元司書による読書備忘録ブログ。思ったことは全部書き、何様気取りの感想だったり平気でネタバレしたりします。
2009年2月に読んだ本
2009-02-28 Sat 23:59
『ラッシュライフ』  伊坂 幸太郎 (2/28)
『百瀬、こっちを向いて』  中田 永一 (2/19)
『メディエータ3 サヨナラ、愛しい幽霊』  メグ・キャボット (2/15)
『別冊図書館戦争2』  有川 浩 (2/13)
『名もなき毒』  宮部 みゆき (2/9)
『悪人』  吉田 修一 (2/1)
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『ラッシュライフ』  伊坂 幸太郎
2009-02-28 Sat 16:24
ラッシュライフ (新潮ミステリー倶楽部)ラッシュライフ (新潮ミステリー倶楽部)
伊坂 幸太郎

新潮社 2002-07
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 「金で買えないものはない」がモットーで、ビルのオーナーであり画商でもある戸田と、彼と共に仙台に向かう画家の志奈子。ポリシーに従って仕事をする、ちょっと変わった一匹狼の泥棒・黒澤。高橋を神だと崇める河原崎は、幹部の塚本に高橋を殺して解体しようと持ちかけられた。不倫関係にあるカウンセラーの京子とサッカー選手の青山はお互いの配偶者を殺そうと画策していたが、突然京子の夫の方から離婚を切り出される。豊田はリストラに遭い、家族にも去られ、再就職先を探すも40社連続で不採用となっていた。
 
 場面展開が多すぎて、最初はついていけなくてやや混乱する。とはいえフィクションである以上バラバラだった話がひとつにまとまるのはよくある手法で、いつかどこかで繋がるだろうと気にせずに読み進めていった。
 けど、よくある手法とか思ったのはとんだ大間違い。風景なんかが少しずつリンクしていたから何の疑問も抱かずに読んでたけど、時間軸まで操られていたことに気付かされるのはわりと後になってからだった。え?あれはここに繋がってたの?これはそうなってたの?というシーンがゴロゴロころがってている。リンクアイテムのひとつに「エッシャー展」があったけど、物語自体がエッシャーのだまし絵のようだった。進んでると思ったのに違う時間軸に乗せられてて、少し前に読んだシーンに引き戻される。
 それぞれがぶつかる出来事も、何とも奇妙だ。黒沢は盗みに入ったマンションの一室で大学時代の友人とばったり再会し、語り合う。河原崎は塚本に言われるがまま、解体されていく神・高橋の死体をスケッチしていく。車で人を撥ねて死なせてしまった京子と青山はその死体をトランクに積み込むが、死体は2度も勝手に落ちたうえに気が付くとバラバラになっている。豊田は女から鋏を向けられた犬を助けて共に行動しているうちに、拳銃を手に入れて郵便局に強盗に入った。
 彼らそれぞれに起こる降ってわいたような奇妙な出来事も、時間軸トリックの種が明かされると全てが必然だったと思わされる。この物語作りのセンスの良さは何なんだ。伊坂さんがデビューしてから2作目の作品みたいだけど、この頃から大物になる兆しがキラッキラに輝きまくってるじゃないか。
 『オーデュボンの祈り』の伊藤さんのことが話題に上がったりして、島を出てからそんな所でそんなことしてたのか~とちょっと嬉しくなる。しかしその経験ゆえに、やっぱ何だか変人扱いなんだな。
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『百瀬、こっちを向いて。』  中田 永一
2009-02-19 Thu 23:05
百瀬、こっちを向いて。百瀬、こっちを向いて。
中田 永一

