元司書による読書備忘録ブログ。思ったことは全部書き、何様気取りの感想だったり平気でネタバレしたりします。
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2008年6月に読んだ本
2008-06-30 Mon 23:59
『陰の季節』  横山 秀夫 (6/30)
『陰日向に咲く』  劇団ひとり (6/25)
『片耳うさぎ』  大崎 梢 (6/23)
『サクリファイス』  近藤 史恵 (6/19)
『私が語りはじめた彼は』  三浦 しをん (6/15)
『サイン会はいかが?―成風堂書店事件メモ』  大崎 梢 (6/12)
『西の魔女が死んだ』  梨木 香歩 (6/9)
『雨降ノ山―居眠り磐音江戸双紙6』  佐伯 泰英 (6/2)
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『陰の季節』  横山 秀夫
2008-06-30 Mon 20:20
陰の季節陰の季節
横山 秀夫

文藝春秋 1998-10
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 D県警の内部を描いた短編集。殺人事件を調査するような刑事達ではなく、事務に携わるエリート達を描くのが地味ながら面白い。警察内部に起こった事件や揉め事を内部の者が調査するという、横山さんにしか書けないような設定。

「陰の季節」
 天下り先である社団法人を、任期が過ぎても辞めないと言いだした尾坂部。彼が辞めないと次に退職する工藤部長の再就職先が無くなり、それは警務課の権威失墜に繋がる。D県警内の人事異動名簿作成を担う警務課の二渡(ふたわたり)は、尾坂部の真意を探る役割を命じられた。
 尾坂部の元に足を運んだり周辺を調べたりするうちに、もうすぐ結婚するという彼の娘がかつてキャンプ場でレイプされた事件があったことがわかった。その時期には同様の事件が何件もあり、いずれも証拠がほとんど残っておらず未解決のままだという。尾坂部はその事件を今でも調べているのではないかと考えた二渡はこの件を尾坂部にぶつけようとする。
 しょっぱなから私の嫌いなネタか。猟奇殺人もホラーも読める私だけど、レイプネタってどうしても苦手なんだよなぁ。女なら当然と言えばそれまでだけど。乱読する中で唯一女らしい点でもある。自分勝手な殺人を犯した人は死刑されるべき、レイプ犯は去勢されるべきという自論だ。
 だからこのラストは微妙な気分。運転手の青木が犯人かどうかは、疑わしいけど真実はわからずじまい。二渡、尾坂部の間だけじゃなくてこっちまで読んでて苦い後味が残る。

「地の声」
 D県警監察課にQ警察署の生活安全課長・曾根がパブのままとできているというタレコミが、内部告発の疑いがある。内部告発だった場合、監察課の動き次第によってはマスコミにリークすることもあるため、調査は慎重に行わなければならない。
 病気で出世レースに乗り遅れて監察官に着任した新堂はこの件について調べるにあたって、Q署にいるかつて部下・柳を使うことにした。頭のいい柳は頼りになる。しかし新堂は段々その切れ者ぶりが恐ろしくなっていき、密告書を書いたのは柳ではないかと疑い始める。
 「陰の声」の警務課もそうだけど、監察課っていう課も初めて知った。警務課は人事についての課で、監察課は賞罰に当たる課だそうだ。こんな地味な課にスポット当ててミステリー書いちゃう横山さんには改めて感服。 
 
「黒い線」
 引ったくりの目撃証言から描いた似顔絵によって、引ったくり犯はすぐに捕まった。平野瑞穂巡査が描いた似顔絵がそっくりだったことによるスピード逮捕だとマスコミに取り上げられ、喜んでいた瑞穂。しかし翌日、彼女は無断欠勤する。警務課の婦警担当係長・七尾友子は女子寮で寮母から、瑞穂は元気がなかったと聞かされる。前日の手柄を純粋に喜んでいた瑞穂に何があったのか?友子は瑞穂の身を案じ、持ち前の鋭い嗅覚で手がかりをつかみ掴みつつ瑞穂の行方を捜す。
 瑞穂の失踪の原因はプライドが傷ついたからってとこか。警察内で婦警が邪険に扱われるというのは、どこまでリアルなんだろうか。全く未知の世界すぎるけど、上司に似顔絵の書き直しを命じられて断れば警察が恥をかくことくらい瑞穂にはわからなかったんだろうか。それなら「これだから女は」って言われても仕方ないだろう。個と公のどちらが大切かっていうのは人それぞれかもしれないけど、警察組織なら確実に公を大切にしてもらいたい。警察による犯罪とかならともかく、警察の権威失墜は昨今では深刻になりつつ問題でもあるし。
 男性上司達のあからさまな女性蔑視は確かに嫌だけど、この件に関しては私は瑞穂が悪いと思う。家庭を犠牲にして働いてきた人達の前で、個人のプライドのために警察全体に恥をかかせる。「だから女は使えねえ」と言った上司の気持ちはわかるな。
 横山さんはどういうつもりでこの話を書いたのかな?ただ単に女性には働きにくい職場として?それとも男社会が悪いというふうに書いてるけど、男社会が悪いとみせかけてやっぱり女は使えないって暗に書いてると思うのは私の深読みのしすぎ?でも婦警は必要だよね。
 ちなみにこの編で失踪した瑞穂は、後の作品『FACE』の主人公らしい。『FACE』はまだ読んでないけど、何年か前にドラマ化してたよなぁ。仲間由紀江が主人公だった気がする。
 
「鞄」
 警務部秘書課の課長補佐・柘植は「議会対策」を担当する。次の定例会議で予定されている一般質問の内容をチェックして回答を準備し、恩を売っておきたい議員には県民から見てウケが良さそうな質問を提供する。三崎議員に質問内容を提供する際、鵜飼議員が一般質問で県警に向けて爆弾を投げると言っていたことを教わった。
 鵜飼議員は県警に恨みがあり、その報復として議会で本部長が答えられない質問をすることが考えられる。監察課の新堂、鵜飼の後援会会長、同期の黛を訪ね歩くが芳しい情報は得られない。元刑事の瀬島から鵜飼の愛人について教えられ、愛人宅で鵜飼と対面したがやはり教えてもらえない。鵜飼が席を外した際に彼の鞄を探ってみたが、それらしき書類も見付からなかった。課長の坂庭も情報は掴めなかったと言う。
 一般質問当日、鵜飼は環境に関する質問をしただけだった。安堵や疑念の中、鵜飼の鞄の盗難届が出されていることを知らされる。鵜飼と坂庭が組んで柘植を陥れることが、この騒動の目的だったようだ。

