元司書による読書備忘録ブログ。思ったことは全部書き、何様気取りの感想だったり平気でネタバレしたりします。
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『ロシア紅茶の謎』  有栖川 有栖
2017-03-31 Fri 15:32
ロシア紅茶の謎 (講談社ノベルス)
有栖川 有栖
講談社 1994.7.28
売り上げランキング: 69,343

 作家アリスシリーズの3作目で、シリーズ初の短編集。


「動物園の暗号」
 大阪の動物園の猿山で、飼育委員が撲殺された。被害者は暗号やパズルを作るのが好きで、右手に自作の暗号を握りしめて絶命していた。
 大阪府警の船曳警部が火村助教授に助けを求め、火村英生助教授から「推理小説家好みの事件が起きたから一緒にこい」と呼び出された「私」こと有栖川有栖。火村と一緒に、暗号の謎に取り掛かる。
 
 有栖川有栖さんの作品を出版順に読んでいるけど、ずっと長編ミステリーだったんで今回もそのつもりで読み始めてたんでちょっとびっくり。どうりで暗号の謎が解けるの早いと思った・・・。
 それにしても有栖川さんの短編、いいね。元々心理描写があっさりしてて、ロジカル重視で感情移入皆無の作品を書く人だけど、短編だとそのあっさり感が読みやすさとわかりやすさを生んでると思う。被害者が作った暗号の答えがたまたま加害者の事で、絶命間際にポケットから取り出すという辺りにはやや都合の良さを感じなくもないかな。
 あと、警察が火村を呼び出すのが早過ぎるのも疑問。警察、頼りなさすぎ。もうちょっと捜査してから外部の手を借りてくれないと、私が関係者で事情聴取を受ける立場だったら不信感出しまくるし、クレームの電話もするし、マスコミにリークするかもしれんわ。
 ところで、確かアリスって大阪市内に住んでたはずで、市内の動物園といえば天王寺動物園!?偶然にも、ちょっとした用で大阪行くついでに家族で天王寺動物園行くつもりの時にこの小説を読んだんで、内心盛り上がった。小説内では阿倍野動物園って書いてあるけど、天王寺区じゃなくて隣の阿倍野区にあるって設定がわかったのも嬉しい。ただ、帰ってからこの感想を書いているんだけど、猿山なかった・・・。猿系は、基本的に檻に入ってた。猿山は必要でしょ、天王寺動物園。


「屋根裏の散歩者」
 またまた火村に呼び出された有栖川有栖は、船曳警部と共に殺人現場に向かう。アパートを経営している独居老人が殺害されたが、彼はアパートの屋根裏を歩き回って住人を覗き見して日記に綴る趣味があった。日記によると、住人の中に巷で騒がれている女性連続殺人事件の犯人がおり、その人物にそれとなく探りを入れたらしい。5人の住人を記すときには「大」「太」「く」「卜」「I」と記されて、誰の事かわからない。
 聞き込みが終わった火村は、夜中に出直したいと言った。

 連続殺人事件犯に覗き趣味と、大小はあれど二つの異常性が面白かった。ただこの話、火村さんの推理は光ってなくない?行動力の問題というか、夜中に屋根裏から覗いてみるのは警察がやるべき仕事だったのでは?いや、大家殺しで自重するだろうから、張り込みやら家宅捜索やらの手間を省いたって事なのか。
 「大」と「太」の違いは、ちょっと微妙な気分になる。いや、わかりやすいというか、ユーモアって言い分もわからなくもないんだけどね。我ながら、小娘じゃあるまいしと思うけど、何か微妙な気分になる。良し悪しは置いといて印象には残ったから、被害者のダイイングメッセージがわかりにくいながらも面白いかな。


「赤い稲妻」
 夜の雷雨の中、京都府内のマンションでアメリカ人女性モデルが転落死した。目撃証言によると、バルコニーで誰かともみ合った末の転落らしい。しかしマンションは鍵もチェーンも掛けられており、犯人が脱出した形跡はない。京都府警の柳井警部に頼まれて現場を訪れた火村は、その奇妙な事件に有栖川も呼び出した。
 被害者のパトロンは、妻が踏切で電車と衝突事故を起こして死亡したために亀岡警察署にいた。事故の時刻は、モデルが転落死した時間と30分ほどしか変わらないかった。

