元司書による読書備忘録ブログ。思ったことは全部書き、何様気取りの感想だったり平気でネタバレしたりします。
『図書館革命』 有川 浩
2008-02-11 Mon 22:03
図書館革命図書館革命
有川 浩

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 シリーズ4巻目、最終巻。敦賀原子力発電所がテロリストにより襲撃を受けた。そのニュースが流れた日、郁はカミツレに思い入れのある堂上をハーブティが飲めるお店に連れて行くという初デートが実現する。ドキドキ初デートも束の間、2人は基地に呼び戻された。
 今回起こったテロの手口が『原発危機』という小説に酷似してた。メディア良化委員会はその作品を危険書みなして、作者である当麻蔵人の身柄を拘束しようとしているらしい。いち早くその情報を入手した折口は、当麻を連れて図書館基地内に連れてきていた。
 これを前例に今後作家狩りが始まることを恐れた図書館隊は、当麻蔵人を匿いながらメディア良化委員会と戦うことになる。その作戦の一端として柴崎は手塚の兄・慧と交渉し、図書館隊は「未来企画」と一時的に手を結ぶことになった。また折口の協力によってテレビで大々的に取り扱わせ、国民の目を向けさせようという試みは成功しつつある。
 当麻を原告にメディア良化委員会を訴える裁判に持ち込んだが、最高裁でも敗退。かねてから敗退した場合は大使館に逃げ込んで、当麻の国外亡命により他国から日本の言論弾圧に注目してもらおうとした図書館隊。しかし情報が漏れたらしく、亡命先候補の大使館ではメディア良化委員会が待ち受けていた。

 さて、最終巻。これはちょっと、私には無理。恋愛モード全開すぎてキツイ。上司の堂上に恋してる郁は、一生懸命なのに空回りして失敗してばかり。その度に堂上がさりげなく慰めてくれる。頭を撫でてくれる。ここぞという時には手を握って励ましてくれる。さらに実現した初デートでは特別視する発言が多々。そしてそれに舞い上がる郁。しかもモロに顔に出る性格の郁。わかっててやってるだろう、堂上。もういいから適当なとこで押し倒して、恋愛部分ははちゃちゃっと片付けてくれ。うざいったらありゃしない。ってこの本はいわゆる「ベタ甘」が売りで、それがこのシリーズの人気にも一躍買ってるんだろう。だから恋愛モノ嫌いの私は、お前は読むなと言われて然るべきなんだろうな。この本の「ベタ甘」な点に関しては少女マンガレベルで、主要人物全員が平均値よりずいぶん高いビジュアルを持ち、誰もが誰かとイチャこきイチャこきともうめんどくさいったら。
 このシリーズ、1巻目、2巻目くらいまでは面白かった。特に1巻が出た時は内容が斬新でもあり、取り扱うテーマの重さと若者言葉を多用した会話文のギャップが楽しかった。3巻目でそろそろ浅さが目立ち始め、4巻に至ってはツッコミどころ満載。今作は司書としての仕事は皆無だったんで、私も司書としてのツッコミはできない。それにしてもツッコミどころ満載。いつも通り、お前何様かと言われるようなツッコミを書こう。

 ずっと気になってたし前も書いたけど、国民の無関心さ。今回は玄田の作戦で国民が興味を持ち始めた。それまで国民は自分に関係ないから無関心だったとか、日本人馬鹿にしてんのかと。野党馬鹿にしてんのかと。それとも法案可決当時、巨大連立政権でもあったんだろうか?

 それから柴崎の「切れ者」という設定に伴うエピソードがぬるい。手塚慧との会話とか聞いてても特異なまでに頭がいいようには思えないのに、他の登場人物に「頭がいい」と言わせてる(思わせてる)ことで頭の良さを表現するってのがちょっと。普通に先読みの勘がいいってレベルじゃね?
 手塚慧の方も同じだ。彼は誰がどうやってこの法案を通したのかは掴んでるらしいけど、それを発表すると世の中がめちゃくちゃになるそうだ。で、その後それは秘密のまま物語は終了。これは世の中がめちゃくちゃになるフラグだと思って楽しみにしてたんだけど・・・。伏線じゃなかったんすね。うーん、ぬるい。まあ、単行本の形を取ってるけどこの本はラノベなんだと思うとこんなもんかと思えてきた。そうすると無駄の多い構成も納得。会話文にわざわざ普通は日常では使わない言葉(日和る、奇貨、etc.)を挟んでくるのも納得。ちなみに私の中で「頭がいい」登場人物を作れる人のベストは冨樫義弘で、中でも『レベルE』がベスト。「富樫かよ!」と言われたけど、彼は本当に頭いい。小説家では東野圭吾とかだろうか。

