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元司書による読書備忘録ブログ。思ったことは全部書き、何様気取りの感想だったり平気でネタバレしたりします。
『月の満ち欠け』  佐藤 正午
2018-06-19 Tue 10:57
月の満ち欠け
月の満ち欠け
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佐藤 正午
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 15年前に事故で妻子を亡くした小山内は、娘・瑠璃の記憶を持つという7歳の少女・緑坂るりに会うために八戸から東京へやって来た。小山内は前世の記憶を垣間見せるるりに苛つきながら、彼女らと共通の知り合いである三角の事を思い出す。
 八戸の実家で母と暮らし、連れ子のいる恋人もいる小山内に、亡くなった妻の友人の弟・三角という男が訪ねて来た。彼は姉の友人の夫として訪ねたわけではなく、30年以上の長い物語を語った。
 三角が学生時代にバイトしていたレンタルビデオ店で、ひょんなことから瑠璃と名乗る年上の女性と知り合った。忘れられずに数少ない手掛かりの場所に通って再会を果たした三角は、人妻と知っても彼女にのめり込んでいく。もし死んだらもっと若い美人に生まれ変わって再会すると言った瑠璃は、その1週間後に電車のホームに転落して亡くなった。三角が初めて知ったフルネームは、正木瑠璃だった。
 彼女は小山内の娘・瑠璃に生まれ変わり、18歳になって三角を訪ねて行く途中で事故死。その後も別の胎児に宿り、母親に瑠璃と名付けるよう夢で語りかけ、生まれた後は7歳で原因不明の高熱からの回復をきっかけに正木瑠璃の記憶を少しずつ思い出していくのだと言う。


 物語の始まりが男女の揉め事調なせいで、物語の方向性をミスリードされてしまった。離婚した妻と子供?いや、婚外子を巡る問題?え、まさかのオカルト!?みたいな。時系列も視点もあちこち行き過ぎて混乱しかける。でもちゃんと考えれば理解できるように描かれている上に、構成の緻密さに鳥肌立つ。全体の主観が瑠璃でも三角でもなく、小山内氏という点も一番客観的で、得体のしれない空恐ろしさに加担していると思う。
 小山内ファミリーの話、三上の学生時代、正木の身を持ち崩してからの立ち直り。その間にちょいちょい挟まれる小山内氏とるりのやり取り。生まれ変わった先が全くの他人じゃない点も、場面展開があいまいな部分も混乱に加担し、何度か戻り読みして何とか理解できた。えーっと、三角青年と不倫した瑠璃は死後、三角の姉の友人の娘・小山内瑠璃に生まれ変わって18歳で事故死。で、正木が勤める工務店の娘・小沼望美に生まれ変わって7歳で事故死。で、小山内瑠璃の親友・緑坂ゆいの娘・るりに生まれ変わった。・・・なんだこの人間関係。
 何度死んでも、三角に会うために月の満ち欠けのように生まれ変わる。その執念が妙に淡々と描かれているところが、切ないと言うより不気味だった。どうでもいい描写は丁寧で美しいけど、三角の恋心や生まれ変わった瑠璃も、求めて止まないというより運命に身を任せているような感じ。出会えないもどかしさもないし、やっと会えた歓びも意外に静かだ。この独特な起伏のなさは、ドラマチック過ぎるより好きかも。
 残念なのは、瑠璃がちょっと思慮が浅い点かな。正木瑠璃は三角の前では掴みどころのないイメージだけど、夫・竜之介の前では大人しくて従順で何がしたいのかよくわからない。でもまあ、そういう女性はよくいるとは思うし、引っ張っていくタイプの男性と結婚して思考停止してる場合もよくある。けど、小山内瑠璃は、正木瑠璃の27年分の記憶があるならもっと要領良くやれるんじゃないのか。ランドセルのまま千葉から東京まで行くとか、高校卒業するまで父親の言いつけを守って三角に会いに行かないとか。次の小沼望美も、三角に連絡するために単身で正木のとこ行くとか、駄目でしょ。緑坂るいは成功したけど、その手段も27+18+7+7年を生きた女性のやり方とは思えない。で、やっと出会えたけど7歳の少女と50歳過ぎた男性の運命の再会。きっついわー。大騒動の挙句の再会に、三角にベタつくるり。これ三角、建設会社の部長を懲戒免職になるんじゃなかろうか。
 この、美しい純愛じゃなくて執着による歪んだ愛に思える点は、さすが直木賞受賞作だと思う。でも、終盤に出てきた小山内氏の妻・梢も、小山内氏の恋人の娘・みずきに生まれ変わってる可能性の部分は、妙に我に返らされて興ざめだった。そんなにあちこちに生まれ変わりがあってたまるかって。
 これ、男性じゃないと書けないと思う。年若い女性じゃこの執着は描けないと思うし、私は今まで大切に育ててきた我が子の中身が別の誰かに乗っ取られてるとか考えたくもない。7歳の娘が、50歳超えた男を女として愛してるとか醜悪だ。あと10年後に同年代の彼氏との他愛のない事で悩む陽であって欲しい。小山内氏の妻は、一体どんな気持ちで娘を三角に会わせようとしていたんだろうか。
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