 目撃者が火村の教え子という事もあって呼び出されたらしいけど、こういう美味しそうなネタは長編でじっくりやって欲しかった・・・。これ、目撃者が誰であろうと視力さえ良ければ成り立つ話で、設定の無駄遣いに感じる。生徒から見た助教授・火村像やら、犯罪学をちょろっとレクチャーする図とか、見たかった。
 トリックは面白かったし、火村が犯人を追い込むシーンもかっこ良かった。
 

「ルーンの導き」
 火村の下宿先を訪ねた有栖川は、何か面白い話があれば聞いてやると話を振る。火村は、2年ほど前に起こった事件を話し始めた。
 英都大学のイギリス人講師が嵐山のログハウスで殺人事件に巻き込まれ、火村を呼んだ。刺殺されたアメリカ人被害者は、ルーン文字が書かれた石を4個握りしめて絶命していた。火村は馴染みの柳井警部と共に現場検証と事情聴取を行う。

 今まで火村の人間関係は大学来の友人である有栖川と、フィールドワークの重要な協力者である警察しか描かれてなかったけど、ちゃんとお友達いるんだね。根暗な変人と思っててスンマセン。まあ、友達というより同僚っぽいけど。
 関係者が外国人だらけでちょっと戸惑ったけど、混乱するまでもなくすぐ解決したのが短編の良いところ。外国文学では毎度誰が誰だかわからなくなる私だけど、人物紹介を兼ねた事情聴取の後にすぐ解決編に入ったから読みやすかった。ダイイングメッセージのわかりにくさと状況証拠のあやふやさは、ちょっと引っ掛かるかなぁ。一応私も元司書なんで、和書のISBNは4から始まるのも知ってる。英語は0と1、フランス語が2、ドイツ語が3、とか一応知識はあるけど、これが超身近だったとして死に間際にこんな曖昧なダイイングメッセージ。うーん、藁をも掴む感じで残す・・・?殺された事ないから、わからなくて当然か。でもなんかこう、わかる人にしかわからない暗号の登場はモヤモヤする。というか、思わせぶりだったルーン文字は関係ないのかよっ!とも思うし。
 死にゆく被害者の気持ちはわからないから置いといて、多国籍な集まりだったり、出版が絡んでたり、ルーンの占いでミスリードしておいたり、ジョージの中国表記が「佐治」という偶然があったりで、トリックありきのストーリー感がちょっとすっきりしない読後感を醸してるかなぁ。


「ロシア紅茶の罠」
 有栖川を訪れていた火村に、兵庫県警の樺田警部から電話があった。火村が興味を持ちそうな事件が起こったという連絡に、有栖川と共に神戸に赴く。
 自宅パーティーの最中に、家主である作詞家が毒殺された。妹が淹れたロシア紅茶を飲んだ直後に絶命したが、犯人がどのようにして毒持ち込み、どうやって盛ったのかさえわからなかった。集まったメンバーは、妹以外は全員恋愛絡みで被害者を恨んでいた可能性があった。

 前作『ダリの繭』で出てきた兵庫県警の樺田さん・野上さんコンビ再登場。『ダリの繭』を読んだ時には気付かなかったけど、野上部長刑事ってドラマでは優香演じる小町ちゃんか。野上は自分の凡才を棚に上げて火村を目の敵にしてる姿がちょっと腹立つけど、優香は可愛かったから目の保養にはなってて、私的には良い改変だったと思う。むさいおじさんより可愛い女性がいいのは当然だし、若すぎない優香を使ってるのも良かった。演技は上手くはなかったけど。
 さてこの話、表題作だけあって一番トリックが面白かった。真ん中に毒を閉じ込めた氷を口に含むという、自殺行為ギリギリの殺人というスリルが加害者の深い気持ちを表していると思う。その命懸けの殺人を火村が暴き、火村を快く思ってないはずの野上がすかさずサポートするとこが面白い。
 あと、現実ではあり得ない推理小説あるある的なサイトを最近読んだんだけど、青酸カリって殺すなら意外と量が要るし、独特の味と臭いがあるらしいから紅茶みたいな繊細な飲み物だとバレると思うし、もし犯人の口で溶けたとしてもすぐ吐き出してうがいと胃の洗浄すれば大事には至らないはず。ということは、死を掛けた殺人ってほどじゃない。でもって何より、紅茶冷めない?なんて考えながら読むと滑稽だけど、リアリティよりファンタジーと思って読めば、やっぱ一番面白かった話だと思う。
 樺田さんには有栖川向けの事件とか言われつつ、結局火村が解決してる。あれ?デジャブ?と思ってページを戻ると、一話目でも有栖川が期待されつつスベッてたな。
 ところで、最後のやり取りがいただけない。「俺だって、胸を掻きむしられるような想いをしたことはあるさ」「本当か、先生」「多分」という会話、それって有栖川にってことじゃないですよね・・・とBL嫌いの私でも思わずにはいられない唐突さ。こりゃラノベ化した時にやたらBLっぽい絵になるはずだわ。対象が完全に婦女子やん。
 作家アリスシリーズはまだ序盤だけど、ち、違うよね?変な展開になったりしないよね?うーん、どうもこの本に入ってから2人の関係が怪しいというか、男臭くなさすぎて気持ち悪いんだよなぁ。ドラマの終盤も、愛の告白めいててキモかったし。独身社会人同士の友人関係って、もっとこう・・・。あれ?どんなだっけ?そういや、そういう本ってあんまり読んだことないな。せいぜいIWGPのマコトとタカシとサルくらいしか思い付かない。やっぱ、有栖川の必要性の薄さが駄目だと思う。


