元司書による読書備忘録ブログ。思ったことは全部書き、何様気取りの感想だったり平気でネタバレしたりします。
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『暗黒童話』  乙一
2004-06-20 Sun 21:12
暗黒童話 (集英社文庫)暗黒童話 (集英社文庫)
乙一

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 私は乙一がかなり好きだ。ネットで調べうる限りを調べたり、雑誌に掲載されたけど書籍化してない作品を取り寄せられる限りの取り寄せたりしてる。私、司書で良かった。ていうか乙一が近所に住んでたりとかする人じゃなくて良かった。絶対訴えられるくらいのストーカーしそうだ。まあ、実家は久留米なんで頑張れば・・・ってまあ、それはいつか。やるんかい!と自分ツッコミ。
 乙一は大好きだけど、どんなに良い作家でも作品によって良し悪しはある。好みの問題も大きいけど、「この作家好きだけど、今回のはハズレかな」っていうのは誰にでもある経験だと思う。だから私は、誰の作品を読む時も期待しない。全く期待しないというわけにはいかないけど、頭の隅で必ず「今回こそはハズレかもしれない」って思うようにしている。
 今回もそうだったけど・・・いや、そうだったからだからかな。またやられた。マイベストに入る勢いの面白さだ。もう読むスピードがどんどん速くなっていく。速読はやらない主義なんだけど、この小説はとにかく先へ先へ行きたくなる。もう一回読めばいいんだからとにかく先へ!と急いて読んで、読み終わってから嬉しい溜息。ああ、これもまたアタリだった。
 『暗黒童話』という物々しいタイトルだけど、内容はもっとグロすごい。
 
 高校生の菜深は事故で片目を失い、そのショックから記憶も失くしてしまった。以前の菜深は優秀な高校生だったのに、今の菜深は不器用でオドオドした人間で、母親や教師、クラスメイト達はそんな彼女に失望する。事故で失った片目が元に戻すための眼球移植を受けたけど、かえって以前の菜深と今の菜深の違いを際立たせたに過ぎなかった。
 しかし菜深は眼球移植を受けて以来、白昼夢のように眼球が持つ記憶を見るようになる。その記憶の持ち主が「冬月和弥」という名前であることもわかった。白紙の記憶を埋めるように幻覚にめり込む菜深は、ある日少女が監禁されている地下室を見て逃げるシーンを見た。眼球の元の持ち主はその後、犯人の車に轢かれて死んだことも知る。冬月和弥が実在するのか「私」の幻覚であるのかわからないまま、「私」は彼が住んでいた街を訪れることにした。
 一方、奇妙な能力を持つ異常者の視点。彼が危害を加えた者は血を流さず、死ぬことはない。むしろ奇妙な心地よさに囚われ、その異常者の施す異様な手術を受け入れる。肉を割かれ内臓を他人の物と繋がれても彼らは死なずに、不思議とその状況を受け入れてしまうようになる。
 そして時折入る童話。人語を操るカラスは、ある盲目の少女と知り合う。代わりの眼球を持ってくれば少女の目は開くと信じたカラスは、生きた人間から眼球を抉って少女の元に運ぶ。少女はいつも窓から話しかける人が持ってきた球を空っぽの瞼に入れると、目は見えないのに不思議な映像が見えることを喜んだ。少女はその人が不思議な球を持ってくることを心待ちにするようになる。という話が細切れに入っている。
 グロい。怖い。切ない。悲しい。何て言えばいい本なんだろうか。この狂った設定を、こんなにも読まされてしまう。異常者のシーンは恐ろしい。グロいけど、読んでて痛さを追体験することはない。菜深の片目が亡くなるシーンは痛みが麻痺していたようだし、異常者に肉を抉られる時は痛覚が麻痺するという設定のために、読んでてもサディスティックなホラーのような痛グロさはなくて、純粋な恐怖だけが襲ってくる。とても怖かった。
 眼球が見せる記憶と、異常者の能力というファンタジーが2つも入ってるのに白々しさは感じられない。マイナスとマイナスをかけるとプラスになるみたいな、いい感じで作用しているように感じた。それぞれの設定で別の2つの物語ができそうなものなのに、設定の出し惜しみみたいなのはこの作者にはないんだろうか。それとも、そういう考えは素人考えなのかな。
 事件が終わり、入院中の菜深が和弥の姉に「お姉さん、隠していたことがあるの」と話し出す。この一言だけで、ああ全部終わったんだなってホッとさせられた。何だか妙に、事件の終わりを実感させられる一言だった。
 正直言って、この話は狂ってると思う。でも、その狂気に何でこんなに惹きつけられてしまうんだろうか。たまに狂ってんじゃないのかなっていう画家がいるけど、そういう絵から目を離せないことに似てるのかもしれない。ゴッホとか、あの黄色は狂ってるけど美しい。そんな感じ。
 物語のクールダウン的にエピローグのような後日談で、菜深は記憶を取り戻す。眼球の記憶は徐々に見えなくなっていった。それがとても寂しい。でも菜深は覚えていてくれるようだから良かった。
 相変わらず文章が好き。表現が端的だから、そう厚い本でもないのに盛りだくさんに詰め込まれた内容になってる。しかもてんこ盛りな設定が上手くまとまり、きれいな流れになっている。
 乙一の文章は私に合ってるらしく、読み始めてすぐ・・・1行か2行くらいでこの文章の呼吸のようなものに取り込まれてしまう。ぐんぐん吸い込まれて、この文章を読むこと以外何も考えられなくなっていく。書評投稿サイトとか見ると乙一の文章や構造を批判する人もいるから、万人向けではないみたいなんだけど。

 ちなみに私が買ったのは文庫化されたもの。とにかく早く手に入る方をと、本屋にある方を買った。改版前も単行本ではなくて新書サイズ。何でわざわざ文庫で出し直すんだろう。出版業界ってよくわかんないなぁ。でも乙一ファンって中高生にも多いらしいから、300円ちょっとの差額も嬉しいんだろうか。とりあえず文庫版買ったけど、どっちも買うかどうかは悩み中。

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