祥伝社 2008-05-10
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「百瀬、こっちを向いて。」
 人間的なレベルが2程度であることを自覚し、目立たないように生きている「僕」こと相原ノボルは、幼馴染みの宮崎先輩から彼女の彼氏であるふりをして欲しいと頼まれた。宮崎先輩は資産家のお嬢様である神林先輩と付き合いつつも、百瀬という少女とも付き合っていた。神林先輩が気付き始めてるため、その疑惑を反らしたいのだと言う。
 「僕」は百瀬と付き合っているふりをするうちに、彼女のことが好きになってしまう。
 理由があって一緒にいるうちに恋が芽生える、というのはよくある話だ。フィクション・ノンフィクションに関わらず、どこにでも落ちている。けど、メリハリが効いてて面白かった。
 最初は宮崎先輩を、何て都合のいい加減なこと言う男なんだろうと思う。でも読み進めると、神林先輩との交際は父親の会社を立て直したいためかと思えてくる。それでもやっぱり百瀬に惹かれたのかなーとか、はっきりとは書いてないけど感じた。こういう、説明は簡潔だけど感じ取れる文章を書ける人って好きだ。
 最後にピリッと引き締まるラストが良かった。

「なみうちぎわ」
 家庭教師をしていた生徒・小太郎を助けようとして溺れたことから昏睡状態に陥った「わたし」こと姫子。5年間の昏睡状態から目が覚めると、21歳になっていた。小太郎は高校生になっており、毎日「私」の様子を見に来てくれていたらしい。徐々に体力を取り戻していく「わたし」のもとに、小太郎は毎日会いに来ていた。
 5年前に助けた子が美形に育って、しかもどうも「わたし」のことを想っているようだという設定に、いやいやそんな都合よく・・・って思う。でも何か、小太郎が抱いている気持ちが明確な“恋心”って感じじゃないのがいい。小太郎をかわいいと思ってしまう私は、もう歳なんだろうか。さらに読み進めると“罪悪感”が絡んでくることがわかるけど、決してそれだけじゃないような。この淡さは、何かいい。

「キャベツ畑に彼の声」
 女子に人気の本田先生に「わたし」こと小林久里子も恋心を抱いていたが、遠くから眺めることしかできずにいる。ある日、人気作家・北川誠二の取材のテープおこしを引き受けた「わたし」は、彼の声が本田先生と同じであることに気付いた。
 提出ノートに、北川誠二=本田先生という疑問を書いて提出した「わたし」は、次の日本田先生から職員室に呼び出される。「わたし」と本田先生は度々話すようになり、彼の妹と住む家で鍋を囲むまでになった。
 前の2編は、あれ?両思い?みたいな感じで終わったけど、この話は片思いのままっぽいな。先生の秘密を共有したこと、さらにその裏にあった事実を当てたことで先生との距離は縮まりはしたっぽいけど。いや、先生の妹の結婚式に出席したって書いてあったから、もうちょい深い仲になったのか?
 片思いの気持ちをキャベツに例えてるのが、上手いようなわざとらしいような・・・。

「小梅が通る」
 「私」こと春日井柚木は美しい自分の顔が嫌いで、普段は「ブスメイク」をして変装していた。ある日素顔の時にクラスメイトの山本寛太に会ってしまい、とっさに妹の小梅だと嘘をつく。翌日学校で、どうやら「私」の素顔に一目惚れしたらしい山本寛太からもう一度小梅に会いたいと言われ、数学のテストで70点以上取れたら会わせてやると約束した。 何かと山本寛太に話しかけられるようになった「私」は、次第に彼のことが気になり始める。しか、その美しい顔にコンプレックスを持つ「私」は、素直になることができなかった。
 なんつーか、かわいい話だな。必死に二役演じる柚木が。そして、オチが。山本寛太のように、最終的にでもいいから女は顔じゃないって言ってくれる男はどれだけいるだろうか。いないだろうなぁ。高校生男子なんて、鏡も見ないで「俺はメンクイ」とか言う奴ばっかだもん。
 柚木と山本寛太の掛け合いが面白かった。

 アンソロジー小説『I love you』『LOVE or LIKE』で読んだ話が2話。その時にも書いたけど、この覆面作家は私が敬愛する小説家・乙一だと言われている。実際のところはわからないけど、文章はよく似てるなっていうのが私の印象。私は乙一の文章が大好きなんで、同一人物か否かは置いといて、よく似た文章の中田永一さんの文章も好きだと思ってる。
 この本はどれも、「ねーよ!」って感じの話ばかり。でも、柔らかい文章なのにさらっとユーモアが効いてたり、ラストにちょっとひねりがあったりして、リアリティの追求から目を背けさせられる。上手いよなぁ。こういうとこも乙一っぽいんだが。
 私的には、中田永一さんは乙一じゃない方がいいな。こんな文章を書く作家が2人に増えるとは、喜ばしいことじゃないか。 
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『メディエータ3 サヨナラ、愛しい幽霊』  メグ・キャボット
2009-02-15 Sun 20:17
メディエータ〈3〉サヨナラ、愛しい幽霊メディエータ〈3〉サヨナラ、愛しい幽霊
Meg Cabot 代田 亜香子