 1話目で主人公だった二渡が他の編でもチラチラと出てくるけど、彼は「エース」と呼ばれる実力派エリート警視だった。「陰の声」では尾坂部に振り回されてたけど、D県警内部では恐れられる存在みたいだ。特に2話目では彼はこの事件の目的の最終的な決定権を持つし、2話目・3話目での二渡の推理、観察、結論は渋い。
 この本はどれもわだかまりを残して終わる。私が好きな横山さん的エンディングじゃないけど、読後に引きずらないのは主人公達自身の覚悟のようなものを感じさせられてるからかもしれない。そういうとこも含めて、相変わらず他のミステリー小説とは格が違う。この本で描く警察は、クールに調査する警察かっこよさも、一般市民が探偵をする小説の脇役としての警察ようなマヌケさもない。ただ上を目指したいという野望があり、実際に上に行けない無念さがある。
 私はずっと、女が圧倒多数を占める社会に身を置いてる。高2で文系に進むと決めて女子が多いクラスになった時からだ。それから女子大に行き、女性が多い職場にいる。だからこういう男臭い会社って何とはなしに憧れがあるんだよなぁ。
 しかし最近横山さんの作品は短編ばっか読んでる気がする。手持ちの借り本が少ない時に図書館の書架にあったら適当に借りるというスタンスでしかないからだろうな。横山さんの短編は評価高いし、私も大好きだ。でも長編はもっと好き。『FACE』読むか。
別窓 | [や行の作家]横山 秀夫 | コメント:0 | トラックバック:0 |
『陰日向に咲く』  劇団ひとり
2008-06-25 Wed 00:53
陰日向に咲く陰日向に咲く
劇団ひとり

幻冬舎 2006-01
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 芸人・劇団ひとりが書いた話題の小説で、5人の駄目人間を描く短編集。

1話目「道草」
 重大な仕事を任される立場にもあり、妻も娘もいる「私」。しかしホームレスに憧れてホームレス生活をしていたことがあった。ある日、有名野球選手が父親を探しで雇った探偵がやってきた。ホームレス達の間大ボラ吹きで有名な男であり、「私」が尊敬していたホームレスのモーゼが父親だった。
 モーゼが野球選手と一緒に暮らすために公園を出て行った後、「私」は一人の青年ホームレスとコンビニ弁当を取り合っている時に我に帰って家に帰ることにした。好奇心からモーゼの段ボールの家に入っていると、一人の男から声を掛けられた。しばらく刑務所に入っていたという男は、その段ボールの家の本当の持ち主、つまり野球選手の本当の父親だった。
 してやられた感じと、腑に落ちない気持ちを同時に味わった。でもホームレスになりたいって、何かわかる気がするなぁ。全てを捨てたいって気持ちってたまに湧きあがってくるよね。ただ、多くの人がやっぱり捨て切れなくて自分の地位を守るんだけど。

2話目「拝啓、僕のアイドル様」
 マイナーアイドルであるミャーコの熱心なファンである「僕」は、ミャーコへの愛なら誰にも負けないと自負する。ミャーコにパソコンやブランド物などをプレゼントするために極貧生活までしているが、ファンである以上愛は一方通行だ。ミャーコがゴールデンタイムの番組に出ると知って楽しみにしていたが、役割は健康番組でドロドロ血液の「ドロ子」。見ていられなくなってテレビは消したものの、愛するミャーコのために番組のホームページに色んな人になりすましてミャーコを絶賛する書き込みを百件以上書きこんだ。その甲斐あってかミャーコは、今度は同じ健康番組の生放送にスタジオ出演することになった。そこでの放送事故で、彼女は一躍有名になる。「僕」は心の痛みを感じながら、ミャーコから卒業する日が見えるようになる。
 以前極貧のあまりコンビニの廃棄弁当を取り合ったホームレスと再会したが、社会の勝ち組になっていて「僕」にブランドもののスーツを買ってくれた。その男に電話をして「社会復帰できました」と報告すると、彼は自分のことのように喜んでくれた。
 最初は度を越したオタクの話かと思ったら、最後の話でちょっと切なくなった。ミャーコは「僕」の小中学時代の同級生で、かつて一度だけ現実の恋をしたYさんだった。つまり「僕」はミャーコにしか恋をしたことがない。私は外見に気を使わないオタクは正直キツいと思ってたけど、この「僕」の今後は応援したい。普通の恋ができるといいですね。でも「僕」が外見重視なら、いたずらに彼女いない歴=年齢を更新するだけだよね。

3話目「ピンボケな私」
 飲み会の席で皆が将来の夢を語る中、何も考えてなかった「私」は勢いで「カメラマンになる」と言ってしまった。その嘘を嘘じゃなくするためにデジカメを買ったが、説明書を読む気になれず、パソコンの設定もできないからプリンターで印刷することもできず、メモリーカードのこともわからない。仕方なく、
本体に保存できる16枚が限度の使い捨てカメラだと割り切ることにした。
 ある日、親友ミキの大学の飲み会にお邪魔した時に出会ったタクミ君に恋をした「私」。遠まわしなアピールが利いたのか、後日タクミ君から誘いが来た。居酒屋で飲んだ後にタクミ君の部屋で体の関係を持ち、付き合うことになったのだと浮かれていた「私」。しかしその後タクミ君と音信不通になったために彼の部屋を訪ねると、ケータイを失くしたと言っていた。タクミ君の部屋には友達が来ていたけど、友達が買出しに行ってる間にセックスをした「私」と「タクミ君」。友達が戻って来てタクミ君が出て行った後、今度は土下座されてその友達ともセックスをしてしまう。
 この女、最後までアホすぎる。ミキについての叙述トリックはお~!と思ったけど、それにしてもこんな女のどこが良かったんだろうか?放っとけない感じ?女の私にはわからない部分なのかもしれない。とりあえず、顔はいいんだろうな。
 