「八角形の罠」
 有栖川が書いた推理劇の練習を見学に来た有栖川と火村だったが、劇団内の揉め事が起きたので席を外している間に男優が毒殺された。被害者の襟元には蛍光塗料が塗られており、練習室の電気が突然消えた隙に毒を注射したようだ。8人の劇団関係者達は恋愛関係や借金や劇団の脱退を巡る問題などで複雑な人間関係を抱えていたが、殺人に発展するような深刻な問題はなかったという。
 兵庫県警から樺田警部と野上部長刑事が捜査に当たる最中、別の男優が煙草を吸った途端に苦しみ出した。

 この小説は、作者の有栖川有栖さんが実際に原案を書いた犯人当てゲームイベントをノベライズしたものらしい。1993年に尼崎市の施設で行われたイベントらしいけど、都会って面白いイベントがあるもんだ。それにしても、演目が『八角館の殺人』だなんて、綾辻行人過ぎて笑える。
 これも面白かった。共犯者オチがわかりやすかったのは、実際のイベントでこのトリックを使って犯人当てゲームをしたからだろうな。原案ってことだから、有栖川と火村、樺田警部達は出てこないで事件だけを扱ったのかも。実際当てれた人はいるんだろうか。私は、絶対わからないだろうなぁ。文字で読んだから、犯人は2人以上ってパターンかなって思った程度。犯人を当てるなんて無理に違いない。
 それにしても、自分が原案を書いた舞台を火村に観せたがって稽古に呼ぶなんて、なんかこう・・・私の知ってる三十代男同士の友情ではないんだよなぁ。じゃあ具体的にどうかと言われると難しいんだけど、時々居酒屋なんかで会って「舞台の原案書いたんだぜ」とか自慢する程度なイメージ。舞台が観に来れないから稽古だけでも観て欲しいって、何か気持ち悪い仲だなぁと思う。


