元司書による読書備忘録ブログ。思ったことは全部書き、何様気取りの感想だったり平気でネタバレしたりします。
『乳と卵』  川上 未映子
2008-03-15 Sat 22:59
乳と卵乳と卵
川上 未映子

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 2007年上半期芥川賞受賞作品。これまでの作品はタイトルが面白いものが多くて、『そら頭はでかいです、世界がすこんと入ります』(随筆)、『わたくし率、イン歯ー、または世界』、『先端で、さすわ さされるわ それええわ』といった具合だ。どれもタイトルからは内容は全く想像つかず、リズミカルな音が妙に印象に残る。これまでの傾向を考えると、今回の『乳と卵』はえらくシンプルだと思う。でも『乳と卵』の「卵」を「らん」と読ませる辺り、リズミカルさは健在かなって思う。どれも読んでないんであんまり偉そうなことは言えないんだけど。
 『乳と卵』は2編収録。まずは表題作「乳と卵」。東京で生活している「わたし」の元に姉の巻子が豊胸手術を受けようと、娘の緑子を連れて大阪から上京してくる。母子家庭であり場末の飲み屋でホステスをしている彼女は、39歳にして胸を大きくすることに固執していた。しかし緑子とは上手くいっていない。緑子は全く口を利かず、伝えたいことはノートに書いていた。

 芥川賞受賞時に話題になったのは、句点なしで長々と続く文章。読んでみるとリズム感があって、すっと入ってくる。言葉自体もわかりやすいために読みにくさはほとんど感じなかった。大阪弁っていうのも面白い。普段の生活で大阪弁はTVでしか聞かないって私からしたら、大阪弁=マシンガントークってイメージがある。偏ったイメージなんだけど、句点なしの長い文章に合ってる。だから身構えていたほどの読みにくさはない。そんな印象で読み始めた。
 姉と姪を無難に傍観する「わたし」の語りとは別に、緑子の内心が日記風に綴られる。初潮を意識する年齢になって、生理への漠然とした恐怖感、生命を生み出す体になることへの嫌悪感を感じる少女。あ~、ここんとこが「卵」なわけね。母親が「乳」でね、なるほど。親子のすれ違いみたいな。葛藤みたいな。れぞれの執着とか。純文学にしてはわかりやすいじゃないか。それとももっと深い意味を私が読み取れなかっただけとか?
 クライマックスでの卵は、純文学を素の感情で読んでしまう私には気味悪い展開だった。卵なしで親子がぶつかり合うんだったら、芥川賞取れなかったかもしれない。ていうか卵なしだったら展開がオーソドックスすぎるんだけど、そのオーソドックスさを卵で奇抜に仕上げてるような気がしてあまり魅力を感じなかった。ただ緑子の発する言葉だけ、ああ、色々もどかしかったんだなぁって思ったけど、それにしても卵は気味悪い。
 読みやすい・わかりやすいの点、起承転結の明快さは好ましかった。でも、豊胸手術の根底に見え隠れする巻子の脆弱さって文学としてはありきたりだし、ラストの卵が気味悪いのと、そもそも純文学は苦手ってので、やっぱ面白いとは言いがたい。いつか純文学を理解できるようになるといいなと思いながら、今回も芥川賞を読むだけ読んだ。

 同時収録の「あなたたちの恋愛は瀕死」は、自分に酔っているような女の語りによる物語。
 知らない男性と出会ってそのまま性交するとはどんなことだろうかと想像し続け、着飾って街に出る。しかしそういう展開になりそうな出会いはないまま、化粧や服で自分を磨き続ける。
 この話もリズミカルな長い文章だけど、「乳と卵」とは違った印象なのは標準語だからだろうか。妙なクレイジーさが見え隠れする。
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