4話目「Over run」
 ギャンブルにはまり過ぎて多重債務者になってしまった「俺」。借金は気が付けばどうにも返せないほとに膨らんでいて、自殺をしようとするも逆に自殺しそうな若い女に生きるための説教をしていた。そんな「俺」が思い付いたのが振り込め詐欺。失敗を繰り返した後につながった電話は、「俺」を「健一」と呼ぶ老女だった。「健一」になりすました「俺」は、その後毎日その老女に電話して色んなことを話す。しかし借金の返済日はどんどん迫り、意を決してお金のことを切り出そうとした「俺」。何とか50万円を用意してもらえることになり、友達に取りに行かせると行って自分で老女のアパートに向かった。しかしその老女と会う直前、老女は心不全で亡くなっていた。
 単純かもしれないけど、これはきた。特に最後の手紙が。老女は全て知っていて、「俺」と「健一」を重ねていた。「健一」の母親と自分を重ねようとしていた。そこにささやかな幸せを感じたであろう老女に泣けた。このアホンダラはちゃんと更生したのかなぁ。

5話目「鳴き砂を歩く犬」
 鳴子は不幸な自分に気付き、東京に行くことにした。東京には、かつて修学旅行で東京に来ていた鳴子にしょうもないギャグを聞かせまくった挙句にお尻を出して警察に連れて行かれた男がいる。その男を好きになっていた鳴子は東京でいくつもの劇場を見て回るが見付けられず、やがて手持ちのお金がなくなる。ストリップ劇場で下働きをさせてもらおうとしていた矢先、そこのショーで司会をしていたあの男を見付けた。相変わらず全く面白くないその男―プードル雷太に、鳴子はコンビを組むことを提案する。
 雷太は鳴子が苦手だったが、鳴子が作ったネタはお客さんを笑わせることができる。しかし雷太には全く面白く感じなかった。以前修学旅行生にネタの一環でお尻を出そうとして警察に連れて行かれた雷太は、警察署でジュピター小鳥というストリッパーと出会った。自分のことをヌードアートと言う彼女と共に働くことになった雷太は、ずっとジュピターさんに心惹かれていた。
 体調が悪いと言って劇場を休んだジュピターさんを見舞いに行った雷太は、アメリカ兵のジュピターさんの彼氏と揉めたことをきっかけに芸人を辞める決意をする。最後の最後に、「アメリカ兵をぶん殴った話」というネタを作って、鳴子とのコンビを解消する。

 それぞれの話が微妙にリンクしているこの話。ホームレスごっこのおっさんはオタク男とコンビニの廃棄弁当を取り合ったことがあり、娘がカメラマンを目指すことになったアホ女だ。そのアホ女がタクミ君を追いかけて写真を撮りまくってたところを自殺の可能性ありと駅員室に連れて行った駅員がギャンブラーで、振り込め詐欺の電話をかけた老女がジュピターさん。お金を取りに行ったアパートで老女の葬式にいたのが年をとった雷太だ。
 些細過ぎて見落としかけた共通点が、「アメリカ兵をぶん殴った話」をするおっさん。「道草」では主人公がモーゼと呼ぶホームレス。「拝啓、僕のアイドル様」では主人公の高校時代、好きだった女の子が引っ越す日に電車で泣いた主人公に説教する爺さん。「ピンボケな私」ではタクミ君と体の関係を持った日に浮かれてタクシーで帰る主人公が、タクシーの中で聞いたラジオにリクエストをしていた人のペンネーム。「Over run」では老女のお通夜にただ一人いた老人。「鳴き砂を歩く犬」でそれが雷太だったことがわかり、「Over run」の老女がジュピターさんだったことがわかる。最後の最後で本人が出るとは。
 人間関係が混乱しそうだったから図にしたら、

陰日向に咲く


 図が汚いとか置いといて、見事に四角くなってまた驚き。この図は最初、雑紙の裏に手書きしたけどあまりにも汚かったんでペイントで書いてみた。エクセルにすりゃ良かった。いや、そんなことどうでもいいんだけど。
 諸事情で読むのがこんなに遅くなったけど、流行りに乗り遅れまくったのがちょっと悔しくなるくらいには面白い。芸人にしてはとかじゃなくて、普通に作品として面白い。売れ続けたのには書いた人の知名度も大きいだろうけど、劇団ひとりではなく川島 省吾で出してたとしても結構売れたと思う。話もいいし、構成もすごくいい。何より何人もの視点で描けるこの引出しの多さはすごい。主人公によって語り口が全く違うのも上手い。
 この本が出てから2年以上経つけど、もう書かないのかな?また書いてほしいけど、私は劇団ひとりの芸人としてのネタも結構好きなんだよね。お笑いは知性がないといけないとは思うけど、作家っていうわかりやすい知性があまり定着し過ぎるとお笑いとしては難しいと思うなぁ。そういうイメージとかを凌駕する面白い芸人かつ作家になってくれると、それはそれで面白い。
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『片耳うさぎ』  大崎 梢
2008-06-23 Mon 10:37
片耳うさぎ片耳うさぎ
大崎 梢

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 小学6年生の蔵波奈都は父の事業の失敗で父の実家に母と共に身を寄せている。父は職探しで留守がちだったが、そのうえ母も祖母の体調不良で奈都を残して自分の実家に行ってしまった。古くて広大な敷地を持つ格式高い「蔵波屋敷」は奈都にとっては恐怖であり、一緒に住む親戚達のほとんどと馴染めてない。学校で暗く沈んでいると、隣の席の一色祐太が古い建物が大好きな「ねえちゃん」のさゆりを紹介してくれ、彼女が泊まりに来てくれることになった。
 夜になってさゆりの誘いで屋敷内を探検した2人は、隠し扉から入った暗い屋根裏部屋で誰かに出くわす。慌てて逃げる際にカーディガンを忘れてしまった奈都だったが、翌日そのカーディガンが片耳が切られたうさぎのぬいぐるみと共に部屋に置かれていた。蔵波家にとってうさぎは不吉な存在、片耳ならなおさらだと言う。誰がこんなことをしたのか?屋根裏には何があるのか?奈都は好奇心旺盛なさゆりに引っ張られる形で、蔵波家の謎を探る。

