元司書による読書備忘録ブログ。思ったことは全部書き、何様気取りの感想だったり平気でネタバレしたりします。
『八月の路上に捨てる』  伊藤 たかみ
2006-09-25 Mon 00:53
八月の路上に捨てる八月の路上に捨てる
伊藤 たかみ

文藝春秋 2006-08-26
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 今回の芥川賞受賞作品。明日で30歳のアルバイト・敦と、明日から総務課へ異動する32歳バツイチ子持ちの女性社員・水城。コンビで自動販売機に商品を補充して回る最後の日、敦は聞かれるがままに離婚に至った経緯を水城に話す。
 はっきりとしたポイントがないまま、気持ちのすれ違いが次第に大きくなっていって2人が全く噛み合わなく様子が実に不快な話だ。でもこれが過去のことで、離婚という結論が既に出ているから安心して読める。聞き手の水城が離婚経験者だから、結婚経験すらない私に深い所を解説してくれてるように感じて読みやすかった。
 でもやっぱ、離婚の話って読んでてムカムカしてくる。そもそも何で結婚したんだ?と思える2人。浅はかすぎるじゃないか。結婚ってこんなもんなの?って、なにフィクション相手にこんなにムカついてるんだろうか・・・。
 芥川賞って難解なイメージあるけど、わりと読みやすかった。
 同時収録の「貝からみる風景」は一転して仲の良い夫婦の話。いや、夫婦じゃなくて同棲してる男女なのかも。その辺ははっきりしない。
 同じ物を食べていると同じ物が不足して、同じタイミングに同じ物を欲する。そういうことに幸福を感じる淳一。彼は鮎子とスーパーで待ち合わせをしている時に“お客様の声”コーナーで、子供が好きだった「ふう太郎スナック」がなくなって困っているという投書を見かけた。店側の回答は、その商品の仕入れ記録がないため商品名が違ってるのではないかというもの。「ふう太郎スナック」とはどんな物だったのか。ふとこの話を鮎子にしたら、彼女も淳一と同じ黒糖麩菓子を連想した。
 ベッドに並んで寝ていると風がカーテンを膨らませ、中はまるで貝の中にいるみたいだと淳一は思う。彼はそうやって、自分が一人ではないことを実感する。
 「八月の~」とは違って一緒にいることが自然な2人なのに、なぜか孤独さを感じてしまう不思議な作品だった。

 伊藤たかみさんってずっと女性だと思ってたけど、今回の受賞で男性だったと知った。しかも角田光代さんの旦那さんだってさ。夫婦で作家ってすごいなぁ。夫婦で一流作家っていうことに驚かされました。
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『まほろ駅多田便利軒』  三浦 しをん
2006-09-15 Fri 18:58
まほろ駅前多田便利軒まほろ駅前多田便利軒
三浦 しをん

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 まほろ市の駅前で何でも屋「多田便利軒」を営む多田啓介は、高校時代の同級生・行天春彦と再会した。美形で成績はいいが孤高の変人で、高校時代に発した言葉は右手小指が断ち切られた時に「痛い」と言った一言だけ。
 しかし再会した行天はよく喋る男になっており、真冬なのに素足にサンダル姿で一晩泊めて欲しいと言う。お人好しだからか過去の後ろめたさからか一晩泊めることにした多田だったが、行天は結局居座ってしまった。2人して便利屋に転がり込むささやかな依頼を引き受けたり、関わり合いたくない事件に巻き込まれたりしていく。