 暗号、ダイイングメッセージ、技巧を凝らしたトリックと、本格ミステリーが短編でキュッと詰まってる感じで面白かった。と同時に、色んな設定が判明したのも読んでて楽しかった。主人公2人の年齢が、「ルーンの導き」までは33歳なのに「ロシア紅茶の謎」では34歳になっててちゃんと加齢してたりとか。有栖川は名目上、火村の助手という事で殺人現場に同行させてもらってるんだとか。大阪府警、京都府警、兵庫県警の3府県の警察捜査一課と懇意にしてるんだとか。小説に描かれている以上に、火村が解決した事件や有栖川も同行した事件が存在することが匂わせてあったりとか。
 シリーズ1作目の『46番目の密室』で有栖川は初めて火村のフィールドワークに立ち会ったって言ってて、『ダリの繭』では有栖川の助手名目は出てこなかったと思うけど、『ダリの繭』以降「動物園の暗号」まででいくつか事件に関わったって事か。しかも各県警とすでに数回ずつ絡んでるみたいだから、相当な数の事件に同行させてもらってるのか。私が読んだ事ある探偵物って警察と関わって段々と信頼を得ていく過程も描いていくものがほとんどなのに、既に関係が出来上がってるこのシリーズの描かれ方は斬新に思える。絡んでる事件は全部読みたい!という気持ちと、そこまで民間人巻き込むのもどうなんだろうかという、複雑な気持ち。
 この本では警察がちゃんと時間を掛けて捜査をすれば解決しそうな事件を火村が早期解決というパターンが多かったと思う。「屋根裏の散歩者」では家宅捜索すれば解決しそうだし、「赤い稲妻」では火村も言ってたけど被害者宅を詳しく調べればいずれ逮捕できそう。「ルーンの導き」も、人間関係を徹底的に洗えば判明しそう。暗号は解けなかったかもしれないけど、実際の事件で暗号やらダイイングメッセージをそこまで真剣に捜査するとは思えないし。となると船曳、柳井、樺田は、面子より早期解決を優先する柔軟な方々なんだろうな。
 「作家アリス」シリーズをamazonで検索すると、数種ある新装版の中でも角川ビーンズ文庫版はちょっと異彩を放ってる。昔の有名出版物をラノベっぽい新装丁にして出版して売る手法を聞いたことあるけど、なぜこんなBLっぽい絵柄なんだと情けない気持ちを抱いていた。気になってイラストレーターを検索すると、BL作家。なぜそっち方面に持って行く!?と、世の腐女子を情けなく思ってたんだけど。こりゃそっち方面に行かせちゃうのもわからんでもない展開だわ。2人の関係が2人で完結しすぎてる。火村は有栖川がいなくても解決できそうなのに会いたいから呼び出してるようにしか見えないし、被害者や警察関係の人と話す時は淡々としてるのに有栖川と話す時だけ砕けた話しぶりという二面性。そう言えば、『ダリの繭』では野郎2人でちょっと高級そうなレストラン行ってるし。三十代前半の男友達とちょっといい物食べるって、肉じゃないの?焼肉。食後はキャバクラとか行かないの?私の男の友情像、歪んでる?
 有栖川は『ダリの繭』で高校時代の失恋のトラウマ話をしてたし、「ロシア紅茶の謎」でモデルに見惚れるくらいだからノーマルっぷりが伺える。けど火村がね・・・。ウィキで人物紹介読むと、女嫌いって・・・、待て待て待てーい!そんな設定止めて・・・。この人間関係なら、女好きにしてくれた方が清々しいわ。
 何だか、ミステリー以外のところでモヤモヤしてしまった。
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『アブダラと空飛ぶ絨毯―ハウルの動く城2』  ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
2017-03-21 Tue 23:10
アブダラと空飛ぶ絨毯―ハウルの動く城〈2〉
ダイアナ・ウィン ジョーンズ
徳間書店   1997.08
売り上げランキング: 26,079

 夢見がちな若い絨毯商人のアブダラの店は、ある日店を訪ねてきた男から空飛ぶ絨毯を買った。その夜、絨毯の上で眠ったアブダラは、目を覚ますと自分の空想の中に出てくる庭にそっくりの場所にいて、美しい女性に出会った。<夜咲花>と名乗るその女性は父親以外の男性を見たことがないほど世間知らずだったが、アブダラは彼女と恋に落ちて結婚の約束をする。その矢先、<夜咲花>は魔人(ジン)に攫われてしまった。
 <夜咲花>は自国の王女で、王のスルタンは魔人の存在を信じずにアブダラを投獄したため、アブダラは脱獄して王女を救出することにする。途中、1日1つだけ願いを叶えてくれる精霊(ジンニー)、旅の兵士、猫の<真夜中><はねっかえり>と出会い、一緒にインガリーの魔法使いに会いに行くことになった。
 