 大崎梢が初めて出した「成風堂」シリーズ外の本。大きな屋敷に隠し部屋、言い伝えに出生の謎・・・ってまるで毒のない横山正史。謎の答えを知りたくてどんどん読むような本ではないけど、昔それなりに好きだった青い鳥文庫のミステリー本のような軽いドキドキ感がある。謎自体は緩いけど最後にはほんわかくるエンディングが待っていて、ほのぼの系のミステリーも悪くないかなって思ってしまった。『晩夏に捧ぐ』で長編はコケたと思ってたけど、いけるじゃないか。ちょっと中だるみあったけど、面白かったよ。
 冒頭で奈都の心中が延々と書かれている辺りは、子供らしくない文章で子供らしいこと考えてて違和感があった。対象読者はあくまで大人ってことなんだろうけど、何か馴染めなかった。私の大好きな作家・乙一もそんな手法を使っててその違和感がスパイスになってるんだけど、この本だとイマイチに感じてしまったのはどうしてだろうか。乙一はホラーだったからスパイスとなり得たのかな?この本は小6と中3の女の子が活躍するから、大人っぽい文章がマイナス印象に思えたのかもしれない。まあ、読んでくうちに慣れたけど。
 最後には潔の雪子に対する態度には切なくなり、さゆりの正体にもちょっと驚いた。でもさゆりの正体がずっとバレなかったのは不自然じゃね?祐太の紹介の仕方が悪く、さゆり自身も祐太の姉ってことにしてた方が動きやすかったから黙ってたとかいうつもり?だとしたら祐太アホすぎる。小6男子は確かにアホだけど、隣のねえちゃん紹介するのに名前しか言わないほどアホじゃないよ。それに中学生の制服なら普通名札付いてない?しかも公立。私の地元だけかな?とりあえず出身地の違う私の配偶者に聞いてみたけど、あるよね、名札。さらに、奈都とさゆりの母親同士って電話で挨拶交わしたことになってたよね。噛み合ったのか?それとも、そんなにバタバタした挨拶だったのか?ある意味謎が謎を呼ぶ衝撃に事実だった。些細だけど。もういっそ、祐太は実の弟だったってんで良かったんじゃねーの、と適当感漂わせたことを思う。
 また、雪子の出生の真実を記した手紙が選挙妨害のネタとして狙われていたというのは、どうにも取って付けたような動機だ。本当に、心温まる謎は上手いのに、エゴが絡んだ謎は苦手な人だよなぁ。面白いほどにわかりやすい。
 まあでも円満解決で良かった。今後、雪子は父親違いの妹に会うことができるだろう。良彦はさゆりに恋でもしたか。さゆりが応えれば過去が巡って結ばれたことになるんだろうけど、どうだろうか。奈都とさゆりは今後ずっと仲良しなんだろうな。こうやって、物語のその後が幸せな感じで広がるエンディングっていいよね。
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『サクリファイス』  近藤 史恵
2008-06-19 Thu 00:57
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近藤 史恵

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 高校時代は中距離走でインハイ1位を獲りオリンピックを狙えるとまで言われていた白石誓(チカ)は、走ることに苦痛を感じていた時にたまたまTVで見たロードレースに魅了された。自転車部のある大学に行き、卒業後した今はチーム・オッジに所属する。
 ロードレースは見かけは個人競技だが実際はエースとアシストという役割分担があり、アシストの選手は自分の順位が下がってもエースを勝たせるために走る。エースの空気抵抗を軽減させるためにエースの前を走ったり、エースの自転車が故障すればホイールを差し出すのがアシストだ。チーム・オッジにはベテランエースの石尾や期待の新人伊庭がいる。大学時代はエースを務めた誓だが、アシストこそ自分向きであり、一番にゴールすることよりアシストでいることが好きだとその役割に徹していた。
 5月半ばの大会、ツール・ド・ジャポン。トラブルで、序盤にアタックをかけたのはアシストとしてだったはずの誓が1位になる。そのことで誓は、チームの先輩から石尾に気をつけるように言われた。彼は自分以外のエースを認めない、以前強い新人・袴田を事故いに見せかけて下半身不随に追いやったのだと言う。

 本屋大賞2位受賞作品。
 この著者ってスポーツやらない人なのかな?競技のシーンでそう思った。くどくど語るし、影響は小さいけどあり得ないミスがあったり。水を飲み忘れるとか、下りが得意って同期に言われるまで気付いてないとか、プロ選手にはないと思う。でも私の持論では、スポーツ小説は語りすぎるよりちょい深く齧った素人がいい。このかなりマイナーな競技が深すぎることなく基本を押さえた形で描かれていて、とてもよくわかった。ロードレースって競技は存在程度しか知らなかったんだけど、実に奥深い。
 私は野球が好きなんだけど、好きな投手はストッパーだ。バッターとしてなら川相のように異様にバントが上手い人とか、要するに地味だけど際立った特技を持ってチームを補佐する人が好きなんだよね。ゲームを引っ張るんじゃなくて、あくまで補佐。そんな私にとってアシストってポジションはものすごくヒットだった。
 アシストが天職だと思う誓が偶然獲得した勝利。石尾が袴田を潰したという噂の真相は、ベルギーでの大会で彼がクラッシュして死んだことで闇に葬られたもんだと私は思ってた。しかしそこで誓は真実に気付く。と書くとミステリーみたいだよなぁ。実際ジャンルはミステリーにされてるみたいだけど、ミステリーとして読むと薄い。そういや人物描写も薄いな。石尾の堅物エースっぷりも、伊庭の天狗っぷりも、登場した元カノも、袴田の悪役っぷりも。ただ、薄いけど浅くなくて、そこがレースを引き立ててる感じもする。主役はあくまでロードレースで、それ以外は全部脇役、みたいな。いや、私の読み違いかもしれないけど。
 でも香乃存在はやっぱ疑問。こんな書き方じゃ惚れっぽい尻軽女にしか思えないし、最後には自分のせいで誓が陸上を止めたのが心の爪痕ときたもんだ。どんだけヒロイン思考なんだ。まあ、美人らしいからいいか。私は基本的に、美人なら大抵のことは許されると思ってるから。
 最後に誓がたどり着いた真相は、あっさりしてる上に中途半端だ。石尾を描ききれてなかったぶん、動機がちょっと物足りない。それを置いといて、その後もロードレースを堂々と走り続けられる誓は強い。最後の「あとは好きに走れ。で、できるだけテレビに映れ」には笑ってしまった。
 「サクリファイス」の意味がわからなくてざっと調べたら、「いけにえ。犠牲。」だそうだ。アシストのこととしたら、勝利の「いけにえ」や「犠牲」になる。それだとアシストに誇りを持ってる選手に失礼だし、この小説の意味がちょっと違う気がする。石尾のことなのかな?
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『私が語りはじめた彼は』  三浦 しをん
2008-06-15 Sun 23:51
私が語りはじめた彼は私が語りはじめた彼は
三浦 しをん

