元司書による読書備忘録ブログ。思ったことは全部書き、何様気取りの感想だったり平気でネタバレしたりします。
『現場不在証明(アリバイ) ミステリーアンソロジー』
2017-08-03 Thu 00:51
現場不在証明(アリバイ) (角川文庫)
赤川 次郎 有栖川 有栖 今邑 彩 黒川 博行 姉小路 祐
角川書店   1995.08
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「二つの顔」  赤川 次郎
 人気タレントの有沢道彦と瓜二つのサラリーマン・西崎岳矢は、時々入れ替わって有沢の息抜きに協力していた。ある日いつものように入れ替わった西崎はマネージャーの花岸にもバレることなく有沢のマンションに到着したが、学校新聞の記者だと言う女子高生に押し掛けられてインタビューを受けた。
 唯一秘密を知っていた恋人の光子が有沢と浮気をしている事を知った西崎は、会社で隣の席の三宅敏子に話を聞いてもらうと同時に彼女に惹かれるようになっていく。そんな矢先、自分を有沢と思い込んだままインタビューをしてきた女子高生が電車に飛び込んで自殺したことを知り、有沢の仕業だと考えた。
 そんな折に来た有沢からの依頼を断った西崎だったが、殴られて服を盗られてしまう。仕方なく有沢の服を着て出て行こうとした際に花岸を突き飛ばして、家に帰った。
 翌朝、光子が殺されたと警察署に連れて行かれた西崎は、有沢との事を話したが信じてもらえない。その上、有沢は花岸への暴行で捕まっているという。

 さすが赤川次郎、と脱帽。恋人の浮気、ちょっとした接点があった女子高生への暴行を疑い、そこから自分自身への殺人容疑と畳み掛け、八方塞がりと見せかけておいて、あっさりした形で解決する潔さがいい。抜群の読みやすさ、わかりやすさ、追い込まれて絶体絶命の主人公、それらのまとまりの良さなんか最高だった。作者の50音順のアンソロジーだと思うけど、知名度や人気以上に内容でグッと引き込まれた気がする。
 赤川次郎は小中学生の頃によく読んだけど、今読むとむっつりスケベ感がちょっと笑える。10代の私はたぶんこの人のせいで、世の中の男女間には浮気は付き物だと思ってる節があったなー。
 
「ダブルライン」  姉小路 祐
 エリートコースを行き詰っていた多田は、懇意にしていた上司の娘を紹介された。彼女に惹かれるうえ、上司と義理の親子になれば出世も有利になるが、それまで付き合っていたキャバクラのエリからは妊娠したからと結婚を迫られていた。悩んでいるところに同期の狩野川から、エリから話を聞いたと言って声を掛けられる。
 狩野川は横領を証券係のお局・三谷にバレて恐喝されているため、多田に交換殺人を提案した。社内誌に載せる旅行記を書くため一緒に長崎のハウステンボスに行く道中、交互に抜けて殺人を犯す計画に、多田も賛同することにした。
 お互いの殺人が成功して博多からハウステンボスに向かおうとする時、狩野川がエリの死体遺棄現場で煙草の吸殻をうっかり捨ててしまったことを思い出した。証拠を回収するために戻った狩野川とはハウステンボスで待ち合わせたが、いくら待っても狩野川は戻って来ない。何かあったのかと東京に戻った多田だったが、会社では狩野川が何食わぬ顔で仕事をしており、問いただしても怪訝な態度をとるばかりだった。多田が殺害した三谷は来ていなかったが、狩野川が殺害したはずのエリからは会社に電話が掛かって来た。

 1話目のスッキリ結末とは打って変わって、モヤッというかイラッとした。多田は学歴エリートらしいけど、エリの狂言妊娠を疑わなかったのはなぜ?狩野川が殺したと言うエリが本当に事切れてるか確認しなかったの?煙草を捨てたの見てたのに吸殻残しちゃいかんと思わなかったの?狩野川が先に殺したからけど、殺人なんて大それた事なのに「やっぱ俺はできない」ってならなかったの?
 動機の薄さ、追い詰められたってほどじゃないのに働かない殺人へのリミッター、学歴高い設定なのに賢さの片鱗のなさ、そして前半は主人公だったのに精神を病んで終了。
 あと、このモヤッとした内容がトラベルミステリー仕立てなのも、ちょっと気持ちがついていかない。
 そして一番言いたいのは、この時代のハウステンボスは30歳前後の野郎2人で行くとこじゃない!比べてるディズニーランドでさえ野郎2人で行くとこじゃないけど、ハウステンボスに野郎2人は目立つよ。無理あるよ。史跡巡りの方がマシだよー!!!と、ハウステンボスの名前が出る度に変な笑いが出そうになった。