 『魔法使いハウルと火の悪魔』はいかにも正統派って感じのイギリスファンタジーだけど、これは中東色がかなり濃い。というか、アラビアンナイトのオマージュ作品になっていて、1巻とは全然違う文化様式が面白い。中東の人って本当にこんな美辞麗句を言うんだろうか。それともこの本の中だけの設定なんだろうか。途中からアブダラが勝手に言ってるだけな感じになってて、それはそれで面白かった。
 アブダラは運命と恋愛感情に突き動かされていくんだけど、インガリーの魔法使いの家で急に1巻の『ハウルの動く城』と繋がった。訪ねた魔法使いはサリマンでレティーと結婚してるし、一緒に旅をしてきた<真夜中>は魔法で猫に変えられたソフィ―で、行方不明の宮廷魔法使いとはハウルの事。前作の主人公が出てきて活躍するって設定、君はここにいてきちんと活躍して生きていたんだねって感じがして大好物だ。
 1巻では「悪魔」が敵だったんだけど、2巻では「魔人」が敵。最後のドタバタ乱闘は1巻のラスボス戦を彷彿とさせて、やっぱりこのシリーズの最終決戦はこうじゃなきゃって思わされた。で、結局ハウルは出てきてないやーん!カルシファーは?マルクルは?と思ってると、ジンの事が片付くと同時に謎は解けた。扱いづらいジンニーがハウルで、物語の序盤から登場していた魔法の絨毯がカルシファー。ジンニー、確かに発言がハウルっぽかった。<真夜中>がソフィーだった時点で気付くべきだった。気付かされないほど没頭してたんで、騙されたけどいい気分。マルクルが出てこなかったのは残念だけど。
 ハウルとソフィーはいい夫婦になってるんだなーとか、ハウルとアブダラも仲良くなれるかなーとか、ジャマールと犬は最初はただのチョイ役だと思ってたけど最後まで大活躍だったなーとか、兵士は実は王子だなんて唐突過ぎて1巻のかかしと同じパターンやんとか、最後の最後に全員が幸せに終わるってやっぱりいいなーとか、幸福な読後感に浸れる本だった。
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『ナミヤ雑貨店の奇跡』  東野 圭吾
2017-03-13 Mon 23:31
ナミヤ雑貨店の奇蹟
ナミヤ雑貨店の奇蹟
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東野 圭吾
角川書店(角川グループパブリッシング) (2012-03-28)
売り上げランキング: 16,458

 1970年代に、どんなくだらない悩み相談にも必ず真剣に返事をくれることで有名になったナミヤ雑貨店。小学生達の些細な悩みに乗るうちに、次第に真剣な悩みも舞い込むようになってきた。悩みを書いた手紙をポストに入れると、返事は翌日裏の牛乳箱に入っているという。
 悩み相談に応じていた店主が亡くなった三十数年後の命日、一晩だけナミヤ雑貨店が過去と繋がる。居合わせたコソ泥3人組は、その奇跡に巻き込まれていく。


「回答は牛乳箱へ」
 敦也・翔太・幸平の3人は、悪事を働いて逃走中に車が故障し、廃屋と思しきナミヤ雑貨店に一時的に身を潜める。夜明けを待って逃走するつもりでいたが、シャッターのポストから「月のうさぎ」と名乗る女性からナミヤ雑貨店宛てに相談事が書かれた手紙が投げ込まれた。
 オリンピックを目標に頑張っているが、恋人の不治の病が発覚した。恋人の傍にいたいが、恋人は2人の夢だった自分のオリンピック出場を望んでいる。自分はどうすべきかという質問に、幸平に引きずられるようにして他の2人も真剣に考え始める。自分達なりに真剣に考えて出した答えにすぐ返事が来たことで、3人は異常を感じ始めた。

 最初の数行から、自分がのめり込むのを感じた。ものすっごい勢いで惹き込まれる。コソ泥に失敗した3人のもとに変な悩みが舞い込むという設定だけでもちょっとワクワクするのに、雑貨店内だけ時間に異変が起こってるって設定が面白過ぎる。ちょっと愚鈍そうな幸平、お人好しっぽい感じの翔太、冷静沈着ながら2人を放っておけないリーダー格の敦也のトリオもいい感じの凸凹感があって憎めない。
 何度かの往復書簡が終わってちょうど収まり良く、まあこんな解決が妥当でしょって所で終わったと思ったらすぐに次の手紙が舞い込んで来たところで第一章は終わり。でもこの第一章は本当に始まりに過ぎなくて、妥当な解決どころじゃなかった。


「夜更けにハーモニカを」
 ミュージシャンを目指して上京したものの上手くいかずに才能の限界を感じていた松岡克郎は、祖母が亡くなったために久し振りに実家に帰る。実家の魚屋を継ぐべきではないかという考えが段々と濃くなっていく中、ナミヤ雑貨店が今でも悩み相談に乗っていった。さっそく知り手紙を書いたが、その返事は辛辣なものだった。
 父の後押しもあり東京に戻った克郎は、児童養護施設「丸光園」に慰問演奏でセリという少女に出会う。彼女は克郎がハーモニカ演奏をした『再生』という曲を気に入ったようだった。