新潮社 2004-05-25
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 不思議ともてる冴えない中年男の村川によって、日常が歪んでいった人達を描く連作短編集。

1話目「結晶」
 村川が学生と関係を持っていることを告発する怪文書について、村川夫人に話を聞きに行った助手の三崎。村川夫人は既に何度も浮気をされており、離婚の話が進んでいた。村川夫人と話をするうちに、村川が講師を務めるカルチャースクールの生徒・太田春美ではないかという疑惑が持ち上がる。また三崎は、尊敬する村川から怪文書の差出人として疑われていること、恋人の倉橋香織も村川と関係を持っていることを知る。

2話目「残酷」
 賢司は有権者・飴屋の家に婿養子に入っていた。お嬢様生活が抜け切れない妻の真沙子をどことなく蔑み、訪ねる人のほとんどいない大屋敷に住んでいる義父を憐れみつつも、妻と娘を愛していた。しかし真沙子がカルチャースクールの講師である村川と浮気をしていることを知り、呆然とする。信じられない気持ちのまま問い詰められずにいると、その日から賢司は飼っているうさぎ達が自分の上で丸くなっている夢を見続ける。
 ある日持家のことで喧嘩になり、耐えかねた賢司は浮気のことを持ち出した。悪びれることもなく村川の良さを語る真沙子を、賢司は思わず殴ってしまう。真沙子は娘の千沙を連れて父の元へ行ったが、翌日仕事から帰ると家にいた。千沙が泣きながら仲直りするように言い、同じクラスの村川のむすめ・ほたるに怒鳴ってやったと言い出した。
 この話は1話目から何年か経っているようだ。1話目では夫の浮気に無感情になってしまっていた村川夫人が真沙子を訪ねてやってくるし、大学2年生だったほたるが小学生の千沙のクラスメイトとして登場する。

3話目「予言」
 父から突然、母と離婚するから家を出ていくと言われた中学生の呼人(よひと)。高校に入ってからはバイクを乗り回したり女遊びをしたりするようになった。風除けと顔隠しの意味で水中メガネをしてバイクを走らせていたが、隣のクラスの篠原椿がバイクを見せてほしいと言ってきた。約束をすっぽかして父親の家を訪ねてみた呼人だが、父親は2人の娘がいるおばさんと同棲していた。父親は平然と接し、おばさんはあからさまに邪険にする。耐えかねて帰った呼人だったが、家の前では椿が待っていた。それから2人は何となく仲良くなっていく。
 しばらく経ったある日、自分が通う高校の付属小学校の制服を着た父の新しい娘が呼人の教室まで訪ねて来た。彼女は、自分の家のドアに腐った豚肉をなすりつけたりするのはやめろと言って走り去る。
 これは1話目の直後~数年後の話だ。村川は太田春美と再婚していた。またこの話の終盤で、姉の婚約に触れてある。これは5話目につながるようだ。

4話目「水葬」
 依頼により村川綾子を観察している渋谷。完璧なカモフラージュをし、よりよく知るために綾子の有人・佐原直絵と付き合う。しかしその視線に綾子は気付いており、渋谷を母親が依頼した殺し屋だと勘違いしていた。妻子ある身の父を奪って結婚した母は、今度は自分が奪われる番だと思い込んでいるらしい。綾子は父の弟子と付き合っていたために、父と綾子の関係まで疑うようになった母が自分に殺意を抱いてると思っていた。殺されるよりは自殺するから渋谷に見守っていて欲しいと言う。

5話目「冷血」
 どこからともなく白い背中が現れるという夢を見続ける中学教師の律は、婚約者のほたるに父の再婚相手の連れ子の死を調べて欲しいと言われる。ほたるの義理の妹は村川綾子という名前で、海で死んでいた。ほたるは結婚式に参列してほしいと父に連絡したが、娘の死を理由に断られたことに傷付いていた。
 律は昔、どこかの社長の愛人の愛人だった。愛人達を管理する江畑という男にも気に入られていた。しかし愛人女性の太ももにある蜥蜴の刺青と同じ物を自分の腰に施し、一緒に暮らしたいと言うようになってから江畑から「潮時だ」と言われる。愛人女性の暇つぶしの礼に一度だけ力になるという約束をしてくれた江畑を、村川綾子の件で頼る。調査の結果わかったことは、村川綾子は海に入る時に揃えた靴と共に殺し屋が彼女について書いた観察記録を残していた。村川綾子は自分の筆跡がわかるものを残していなかったために捜査は難航したが、結局は彼女の創作として片付けられていた。
 律は村川綾子が住んでいた地を訪ねる。観察日記に殺し屋として登場する渋谷俊介とは連絡がつかず、友人だった佐原直絵とは会うことができた。
 村川の離婚はほたるが20歳頃だと書いてあった。村川綾子が死んだのは大学1年の18歳。母の再婚が小6だったことは4話に書いてあったから、ほたるさんは26~27かぁ。淡々としている律だけど、幸せになって欲しい。

6話目「家路」
 三崎は恩師・村川の死を新聞の訃報欄で知った。彼は村川教授とは決裂し、女子大の講師となっていた。妻の伊都との間に子供はできずに2人で暮らしている。伊都が知り合った奥村君という少年が毎日夕食を食べに来ているが、全くの他人である奥村君が来ることに三崎は何も言えないままでいた。
 九州まで行って村川の葬式に参列した三崎は、太田春美が村川と関係があった女性を見付けだして自分と優劣を付けようとしていることを悟ってぞっとする。その帰り、奥村君が幼少の頃に誘拐された話を聞かされた。彼の真意が読めずに怯えた三崎は、伊都との仲への疑惑と相まって家に来るのを止めるように言う。
 村川の実娘・ほたる伝いにお墓の場所を知らされた三崎は、遠くから納骨式を見た。骨壷を抱えて砂浜を一人歩く太田春美を見て、村川に愛し愛された女性達の間に理解はなかったことを悟って憐れみを憶える。