「ローカル線とシンデレラ」  有栖川 有栖
 土曜の夜、スナック『えいぷりる』に集まった常連客、紳士服店の猫井、歯医者の三島、写真館を営む床川夫妻、レンタルビデオ店を経営する私こと青野良児は、山伏・地蔵坊の話を聞くことを楽しみにしている。この日の地蔵坊は、ある事件に出くわした時の話を始めた。
 ある時、置き石があって到着が遅れたローカル私鉄に乗った地蔵坊は、ご当地出身の女優・星野舞と乗り合わせる。その列車で白いコートの男が殺されていた。駅員や車掌の証言によると、見慣れない黒いコートの男が乗っていたそうだ。黒いコートの男は、列車の窓から飛び降りて逃走したらしい。殺されたのは舞の熱狂的なファンである米沢卓也という大学生だった。
 何人かに話を聞くうちに、地蔵坊は置き石があったと言う場所が人によって違う事に気付いた。

 全員が犯人だったっていうアガサ・クリスティーの有名な推理小説があったと思うけど、それを思い浮かべずにはいられない。読んだことないんだけどね、アガサ・クリスティー。ああ、未読のくせに書かずにはいられないのが、我ながら恥ずかしい。
 架空の駅が数駅出た時点で残念な頭の持ち主である私はやや混乱してるけど、単純なローカル私鉄の設定だからわかりやすかった。ただ、あっさりテイストなのがちょっと残念。事件と事件関係者はあっさりしてるんだけど、強烈なのは山伏・地蔵坊。胡散臭さに、逆に好感を覚えてしまう。
 さらにちょっと気になるのは、ラスト。レンタルビデオ店経営の「私」なら星野舞が誰なのか知ってるんじゃないかと聞かれ、「さぁね」と答えるんだけど、誰だか見当がつかないだけで言ってるのか。それともそんな女優は存在しないけど、皆が楽しみにしている地蔵坊の話に水を差さないための返答なのか。後者であって欲しいかな。好みの問題だけど。
 

「黒白の反転」  今邑 彩
 かつての大女優・峰夏子は、彼女自身が運転する車で事故死した監督・氷見啓輔以外の作品に出たくないと言って人気絶頂の中、引退した。世話役の妹・久代と2人で40年も暮らしてきた彼女達のもとに、大学の『邦画研究会』の5人が訪れる。映画監督を目指す深沢明夫、脚本家を目指す「私」、「私」と幼馴染の美人・安達かほる、かほるを狙っている髭面の熊谷雅人と大手食品会社社長息子の辻井由之は老姉妹の家に泊まる事になっていたが、かほるを巡って熊谷と辻井が些細な諍いを繰り返す。そんな中、かほるは辻井と婚約したと発表した。
 翌日、絞殺されたかほるが物置で発見された。午前2時に峰夏子が物置に入ったため、死体が置かれたのは2時以降だと考えられる。15分置きに鳴る設定のおかげで、それぞれの動線は見えてきた。アリバイのない辻井が怪しいと思われたが、疑われて動揺した辻井は道に飛び出して車にはねられ死んでしまった。

 冒頭の部屋で過ごす峰夏子の様子で、彼女が盲目であることはわかった。見えない事には触れずにとても自然に盲人の生活を描いているところに今邑先生の表現力の繊細さ感じる。
 主人公の存在感のなさがずっと気になってたんだど、推理を深沢に披露し終わって暗に結婚を迫っている様子にはゾッとした。その後の峰夏子の回想にも怖ろしさと悲しさがある。女って怖いってやつか。男がこの手の話を書くと陳腐になるけど、やっぱ繊細な表現力が最後まで効いていた。
 それにしても邦画サークルの5人組の人間関係はひどいな・・・。男3人女2人のサークルで、うち2人の男がかほるが好きなんだと思いきや残りの1人までも。三角関係と見せかけておいて四角関係、と思った直後に五角関係。共学って怖いのね、と女子大出身の私は戦慄。