 主人公が変わったのはすぐにわかったから、ナミヤ雑貨店の話は1話だけだったのかとちょっとがっかりした。もう少し第一章の3人の視点でナミヤ雑貨店を見ていたいと後ろ髪引かれつつ読み進んだら、克郎が受け取った返事がどう見てもあの3人が書いた物だったから安心。
 夢を追う青年のよくある話かと思いつつも、ナミヤ雑貨店の前でハーモニカ演奏をした後の返事にはちょっと嬉しくなった。克郎、遅咲きなのかーと思ってるとこのラスト。もうね、感動するよね、この物語の絡み具合。


「シビックで朝まで」
 貴之の父親・雄治はナミヤ雑貨店を営みながら、相談事にも真剣に向き合って返事を書くことを生き甲斐にし、貴之に同居を持ち掛けられても断っていた。しかし体調が思わしくなくなり、息子家族との同居を決意する。
 間もなく、雄治に末期の肝臓癌が見付かり入院生活を送るある日、病床の雄治が一晩だけナミヤ雑貨店に戻らせてくれと頼んで来た。何十年後か先からの手紙が受け取れるはずだと言う。そのために、自分の三十三回忌前に「ナミヤ雑貨店に相談をし、回答を得た方々の忌憚ない意見を手紙に書いてシャッターの郵便口に入れて欲しい」という旨の公表をして欲しいという遺言書を渡した。

 ナミヤ雑貨店の店主だった人はどんな人だったんだろうか、その人に不思議な力があったんだろうか、という疑問が、こんな中盤であっさり解決するなんて。その事にまず驚き。
 父親が頑固を貫こうとしても、奇妙な我が儘を言っても、大して反論することなく付き合っている貴之が優しくて、わけがわからなくてもネットに情報を流す協力をする貴之の孫・駿吾も優しくて、その優しさが奇蹟の一端を担ってることに無駄に感動した。
 妻子持ちの男性と不倫関係の挙句妊娠した女性の相談に乗ったものの、その女性と思しき人物が車ごと海に落ちて赤ん坊だけが助かったという新聞記事から同居を決意したようだったけど、その女性の娘からの手紙で事故だった事が判明する。しかもその人、二章で歌手になったセリと同じ児童施設で育ち、今はセリのマネージャーしてるとか。それから、雄治の死後にナミヤ雑貨店に来た貴之が、かつて相談に乗ってもらったというフェンシング選手の女性に声を掛けられたりとか。前に書かれていた出来事が、ただ通り過ぎるだけじゃなくこの後も響いてきそうな予感がして、読んでて胸が高鳴った。ただチラッと現状を見せただけじゃないに違いない、東野さんは凄い人だから、きっとこの後も絡んできて感動させてくれるに違いない。この後の章でこの期待が当たり、一人で盛り上がった。


「黙祷はビートルズで」
 ナミヤ雑貨店が一夜だけ感想を受け付けるという情報を知って訪れた和久浩介は、近くにあったビートルズ専門の音楽バーで手紙を書くことにする。
 彼はかつて裕福だったが、父親の事業の失敗から夜逃げすることになり、ナミヤ雑貨店に相談したことがあった。夜逃げの最中に父親のことが嫌になって長距離トラックに潜り込んで逃走し、そのまま黙秘を貫いて児童施設に入り、別の戸籍を取得していた。
 彼は自分の人生を自分で切り開いていったつもりでいたが、偶然入ったバーがかつての同級生の妹が営むバーであり、自分の両親が夜逃げした二日後に心中したことを知って愕然とする。

 熱烈なビートルズファンである浩介についていけず、『レット・イット・ビー』やら解散の話やら、ちょっとうんざり気味で読んだのは、まあ仕方ないから置いといて。
 両親、本来なら夜逃げ後はどうするつもりだったんだろうか。まさか、3人で心中するつもりだったわけでは?それとも、浩介がいたからこそ、どこかでひっそりとやり直すつもりでいた?その辺が不明のままで、読んでいてこっちまで苦しくなった。。
 育った児童施設は『丸光園』。これまでは、小さくはないって程度の存在感だった児童施設が、ナミヤ雑貨店と並ぶキーワードになってきた事が感じられる章だった。
 種明かしの順序やテンポが絶妙過ぎて、息を飲むことが増えてきた中盤章だった。
 浩介が手紙を入れに行くシーンで、セリのマネージャーと思われる女性と遭遇したシーンが私的にはツボ。一瞬警戒した様子を見せた女性に対して、手紙を見せてシャッターを指さす。それだけで赤の他人と通じる世界を、雄治が作ったんだと思うと感動が込み上げてくる。