 あと、公には使用を自粛させられる、差別用語として制定されてる言葉について。「片手落ち」は語源そのものは「片」=「仕事」+「手落ち」=「終わってない」で、仕事を残してしまっている状態のこと。「片方の仕事を残している」の意味が転じて「片方に対する配慮が欠けている、不公平」という意味になる。現在では身体障害者を連想させられると、公には使用を自粛させられている言葉だ。
 これを身体障害者に対する差別用語とすることを、この本は馬鹿げているように書いている。それを差別用語だと指摘する人を蔑みつつ「善意の人々」と言ってるように感じた。「盲撃ち」「盲船」「按摩」「乞食」なども、物語や時代背景も考えずに指摘することを蔑んでいる。
 私は6年間の図書館司書時代にも障害者の利用者とたくさん出会ってきたし、今は障害者施設の司書をしてる。だから実体験として言える。障害者の人達って、やっぱそういう言葉は嫌がるもんだ。それはそういう言葉で彼らを差別したり傷つけたりしてきた歴史があって、今でも彼らは健常者から奇異の眼差しで見られたり気味悪がられたりすることに暗い感情を抱いてる。でも本書は、そういうのは無視。「片手落ち」の語源は上記の通り。でも、何らかの事情で片手がない人がそういう表現を見たら傷つくのではないかと思うことの何が悪いのか。
 彼らは健常者と違うことを多少なりとも気にしている。それが気にならないような福祉の充実、例えばドイツは障害者が障害者であることを忘れてしまうほど福祉が充実してるらしい。そういう社会になり、障害者が健常者と対等に生活できるようになれば差別用語なんて自然になくなるものでは?現在の日本で、差別用語を障害者の被害妄想のように言うってどーよ。
 この本で主要人物である作家の当麻は、物語の状況や時代背景で使うんだからとか言う。一部の人を傷つけてでも書きたい小説があるなら書けばいい。そういう言葉を使っても売れると、出版社を思わせる本を書けばいいじゃないか。差別用語だと指摘する投書を跳ね返すくらいの強さを持てばいいじゃないか。屈した奴が何を言うか。差別的表現があるくらいで物語観に損ないを感じずに読める人の方が圧倒的に多いんだし。
 出版社がNG出すなら自費出版でもしたらいい。買い手がある作家なら尚のこと。そしてそれを売ってみせて、ほれみろと言えばいいじゃないか。売れれば出版社の方が頭下げるだろ。それをしないで差別用語を指摘する人を陰で蔑む、その姿勢が気にくわない。
 時事ネタになるけど、倖田來未の羊水発言をバッシングすることは言論弾圧だと言う人もいるらしい。じゃあ羊水発言で傷ついた人のことは無視か?確かに35歳過ぎると出産は体に負担が掛るらしい。障害児が生まれる確率もわずかだけど上がるそうだ。でも実際には、子供欲しいけど35歳までに子供を産めずにいる人はたくさんいる。そしてそういう人達に「早く産んだ方がいいよ」という人は、もっとたくさんいる。私はあと5ヶ月で30歳になるけど、ガンガン言われてる。でもってそれは、とても不快だ。私は子供欲しいと思ってないし、配偶者はあと2年はいらないと言っている。そんな私が不快なんだから、産みたいと思ってるのに産めない人は本当につらいだろうと思う。これは25歳過ぎて「結婚は早い方がいいよ」と周囲から言われるようになることと似てるけど、それ以上に不快だ。だからバッシングしてんのに言論弾圧だとか、不快を不快と言えなくなることこそ言論弾圧なんじゃないのか? このシリーズでは、身体に何らかの障害を持ってる人が2人出てくる。片足がない人と、難聴者。せっかくそういう人達が登場するのに、主人公達の説に都合いいようにしかその障害がアピールされない辺りが残念だ。そして、物語全体の浅さを加味する。
 この『図書館革命』を読んで、差別用語について言いたいことはわかるし神経質すぎるっていうのもわかる。ただ、表現の自由ってそこまで偉いの?と思う。表現の自由は基本的人権の尊重を凌駕するのか?これは現時点ではまだまだ課題であり、改善の段階には来てないと思うんだけどなぁ。

 というわけで、ツッコミ終わり。自分でも頭悪いくせに何様かとか、自分はこんな小説書けるのか?書けないくせに、とか思う。他人が読んだら、自分が自分宛てに思ってる何百倍も言いたくなるだろうな・・・。
 こういうこと考えながら読んでたから、この巻は楽しめなかった。このツッコミどころに加えて恋愛モノ苦手体質で、楽しめるわけがない。現段階では、アマゾンでは見事に★5つですなぁ。私も客観的に見て評価は高いと思うよ。好き嫌いはともかく、3.5~4は付けたい。でも、このストーリーに込められたメッセージ性みたいなのがどうも一方的すぎる気がする。
 これが日本の近未来的パラレルワールドじゃなくて架空の世界の物語だったらほとんどのツッコミが成り立たないんだけど、日本なんだからなぁ。文明が進んでるようには見えないから、現代とほぼ同時代と思っていいだろう。そうするとちょっと腹が立ってくる。
 でも、これまで執筆活動してる人達の間だけにあった「差別用語」という壁を悪い物として、なおかつ物語仕立てで問いかけたその勇気は評価したい。
別窓 | [あ行の作家]有川 浩 | コメント:0 | トラックバック:0 |
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