元司書による読書備忘録ブログ。思ったことは全部書き、何様気取りの感想だったり平気でネタバレしたりします。
『映画篇』  金城 一紀
2008-02-09 Sat 19:19
映画篇映画篇
金城 一紀

集英社 2007-07
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 不朽の名作『ローマの休日』の上映会を軸に少しずつリンクしている連鎖短編集。

「太陽がいっぱい」
 民族学校で友達のいなかった「僕」と活発でいつもクラスの中心にいた龍一は映画を間に仲良くなり、2人でたくさんの映画を見るようになった。しかし龍一の家庭の事情、「ボク」の進路なんかで、中学の卒業式の後『太陽がいっぱい』を見て以来離ればなれになってしまう。
 高校・大学を出て製薬会社に勤めていた「僕」に、ある日突然龍一から電話がかかってきた。区民会館で行われる『ローマの休日』へ行かないかという誘いだったが、「僕」はそれを断ってしまった。電話の後、『太陽がいっぱい』の原作を読み終えてから小説を書き始める。
 一話目にふさわしい、金城ワールド炸裂な話だった。こういう言い方はあんまり良くないんだろうけど、私は在日の人ってあまり好きじゃない。犯罪者が多かったり、帰化する気はないのに選挙権を欲して運動してたりというイメージがどうしてもある。けど、この人の本を読んでたら、そういう一部の人が目立ってるだけで大抵の在日の人は一生懸命生きてるんだろうなぁって思えてくる。この話といい「ゾンビーズ」シリーズといい、在日擁護でもなく日本贔屓でもなく、そこにある摩擦をあって当然のものかのように自然に書いているからだろう。
 多分いつも通り、時間が経ったらまた元のような考え方になるかもしれない。その時までにまた金城さんの新しい小説を読めたらいいな。まあ、被差別意識が強すぎる方々はどうあっても受け入れ難いけど。
 閑話休題。この話の最後の部分が「僕」の創作だって気付いたのは、感想をこれを書こうとしてる時。無茶だけどいい終わり方だなぁって思ってたのに、この発見は衝撃。

「ドラゴン怒りの鉄拳」
 連れ合いが薬害事件に巻き込まれた末に自殺し、「わたし」は五ヶ月間家に引きこもった。連れ合いが借りっぱなしにしていたレンタルビデオの返却のために五ヶ月ぶりに外出すると、店員の鳴海から『フライングハイ』というビデオを「サービスです」と渡される。その日から毎日レンタルショップで鳴海からお勧め映画を借りるようになり、連れ合いの死で壊れかけていた「わたし」は鳴海と映画によって救われていく。
 前の編とは雰囲気ががらっと変わった。主人公が女性になったということで、一気に描写が細かくなって文章が女っぽくなる。そういうとこさすがだなぁと思うけど、私は恋愛物が苦手。段々冷めていったけど、鳴海の創作映画のシーンがまたつまらない。この映画、果たして本当に面白いんだろうか?私はつまらないと思う。
 まあそんなこんなで、「わたし」は鳴海と区民会館に『ローマの休日』を見に行く。

「恋のためらい/フランキーとジョニーもしくは トゥルー・ロマンス」
 隣の席に座る石岡に好きな映画を聞かれ、『フランキーとジョニー』と答えて内容を教えた「僕」。それだけの仲だった石岡から誘われるまま、夏休み最後の日に区民会館で上映される『ローマの休日』を見に行った。その翌日彼女は「僕」に、弁護士をしている彼女の父親から被告人の保釈金を奪うという計画を聞かされる。
 両親に愛されない石岡と、父親が犯した事件のせいで壊れたことがある「僕」。今いる場所から逃げ出したいと思っている2人の友情のような恋のような話だと思ってたけど、結局恋だったんだな。赤木君の告白の言葉はかっこいいけど、高校を中退して、親から奪った金で逃走・・・。この2人の明るい未来が描けないのは私だけか?