「飛び降りた男」  黒川 博行
 大阪府警一課深町班に属している吉永誠一は、妻のデコに酒井夫人を紹介された。彼女の息子・保彦が何者かに殴られて救急車で運ばれたが、警察では父親による家庭内暴力を疑ってる様子なので助けて欲しいと言う。管轄の同期に話を聞きに行ってみると、父親ではなく最近頻発している下着泥棒による仕業を疑っていた。
 間もなくして窃盗犯は捕まったが、酒井保彦への強盗傷害は否認している。その後日、仕事中にデコから電話があった。デコの店の客の娘が下着泥棒を目撃したが、男は見付かった際に2階のベランダから飛び降りたそうだ。

 他の話は殺人事件を扱ってるのに今回は下着泥棒と、ちょっと軽めの犯罪。そこにコテコテ大阪弁を話すノリのいい夫婦が出てくると、何となく置いてけぼりな感じがしてしまった。楽しそうなんだけど、ついていけない。
 会話の様子から勝手に中年夫婦を想像してたけど、デコさんが女子大生に成りすますシーンで事件の真相以上に驚いた。大阪弁って何となくおばちゃんを連想しちゃうのは、吉本新喜劇やその他お笑い芸人のせいだろうな。存在感ある主人公なのに、その人物像が目立ちすぎて事件が二の次に思えてしまった。でもキャラクター小説ってほどでもなく事件もキャラも中途半端なインパクトで、何だったんだろうという読後感が残った。
 あんまり笑えない大阪ボケツッコミが続いたけど、もし嫁の下着が盗まれたら犯人を地の果てまで追いかけてブラジャーも渡すという話には笑ってしまった。
 

「百物語の殺人」  高橋 克彦
 浮世絵研究家のは、推理小説作家の長山作治からテレビのプロデューサー・宇部を紹介された。夏に公演する北斎の階段芝居の監修をして欲しいとの事だった。
 制作発表の記者会見では芝居で使う仕掛けを一部公開したが、その直後に宇部が技術室で刺殺されているのが発見された。動機がありそうな劇団員が3人いたが、2人はアリバイがあり、もう1人は残された血の足跡に合わない。稽古場に幽霊が出るという話を容疑者の高松と上田が広めていたが、宇部の死体が発見される直前の仏壇返しの仕掛けのシーンに白い影が映りこんでいた。

 トリックや動機は大した事なかったけど、人物模様で面白く読めた。主人公が浮世絵研究家で友人がミステリー作家で紹介されるのがテレビのプロデューサーだなんて大混乱の予感がしたけど、宇部の仕事ぶりばかり描きつつも会話から塔馬の有能さ、長山の気さくさが伺えて面白かった。
 ラストで長山が塔馬の推理を自分の推理として周囲に話したお調子者っぷりには呆れたけど、彼が言う合作するという設定の小説が書かれたなら読んでみたいなぁ。彼らのやり取りをもっと読むために、このシリーズをいつか読んでみたいと思う。


「凶悪な炎」  深谷 忠記
 西多摩郡で火事現場で焼死体が見付かり、ホステスの白河恵利とスーパー経営者・石岡康明と判明した。火は外側から中へ燃え広がっており、二人は睡眠薬と鮭を飲んでいたために放火殺人として調査される。
 当初身元がわからなかった男性について、父ではないかと訪ねてきた夫婦によって石岡康明であるとわかったが、恨みを持つ人間には心当たりはないと言う。
 工藤刑事と松木刑事は、恵利に借金をしている大泉正雄が別荘に火を点けたと思われる女性を見たという証言を得て徹底的に調査したが、怪しい女は浮かんでこない。工藤は同じ警察官である恋人・ケイから娘の美千代が怪しいという助言を受けて、美千代の母親であり康明の妻である瑞江を訪ね、美千代のアリバイが不確かであることがわかった。その直後、美千代が遺書のコピーを残して母を絞殺し、自宅に火を点けて自殺した。

 本庁捜査一課殺人班の刑事を目指す恋人・ケイの安楽椅子探偵ぶりが魅力・・・なのか?いや、この短さじゃケイの魅力は生きてなくて、工藤達の詰めが甘いだけな気さえする。さらに確たる証拠が、全てが書かれた美千代の日記というのもちょっとショボい。もっと推理力で追い詰める展開が欲しかった。
 夫婦間で日記を盗み見るって何だよ。もう1冊真の日記が隠されてたって、中二病かよ。いい大人が夫に盗み読みされているとわかってる偽日記に、「ああ、わたしたちは、なんということをしてしまたのだろう。」なんて書いてるって滑稽。この辺の不自然さというか、無理やり感というか、都合良さというか、そういった物を感じてしまった。
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