FC2ブログ
元司書による読書備忘録ブログ。思ったことは全部書き、何様気取りの感想だったり平気でネタバレしたりします。
『絶歌』  元少年A
2019-05-28 Tue 16:58
絶歌
絶歌
posted with amazlet at 19.05.28
元少年A
太田出版  2015.06
売り上げランキング: 9,538



 1997年に起こった、神戸連続児童殺害事件の犯人の手記。警察に任意同行された日の話から始まり、幼い頃に慕っていた祖母の話、祖母の死をきっかけに起こした異常行動の数々、抑えられなくなっていく凶暴性、捕まってからの話、少年院から釈放されて保護観察期間の話、職を転々とする話など。


 被害者の幼さと相反する残忍な殺し方、稚拙な煽り文の手紙、捕まった犯人の年齢、徐々にわかっていく余罪、日常行動の異常性などなど。ベタな言い方だけど、世間を震撼させたセンセーショナルな事件だった。当時まだギリギリ十代だった私は、あの残虐な犯人が自分より年下だったことに衝撃を受けたのをよく覚えている。
 あの犯人がどの面下げて手記なんぞ出したのかという思いと、深淵を覗いてみたいような好奇心から読んでみたいと思った。奴に印税が入るのは絶対に嫌だったから、図書館で借りることにする。私が住んでいるところは人口がそこそこ多くて結構大きい図書館があるけど、購入したのは1冊のみで閉架書庫扱い。著者の印税に貢献したくないけれど、図書館として市民の知る権利に応えなければならないという葛藤が伺える。
 さて、中2から少年院で過ごしたはずのAだけど、文章力には大いに驚いた。正直、上手いし文才あると思う。語彙力もあるし、言いたい事をどんな順序で書いたら伝わるか、ちゃんと計算された文章だ。そこにAが自身に酔ってる感がものすごく漂ってて、「あ、こいつ反省してないな」と思った。Aが自分の内面を語る時の純文学っぽい自己陶酔が、快楽殺人を犯したあの時と、根底は変わってないように思う。文章からして、被害者を晒し物にしたあの時の目立ちたがりの自己顕示欲が臭う。家族愛とか絆とか、まるで美しく描いてるけど、もはや滑稽。母親の問題行動とか、知らんわけでもあるまいし。
 この本の出版に当たって賛否両論というか、否定的な意見をかなり多く読んだ。ご遺族の方々には申し訳ないけれども、私は「賛」の方だ。Aが根本では変わってない事を世に知らしめるという意味があったと思う。精神鑑定した人とか、更生に携わった人とか、良い結果を出すことを求められた人が書いたんじゃ意味ない。AがA自身の言葉で等身大に語って、結果どうしようもなく自己中心的な変態だという動かしがたい事実を世に知らしめた事は良かったんじゃないかな。あとは執拗なマスコミの存在に期待。懸念すべきは信じられない事にAを崇拝する若者が存在するという事だけど・・・。
 加害者が少年法の下に守られ、情報が遮断され、刑罰ではなく更生の機会が与えられる。もし身近にこんなサイコパスがいたらと考えてしまう。同じ市内にいたら?町内にいたら?万が一被害者になったら?もし、我が子が加害者側だったら?そしたら私もAの母のように変な手記を出したり、我が子が這いつくばってでも生き延びることを願うんだろうか。極論の、お前を殺して私も死ぬっていう道を選ぶんだろうか。
 このAをどうするのがベストなのか、どうすればこんな事件が起こらなくなるのか。私の数千倍数万倍賢い人達が考えても結論が出ない事を私が考えても詮無いことなんだけど、色々考えてしまう衝動は抑えられない。これがフィクションだったら、どんなに良かったろうか。
 変な有料サイトを開設してたらしいし、やっぱり更生は無理だったんだと思う。そこからどうすべきだったのか、無知な私にはわからない。一生閉じ込めておくべきだったのか、極刑に処すべきだったのか。ああ、でも無責任に思わずにはいられない。こんな奴、早く死ねばいいのに。
別窓 | [ま行の作家]ま行その他の作家 | コメント:0 | トラックバック:0 |
『母さんがどんなに僕を嫌いでも』  歌川 たいじ
2019-05-10 Fri 09:56
手記 母さんがどんなに僕を嫌いでも
    
