元司書による読書備忘録ブログ。思ったことは全部書き、何様気取りの感想だったり平気でネタバレしたりします。
『タイタンの妖女』  カート・ヴォネガット・ジュニア
2016-08-29 Mon 05:06
タイタンの妖女 (1977年) (ハヤカワ文庫―SF)タイタンの妖女 (1977年) (ハヤカワ文庫―SF)
浅倉 久志

早川書房 1977-10
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<2005年12月2日読了>
 SF小説。SFって大人向けは初めて読んだけど、壮大な話だったと思う。最初がちょっと入り込めなかったけど、この小説独特の雰囲気に慣れたら一気に読めた。言葉が難しくて、説明を読んでもさっぱりわからない。途中から意味わからないものは飛ばして読んだら、それはそれで読めるもんだと気付いた。「時間等曲率漏斗」とか、結局最後まで意味不明。
 全体を通して運命論的な色が強い。すべてが起こるべくして起こったのか、何かがそう起こるようにしむけてるのかわからない辺りが絶妙。全部意味ある出来事だったのかと思うと、驚かされつつも悲しい話だと思う。宗教というか哲学的な思想が絡んで、これは確かに大作だな。個人的な好みの問題で、2回は読まないけど。
 この本自体は30年くらい前に出版されたんだけど、爆笑問題の太田が紹介してから日本で再び注目され、評価を得てるみたい。『いま、会いにゆきます』でもちらっと出てて驚いたけど、やっぱ賢い人はこういう本を読んでるんだなぁ。


<2016年8月26日再読>
 ウィンストン・ナイルズ・ラムファードと愛犬のカザックは地球と火星の間に出現した「時間等曲率漏斗」に突入し、波動現象として存在することになった。太陽内部からベテルギウス星までの歪んだらせんの内部で脈動し続け、惑星を通る際に実体化する。実体化の折にはラムファード家に見物人が詰めかけるが、妻のビアトリスは頑なに門を閉ざし続けていた。
 ある日ラムファードの要求で、マラカイ・コンスタントが招待された。時間等曲率漏斗に入った際に未来と過去全ての事を悟ったと言うラムファードは、コンスタントが火星で火星人によってビアトリスと番わせられ、水星に行き、もう一度地球を訪れてから最終目的地のタイタンにビアトリスと息子のクロロと共に行くと言う。
 予言通り火星に行ったコンスタントは記憶を失い、アンクという名で意思や記憶を操作された火星陸軍に所属する。自分が手を下した死刑囚の言葉に従って見付けた手紙には、妻と子の存在が書かれていた。アンクは火星軍の地球進撃の際に息子のクロロと妻のビーに会いに行ったが、連れ戻されて地球進撃の相棒ボアズと共に水星に送られた。
 無人の水星で3年間過ごした2人だったが、アンクだけ地球に戻った。ラムフォードが実体化した折りに再会し、民衆の前で彼からアンクは「徹底的に無関心な神の教会」の宗教の嫌悪と怒りの的であるマラカイ・コンスタントであると告げられてビーとクロノと共にタイタンに送られた。
 タイタンにはトラルファマドール星人のサロが住んでおり、唯一の友人はタイタンで実体化したラムファードだった。
 サロはトラルファマドール星から別の島宇宙にを届ける旅に出ていたが、紀元前203117年に宇宙船が故障してタイタンで足止めされていた。母星に故障の報告を送ると、地球上にストーンヘンジ、万里の長城、クレムリン宮殿、ジュネーブ国際連盟本部ビルとして返信された。
 コンスタント達が到着する直前、ラムファードは太陽黒点の影響で体調を崩していた。間もなく爆発が起こり、ラムファードとカザックは太陽系の外へ飛ばされると言う。サロをひどく罵り、メッセージを開封するように要求したが、トラルファマドール星は機械であるために母星で受けた命令に逆らう事ができなかった。
 タイタンに到着したコンスタント達はラムファードから、地球人の行動がトラルファマドール星人によって交換部品を作り届けさせるために歴史を操られてきた事を聞かされる。部品は火星の火炎放射器工場で癇癪を起した支配人がスチールバンドを切り刻み、それをクロノが拾って「幸運のお守り」として大切に持っていた。
 ラムファードとカザックが消えた直後、サロはメッセージを開封する決意をして飛び込んで来た。メッセージにはトラルファマドール星語で「よろしく」と書かれている事をコンスタント達に告げて、サロは自分を分解して自殺した。


