元司書による読書備忘録ブログ。思ったことは全部書き、何様気取りの感想だったり平気でネタバレしたりします。
2008年7月に読んだ本
2008-07-31 Thu 01:18
『死神の精度』  伊坂 幸太郎 (7/21)
『格闘する者に○』  三浦 しをん (7/5)
『鹿男あをによし』  万城目 学 (7/2)

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『死神の精度』  伊坂 幸太郎
2008-07-21 Mon 00:00
死神の精度死神の精度
伊坂 幸太郎

文藝春秋 2005-06-28
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 寿命以外で死ぬ人間の前に人間の姿で現れ、7日間調査して「可」または「見送り」の判断をするのが調査部に属する死神の仕事。ほとんどの場合において「可」の決断が出るという儀式的というかお役所仕事的な調査でも、「私」は真面目に調査を行う。
 死神は調査対象に合わせた外観になることができ、ミュージックをこよなく愛し、素手で触られた人間は気絶し寿命が1年短くなる。食事や睡眠の必要はなく、電波に乗った音声を聞き取ることができる。調査対象の人間は調査中の7日間は死ぬことはない。
 これは雨男の死神「千葉」の仕事を描いた6編の短編集。

「死神の精度」
 大手電機メーカーの苦情処理をする二十二歳の藤木一恵に近付くことに成功した「私」。外見も性格も地味な彼女の仕事はただでさえつらいが、最近は特に変な人がいると言う。苦情の電話で自分を指名して文句を言うが、何度も謝らせたり何か喋れと言ったり、故障の原因を説明しろと言ったり、歌ってみろと言ったり、最終的には会いたいと言ったり。彼女はその仕事がつらいと、鬱々と死にたがる。しかしその男は実は音楽プロデューサーで、藤木一恵の声に才能を感じて電話をかけ続けていたらしい。ミュージックをこよなく愛する死神として「私」はしばらく悩んだが、この調査を「見送り」にした。
 死を扱う短編物語で、いきなり死なないはなしかい!とちょっとがっかり。何かちょっと物足りない気がするのは、藤木一恵自身の感情が沈みっぱなしで終わったからだろうか。

「死神と藤田」
 調査対象である藤田は、今時任侠のやくざらしい。栗木の組から命を狙われ、今は藤田を崇拝する阿久津に身の回りの世話をさせながらマンションに隠れている身だ。しかし上役が藤田を裏切り、彼を売ろうとしているらしい。組と藤田の板挟みになっていた阿久津だったが、やはり藤田が負けるのが許せないと「私」を連れて栗木を殺しに行った。しかしあっけなく捕まり、藤田を呼び出す人質にされてしまった。
 これは途中でオチがわかっちゃったなぁ。いちやくざに狙われたくらいで、幹部だか組長だかの栗木が用心棒を新しく雇うわけがない。鉄砲玉(表現古い?)はたくさんいるだろう。ということは話の流れ的に、栗木の横にいたのは死神か。とか冗談半分で思ってるとビンゴ。こういうの、当たってもあんまり嬉しくないなぁ。楽しめないじゃないか。
 でも、後日談好きな私がちょっと後日談を考えてみる。絶対絶命の藤田が生き残って栗木が死に、翌日に藤田が何らかの事故で死ぬとしたら、阿久津の中で藤田は神様になるだろうな。阿久津はきっと立派なやくざになるだろう。そう考えると、ちょっと楽しい。

「吹雪に死神」
 「私」の調査対象は田村聡江という中年女性。旅行ペアチケットが当たって夫婦で洋館に泊まっているが、その洋館の宿泊客の何人かは死神の調査対象になっており、既に「可」の報告が出ているらしい。他に権藤父子、女優の卵の真由子、童顔の料理人、が来ており、真由子の恋人が遅れてくることになっていた。
 調査部の話によると、雪の中の洋館で次々と人が死ぬことになるらしい。その言葉通り、まずは田村聡江の夫・幹夫が毒死し、次に権藤父が刺殺された。全員が沈み込む中、やってきた真由子の恋人は「私」の同僚だった。同僚によると、真由子が死ぬのは明日らしい。翌朝「私」は真由子が刺殺されたのを確認してから全員に報告し、自分が考えた真相を語る。
 いきなり定番ミステリーだけど、その死全てに死神が絡んでるっていうのが面白い。謎解きには死神でしか知り得ない事から得たヒントもあってずるい!と思う反面、死神という設定が活きたミステリーでもあった。

