。モモちゃんと仲がいいのは、唯一の友人らしき有馬真白、彼女の宇田鳥子だけ。モモちゃんに密かに憧れている「僕」は夏休みにひょんなことからモモちゃん達とつるむようになり、宇田さんの母親の形見とも言えるダイヤを父親の愛人の元から盗む計画に加担する。
 無事ダイヤを盗み出したある日、宇田さんの父親であり、モモちゃんの父親かもしれない男が「僕」に地球脱出のチケットを渡した。モモちゃんに渡してほしいが、「僕」が使っても構わないと言う。「僕」はチケットのことを切り出せないまま、日本政府からの重大発表後も何となく学校に通うモモちゃんとつるみ続ける。そして「僕」は今、季節のない場所でこの話を宇宙空間に送り出すためのディスクに保存している。
 うわー、何だろう、この話。際立った取り柄のない「僕」だけど、何となくモモちゃんにチケットを渡せないでいたことを責める気分にはなれない。モモちゃんは強くてめちゃめちゃな人で何だか底知れない魅力があるけど、でも運命には逆らえなかった。それだけなんだろうか。「僕」が卑怯だったんだろうか。生きることへの本能に従った「僕」の行動が当たり前だっただけだろうか。どれも正解のようで、それだけじゃないような不思議な話だった。

 短編集だけど、物語同士が少しずつリンクしている。例えば「たどりつくまで」の「私」の幼い頃の思い出として、飼えなかった子犬を川に流すシーンがある。「ロケットの思い出」の「ロケット」のことじゃないだろうか。また乗客の女が「あの子はなににもならなかった。おとなになりたくなかったのよ」と話す昔の友人「あの子」は「ディスタンス」の女の子を彷彿とさせる。その女性を降ろした後にタクシーに乗ってきた男は季節はずれの桜を持っていた。この男は「花」の「サル」のことだと思う。それから「懐かしき~」のモモちゃんこと神保百助って最初の「ラブレス」でホストの「俺」が妊娠させた女性のことで、その「俺」を追っていたヤクザが「懐かしき~」で「僕」にチケットを渡した男だ。モモちゃんの短命の運命ってそういうことみたいだ。
 ひとつひとつの物語も面白いんだけど、この運命のようなリンクがまた素敵だった。この作家さんは読めば読むほど面白い作家さんだなぁ。主人公ひとつ取っても、引出しの多さに驚く。そしてさらに物語のバリエーション。長編もいいけど、短編もかなり面白いじゃないか。短編小説ってこれ以上長くても短くても魅力が損なわれるだろうギリギリのところで完成してるところが好きなんだけど、もう完璧っすよ。
 最後まで読んで、『むかしのはなし』というタイトルの意味するところがただ昔話をアレンジしたってだけじゃないことがわかって、終わってしまっている悲しさが襲ってくる。
 三ヶ月後、地球に隕石がぶつかるとわかったらどうするだろう?全く想像つかない。焦燥感を抱きつつも、半信半疑で普通の生活を続けるかもしれない。でもやっぱ、最後の日は配偶者と一緒にいたいと思うだろうな。
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