母さんがどんなに僕を嫌いでも
手記 母さんがどんなに僕を嫌いでも
posted with amazlet at 19.05.10
歌川 たいじ
PHP研究所  2015.10
売り上げランキング: 114,142
     母さんがどんなに僕を嫌いでも
posted with amazlet at 19.05.10
歌川 たいじ
KADOKAWA  2013.02
売り上げランキング: 85,514



 美しく、人格者で周囲の人から絶大な人気を受けていた母は、家では「僕」にひどい暴力を振るう人だった。父が経営する工場の従業員達、とりわけ「ばあちゃん」に助けられながら育った「僕」は、両親の離婚で姉と共に母に引き取られる。
 離婚が成立してからも母の暴力は続き、母の取り巻きや恋人達にも罵られ、17歳で家出した「僕」。年齢をごまかしながら食肉工場働いて周囲に認められながらも、過去は付いて回って「僕」を苦しめる。
 一念発起して働きながら大学の通信教育を受けることにした「僕」は、学生ミュージカルに入る。美形で人当りの良く人気者の青年・キミツに出会った。母を教訓にキミツの裏の顔に気付いた「僕」だったが、お互い罵り合い、殴り合いながらも仲良くなる。
 その後入社した会社で遮二無二に働き努力の成果が実ったけど、周囲が見えなくなりつつあった。ある日キミツに誘われて飲み歩いていると、同僚のかなちゃんと彼氏・大将を紹介に会って一緒に飲むことになった。「僕」はかなちゃんと大将に毎週誘われて遊び歩くうちに、暗い十代にはなかった青春を感じていた。
 

 たまたま読み始めた歌川さんのブログ。最初から読んでみると、なかなな人生で驚いた。ゲイであることをカミングアウトして生きてる以上それなりに壮絶だとは思ってたけど、虐待やいじめを経験して来たなんて普段のブログからは想像つかない。
 歌川さんは否定しそうだけど、強くて賢い人だなと思う。人に恵まれたと言うより、歌川さんの努力や知性に人が集まって来てる気がする。壮絶な経験をした人がこんなに強く逞しく生きてるのを目の当たりにすると、たかだか無関心や躾けレベルの暴力・暴言がトラウマになって動きを止めたっきり動けなくなった自分が情けなく思う。
 ブログの中でもキミツが一番好きなキャラだけど、この本を読んでもっと好きになった。「親や自分を恨んだりしているうたちゃんが、本当のうたちゃんなの?(中略)もっとその奥に、本当の本当のうたちゃんがいるような気がしてならない」と言う言葉。資産家の息子らしいから、きっと色んな人を見てきたんだろうな。
 歌川さんの体の傷を知ったかなちゃんの「うちの子になりなよ」と言う言葉も、もうね、顔面が滂沱ですよ。
 少しずつ過去と向き合えるようになってきて、とうとう母親と連絡を取り合えるようになった歌川さん。他人から見たら最後の母親のセリフでこれまでのことが帳消しになるはずもない。でも、歌川さんは母と子の時間を過ごす事ができたことを幸せだと言う。正直、そんな簡単に幸せ感じちゃうの?って思わなくもないけど、やっぱタイトル通り「母さんがどんなに・・・」なんだろう。
 マンガ版と手記版どっちを読むか迷ったけど、どっちも歌川さんが書いてるならどっちも読まないと理解は深まらないと思って両方読んだ。マンガはコミカルに描いてるし、手記版も穏やかな敬体で書いてあって、内容とちぐはぐだ。そこにキミツが言ってた「恨み節じゃない本当の歌ちゃん」があると、勝手に思ってる。両方読んで良かったと思う。
 去年だったかな?私が住んでる県に歌川さんが講演に来た。1500円くらいのかなりリーズナブル設定だったにも関わらず、ちょうどマジ金欠だった私。当選連絡が来たのに行かないことにしてしまった。貯金くらいあるんだから、行っておけば良かった。
別窓 | [あ行の作家]あ行その他の作家 | コメント:0 | トラックバック:0 |
『平成くん、さようなら』  古市 憲寿
2019-05-07 Tue 00:18
平成くん、さようなら
古市 憲寿
文藝春秋  2018.11
売り上げランキング: 4,932