「恋愛で死神」
 調査対象の荻原は、毎朝バス停で会う古川朝見に恋をしていた。調査を始めた初日にその事を知った「私」だが、彼女は荻原のことを最近頻繁に電話してくるストーカーと勘違いしていた。詳しく聞くと、最初はマンション購入の勧誘から始まった電話がエスカレートしてきているらしい。その話を聞いた日から2人は急速に仲良くなっていった。
 外見がいいことがコンプレックスになってダサい眼鏡をかけ続ける青年が恋をするという話だけど、荻原が死んだシーンから始まってるから変な期待をせずにその死を受け入れられた。そして、恋愛ごときで死神が「見送り」を出さなかったことがむしろあっぱれ。1話目では最愛のミュージックのために「見送り」の判定を出したけど、重視されがちな恋愛では心を動かされることなく「可」にする。そういうクールな感じ、かなり好き。まあ、古川さんはかわいそうだけども。

「旅路を死神」
 調査対象の森岡耕介は、「私」が調査部に言われた通りに車を運転していると血の付いたナイフを見せて乗ってきた。彼は母親を刺し、街で若者を刺したという彼は、十和田湖の奥入瀬に行くと言う。「私」は彼に言われるがまま運転した。移動しながら森岡は、少しずつ自分のことを語った。幼少の頃に誘拐されたことがあったが、その犯人グループの一人と母親が繋がっていたことを知って母親を刺し、街で馬鹿笑いしていた若者に腹が立って刺した。短絡的思考の森岡はさらに電話の相手の居場所を調べ、犯人グループの一人だった深津を殺しに行こうとしていた。
 この話の中で、駐車場の壁に落書きをする青年が出てくる。吹き出しそうになるくらい驚いた。『重力ピエロ』の春くん?春くんがが落書きしてるとこじゃないか。あの作品は結構好きだから、春くんに思いがけず再会できたことは嬉しかった。でも同時に、あの幸福と不幸がごちゃまぜになった作品の切なさも思い出す。
 調べてみるとやっぱ春くんだった。あと、泊まったホテルも『重力ピエロ』で落書きされたホテルだったらしい。それは気付かなかった。『重力ピエロ』には『オーデュボンの祈り』の伊藤が出てきてたし、この著者はこういう作品同士のリンクをする人みたいだね。

「死神対老女」
 この話の調査対象である七十歳の美容師の老女は、「私」が彼女の死を見届けに来た事に気付いた。彼女の周囲では不慮の事故で亡くなる人が多いと言う。そのため、人が死ぬ時の空気に敏感になっているそうだ。
 街に出てCDショップに行こうとする「私」に老女は、街で若者を数人、明後日髪を切りに来るように声を掛けて来て欲しいと頼んだ。最初は苦戦したが、見かねたビラ配りの男が色々教えてくれて当日は自分が声を掛けた中から5人の若者が来ていた。
 翌日、老女が「私」に頼みごとをする時に居合わせた女性が、どうして客を呼びたくなったのかを聞きにきた。老女には息子が2人いたけど、長男が落雷で死んでから母親としての仕事を放棄した彼女に怒ったのか呆れたのか、次男は音信不通になっていた。しかし急に電話があり、孫の存在を教えた。孫は老女に会いたがってるが次男は会わせたくない。そのため、孫にはあくまで客として行くこと、余計な話はしないことを条件に出していた。老女は孫に会うのが怖いし緊張するし恥ずかしいと、老女は孫が来ることになっている日に何人か若者を呼び、どれが孫かわからないようにしたかったらしい。その日「私」は初めて晴天を見た。
 1話目の藤木一恵が歌手デビューしてて彼女のCDが「だいぶ前のCD」として出てくるし、終盤近くで老女が古川朝美だったことが判明する。なぜか美容師に職業換えしてるし。昔は映画の配給会社に勤めてるんじゃなかったっけ?古川さんはなかなか不幸な人生を送ったみたいだけど、50年くらい経ってこんなに素敵なおばあさんになってるとは。
 そうそう、「私」が最後にきれいな晴れを見ることができて良かった。