 10年前に読んで、わけわかんなかったけど結論としてまあまあ面白かった、これを傑作だと思う人ってスーパー賢いんだろうなって思った事しか覚えてない。今回気が向いて再読して、内容をさっぱり覚えてなかった自分に驚き。辛うじて覚えてたのはおっさんと犬が不思議現象って事と、終盤に唐突に変な宇宙人が出てきた事。あまりにも覚えてなかったから今回は10年後の自分が思い出せるようにあらすじをかっちり結末まで書いてみた。随分削ったのにまだまだ長いけど、10年後もアホであろう自分のために仕方ない。
 さて再読してみて。序盤から4/5はやっぱりつまらないけど、1/5は秀逸だと思った。フィクションの思想や哲学、歴史なんかが退屈で退屈で、特によくわかんない謎の新興宗教辺りは眠くて眠くて目が滑りまくり。この世界での火星や水星やタイタン、トラルファマドール星の説明も、外国文学の言い回しに慣れない上に長々しくて退屈。それがサロの身の上辺りから段々と私の頭が覚醒してきた。もうね、運命に・・・というかトラルファマドール星人に翻弄されるにも程がある。主要人物だけじゃなく、人類そのものがトラルファマドール星人に操られ、時には失敗されるって、これはもう神じゃないか。
 トラルファマドール星人によって、ラムファードは波状現象として存在する身となった。全てを知り不快に思いながらも抵抗できず奉仕しながらも地球のために尽力した挙句、太陽系の外に飛ばされるその無常さ。機械でありながら友情を知り、母星の行いで唯一の友人に罵られるサロの悲哀。最高のトラルファマドール星人であるはずなのに、メッセージを開封して信頼性を損ない、親友を失って能率性が下がり、20万年地球を見守りつつけて予測可能性も衰え、その結果自殺して耐久性も喪失したサロのアイデンティティを失った様子が哀れだった。たった1つの小さな部品を届けるためだけに翻弄された末に、お互い存在さえ知らなかったコンスタントとビアトリス、クロノ母子の使い捨て感も、ラムファードに次いで無常で読んでて呆然とした気分になる。
 タイタンに取り残されたコンスタントはサロの組み立てに取り掛かり、クロノはタイタンつぐみの仲間になり、ビアトリスは本を執筆して過ごしたが、それぞれの関わり方も悲しい。普段は離れつつもお互いを必要としている夫婦と、クロノとは精神的な接近をしているつもりを続けるコンスタントと、時々母親を訪れては対話した句怒り狂って飛び出すクロノ。「すべてはたいそう悲しかった。しかし、すべてはたいそう美しかったという文章に、胸を締め付けられる。
 訳わかんなくてダラダラ長くてSFってやーねって読んでて思ってたのに、最後の最後がやけに情緒を煽られた。思い返してみたら、前4/5ってあんまり感情を表してる文章がなくて感性に訴えるものがなかった気がする。感性に響かないと面白く読めない私には、そこが難しかったのかな。で、最後の最後にぐわーんと揺さぶられる。
 ラストで32年掛けてサロが甦って、旅を続けるついでにコンスタントを地球に送ってくれた。悲しくも完璧なエンディングだと思った。サロの催眠術で死ぬ直前に親友ストーニィの夢を見るコンスタントは人生を終了したけど、サロはこれから一人でまた千八百万光年の旅を続けて、目的地の島宇宙でいるかどうかさえ知れない生命を探す。桁が大き過ぎて、想像つかないにも程がある。というか、永遠とほぼ同義語にさえ感じる。前半の刺々しく荒々しい雰囲気の挙句この結末だなんて、悲しい。
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『エルマーのぼうけん』『エルマーとりゅう』『エルマーと16ぴきのりゅう』  ルース・スタイルス・ガネット
2016-08-22 Mon 11:06
エルマーのぼうけん 3冊セット (世界傑作童話シリーズ)
ルース・スタイルス・ガネット
福音館書店   1993.12.01
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 エルマーは年老いた野良猫から、どうぶつ島で捕らえられて無理やり働かされている子供の竜の話を聞いて助けに行くことにする。クランベリー島行きの船に上手く潜り込み、クランベリー島からどうぶつ島に渡り、行く手を阻む動物達を知恵の力でかわして竜が捕らえられている川までたどり着く。(『エルマーのぼうけん』)
 空を飛んでエルマーの家まで行く途中、嵐に遭ってカナリヤだけが住んでいる島にたどり着いた。そこにはエルマーが昔飼っていたフルートも住んでいて、島中のカナリヤが「しりたがり病」に罹っていると教えられる。王様に話を聞きに行くと、かつて住んでいた人間が埋めた宝が気になって仕方ないと言う。エルマーは宝を掘り出してあげることにした。(『エルマーとりゅう』)
 エルマーを無事に送り届けた竜が家族のいるそらいろこうげんに帰ってみると、砂嵐が止んだために人間達が山に入り込んで竜の家族15匹を捕まえようとしていた。竜は色んな人間に目撃されながらもエルマーに助けを求めに行く。竜から話を聞いたエルマーは道具を揃えてそらいろこうげんに行き、見事に竜の家族を助け出す事に成功する。(『エルマーと16ぴきのりゅう』)