 安楽死が合法的に認められた近未来的な日本を描いた話。
 「私」こと瀬戸愛は、平成を象徴する人物である「平成(ひとなり)」くんと同棲している。聡明でクールで合理的な平成くんは、ある日突然、「安楽死を考えている」と「私」に告げる。平成の時代と共に終わった人間になるという理由に納得できないまま、愛は平成くんと一緒に安楽死の現場に見学に行った。
 そんな折、年老いた愛猫ミライが重い腎不全を患った。平成くんもミライを可愛がっていたが、「私」の不在時に容体が悪化したために勝手に安楽死させて火葬してしまっていた。少しでも長く一緒にいたいと思っていた「私」は、苦しむミライを見ていられなかったと言う平成くんに激怒する。


 知的毒舌全開の古市さんが結構好きなんで、読んでみた。
 冒頭からラブグッズの話とか、いきなり心折れそうになる。テレビの中の人とはいえ見知った人が描く性的な場面表現って、セクハラ場面を目撃したような気まずさがあると思う。ましてや古市さんは「キスは汚い」とか発言してることもあり、こんな場面が出てくるなんて想像もしてなかったのに初っ端からなんて。安楽死の話とギャップになる話題を選んだらそうなったのか?まだ物語に入り込んでもなくて、これが古市さんの本か―とか思ってる時に、これは嫌だった。
 とはいえ性的な接触を嫌う平成くんや、 同棲してるのにどこか淡泊で、お互い踏み込み切れてない雰囲気とか、やっぱ古市さんみたいな変人を想像してしまう。そう思うと、知らない新人が書いた小説よりも彩りが見えて面白かった。
 UBERが頻繁に出てくるだけで未来っぽいと思ってしまったけど、よく考えたら平成が終わりゆく話をしているんだから現代なんだろう。安楽死が合法化した、別の世界の話なのか。安楽死が許されている世界で、平成くんの死に対する考え方が非常に他者を遮断している感じが羨ましくもある。心残りとか、自分の死で誰かが深く悲しむのが嫌だとか、そういうのはないんだな。
 平成くんのキャラとか、それを時々振り回す愛ちゃんとか、作品の雰囲気は面白い。でももうちょっと、安楽死の歴史を深く読みたかったな。きっともっと激動の何やかんやがあったに違いないのに。
 で、安楽死がどうのこうのと散々言っておいて、
 死んで誰からも忘れられるのは悲しいこと、身近にいる人の大切さに気付くこと、自分の中にある物を誰かに覚えてて欲しいと気付くことが結末なのが、ちょっと興ざめ。なかなかベタな結論になったなぁ。もっと違った境地が見られるのかと思ってた。そもそも安楽死の理由が本当は徐々に盲目になる病気って、ちょっとそれは死を冒涜してる。目が見えなくなって死にたくなる気持ちあり得そうだけど、小説の題材にするにはもっと慎重にやって欲しい。
 愛ちゃんにとって平成くんは過去の人になったようだけど、平成くんは結局、死んだんだろうか、どこかで何かして生きてるんだろうか。平成は終わって、令和になったよ。元号が変わるって、こんなに賑やかで華やかで感慨深いって思わなかった。古市さんにとって、思った通りの改元だったろうか。
別窓 | [は行の作家]は行その他の作家 | コメント:0 | トラックバック:0 |
| よむよむ記 |