理論社 2006-02
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 自分やポールは、「霊能者(メディエータ)」ではなく「霊界移動者(シフター)」であり、時間旅行をする能力があると知ったスーズ。ポールはその力を使って150年前に行き、ジェシーが殺された事件が起らなかったようにしようとしているようだ。ジェシーが殺されなければ、スーズはジェシーと出会わなかったことになる。それだけは何としても阻止したいと、スーズはポールの祖父に習った方法で時間移動をした。
 無事150年前の世界に行って生きているジェシーに会えたスーズだったが、彼に会ってしまった以上殺されるのを黙って見ていることはできなかった。

 スーズがジェシーと出会えないなんて考えられないと言い出した時は、スーズらしくないと思った。自分の恋心のために、ジェシーはディエゴに確かに殺されてくれないと困るってことじゃないか。これまでガツンガツンと幽霊と戦ってきた威勢のいいスーズらしくなくて、まるで普通の女の子みたいで何か嫌だった。
 でも生きているジェシーに会った瞬間、スーズ自身のエゴは消えた。スーズらしいスーズに戻ってそれでなおかつハッピーエンドだなんて。メグ・キャボットさんならきっと幸せな終わり方してくれるだろうと期待して読んだけど、期待通りのハッピーエンドで大満足。
 スーズが過去からジェシーの肉体を連れて来ちゃった時点で、ジェシーの魂が入ってハッピーエンドか!と嬉しい気分になってそのまま一気に読んだ。最後のダンスパーティの様子とか、幸せすぎ。その中にパパとの別れのシーンが実に効果的。サブタイトルの「サヨナラ」がジェシーのことかと心配しつつ読んだけど、パパことだったようだ。ジェシーがいるからと、消えてしまったパパにじんときた。今までスーズを見守っていくことが、パパの心残りだったんだなぁと。
 シーシーもアダムとくっついたみたで、こちらもハッピー。
 スーズのアクションシーンがなかったのは残念だけど、最後まで楽しく読ませてもらいました。
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『別冊図書館戦争2』  有川 浩
2009-02-13 Fri 00:35
別冊 図書館戦争〈2〉別冊 図書館戦争〈2〉
有川 浩

アスキーメディアワークス 2008-08
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 『別冊図書館戦争1』の続編。

「もしもタイムマシンがあったら」
 タイムマシンがあったらいつに戻りたいか?そんな話で盛り上がる堂上班で、ふと郁が緒方副隊長に話を振った。元メディア良化委員の隊員という異例の経歴を持つ彼が、戻りたいと考える大学時代の回想。
 大学時代、同級生の佳代と付き合い始めた緒方。卒業後は親の希望通り公務員となったが、反感を買われやすいメディア良化委員会への配属される。配属先を周囲に言えないまま過ごしていた緒方は、加代子が小説家を目指していたことを知った。デビュー作が乗るという雑誌は、2日後に検閲の対象となっていた。
 なんかさー、独自の世界について書けば書くほどリアリティのなさが露呈していく作者っていうのも珍しいよなぁ。良化委員会は国家2種を受けた人から配属されるらしいけど、思想と体力が必要な課がそんなんでいいのか!?とまずツッコミ。自衛隊のように、独自に募集・採用しないとあっという間に弱体化だろう。それからこの検閲。中国ですか?みたいな。
 このシリーズへのレビューをネットでいくつか読んで、メディア良化法がいつの間にかできてたって設定を「日本ならあり得そう」とか書いてる人が結構いて驚いた。私は日本だからこそあり得ないと思ったんだが。日本人は争いを嫌う。過去の戦争からか、海外の内紛にまで心を痛めるような人種だ。このシリーズの世界では同じ人種でドンパチやって怪我人も出るし、過去には死者も出たという。これはもう、日本人なら赤の他人なのにデモやら座り込みをするレベルだと思う。
 