「空の上から祈りを」
 敦也・翔太・幸平の3人は、スマホで一夜限りのナミヤ雑貨店復活の話を知った。その事が奇妙な現象の原因だと考えて出て行こうとする敦也だったが、他の2人は明け方までいたいと言う。そこへまた、相談事が投げ込まれた。
 「迷える子羊」と名乗る女性は、丸光園で小6まで育った自分を引き取ってくれた親戚に恩返しがしたいために会社員を辞めて水商売をしたいと言う。どうすれば周囲の理解を得られ、会社を穏便に辞められるかという相談だった。
 武藤晴美は、近所に住む年上の友人・北沢静子からナミヤ雑貨店の話を聞いて「迷える子羊」と名乗る手紙を出していた。叱咤の返事に苛立ちながら反論の手紙を書き返していたが、最後の手紙は未来を予言しているとしか思えないアドバイスだった。

 3人の視点から急に晴美の視点になったから若干戸惑った。そして、すぐには気付かなかったけど前の章で火事後の丸光園に駆け付けた浩介に声を掛けた女性だったんだね。
 水商売がしたいという女性に対して当然の反応をしていたコソ泥3人組だけど、晴美の生い立ちを知って急に未来人としての助言をする。きっと3人も丸光園の関係者・・・というか出身なんだろうな、と思ってたらビンゴ。いや、東野さんに上手く思考を誘導されたんだろうな。
 丸光園を見舞った晴美は館長の皆月から、彼の姉である前館長の話を聞く。全館長が若い時に駆け落ちまで考えた相手からの手紙の末尾に「浪矢雄治」の文字に、息を呑んだ。とても思慮深い青年だったんだろうし、歳を取ってもこんなに真摯な人間になったんだね。
 んー、でも、不思議現象を前館長の力によるものとするには、ちょっとポッと出過ぎて弱いかなぁ。ま、それが些細な事と思えるくらいの力が、この作品にはあるんだけど。
 ラストが凄く良かった。第3章でナミヤ雑貨店で未来からの手紙を受け取った雄治は、最後に投げ入れられた白紙の紙への回答を書く。その正体はこの最終章での敦也の実験なんだけど、3章で悩んだ末に書いたと思われる雄治の回答が素晴らしくて、参りました状態。そうだよ!地図がないって、最高なんだよ、きっと。白紙って凄いんだよ。頭空っぽの方が夢詰め込めるってドラゴンボールも言ってるじゃん!(思考が迷走し始める)。
 願わくば、罪を償おうとする3人を武藤晴美さんがその力量で助けてくれますように。3人も武藤晴美を手助けして、丸光園をどうにか救ってくれますように。


 めっちゃ面白かった。と同時に、最近の私は自分の好みじゃない本ばっか読んでたなって気付かされた。心震える本との出会いって、やっぱ最高ですな。
 時系列が交錯するから章の冒頭で「ん?」ってなる事もあったけど、最終的には最高の構成だと思った。後の章で人物を掘り下げるこの感じ、読んでて一人で静かーに
 盛り上がる。例えばナミヤ雑貨店の店主の正体って謎のまま終わっても十分面白いだろうに、しっかりと掘り下げてくれている。セリとマネージャーの繋がりはいい感じのチラ見せ具合だし、先に書いたけど和久浩介と無言で通じるシーンで何だか嬉しくなる。3話の白紙がラストに効いてるとこに大感動し、きっとこの3人は今後前を向いて歩いていけるに違いないと期待して、晴れ晴れとした気持ちで読み終われた。
 一章ごと切り取っても十分面白いのに、全部読んだら相乗効果で何倍も面白いところが凄い。東野さんを読むのは相当久し振りだと思うけど、やっぱいいなぁ。でもこの人、作風の幅が広すぎるんだよね。うっかり鬱ラストの作品読んだ日にゃ、数日引き摺ってしまうから、尊敬してるけどファンにはなれないな・・・。
 悩み相談だけあって全体的に暗いけど、何だか温かい気持ちになれるのが不思議。
別窓 | [は行の作家]東野 圭吾 | コメント:0 | トラックバック:0 |
『ダリの繭』  有栖川 有栖
2017-03-06 Mon 00:26
ダリの繭 (角川文庫)
ダリの繭 (角川文庫)
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有栖川 有栖
KADOKAWA (1993-12-31)
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 宝石チェーンのオーナー社長・堂条秀一が、別邸で殺害された。彼はリビングで殺害され、自慢の癒し道具であるフロートカプセルの中で全裸で専用液に浸かった状態で発見される。ダリを模してトレードマークにしていた髭が切り取られていた。
 それぞれ母親の違う弟である堂条秀二と吉住訓夫が財産目当てで殺害したか、それとも鷺尾優子を巡った恋のライバルである長池伸介が犯人か。
 「私」こと有栖川有栖は、吉住とは元々昔の仕事関係の知り合いであり、数日前に共通の知り合いの結婚式で彼と再会していたために兵庫県警捜査一課の警部・樺田から証言を求められる。樺田はアリスの親友であり臨床犯罪学者である火村に捜査の協力を依頼したと言う。火村に同行する形で、アリスも事件現場を訪れた。
 作家アリスシリーズの2作目。