 昔からあるロングセラーだとは思ってたけど、日本語訳版は1963年刊。原書は1948年出版だとか。こんな古くから読み継がれてきたんだと思うと感慨深い。ちゃんと読んだことなかったとか、駄目でしょ私。
 シリーズ物あるあるだと思うんだけど、2巻があんまり面白くなかったけど3巻で大きく盛り返してすっごく面白かった。三部作というより3冊で1話だと思うと、2巻の存在もただの小話としてありかなって思う。でもなくてもいい気がしなくもない。
 1巻ではどうぶつ島の動物達を、3巻では竜ファミリーを閉じ込めている人間達を騙すんだけど、使うのは身近な物だけ。そのせいか親近感があって、エルマーの知恵や機転に純粋に感動できた。
 まあ、あくまで子供心にね。冷静に考えて、そう上手くいくかよっていう綱渡り的な展開・・・ご都合主義まで言うと言い過ぎかな?大人目線で見ると子供騙しなんだけど、こうやって子供目線ではどうとか考えちゃうところに自分の中の純粋さが気持ち悪いほど皆無になってる事に気付かされると言うか何というか・・・もうまっくろくろすけは見えないんだなぁっていうか、そういう感じ。年齢一桁の頃に出会いたかったと思う。

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『ビブリア古書堂の事件手帖5 栞子さんと繋がりの時』  三上 延
2016-08-18 Thu 15:36
ビブリア古書堂の事件手帖 (5) ~栞子さんと繋がりの時~ (メディアワークス文庫)
三上 延
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「プロローグ リチャード・ブローティガン『愛のゆくえ』(新潮文庫)
 「彼女」に告白した「俺」が二ヶ月近く返事を待った末、5月31日に返事を迫る。「彼女」が答えている途中で、プロローグ終了。


「第一話 『彷書月刊』(弘隆社・彷書舎)」
 栞子に告白した「俺」だったが、後日、済ませていないことがあるから5月の終わりまで返事を待ってほしいと言われた。了承したが、お互い意識してしまって口数が減っていて気まずい。
 そんな状況の中「俺」は滝野蓮杖から近隣の古書店に『彷書月刊』のバックナンバーをまとめて売り、しばらくするとまとめて買い戻すという女性がいるという話を聞く。その女性が意図するところがわからず、噂になっていると言う。
 店に戻って栞子さんに話すと、「俺」が外出している間に『彷書月刊』のまとめ売りについて問い合わせの電話が来ていたらしく、話し終わった直後に中年の女性・宮内が訪ねてきた。持ってきた『彷書月刊』には、全て特徴的な書き込みがしてあった。