 適当に三浦しをんの作品を借りたんだけど、前回読んだ『むかしのはなし』に引き続き連作短編を引き当ててしまった。ジャンル的には苦手だけど、やっぱ上手いな、三浦しをん。1話ごとに語り手だけじゃなく時代も変わり、その多角性にに混乱させられる。でもきちんと整理ができて人間模様を理解するのに時間は掛ったけど、三浦しをんって並みじゃないなと改めて思った。エッセイではあんななのに・・・とどうしても思ってしまう。
 ちなみに、2話目「残酷」の10年後が1話目の「結晶」、その直後が3話目「予言」で、7年後が4話目の「水葬」、そのまた1年後が5話目の「冷血」、二十数年後が6話目の「家路」となっている。
 解決してないことはたくさんある。怪文書を書いた犯人についての記述はないし、太田春美の家のドアに腐った豚肉をなすりつけた犯人も不明。渋谷俊介の正体も何だか曖昧だ。大学に学生のふりをして潜入してしているだけのようだけど、綾子の死後に警察から取り調べを受けていて何も出てないってあり得るか?綾子は自分の肉筆の物を全て処分して死んだらしいけど、大学への提出物は?忍び込んだりなんかして回収したの?伊都と奥村君の関係は実際のところどうなの?という疑問が浮かんでくる。
 まあこうやってつい現実的にはどうかと考えてしまうこともあって私は、心情を丁寧に描いた本が苦手でもある。ていうか、表現が丁寧になるとどうしても事象の濃度が薄れる。私は事象を読みたいから、この本は評価するけど好みではないかな。何だか退屈に感じる。三浦しをんをこの本から読み始めてたらあまり好きにならなかったかもしれない。代表作『まほろ駅前~』や『風が強く~』やエッセイから読み始めたから好きかなって思い始めてるところ。
 それにしても物語の描き方の多様性に驚かされている。
別窓 | [ま行の作家]三浦 しをん | コメント:0 | トラックバック:0 |
『サイン会はいかが?―成風堂書店事件メモ』  大崎 梢
2008-06-12 Thu 21:59
サイン会はいかが?―成風堂書店事件メモ (ミステリ・フロンティア 32)サイン会はいかが?―成風堂書店事件メモ (ミステリ・フロンティア 32)
大崎 梢

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 本屋の謎は本屋が解く、成風堂書店シリーズ3作目。

「取り寄せトラップ」
 ある本に4件の取り寄せ依頼が来た。品切れ重版未定の本だったので断りの電話をかけたところ、4人ともそんな本を頼んだ覚えはないと言う。その後同じ人達から別の本の取り寄せ依頼が来た。電話で確認を取ったところ、またしても頼んだ覚えはないとのこと。
 数日後、岡本詩織と名乗る若い女性がその事件のことで訪ねてきた。この事件には1年前に彼女の祖父が崖から落ちて死んだことが関係しているのではないかと言う。
 
「君と語る永遠」
 成風堂に小学生グループが社会科の見学学習に来た。その中の一人、千葉広希という少年が上段の棚から広辞苑を抜こうとして頭に落ちそうになったところを杏子が助ける。広希はそれ以来ちょこちょこ成風堂に来ては些細な質問を繰り返すようになる。
 そのころ巷では少年が幼児を連れ去って置き去りにする事件が相次いでいた。広希はなぜ本屋に興味を持ったのか?幼児連れ去り事件の犯人は・・・?って、犯人出てこないんかい。まあ、この目先の問題だけに着目するのがこのシリーズの読みやすくていいところなんだけど。

「バイト金森くんの告白」
 宴会で失敗談披露会になってバイトの金森君に話を振ったところ、本屋で出会った女の子に恋をしたと言い出した。何度か縁があった彼女だったが、ある日雑誌の付録のフォトファイルをくれた。そのフォトファイルが付いていた号の特集は「ストーカーの心理」だったことで、彼女が自分の気持ちに気付いて気味悪がってたと知りショックを受けた、という話だった。翌日、ここでも多絵の推理が炸裂する。
 金森君は最初、恋した少女を「美少女ってわけじゃない。十人並みだけど・・・」と言っていたのに話が進むにつれて作中で美少女扱いされていくことに疑問。

「サイン会はいかが?」
 影平紀真という若手の人気ミステリー作家が「サイン会はある熱心なファンの正体を解き明かしてくれる店員がいる書店でしたい」と言っているらしい。多絵を頼りに名乗りを挙げた成風堂。そのファンからのヒントとなる暗号を多絵が解いたところによると、脅迫的な内容が書かれていた。
 影平本人から詳しく話を聞くと、熱心なファンの正体を知りたいと言うのは公向けの理由。執拗に嫌がらせをしてくる「レッドリーフ」と名乗る人物を探したいのだと言う。
 私、ポーの「黄金虫」大好きなんだよ!つまりこういう暗号解き、結構好き。謎解きそのものも面白かったけど、サイン会の様子がまた面白い。以前勤めていた図書館で作家のサイン会をやったことあるけど、本屋とあちこち違う。サイン会においての注意点なんか、興味深く読んだ。
 杏子や多絵の、作家よりもお客さん第一の姿勢がいいな。杏子は特に作中全体を通して、本が好きだから本を好きな人も好きっていう感じがいい。図書館ももうちょい見習うべきっていうか、そういう人を採用するべきだと思う。・・・非常に難しいよね。

「ヤギさんの忘れもの」
 常連客の蔵本がパートの名取に自分が撮った写真を見せに来たが、名取は都合でパートを辞めていた。蔵本はショックで、名取に見せる予定だった写真を紛失してしまう。半ば諦めかけていたところ、多絵が推理を働かせる。
 この話に出てきていた絵本、私は知らなかった。しかけ絵本の一種だから私が前勤めてた図書館では入れなかったんだろうな。面白そうな絵本だ。