 死神て・・・・。淡々としてるくせにいきなりのファンタジーカラーにびっくりした。最初の数ページはかっこつけた導入だと思ってたら本当に「死神」だなんて、なかなか引き込ませられる導入じゃないか。そして寿命以外の不慮の死は全て死神が決めているという理不尽さと、「私」のクールさで妙なかっこよさがある。それなのにミュージックへの愛はとても深い。その設定が面白い。
 でも何でだろう、何か物足りないんだよなぁ。人気作者の人気作品なのに、楽しめない自分が不甲斐ない。天然風の死神「私」が他の登場人物と交わす会話は愉快だし、死を与える死神から見た人間模様も面白いけど、物足りない。結局物語の中では死なないからだろうか。ちゃんと死に様を描かれてたのは荻原だけだったからかな。死に様を描かない代わりにこちらの感情を揺さぶってくれるようなシーンがあったら良かったんだけど、とりあえず私の感情は揺さぶられなかった。
 うーん、やっぱこの作家さんとは相性悪いな。
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『格闘する者に○』  三浦 しをん
2008-07-05 Sat 00:39
格闘する者に○格闘する者に○
三浦 しをん

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 就職活動を始めた大学生の可南子は、マンガに出てくる編集者の仕事なら楽そうだと出版社に就職しようとする。就職活動を始めた時期は遅めだし常識知らずだが、友達の砂子と二木君はもっとのんびりしていている。家は父の義母と弟との3人暮らし。父の再婚相手である義母とは適度な距離を保ちつつ、半分だけ血の繋がった弟・旅人(たびと)とはそれなりに仲良く、暗黙の了解を保ちながら家族の形を保っていた。
 そんな可南子の行き当たりばったり就職職活動と、家でのゴタゴタと、七十歳前後の脚フェチのおじいさん・西園寺さんとの恋愛や、砂子や二木君とのゆるい会話を描く・・・と書くとすごいぐっちゃんぐっちゃんな話なんだけど、これがきちんとまとまるのが三浦しをんだ。彼女のデビュー作だけど、何作かしか読んでない私が抱いてる彼女そのものの世界が凝縮されている。当然、面白い。
 可南子の家、藤崎家は複雑だ。政治家だった可南子の祖父が後継者を育てる前に他界。一人娘だった可南子の実母は、父親の秘書の中で一番若かった可南子の父を婿養子に選んだ。しかし可南子の母も可南子を産んだ後に他界し、父は別の女性と結婚して旅人が生まれた。ここで後継ぎ問題が生じる。藤崎の血を引くのは可南子しかいないが可南子に政治家の器はないし、なりたくもないと思っている。旅人は優秀だけど、こちらも政治家にはなりたくないと言う。しかし本人達の意見を無視して、親族・後援会は可南子派と旅人派に分かれている。特に旅人を溺愛する父の秘書・谷沢は、旅人の進路に口出ししたり可南子の就職活動先に口添えしたりして煙たがられていた。
 三浦しをん作品の、読み進めてようやくじわじわと背景がわかってくる感じは好きだ。伏線だけぽんぽんと置いておいて、物語の流れに合わせて後々わかってくる。ミステリーだとよくある手法かもしれないけど、ヒューマンノベルみたいな話で使って、それがスッと物語に溶け込む。物語において重要な事柄でも、最初は雰囲気だけ匂わせておいて後から事実がやってくる。そこが面白い。
 例えば、可南子と西園寺さんの関係は脚フェチ変態じじいとの援助交際と思ってら、西園寺さんといる時の可南子は穏やかで、本当に愛し合ってたりする。微妙な人間関係の藤崎家において中核にいながらほとんど家にいないという可南子の父親はどんな冷徹人間かと思ってたら、意外とおちゃめなお父さんだったりとか。そもそも可南子の父親が政治家で藤崎家の直系は可南子しかいないということ自体が、西園寺さんにペディキュアを塗ってもらいつつ九十歳のタネばあさんにマニキュアを塗るという変なシーンで語られる。普通ならヒロインが誤解されないように、西園寺さんとの良好な関係は彼のことに触れた時点で語るもんじゃないか?そこを、誤解させておいて後から説明する。可南子の家の事情も家のことが書かれた時点で説明するのがセオリーだろうに、最初は家の雰囲気だけ書いておく。そういう技法が型破りに見えるし、使い方が絶妙すぎ。
 就職活動のことは、作者自身の実体験だろうな。どこまでがリアルなのかな?面接官とか面接内容とか、全てだったら面白いな。
 タイトルの「格闘」は、就職活動のこと?家のこと?両方?と思ってたら、就職試験会場で「カクトウするものに丸をしてください」と言う男のセリフから。二木君の推理で「該当」のことらしいとわかるけど、恥ずかしい間違いと思うと同時にタイトルはここから!?とどうでもいい場所から取ってることに笑えてくる。
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『鹿男あをによし』  万城目 学
2008-07-02 Wed 21:43
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 大学の研究室にいたが、「神経衰弱だから」と奈良にある高校の常勤講師に就かされることになった「おれ」。初日に遅刻してきた堀田という女子高生の「マイ鹿が駐禁を取られて遅刻した」という冗談に激怒して以来、担当クラスで毎日黒板に皮肉が書いてあるという嫌がらせを受けることになった。
 そんな状態の「おれ」はある日の早朝、突然鹿から話しかけられる。雌鹿なのにおっさんのような声で話すその鹿は、「先生は“運び番”に選ばれた」と言い出した。京都で狐の“使い番”から“目”を渡されるはずだから、それを届けなければならないそうだ。“目”がきちんと奈良に運ばれないと、地下のなまずが暴れて日本は滅ぶのだと言う。
 シカるべき時にシカるべき相手から受け取るはずの“目”は鼠の“使い番”に奪われたらしい。しゃべる雌鹿は「おれ」に印を付けたと言った。翌日から「おれ」には、自分にしか見えないが顔がどんどん鹿になっていくという現象が起こる。