「昔の話を聞かせて」
 郁の長所でもあり短所でもあるウエイトの軽さをからかった堂上は彼女を傷つけたお詫びにと、乞われるがままに昔の話をする。郁に昔の自分を重ねる堂上が、過去の失敗や小牧とのことが浮かび上がる。
 郁の戦闘能力で標準体重ないってどんな魔法使った戦闘してんだよ、とこの話でもツッコミ。郁は170センチだっけ?これまでの戦闘での足腰の強さ、短距離走をやってたという過去、この本の4話目で男の部下を右フックで吹っ飛ばすシーンがあることを考えると、少なくとも平均のウエイトないと無理でしょう。筋肉って脂肪より重いうえに、郁は女。見た目より重いっていうのがリアルな話だ。
 4話目で郁が殴った相手は防衛部とやらに配属されてる男。アッパー狙って沈ませるんならともかく、フックで吹っ飛ばしたんなら技を出した方のウエイトも重要。短距離走も、ある程度の体重がないと風に煽られてスピードが出ない競技じゃないっけ?
 ひどい運動音痴だけどスポーツ観戦好きって程度の私がこの程度わかるんだから、有川さんってよっぽど・・・。もしくは、どうせわかんないだろうと思ってこんな魔法使い的強さで郁を描いたのか?
 まあツッコミは置いといて。堂上は今のキャラがいいんであって、新人の頃のキャラはイマイチかな。出来る男は出来るイメージのままでいて欲しかったのは私の勝手なんだけど。
 ところで実際図書館で働いてると、本好きな男って少ない上にほとんどが地味極まりない。でもこの世界の図書館司書は自ら選んで司書という職業に就いてる、堂々たる男子が大勢いることには軽く驚く。実際問題、図書館司書に出会いってあんまりないっすよ。マジで。

「背中合わせの二人」(1)
 柴崎は水島という同期と同室になった。三正である柴崎との上下関係を頑なに貫こうとする彼女の態度にげんなりさせられつつも上手く付き合おうとする。
 その柴崎は、奥村という利用者からストーキングをされている。利用者としての立場を利用した巧妙なストーカーっぷりに、一線を引きながらも相手をしていた。その奥村が調子に乗って迫ったところを手塚に助けられ、それ以来彼氏のふりをしてもらうことにする。ところが奥村は作戦を変え、柴崎が家に行かざるを得ない状況を作り出してきた。
 この話も何だかなぁ。ご都合主義だなぁ。そもそも柴崎って、頭いいって設定でしょ?その割には著者が描ききれてないっていうのは置いといて、類いまれなき頭脳持ってんじゃなかったっけ?こんな奴に隙見せる所がまずご都合。それから、柴崎が家を一人で訪問せざるを得ない状況っていうのもおかしい。個々の状況に応じたサービスとして家に行かせるのはまあ、図書館によるからいいだろう。だけど一人で行かないといけない理由が皆無。「一人」にこだわって図書を返却してくれないんだったら、窃盗として訴えていいんですけど?そこのとこを避けて書くのは卑怯だよ。

「背中合わせの二人」(2)
 柴崎のヌードコラージュに、柴崎自身の正確なスリーサイズとブラのカップ数まで記された写真が男子下士官の間で出回っていた。郁たちは柴崎を守りつつ警察にも相談するが、犯人はなかなか捕まらない。さらに今度はアダルト系出会いサイトに柴崎の名前と携帯番号が登録され、事態は深刻化する。
 誰からかわからない悪意をあからさまに突きつけられた柴崎。男子下士官達が柴崎のコラ写真を見せ合っていたことに激怒する郁。柴崎を心配しつつ支えようとする手塚。堂上も小牧も当然協力する。やっと面白い話になってきたけど、楽しむには苦々しいネタだなぁ。
 その後何者かに攫われた柴崎を車で追おうとした手塚に、柴崎と同室の水島が一緒に行きたいと言ってきた所で、この話は(3)に続く。