 いつも通りさらっと解決した何てことない事件だと思ったら、目次にはない「断章Ⅰ小山清『落穂拾ひ・聖アンデルセン』(新潮文庫)が志田さん目線で続いていて一瞬戸惑った。けど、読んでびっくり。解決したと思った件は大輔向けの解決で、実際に宮内さんが探している失踪した旦那さんというのは志田さんだった。謎めいた存在だった志田さんの過去を急に知る事になって、ちょっと嬉しかった。と同時に、一連の事件が篠川智恵子が仕組んだ事のようで、彼女の能力とその応用ぶりが不気味さを増している。
 大輔は返事を待たされつつも意外とぐいぐい行くようになってて、私も志田さんにマルっと同意見。若いっていいよね。
 

「第二話 『ブラック・ジャック』(秋田書店)」
 ビブリア古書堂に、栞子の親友の滝野リュウが訪ねてきた。本の事で相談があるが、大輔が一緒でないと栞子さんが受けないから店舗の方に来たと言う。
 栞子とリュウの後輩・真壁菜名子の両親は手塚治虫の『ブラック・ジャック』マニアだ。母親は他界しており、父親と弟の折り合いが悪いそうだが、その弟が家に5冊ある『ブラック・ジャック』4巻をどこかに持ち出したらしい。出張中の父親が戻る前に、取り戻してほしいと言う。

 第一話から1週間後くらいと思われる辺り。以前に増してイチャついてるというか、栞子さんが大輔に対する気持ちを少し素直に口に出すようになってきていてちょっとニヤついてしまう。とめどない本の話を大輔が喜んで聞いてくれるから嬉しくなるとか、大輔が一緒じゃなかったら本がまつわる厄介事の相談は受けないとか。巻を重ねるごとにちょっとずつ心を開いていく感じが、本当に上手いよなぁ。
 事件の方は、知識量とそれを物語に自然に反映させている点には相変わらず驚かされるものの、父親の気が知れない・・・。妻の死に目に駆け付ける際に貸本屋に寄った理由、話しても良かったんじゃないのか。どうして家族なのに話さないのか。そこんとこがイマイチ納得いかない。
 ところで、この章にも続きが。「断章Ⅱ 小沼丹『黒いハンカチ』(創元推理文庫)」で、今度はリュウ視点。志田さんの次に栞子さん達の情報を篠川智恵子に流してたのは、リュウだった。リュウによると、智恵子さんは栞子さんに本にまつわる謎解きをさせたがっており、大輔が一緒でないとその手の依頼は受けないと知りつつも大輔を疎ましく思っているっぽい。
 ここにきて改めて思うけど、智恵子さんってほんっと何でもわかるんだなぁ。もう、読心術レベル。


「第三話 寺山修司『われに五月を』(作品社)」
 篠川智恵子に会うために、彼女が用意した本にまつわる問題を解くことになった。その栞子を訪ねて、以前盗本を持ち込んで出入り禁止になった門野澄夫という三十代後半の男がやって来た。彼の実家と篠川智恵子の実家が近所で、昔なじみだそうだ。
 先々月亡くなった門野三兄弟の長男が寺山修司のコレクターだったが、死ぬ間際に『われに五月を』を譲ると言ったそうだ。しかし実家で絶縁に近い状態だった澄夫の言葉を誰も信じず、『われに五月を』を持ち出すことが出来ないからどうにかして欲しいと言う。
 彼の実家に行くと、次兄の幸作と、長兄・勝己の妻・久枝が迎えた。書斎にあった『われに五月を』の間に澄夫の小さい頃の写真と、彼が描いたと思われる絵が挟まっていた。澄夫が描いた絵は、寺山修司の直筆下書き原稿の鉛筆書きを消しゴムで消した上に描かれていた。幸作の記憶によると、この辺りから勝己は書斎に鍵をかけ、澄夫に厳しくなったようだ。