 前作は殺人事件を絡めた長編を著者が書ききれてない感じがしたけど、今回はまた短編。舞台も成風堂に戻っている。でもって面白い。本屋さんってやっぱ図書館とは違うもんだなぁ。図書館より大変だろうとは思ってたけど、やっぱそうだよなぁ。公立学校と塾くらい違うよなぁ。って、よくわからない例えかもしれないけど。
 事件そのものは小さいけど、その人の日常の中では大きい。そこに本が絡み、本屋が絡み、それを多絵が解く。杏子は仕事しかしてない気がしなくもないんだけど。助手ですらなさそうだしなぁ・・・。でも本やお客さんへの愛情は大きい。このシリーズはこういう日常の延長に起こる事件がいいな。
 表題作はちょっと物々しかったけど、犯人とその動機に納得いくものがあって面白かった。
 シリーズ前作『晩夏に捧ぐ』の感想でも書いたけど、司書による等身大司書小説を誰か書いてくれるのを待ってます。有川浩の描く司書像はツッコミどころ満載なんでパスで。
別窓 | [あ行の作家]あ行その他の作家 | コメント:0 | トラックバック:0 |
『西の魔女が死んだ』  梨木 香歩
2008-06-09 Mon 15:27
西の魔女が死んだ西の魔女が死んだ
梨木 香歩

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 母親の迎えで学校を早退したまいは、「魔女が―倒れた。もうだめみたい」と聞かされた。日本で暮らす英国人の祖母のことを、母親とまいは「西の魔女」と呼んでいた。祖母の危篤を聞かされ、まいは2年前に祖母の家で2人で暮らした日々のことを思い出す。
 中学校に入ってすぐに不登校になったまいは、両親と離れてしばらく祖母の家で暮らすことになった。そこでまいは、自分が魔女の血を引いていることを告げられた。自分も魔女になりたいと思ったまいは、祖母から基礎トレーニングとして早寝早起き、食事をしっかり取り、よく運動し、規則正しい生活をすることを教えられた。
 単身赴任していた父親の元に母親とまいも引っ越すことに決めて祖母の家を離れる直前、まいが嫌いな向いの家のゲンジさんを祖母が庇ったことから仲違いしてしまう。一応の仲直りのような物はあったものの、祖母の家を発つ際に以前のように「おばあちゃん大好き」と言えなかったことがまいの中でしこりになる。しかし祖母は、死んで魂が身体から離れたらまいに見せるという約束を守ってくれた。


 タイトルから普通にファンタジーだと思ってたら、全然違っていた。それどころか非常に穏やかな話。映画化がちょっと話題になってるんで読んでみたんだけど、不登校の少女が自然と共に暮らす祖母の元で生きる力を取り戻すという文学界ではどこにでも落ちてる話だった気が・・・。ただ、祖母の英国式ライフスタイルがお洒落であり、舞台は日本なのに田舎生活というよりカントリーライフといった素敵さを匂わせている。昨今ちょっと流行ったターシャ・テューダ?と思わなくもないけど。うーん、どうも“きれいな話”で終わってしまって、私はこの話に取り立てて感動を見出せなかった。『ターシャの庭』をパラ見して全く何も感じなかった私には感動しろというのが無茶な話だ。自分は本当に波乱が起こらないと面白いと感じることすらできないんだなぁと再確認。
 厚さといい、深くも淡白なストーリーといい、子供向けというか祖母の家で暮らすまいと同年代向けかと思う。しかも女の子向け。私はちょっと物足りないと思った。例えばまいの母親がまいを「扱いにくい子」と言ったけど、ストーリーを通して読んでもまいの性格は全然そんなことなかった。母親なら安易にそんなこと言うなよ~、そして作者はちゃんとキャラ設定してよ~と思う。ゲンジさんも一方的に悪者にされて、最後はショボい感じで銀龍草を差し出すだけっつーのも何か良かったような可哀そうなような。ていうか銀龍草って地面に生えてる所が美しいんであって、一輪ざしに生けるっていうのはどうもなぁ。祖父が銀龍草好きだったからっていう理由はあるだろうけど、この祖母やゲンジさんなら上手に鉢植えにできただろうに。
 ただ、祖母の言葉は当たり前すぎて手を抜いている日常の原点を気付かされる。規則正しい生活は体調を整えると共に精神を安定させる。たまに自分を惑わせる声が聞こえたら、即座に無視。直観は大切だけど、直観に取りつかれると妄想となって激しい思い込みや妄想になるということ等々。私はもうすぐ30歳になりそうな年齢なのに、出来てない自分が恥ずかしい。
 最後に。魔女はいい祖母だったけど、こんな祖母が欲しいかどうか。私の母方の祖母は母が幼少の頃に亡くなってるため、私には父方の祖母しかいない。しかもその祖母は私が物心ついた時には既に高齢で、彼女から学んだことは少ない。でも私にとっての祖母は実の祖母以外考えられないから、こんな立派な祖母はいらないなぁ。家族愛の本を読んで「こんなお母さんが欲しかったなぁ」ってとか思うことはあるけど、祖父母に関しては譲れない気持ちになるのは何でだろうな。
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グリムス始めてみます
2008-06-06 Fri 21:43
 グリムスってやつを始めてみた。ブログの更新によって苗木が大人の樹に成長していくってサービスなんだけど、大人の樹になったら本物の苗木を本物の森に植えてくれるとか。
 エコ活動の一環みたいだけど、なかなか斬新ですな。面白そうだと思ったんで、とりあえずやるだけやってみることにした。ちなみに植林活動はgoogleマップで確認できるっぽい。って、まだ1回しか実績ないんだな・・・。今後ユーザーが増えてスポンサーも多く付けば頻繁に植林できるようになるんだろうな。去年の10月から公開してるサービスみたいだから、まだまだこれから。ブログペットの不甲斐なさにあっさり飽きた私だけど、とりあえず立派じゃなくてもいいから大人の樹に育ってくれるといいと思う。って、私は母親か。
 さぼってると弱っていくらしいから、たまに間が空くこのブログにはちょっと心配なんだけど。私の場合は基本的にブログ更新=読書活動って感じだから、樹が成長しない=本を読んでないってことになる。取り立てて本好きってわけじゃないのに司書なんかやるから、自分を追い込んでないとプロ意識を保てないんで樹が成長しない=プロ意識怠慢中ってことになるよなぁ。と、さらに自分を追い込んでみた。