 決して大きくはない人間関係の中で噂や嫉妬が錯綜し、有力な証拠がある容疑者は火村によって覆される。このパターンが面白くもあり、ややお約束感もあったけど、全体的には面白かった。今まで読んだ有栖川さん作品は誰が誰だかわかんないまま巻頭の人物紹介頼りで読み進んでたけど、今回はそれぞれの役割がはっきりしてて人物が人間臭くて、混乱することなく読めて楽しめた。
 読めば読むほど、剛腕だけど繊細だった被害者の人物像に好感が持てて妙に同情してしまう。かなり年下の優子に純粋に想いを寄せる様子も、社長の立場のせいかどこか控えめで切ない。そして、想われ人の優子の聡明さも素敵。
 トリックも面白い。なぜ殺害後フロートカプセルに運び込まれたのか、なぜトレードマークの髭がなくなっていたのか、犯行時刻にフロートカプセルに入っていた吉住の無実は証明されるのか?なぜ凶器は長池が持っている物と全く同じ物が使われたのか?その凶器に企画室室長の相馬の指紋が付いていた理由は?相馬と優子の関係は?と、色んな謎と、それに関する火村の尋問がワクワクする。賢くない私にとっては、登場人物だけじゃなくトリック自体がわかりやすかったのもありがたい。
 でも、相馬に女装癖があることを引き延ばしたのと、優子がハマってる占い師にセクハラされたっぽい事を仄めかす設定、必要だった?優子の浮気疑惑からの相馬女装癖はもっとパッと判明してもいいレベルだし、占い師がやったことは妙に抽象的で不快な後味が残るだけだからもう少し何とかならなかったのかなーと。
 あと大前提にいちゃもん付けるけど、アリスの存在意義が薄い。いわゆるワトソン役なんだろうけど、ワトソンほど役には立ってないというかぶっちゃけ金田一少年の美幸ちゃんよりも役に立ってないし、ただ吉住と知り合いだったから個人的に話が聞けたって点だけかな?火村の「フィールドワーク」においてアリスはおらんでもいいやん・・・って何回も思った。ドラマで見てた時から薄々思ってたけど、原作からしてこうだったとは。火村がアリスをフィールドワークに付き合わせる理由は?作品の参考のために呼んでくれた?だったら横溝正史とか内田康夫みたいに、事件後に探偵から話を聞かされるという設定で十分じゃないか。いや、私がそういう設定が好きってだけなんだけど。
 というか、そもそも警察も素人をあんまり巻き込むなっつーの。樺田警部は口が軽すぎて、そりゃ野上刑事の面白くなさそうな様子も仕方ない。これまで読んだ有栖川さん探偵物はクローズドサークルばっかだから「語り部」としてのアリスは必要だったけど、今回の事件においては変にうろつき過ぎてハラハラする。吉住と旧知の間柄だから関わった以外の役割がもう少しあると、もっと読んでて楽しいと思う。警察が火村を信用している根拠も教えて欲しい。火村がアリスを連れてくることに難色を示さない警察についても、もう少し説明して欲しい。警察と火村・アリスの関係が完成した状態で幕が開いてるから、そこんとこあやふやなのが個人的に気になり過ぎる。
 アリスが火村に作中のキャラクターがいつも似てることを指摘されて「単純に技量の問題や」と憮然とするシーンがあるけど、自嘲なのかブーメランなのか・・・。前者だとは思うけどね。
 とはいえ、アリスと火村の掛け合いが仲良さげで読んでて楽しい。今後もう少し、上記のことを掘り下げてくれると嬉しい。
別窓 | [あ行の作家]有栖川 有栖 | コメント:1 | トラックバック:0 |
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