 これちょっと、わかりやすいかなー。消しゴムで上手に消せるようになるのって、結構年齢上がらないとできない。増してや澄夫みたいにガサツな子なら、なおさらだと思う。作中ではそれなりに消えているような表現だから、大人が消しているはず。この時澄夫と一緒にいたのは・・・って、わかれよ勝己さん。
 というわけで推理部分には一瞬で興味がなくなったんで、智恵子さん再登場だけを楽しみにしてたら第三話が終わって「断章Ⅲ 木津豊太郎『詩集 普通の鶏』(書肆季節社)へ。栞子さんが智恵子さんに、両親の関係は本当はどういったものだったのかを尋ねる話。
 導かれるように母親について行きそうになった栞子さんだったけど、寸前に大輔の事を思い出して断った。
 

「エピローグ リチャード・ブローティガン『愛のゆくえ』(新潮文庫)」
 断章Ⅲの途中から、「大輔くん」と呼ぶようになった栞子が、大輔に告白の返事をする。自分が母親のように、大輔を置いてどこかへ行ってしまう事が怖かったと言う栞子に、大輔は自分も一緒に行けばいいと答えた。
 2人がキスしようとした瞬間、店のガラス戸に石がぶつけられる。第三話の冒頭で保釈申請をした田中敏雄の置き手紙があった。

 栞子さんが大輔に自分の気持ちを伝えるシーン、とても良かった。大輔が栞子さんに、当たり前のように「俺も一緒に行けばいいじゃないですか」って言うシーンも。
 たまーに田中敏雄の事件にちょっとだけ触れた時なんかに思ってたけど、このシリーズで扱う事件の流れからして田中敏雄の件はどうも決着しているとは言い難いと思ってはいた。とうとう来ましたか、復讐。田中敏雄には、できれば大輔との関係を知って欲しいなぁ。


 全部読んでからプロローグとエピローグに矛盾を感じて、読み直して気付いた。プロローグは栞子さんの両親の話だったんだね。てっきりプロローグに向かって各話が進んでるのかと思ってたら、エピローグが全然違った。騙されたなぁ。
 全般的に智恵子さんの影が濃厚な巻だった。智恵子さんはどうして出て行ったのか、どうして腰を落ち着けないのかは未だに謎なんだけど、解明するだろうか。父親はどうして夫婦の約束を娘達に語らなかったのか。特に、傷ついている栞子さんに語らなかったのかがわからない。自分だけの思い出に浸りたかったとか、そういう事を話すのが気恥ずかしかったとか、そんな自分本位な理由でもいいから、そこのとこも智恵子さんが出て行った理由と併せて知りたいと思う。次で最終巻らしいけど、どこまで判明するかなぁ。第二話もそうだけど、このシリーズに出てくる親子って今一歩踏み込みが足りない気がする。というか、親が子に本音を話さない家庭が多い。前巻もそうだったし、坂口しのぶさんとこの親子もそうだった。仲のいい親子って、2巻の須崎父子くらい?まああそこも父親が訳ありすぎたんだけど。子供への愛情が変化球過ぎてデッドボールになってる家庭が、このシリーズには多過ぎると思う。
 あと、志田さんは次回もちゃんと出てきてくれるだろうか。奥さんに連絡したのかな?家に帰ってせどり屋を続けてくれるのが一番いいかな。
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『邂逅の森』  熊谷 達也
2016-08-15 Mon 08:43
邂逅の森
邂逅の森
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熊谷 達也
文藝春秋   2004.01.28
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 第131回直木賞、第17回山本周五郎賞受賞作品。大正時代に東北地方の阿仁でマタギとして生きた松橋富治の半生を描いた物語。
 貧しい小作農の家に生まれた富治は、父や兄同様マタギを生業に生きていくつもりでいた。しかし地主の一人娘・文枝を孕ませた事により村を追われて、炭鉱で働く事になる。
 炭鉱夫として一人前になった富治が面倒を見ることになったのは、小太郎という悪い奴ではないが一筋縄ではいかない見習い鉱夫だった。ひょんな事から小太郎から尊敬を受けて慕われるようになったために、富治は仕事仲間達から頼りにされる存在となる。
 その小太郎が雪崩で九死に一生を得たことで鉱夫を辞めると言い出した。一緒に自分の村に来て狩猟組を作る提案を一旦は断った富治だったが、射止めたクマを手土産に小太郎の村を訪れる事にした。
 小太郎の家には両親の他に、男漁りに勤しむ姉のイクがいた。そのイクと結婚するという条件付きで村に住まわせてもらう事になった富治は狩猟組を作り、頭領(スカリ)を勤める。
 一人娘のやゑを嫁に出して再びイクと二人で生きて行こうとした矢先、長年熊の肝を買い取ってくれていた喜三郎を介して文枝に会う事になった。富治と文枝の間の子・幸太郎は継父と折り合いが悪かったが、とうとう家出した。富治に会いに来たに違いないと言う。富治の留守中に幸太郎とイクが会ってしまい、イクは富治のためにと家出をしてしまう。イクを説得して連れ戻した富治は、山の神様にタテを収めてマタギを辞めるべきか問うために、狩りに出た。