「ペイルライダー」
 両親の離婚話を聞いてしまったユウ。夏休みの自由研究を「映画ランキングベスト50」を共同で作ろうと友人から言われ、レンタルショップの帰りにクラスのいじめっこに捕まってしまった。そこに全身黒ずくめのライダーが来て、いじめっこ追い払ってくれる。黒いライダーがヘルメットを取ると、パンチパーマのおばちゃんだった。ユウはその日おばちゃんと一緒に過ごし、最後に区民会館で行われた『ローマの休日』を見る。
 おばちゃんの過去は、物語に関係ない男子高生の目線で語られる。ヤクザの幹島が製薬会社の人体実験から逃げ出した母子を殺害する現場を目撃した一家。警察に通報したが、後日乗ろうとした車が爆発した。生き残ったのは主婦一人だけ。10年後、その男子高生は事件に関わったヤクザの家の車庫で黒いライダーが幹島の手下、幹島と次々に殺して行く所を目撃した。
 両親の離婚、自由研究をユウに押し付けるカメちゃん、つまらない理由でインネン付けてくるクラスメイトと、最初は嫌なことだらけな小学生ライフのユウだったけど、おばちゃんと会ってからはとても爽やかだった。けど後半のダークさは並みじゃない。その変化が面白い。
 
「愛の泉」
 おじいちゃんの死から段々と弱っていくおばあちゃん。一周忌に集まったいとこ達4人は、おじいちゃんとおばあちゃんが初デートで見た『ローマの休日』を上映しておばあちゃんを元気付けようとする。全ての手配を任された「僕」は、フィルム探し、会場決めに奔走することになった。前の4編に出てきた『ローマの休日』の上映会はこうやって企画された、という話。
 ベタながら、私はこの話が一番好きだ。大学生の「僕」のちょっとふざけた語りのトーンも好きだし、登場人物もいい。孫達から頼られて愛されているおばあちゃん、美人で頭が良くてハンパない度胸と落ち着きがある22歳の律子ねえちゃん、やんちゃで“アホの子”の14歳ケン坊、その姉でケン坊とは正反対に控えめで大人しい17歳のリカ、主人公と同じ20歳で繊細であり「僕」とはちょっと仲が悪いニートなかおる。みんながおばあちゃんを愛してる。
 「僕」の語りに時々笑わされ、上映会の当日には何だかぱたぱた涙が出てきた。上映会が滞りなく開催できたこともだけど、龍一は一人でこの映画を見に来ていたし、「わたし」と鳴海はこの直前に薬害事件と戦う決意をしていたし、赤木と石岡はこの翌日に三千万円強奪計画を話し合うし、おばちゃんはこの後復讐を遂げる。この上映会は確実に色んな人に囲まれてるんだと思えた。
 他の話と違って真っ直ぐで笑えて、感動して。やっぱ私はこういうのが一番好き。最後のオチでは、思わず吹き出してしまった。で、何の映画だったんだろうか。

 1話1話はそれなり程度しか楽しめないんだけど、全部が合わさると凄く力ある作品だと思う。特に最後の話が今まで全体的に漂っていた寂しい雰囲気を一掃し、楽しい気分にさせてくれる。彼の努力で何人もの人が同じ場所、同じ時間に同じ映画を見て、感動する。皆にちょっとずつ関わってる感じがいい。
 この短編集は『ローマの休日』以外にもあちこちリンクしている部分がある。上映会の夜の雷とか、レンタルショップ「ヒルツ」とか、散歩しているブルテリアとか、つまらないフランス映画とか。そういう部分を見つけて微笑ましい気分になれるのも、この本の特徴だと思う。
 金城さんは本当に映画が好きで、たくさん見てるんだろうなぁ。残念ながら映画に疎い私は、この本に出てくる映画をほとんど知らない。有名なのはタイトルと簡単なストーリーくらいは知ってるけど、実は全部見たことないやつだった。あ、いや唯一『ベスト・キッド』は見た覚えがあるんだけど、記憶が古すぎて大まかなストーリーしか思い出せない。でも、「ミスター・ミヤジ」の「ジ」にわざわざ毎回傍点があるのにはちょっと笑える程度には覚えている。
 これ読んで、確実に『ローマの休日』は見たくなるよね。これはもう洗脳だ。今度借りてこよう。
別窓 | [か行の作家]金城 一紀 | コメント:0 | トラックバック:0 |
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