「背中合わせの二人」(3)
 手塚は柴崎に、GPS発信機を仕込んだお守りを渡していた。それを頼りに柴崎の居所へ向かう手塚は、柴崎の悪口ばかり言う水島に辟易させられながらも運転を続ける。水島は柴崎の気遣いを悪意ある受け止め方しかできなかったような女だった。
 柴崎はアパートの一室で手足を縛られ、少しずつ肌が露出していくように写真を撮り続けられていく。手塚が水島に苛立って車から降りさせたため、一連の事件の共犯である坂上に連絡が行ってしまった。その頃には郁達は水島と坂上が犯人だと突き止めており、寮に帰った水島はそのまま逮捕された。手塚は堂上から知らされた坂上の住所ではなく、発信機が表示させた場所に向かった。
 図書館とか表現の自由とか、そういうの関係ない話だとこうも楽しめるのか、有川さんは。犯人の男や女が本当に気持ち悪かった。手塚を間に合わせるために坂上を“自分をじらして楽しむMタイプ”で描いてるのにはわかってるのに、ギャーッ手塚早くっ!とか思っちゃったよ。
 そして、無事2人がくっついて良かった。あとがきによると、柴崎と手塚の結婚が決定した辺りで物語を終了する予定だったらしい。しかしあまりにも後味が悪いと旦那さんから言われて結婚式のシーンを追加したとか。確かに。大きな不幸の後には大きな幸せがあると、爽やかな気分で本を閉じれるよね。

 この本では郁はずっと脇役だった。その代り、緒方、堂上、柴崎が主役を張る。こうなると、郁がいかに主人公向きの性格だったかが良くわかるな。郁が張り切ってた頃ほどの面白さはない。郁が主人公だった時では、穴ぽこが多くて不満に思う話と面白い話が同等あった。しかしこの本はひどい。前半2話の面白くなさが、シリーズ全体を通してピカ一だと思う。今回ばっかりは読むのやめようかと何度も思った。やっぱ1巻目が一番面白かったなぁ。
 私は人生で、読みかけて途中で止めた本は一冊もない。どんな本でも、どんなに時間かけてでも読み始めた以上は完読する。これはしょうもないこだわりだ。たまにこうやって自分を縛って自分で「あーつまらなかった」とか言う。我ながらアホだな。しかしこのシリーズは自分が就いてる職業。都合で多少遅れつつも後回しせずに読んだのは、まあ半ば義務かな。
 これをもって、このシリーズは終わりらしい。書けば書くほどつまらなく思えていったシリーズだけど、そう思うのは私だけみたいだ。ていうか、つまらないと思った人達はそれ以上読まなかったんだろうな。実際それが普通のリアクションだと思うし。 
 まあ、やっとシリーズ終わってくれて勝手に自分で背負ってた肩の荷を下ろせたって感じ。しかも最後は円満に終わって、良かった良かった。柴崎も最後には意地張るのやめて良かった。こうやって幸せに読み終えることができるっていうのは、アンチ読者でも嬉しく思う。
別窓 | [あ行の作家]有川 浩 | コメント:4 | トラックバック:0 |
『名もなき毒』  宮部 みゆき
2009-02-09 Mon 14:23
名もなき毒名もなき毒
宮部 みゆき

幻冬舎 2006-08
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 妻の父親が立ち上げた大手企業で社内報を作る編集部に所属している「私」こと杉村三郎は、アルバイトの原田いずみのことで手を焼かされていた。彼女は仕事をなかなか覚えず、失敗しても非を認めず人のせいにした揚句に喰ってかかり、トラブルメーカーとなっている。揉め事を大きくしていく原田いずみを調べることにした「私」は、私立探偵・北見の所で未知香という少女と出会った。彼女は連続無差別毒殺事件の被害者の孫で、母親が祖父殺しの犯人と疑われていることを相談に来ていた。
 「私」は未知香の相談に乗るうちに少しずつ事件に足を踏み入れるようになるが、同時に原田いずみの件も事が大きくなっていく。