 深くて濃い・・・。濃厚過ぎて一体どこまであらすじとして書いたらいいのか悩んだ末、結局ほとんど書いてしまったように思う。どんな生き方をする富治も省けなかった。
 マタギ=猟師さんという知識程度しかない私は、冒頭のアオシシ(ニホンカモシカ)狩りで惹き込まれた。方言とマタギ用語が入り乱れる厳しい寒マタギの世界が、幻想的ですらある。でも幻想と言っちゃうと、寒マタギの過酷さが霞んじゃう気がする。想像を絶する世界なんだろう。用語やしきたりが独特だけど、物語の進行を損なわない程度にわかりやすく説明されていて狩りの臨場感が迫りくるような物語だと思う。
 山では完全なる男社会の中でありながら、村での生活で性の話が物語に彩りを付けている。箱入り娘で男を知らなかった文枝との密会に夢中になる富治は、狩りに身を置く姿とは真逆の情動的な様子だった。「夜這い」は現代の考え方から見ると犯罪だけど当時は女性も当然と受け止めて、むしろ楽しみにしている事に驚かされる。ところが地主は夜這いの風習を良しとない人間で、そんな点にも近代思想が少しずつ浸透し始めているところが伺えた。
 地主の差し金で鉱山で働く事になった富治は、文枝に夢中で歯止めが利かなかった頃とは一転してまたストイックで男らしい。寡黙で目上を敬い、目下にも敬意を払っているように見える。前半ではマタギ衆の中でも最若手でいつか腕を認められたいという野心を持ち、文枝との逢瀬を止められない若さ溢れる姿だったのに、村から出て一人立ちするとこんなに立派な青年だったとは。鉱山での生活も、鉱夫を辞める時も、イクを娶るか迷う時ですら、自分と向かい合うとために行動した先に結果が待っているという姿勢が格好良かった。
 「邂逅」とは何だったのか。最初は、獲物との「邂逅」だと思った。読み進めると、もっと荘厳な自然との「邂逅」かと考え直した。でも結局、マタギとして生きた富治が自分自身と「邂逅」したのかなぁと思っていたところに、マタギを辞めるか悩んだ富治が山の神に聞こうと猟に出てヌシを負うと決めたシーンを読んで、神との「邂逅」だったのかと思った。神というか、運命というか・・・。それとも、人との「邂逅」の度に新しい世界が開けていった富治の人生だったのか。
 生きたいという本能よりイクの顔を思い描いて力を振り絞り、使い物にならなくなった足を切断して歩き始めた富治の鬼気迫るシーンは、恐ろしささえ感じた。そこで!?ってとこで終わったけど、その先には穏やかな幸せしかなさそうで、波乱に満ちながらも実直に生きた富治の人生が今後は穏やかである事を願ってしまう。 
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