 しかし。せっかくグリムス始めたんだけど、今週いっぱい本が読めない。配偶者に誘われて簿記試験を受けることになって、ちまちまと勉強してるところだ。本を読むにはかなりの集中力と時間を要するんで、とりあえずその集中力と時間を勉強に向けているところだ。
 ちなみに私は司書だし配偶者はシステムエンジニア。2人共、簿記とは全く関係ない仕事をしている。ただ、配偶者の会社は特定の資格試験に受かると報奨金がもらえるというオイシイ制度があるんで、配偶者はそのためだけに受験勉強をしている。何でシステムエンジニアが簿記3級で報奨金もらえるのかは甚だ謎なんだけど、とりあえずそういう決まりらしい。私は以前ほんのちょっと齧ったことがあるんで、付き合いで勉強し直して受けてみることになっただけ。
 しかし配偶者は突然仕事が忙しくなり、私は基本的にコツコツ勉強とは無縁なんで2人共あんまり勉強してない。ただ、配偶者は頭がいいんだよなぁ、こんちくしょう。覚えるのが私より早いじゃないか。
 というわけで、6月8日の試験が終わったらちゃんと本を読んで感想を書いて、グリムスを育てようっと。まあ家庭がある身なんで、毎日読書して更新するとかは無理なんだが。週1以上を目標に・・・って、これまでと変わらない目標で頑張ってグリムス育成します。
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『雨降ノ山―居眠り磐音江戸双紙6』  佐伯 泰英
2008-06-02 Mon 18:44
雨降ノ山―居眠り磐音江戸双紙 (双葉文庫)雨降ノ山―居眠り磐音江戸双紙 (双葉文庫)
佐伯 泰英

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 今津屋が、納涼祭で勘定奉行や町奉行の役人を接待するための屋根船を出すと言う。その用心棒を引き受けた磐音は、帰り道に同じ金兵衛長屋に住むお兼が男に付きまとわれている所を助けた。男はお兼の元亭主・丑松だったが、お兼は知らない男だとしらを切りと押す。元々「化粧っけのある女」として長屋の女達に嫌われていたお兼だが、その日以来磐音はお兼に色目を使われるようになり磐音まで長屋の女衆に口を利いてもらえなくなった。
 納涼祭では今津屋の船を無事あやかし船から守った磐音だったが、その帰りに丑松がお兼と連れの男を刺した所に行き当たった。この先地獄しかない丑松は、磐音の慈悲で絶命した。
 さて磐音の故郷である豊後関前藩だが、今津屋のコネで乾物問屋の若狭屋を紹介してもらうことになった。今津屋の吉右衛門と共に若狭屋を訪れた中居と磐音は、工夫次第で江戸でも売れるという評価にひとまずほっとした。
 ある日磐音が幸吉の長屋を訪ねると、同じ長屋のおつね婆さんが首を吊った事件が起こっていた。安五郎という男に金を騙し取られた末の自殺だという。幸吉は役人だけに任せてはいられないと、鰻獲り仲間にも協力させて安五郎を探していた。安五郎を見たことがあるおつねは、幸吉の暴走を磐音に相談に来た。
 また今津屋に話が戻り、元々体が弱かった内儀のお艶が最近ことさら体調が悪いそうだ。そのお艶が実家で静養したいと言っている。実家は相州伊勢原(多分神奈川・・・?)で、旦那の吉右衛門も送っていくと言うそうだ。その旅に、磐音も同行するように頼まれた。吉右衛門とお艶、お艶の世話役におこん、荷物持ちに宮松、用心棒に磐音の5人でお艶の実家まで行くことになった。道中起こる揉め事は磐音が片付けつつ旅をしたが、お艶は実家が近くなって倒れた。
 昔からお艶を知っている医師・今村梧陽の診察によると、お艶は胃に不治の病を抱えていることがわかった。お艶自身はそれに気付いていたが、隠し通してきていた。そんなお艶だが、大山詣でだけはどうしても行きたいと言う。そこで磐音が背負って大山、別名「雨降山(あふりやま)」を登り、不動堂まで行くことになった。大山詣でが叶ったお艶だが、翌日から高熱を出す。磐音は病平癒の代参のために毎日未明に山に登った。その磐音にまた面倒が降りかかる。
 先の短いお艶のために吉右衛門が伊勢原に残ると言い出した。両替商は老分の由蔵がいるから問題はないが、主のいない店は何かと気が緩むためと、吉右衛門は磐音に後見を頼む。磐音、おこん、宮松は江戸に戻るが、今度は南町奉行所の笹塚が旗本の詐欺事件の相談を磐音と由蔵に持ちかけた。
 その旗本は大判を質に大金を借りては返すことを繰り返した後、数度目に質草を請け出す際に「これは預けた大判ではない」と言って始末料を強請っていた。同じ目に合った質屋が数軒あったが、相手が旗本であるために迂闊に手を出すことができない。何となく付き合わされるような形でしかなかった磐音だったが、調べていくうちにその旗本が吉原で白鶴・・・つまり磐音の元許嫁・奈緒を気に入り、身請けしようとしていることがわかった。磐音と笹塚はこの事件を丸く収める方法を思案する。

 今まで登場しなかったお艶だったが、彼女が病に倒れてからの磐音の優しさは胸を打つ。そんな優しい磐音なのにトラブルは必ず向こうからやって来て、結局血生臭い話になってしまう。それが哀れでもあり、この本の面白味でもあるんだろうけど。
 江戸っ子は相変わらず、意外なところで思いやりがある。やくざの親分がおそめを心配して、船頭には悪い奴もいるからと子分を一人付けたりとか。駕籠に乗って山に登るお艶に文句を言う輩が病人と知ると道を空けるよう大声を出してくれたり。何かそういう小さいシーンに、古き良きって匂いがしていい。
 豊後関前藩の海産物輸出の話も、退屈なく読めてしまうのが不思議だ。今後、無事軌道に乗るかな?トラブルに好まれる性分の磐音がいるんだから、もしかしたらもう一悶着くらいあるのかな?
 あと気になるのは、花魁白鶴の浮世絵を描いた北尾重政がおこんに声を掛けてきたこと。ナントカ小町のおこんの絵を是非描きたいと言ってきた。磐音がいてもいなくてもおこんは断っただろう。ただの行埋めにこんなエピソードを書く著者じゃない。今後何か起こるのかな?
別窓 | [さ行の作家]佐伯 泰英 | コメント:2 | トラックバック:0 |
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