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元司書による読書備忘録ブログ。思ったことは全部書き、何様気取りの感想だったり平気でネタバレしたりします。
『みかづき』  森 絵都
2020-02-03 Mon 12:32
みかづき
みかづき
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森 絵都
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 昭和中頃。小学校で用務員を務める大島吾郎は、授業についていけない子供達に放課後勉強を教えていた。その教室に、決して勉強ができないわけではなさそうな一年生の蕗子が、勉強を教わりに来た。彼女は、母親の言いつけで吾郎の教えぶりを偵察に来たと言う。
 吾郎は蕗子の母・千明に乞われて八千代学習塾を立ち上げた。学校教育が太陽なら、塾は月のような存在だと熱く語った千明と結婚した吾郎は、千明の意志の強さや教育界における時代の流れに翻弄されながらも子供達のためを第一に考えつつ塾を経営していく。
 第二部では塾経営の考えの相違から大島夫婦が別かれた後、吾郎に代わって塾長となった千明の視点から描かれる。吾郎が家を出て行ったすぐ後に行方を晦ました蕗子は、かつて八千代塾で塾講師をしていた上田と結婚していた。吾郎と千明の子、蘭は強く冷徹に育って八千代塾で事務のアルバイトをし、中学生の菜々美は全く勉強をせず深夜まで遊び歩くようになっていた。
 塾の存在はマスコミや文部省からは存在を詰られ続けていたが、世の親はこぞって子供を塾に通わせたがった。塾経営の競争率は激化していく中で、千明は菜々美の何気ない一言から私立学校の経営を考え始める。
 持ち前の話下手第三部では、強い意志で人生を駆け抜けた千明の病死後、蕗子の息子・一郎の物語が始まる。就職活動で躓いた一郎は、叔母・蘭の夫が経営する仕出し弁当屋の配達員として働く事になった。とある配達先で、貧困のために学校の勉強がわからなくてもどうしようもない子供達がいる事に気付いた。そこで、ボランティアで子供の勉強を支援する会を立ち上げることにする。様々な困難があったが、良きアドバイザー達に恵まれて少しずつ前へ進んで行く。


 塾経営が主体の小説とは、ちょっとびっくり。時代の先駆け的な強い女性・明子の生き様や女系一族になってしまう運命、時代の流れに翻弄され続ける学習塾、有名塾経営者ながら沸き起こる我が子の悩みなど、とても面白かった。そして私自身が今現在、我が子の勉強に向かう姿勢を作れずに悩んでて、胸にズシンと突き刺さる物もあった。
 学習塾を月に例えてるシーンんで上手いこと言うなと思ったけど、一郎が立ち上げた学習会を「クレセント」(みかづき)と名付けた時に、子供は三日月なんだと心の底から納得した。不完全ながら美しい三日月は、月日の流れで勝手に満月になる。どんな満月になるのかその時によって様々だけど、より美しい満月になるように親は祈ってる。学習塾にとっての太陽が学校教育なら、子供にとっての太陽は親なのかもしれない。うーん、おこがましいかな。どうだろう。
 教育って正解がなくて、しかも結論が出るのが遅いうえに、間違った結論を取り戻せない、とても難しいもの。この小説は、もし若い頃に読んでたらつまらなかったかもしれない。でも親になった今、魅力ある教育者達の存在や一貫しない政府の学校教育への姿勢が私自身にとても突き刺さった。
 願わくば、我が子が1人でもいいから人生に明るい影響を与えてくれる素晴らしい教育者に出会えますように。
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