 読み始めるまで知らなかったんだけど、以前読んだ『誰か』の登場人物達じゃないか。全く違う事件を扱ってるから続編って言うと違う気がするけど、『模倣犯』と『楽園』の関係と一緒。あの人は今、みたいな。
 彼らが織り成す話となると、『誰か』があまり面白く感じれなかった私は最初っからちょっと気合いが抜ける。しかし読んでみたら意外と面白かったんで、これまた騙された感が・・・。でも主人公一家へ感情移入できず、何となく家族関係の記述を煩わしく感じてしまうのは相変わらずなんだけどね。
 最初はいかに原田いずみがやっかいな人間かを描き続けていたけど、その原田いずみのクレイジーっぷりが凄い。ていうか怖い。理屈が通じない人間、話を理解できない人間って本当に怖い。それが気にくわないとヒステリーを起こして暴れたりするとなると、ぞっとする。結局彼女は何だったんだろうなぁ。鬱とかいうレベルじゃない。もっと精神を病んでるか、脳障害を持ってる人が感情を暴走させているような不気味さが常にある。
 彼女の父親から兄の結婚式での出来事を聞いた園田の想像が原因かと思って読み進めた。しかしあれは嘘だと本人が言う。何が原因で原田いずみがああいった虚言癖を持った攻撃的な性格をしているのか不明なまま、終わってしまう。理由不明のクレイジーさは、実に不気味だった。
 毒殺事件の犯人挙げは軽い盛り上がりを見せたものの、その後の原田いずみが起こした事件のせいで霞んでしまったように思う。原田いずみがはそれくらいアクの強い人物だった。とはいえ、最初は青酸カリのことかと思われたタイトルの「毒」が実はもっと深刻な社会問題的「毒」を示した・・・と見せかけてさらに深い人間の「毒」まで持って行くのが見事。タイトルが効いていると、おお~って思う。
 しかし何となく全体的にぼんやりしてしまうのは、やっぱ宮部みゆき作品なのに彼女の得意な人物掘り下げがないからだろうか。主人公の「私」も何だかつかみどころがないし、その他の誰も掘り下げてない。ページ分以上の掘り下げで下地を作っておいて事件が進んでいく、あの凄技っぷりは好きなんだけど。
 あと、主人公の一家が好きになれない。「私」とその妻・菜穂子、そして義父・嘉親。育ちの良さからお金を使うことに惜し気なく、それを当然と考えている菜穂子に「私」は多少の反発というか、僻みというか、まだどういう感情に成長するのかわからない感情を抱いている。「私」は菜穂子のどこが好きなんだろうか。まずそれがわからない。守ってあげたいタイプの性格でもなく、体は弱いのに芯がしっかりしているとかでもなく、特筆すべき性格が表れてなくて、家のこと以外で何をやってるのか不明。しかし家のこと、娘のことにはお金を掛ける。そのお金も出所は父親っぽい。読み聞かせのボランティアをしてるらしいけど、そのシーンがあるわけでもない。なかなか彼女の人物像に迫れない。「私」が時折“妻はこういう所がある”と語るだけなんだけど、それがかえって煩わしい。
 つまり良家のお嬢様ってだけで、飾り物に似た存在でしかない。夫婦仲は良く、「私」は妻に何でも話す。その妻がしたり顔で口を挟んでくるんだけど、あんた世間知らずのお嬢様のくせに何その分析ってな感じで。実際こんなふうに育ちのいいお嬢様が世間知らずのまま結婚して、親の庇護下から出ないまま生きたらこうなるのかもしれない。ただ、フィクションなのにそのキャラがそれ以上でもそれ以下にもならないのが、この人いなくてもいいじゃんって思う。しかしまあ、実際お金は空から降ってくるもののように考えてる菜穂子は羨ましくもあるな。いやだからって、僻みで「こいつ嫌い」とか言ってるわけじゃないよ。そりゃ確かに、せめて恵まれた環境に感謝する人間なら好感が持てたかもしれないけど。
 私が初めて読んだのが『模倣犯』で息を飲む展開に驚いて、ああいう話を書く人と決めてしまってるのかもしれない。だからつい、こういう繊細な部分を内包した話に物足りなさを感じてしまうのかもしれない。作品にその作家「らしさ」を求めて読むと、物語の面白さを損なうのは当然なわけで。もうちょっと宮部みゆきを知ってからでないと、私はこの作品を評価しない方がいいのかな。もちろん、『誰か』も含めて。
 でも、ありきたりだろうけど秋山省吾、五味淵まゆみのコンビは読んでて愉快だった。シリーズ化するって噂をちらっと見かけたけど、それが本当ならこのコンビはじゃんじゃん出て欲しい。シリーズ化していくうちに、「私」が菜穂子に抱く反発のような僻みのような、その芽のような感情が何になるのかわかるかもしれない。菜穂子の存在が意義あるものになってくるかもしれない。
別窓 | [ま行の作家]宮部 みゆき | コメント:0 | トラックバック:0 |
『悪人』  吉田 修一
2009-02-01 Sun 10:54
悪人悪人
吉田 修一

