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元司書による読書備忘録ブログ。思ったことは全部書き、何様気取りの感想だったり平気でネタバレしたりします。
『宝島』  真藤 順丈
2019-12-27 Fri 16:37
第160回直木賞受賞 宝島
宝島
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真藤 順丈
講談社
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 戦後、アメリカの統治下に置かれた沖縄では、アメリカ軍の倉庫から物資を奪う戦果アギヤーと呼ばれる者たちが横行していた。島一番の戦果アギヤーであり、その戦果を地元中に配って回るオンちゃん。彼は島中の人々から愛され、親友(イイドゥシ)のグスク、弟(ウットゥ)のレイ、恋人(ウムヤー)のヤマコの尊敬と敬愛を一身に受けていた。
 オンちゃんが成人した歳、近隣の町の戦果アギヤー達を集めて計画を練り、嘉手納空軍基地を標的にした。ところがアメリカ兵からの盛大な反撃から逃げる途中でオンちゃんとはぐれ、レイはアメリカ兵に捕まり牢に入れられた。辛うじて逃げ延びたグスクは外で待っていたヤマコと共に、オンちゃんの行方を探す。
 三人はオンちゃんを探しながら次第にそれぞれの人生を歩み始め、グスクは警察官に、ヤマコは教師に、レイはやくざ者になる。ある日レイは、ニコニコと人懐っこいながら全く喋らない孤児に懐かれた。その孤児はヤマコの下にも表れ、ヤマコは彼が母語を学ぶことがないまま成長している事に気付いた。彼は後にウタと名乗る。
 
 
 第160回直木賞受賞作品。読み始めがちょっとわけわからなくて、主要人物の名前もオンちゃんだのグスクだので気持ちがどこにも持っていけなくて、突然起こった銃撃にファンタジーすら感じてしまったけど、戦後すぐの話だと気付いたのはそこそこのページ数を読んでからだった。本文にはっきりとした時代は書いてなかったと思って見返したら、章のタイトルに「1952-1954」と書いてある。章のタイトル読み飛ばす癖、もう数十年変わらんなぁ、私。
 戦後間もない沖縄で必死に生きる若者達が哀れでもあり、眩しく美しくもある。グスクとレイはヤマコへの思いを秘めながらも、オンちゃんの行方不明から次第に気持ちが膨らんでいく。その若さが微笑ましくも、一方ではアメリカ兵による凄惨な事件も無関係ではいられない。実際に起こった小学校への戦闘機墜落事件、罪を犯した米兵の隠匿、それをきっかけに起こったゴザの暴動。頻発する婦女暴行事件は想像に難くないけど、衝撃だったのはウタと仲が良かったキヨの母子無理心中事件。アメリカ兵に騙されて捨てられ、寂しさを紛らわすためにヘロイン漬けになり、ヘロイン欲しさに施設にいた娘を引き取って母娘でアメリカ兵の相手を務める。こんな地獄のようなことが、きっと実際にあったんだろう。
 沖縄の方言が妙に優しく感じられ、語り部の合いの手に少しだけ癒され、沖縄の若者達の苦悩と強さを目の当たりにした気分。描き方が等身大で、難しいことがあまり書かれてないのにこの濃密さが凄かった。
 オンちゃんがちょっとしか出てこないから魅力があまり伝わって来なかったこともあって、ずっと行方不明だった理由も最後にやっとわかっても大した感慨はなかった。残された3人の人生が濃すぎて最早あんまり興味が持てなかったし、今更って感じもした。だから戦果アギヤーで語るとちょっと物足りない。でも、沖縄の苦しみ、オンちゃんが抜けた3人の関係のバランス、美しく強いヤマコ、ちょっと情けないけど優しく芯のあるグスク、凶暴で不器用なレイといった若者達の物語は、とても心に刺さる話だった。
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