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元司書による読書備忘録ブログ。思ったことは全部書き、何様気取りの感想だったり平気でネタバレしたりします。
『長くつ下のピッピ』  アストリッド・リンドグレーン
2019-07-21 Sun 16:27
長くつ下のピッピ (岩波少年文庫 (014))
アストリッド・リンドグレーン
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 ピッピは船長の父と共に世界中を航海していた9歳の女の子。嵐の時に海に吹き飛ばされた父親がいつか帰って来ると信じて、猿のニルソン氏を連れ、金貨が詰まったスーツケースを持ち、父親が買っていた「ごたごた荘」に住むことにした。
 隣の家に住む同じくらいの子供達、トミーとアンニカはあっという間にピッピと仲良くなり、大変力持ちなうえ、自分達が思いもしなかったことを次々とやってのけるピッピが大好きになった。


 子どもの頃に読んで、内容はあまり覚えてないけどすっごく面白かった記憶だけが残っているこの本。我が子に読ませるついでに自分も久し振りに読んでみて、全くワクワクしない事に驚いた。こんな子嫌だ!自分の子がこんな子になるなんて耐えられない!やっぱり自由過ぎるのは良くない。教育って大事だなぁってしみじみ思い、自分が心の穢れた大人になったとしみじみと思った。
 でも、身も心もすごく自由で、お金はたくさんあって、牛や馬を持ち上げられるほど力が強く、心もとっても強く自信に満ち溢れた怖いものなしっぷりのピッピは羨ましくもある。とはいえ、現代はそんな時代ではない。
 深読みせず単純に、「『長くつ下のピッピ』すっごく面白い!ピッピ大好き!」と思っていたあの頃が懐かしい。
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『騙し絵の牙』  塩田 武士
2019-07-21 Sun 15:54
騙し絵の牙
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塩田 武士
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 大手出版社のカルチャー雑誌『トリニティ』編集長を務める速水は、有能かつユーモラスな男だ。嫌味な上司を持ち上げつつも屈することなく、部下からの信頼が厚く、尊大な作家の扱いが上手く、緊張した空気をあっさりと霧散させ魅力を持っている。
 出版業界は右肩下がりで、特に雑誌は各社が次々に廃刊に追い込まれている。『トリニティ』も黒字化がなければ廃刊だと上司・相沢に言われ、速水は『トリニティ』存続のために奔走する。
 家庭では妻との関係は冷え切っていたが、中学受験勉強に勤しむ5年生の娘・美紀は可愛かった。速水自身は夫婦関係の現状を仕方ない物だと割り切っていたが、ある日書店の店長から妻・早紀子が万引きをしたと連絡を受ける。追い詰められた様子の早紀子だったが、修復することなく放置し続けていた結果、離婚を告げられてしまった。


 有名な役者が表紙ってちょっと驚いたけど、読み始めてすぐにはまり役だと気付いた。コミュ力に長けてて、おちゃらけてるけど実は頭の回転が早いとこ、私の中の大泉洋は、まさにそういう印象だった。各章の終わりに写真が挿入されてるけど、表情ひとつ演じられるって凄いなと思わされた。プライベートの大泉洋は全く知らないけど、この本の主人公・速水がその場の空気を力任せに変えられるとこなんかは大泉洋ならできそうな気がする。奥さんと不仲っていうのは不本意だとは思うけど。
 高圧的で嫌味な上司や、尊大な作家、実力はあるのに目を出せないでいる若手作家、無能だったり面倒だったりする部下達、食えない取引先etc. その中を飄々と渡り歩いているように見えて、実は重圧を跳ねのけるために必死にバタついて『トリニティ』を守ろうとしている様子がタイトルの「騙し絵」だと思ってた。冗談の応酬や、バリカンの場面や堀江淳の「メモリーグラス」に乗せて「版権をください~」の力技なんか、速水の立ち回りの上手さに感心する。
 と見せかけておいて、実は『トリニティ』への拘りは深い物だったという最後の展開こそが、「騙し絵」だったことが判明する。散々速水の出来る男っぷりを見せつけておいて、でも世の中の雑誌離れと会社員の世知辛さに負けた、と見せかけておいて新しい事業を立ち上げる。さっすがやり手の速水!と思っていたところに、急に速水の抱えていた物が明かされて、初めてその執念の重さに苦しくなった。
 私は昨今の活字離れによる本や雑誌の売り上げ低下は、むしろ良質な物だけが残っていくから良いことだと思っていた。だけど決してそれだけではない、色んな犠牲や思いを踏みにじった上に成り立っていると知って、今更ながら文学という物への自分の考えの浅はかさを噛み締めた。
 よく出来た小説だったと思う。ぜひ、大泉洋主演で映像化を。
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