朝日新聞社 2007-04-06
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 福岡で保険外交員を務める石橋佳乃は、友人達に増尾と付き合っていると嘘を言っていた。その日も出会い系サイトで出会った長崎に住む清水祐一と会うのに、増尾と会うことにして出掛ける。その夜佳乃は帰って来ず、翌日三瀬峠で見付かった女性の遺体が彼女のものだと判明した。
 増尾は以前バーで知り合った佳乃と偶然会った。待ち合わせしていた別の男をほったらかしにして自分の方に来た佳乃を車に乗せてドライブに出たが、段々とイライラして来て彼女を車から放り出して走り去った。失って
 双子の妹と佐賀で暮らす馬込光代は、以前出会い系サイトで知り合ってメールのやり取りをしていた祐一に3ヶ月ぶりにメールをした。それ以来光代は彼に夢中になり、祐一も光代を求めて止まなくなる。

 石橋佳乃が殺されて、長崎の土木作業員が逮捕されたところから物語が始まる。そこから時間は遡ったり進んだりしながら、主要人物の家族や友人、佳乃が出会い系サイトとで知り合った男、祐一が利用していた風俗店の女など、実にさまざまな人物の口を借りて全体像が浮かび上がっていく。
 何より吉田さんの人物の描きっぷりが凄い。見栄っ張りで嘘つきで他人を見下してるところがある佳乃、陰気な祐一、軽薄な増尾と、主要登場人物にはムカッ腹が立つ。でも佳乃を失って茫然自失の父親や、祐一に頼りつつ生きている祖父母、双子の妹と一緒に暮らす29歳の光代の寂しさなんかは、読んでてリアルに胸に迫って来る。
 増尾と会うと嘘をついて祐一に会う予定で出掛けた佳乃だったけど、祐一と光代の様子を読んでいくうちに私は祐一が犯人ではないことを願うようになっていた。2人の求め合い方がそれほど切実で、このまま幸せになって欲しいと願うほど。でも祐一はやはり佳乃を殺していた。
 逃亡の末に捕まり、「ねぇ?そうなんですよね?」と問いかけで終わるラストでようやくタイトルの重みを知った。光代のために悪人になり切ろうとしている祐一と、その行為と世間からの洗脳でわからなくなりかけている問いかけ。もう少し時間が経ったら、きっと光代は自分は被害者だった思うようになるんだろう。祐一もそう願ってるけど、起こったことを事実として読んで来た読者である私はそれが寂しくてたまらない。でも同時に、それが光代のためであることもわかってる。
 祐一が母親から捨てられるシーンを読まされたら、何でこの人ばかりこんな目に遭うんだろうと思う。祖母は最後にはしゃんと前を向いて歩くことを決意するけど、母親が自分こそ被害者だと言い張っているその醜さでまた祐一に同情してしまう。考えようによっては、幼少時代の不遇さが裁判で優位に働くかもしれない。
 人物をさらっと書いてるようで、そこに彼らの本質が見えてしまう作家さんなんだなぁ。本当、凄い。それだけでなく、老人介護のこと、老人相手の悪徳商法、マスコミ報道の無責任、被害者や加害者の家族への悪質ないたずらなどもしっかりと盛り込まれてあるのがまた見事。
 ラストの光代の疑問が、エコーのように未だに効いている。
別窓 | [や行の作家]や行その他の作家 | コメント:0 | トラックバック:0 |
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