 最初は「おれ」の性格が気にくわないで、話題作だけど私は好きじゃないかもと思いながら読んでいた。鹿が話し出してもイトちゃんが剣道部で大活躍しても大して興味はそそられず、話題ほど面白い本じゃないと思いつつ読み続けた。そもそも私は剣道をよく知らないから、剣道の試合を文章で読んでもあまり理解できない。それなのに一体どこからこんなに集中してたんだろうか?気付いたら前のめりになりながらページを捲ってた。記憶を辿ると、サンカクが“目”じゃなかった辺りからかなぁ。イトちゃんが“使い番”って判明した辺りかなぁ。本当に、気付いたらって感じだったからあまりよくは覚えてないんだけど。
 結論は、面白かった。あちこちに散りばめられた日本の神話や邪馬台国が、現代まで引き継がれている眷属・鹿、狐、鼠が守り続ける儀式に見事に絡んでいる。登場人物がごちゃついてなかったから、狐や鼠の使い番に私もあっさり辿りつけた。リチャードが三角縁神獣鏡を投げる辺りではハラハラするし。まったくもって作者の思う壺。さらに松尾芭蕉の話とか、上手いなぁと笑わされた。
 しゃべる雌鹿が“運び番”の願いは1つしか叶えられないという設定を読んだ時にはどう収拾つけるのかと思いきや、そっか!物語の王道だ!と。
 面白かったんだけど、鼠って印の消し方は知ってても付け方は知らないってイトちゃんの手紙に書いてあったのが引っかかる。じゃあリチャードは何で鼠化して写真に写ってたんだろう?私がどっか読み落としたかな?図書館から借りた本を2回読みしなくなってから、物語の細部を覚えられなくなってる。いかんなぁ。
 
 この本はちょっと前にドラマ化してた。見てはないけど、CMで「おれ」とイトちゃんを演じた人くらいは知っている。イトちゃんの外見が描かれてるとこを読んだら、多部未華子がいかにはまり役だったかがわかった。「おれ」が玉木宏っていうのはちょっと厳しいけど。
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