 三浦しをんって前からいた気はするけど、最近見かける頻度が上がってきたな~って時に直木賞を受賞したんで読んでみた。司書として芥川賞・直木賞受賞作品くらいちゃんと読まないといけないかも・・・と去年辺りから思い始めてることだし。今更思うことも、今までちゃんと読んでないことも問題だけど、なによりこれまで新規開拓に全く興味なかったのが何より問題なのかもしれない。いや、最近は頑張ってますよ、本当。
 って私事はさておき。読み始めはハズレかと思ったけど、じわじわと面白さが盛り上がってきた。最初は、多田便利軒に依頼されることを解決しつつ人の温かみに触れるとかいうありきたりだけど盛り上がりに欠けるサクサク読める軽い話かと思った。でもちょっと読み進めると意外に深い。軽そうで重い。
 多田にしても行天にしても、少しずつじわじわと2人のことがわかっていく感じが面白かった。人物を語るに当たって結構大切な事件でも、そう簡単には教えてもらえない。行天の小指切断事件も、多田のかつての結婚生活・・・前妻の浮気や自分の子と信じたい赤ちゃんのこと、ハイシーやルルが意外としっかりしていることもなかなか教えてもらえない。多田便利軒への依頼も季節もどんどん過ぎて、ぽつぽつと断片的に語られていく。だけど全然後出しって感じがしないのは、絶妙なタイミングで明かしてくれるからだろう。そうだったのか!だからあんなだったのか!と納得いく。だからあんなだったのか!も~三浦さんったら出し惜しみしちゃってさ、とは思うけど。
 基本的に多田目線の語りは軽快だけど、時々見え隠れする暗い過去。物語が進んでその過去を知り、多田が抱き続けてる感情を知り、もう一度始めから読むと全く違って見える。単純なヒューマンドラマには絶対見えない。多田はむさいおっさんには見えない。自分と同じ苦しみを抱えているという共通点を前妻に見出して暗い喜びを感じる多田に、ひたすら哀しい視線を向けて読んでしまう。行天の存在は彼を変えれてるだろうか。
 最後に多田が幸福を感じる終わり方で良かった。今後も2人はコンビで行くのかな?ほろ苦い余韻を少しと、いい余韻をたくさん残しながら読み終わって、いい気分で本を閉じれた。
 面白かったけど、ここで冷静になってみる。直木賞作品と考えるとちょっとエンタメに傾き過ぎてる気がする。大衆小説ではあるけど、うーん・・・。感情を振り回されるような面白さではなかったかな。文藝春秋から出してなかったら私の読み浅さを反省するところだけどね。
 それから描いているアングラは石田衣良の劣化版かな。目指す物が違うから比べちゃ悪いけど、似てるからこそ浅さが気になる。ハイシーやルル、星、ヤマシタなんかは、完全にデジャブ感じる。IWGPは好きなんで、読みやすく感じつつも何かデジャブ感が集中力を妨げた。
 とはいえ、何度も書くけどやっぱ面白かった。
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『LOVE or LIKE』  石田 衣良 他
2006-09-10 Sun 11:06
LOVE or LIKELOVE or LIKE
石田 衣良

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 6人の男性作家による淡い恋愛のアンソロジー。

『リアルラブ?』  石田 衣良
 セフレ関係にあるカナコとヤス。カナコはバイト先のチーフに恋していて、ヤスは常連客のマダムに憧れを抱いていた。
 チーフに結構本気っぽいカナコと、淡い憧れ程度の気持ちしか見えないヤス。なのに協力しようとグイグイ余計なお世話を押し付けるカナコがうっとおしい。2人の関係は石田さんっぽいとは言えるけど、短編でこれ以上の関係に進まないまま終わると「で?」で感じになる。こんな中途半端な感じで終わらせるのは石田さんらしくない。

『なみうちぎわ』   中田 永一
 5年間の昏睡状態から目覚めた「わたし」。家庭教師をしていた小学生の小太郎は高校生になり、毎日「わたし」の様子を見に来てくれていた。5年前に海で溺れそうになった小太郎と、その小太郎を助けようとした「わたし」の物語。
 「わたし」の側に居続けようとする小太郎と、マイペースな「わたし」の関係から起こる2人の会話が楽しい。乙一だという噂のある覆面作家さんだけど、会話の感じとか最後にちょっとした驚きがあるところとかは似ている。もし別人だったとしたら、もっと色々書き続けて欲しい作家さんだと思う。

『ハミングライフ』   中村 航
 小さな雑貨屋を任されている「私」は、昼休みに昼食を取る公園で猫を見付けた。その猫に毎日牛乳とカツオブシをあげることにした「私」は、ある日近くの木のウロに手紙が入っているのを見付ける。木のウロを利用して誰かとの文通が始まる。
 微笑ましい話ではあるけど、私には何だかメルヘン過ぎる。そのメルヘンさが胡散臭い。

『DEAR』   本多 孝好
 小学6年生で転校してきた笹山はるかは、社宅の隣の部屋に引っ越してきた少女だった。彼女に好意を寄せる「僕」、黒崎、舟木は、彼女を誘って4人でよく一緒に遊んでいた。笹山は父親が会社のリストラに関わっているために、段々とクラスから疎外されるようになっていった。笹山が再び転校していく前に告白した3人だったが、笹山は返事を手紙に書いて二十歳になったら教えると言って池の底に沈めた。8年後のクラス会では、AV女優となった笹山で話が盛り上がる。
 転校してきた美少女がいじめられるというありきたりな話。ありきたりはありきたりに面白いけど、短編なんだからもうちょっと捻りが欲しかった。

『わかれ道』   真伏 修三
 高2で転校してきた新川幸恵という美少女に市営球場に呼び出された「僕」。少し話して映画を見たが、そのデートをやたらと気にする女子に人気の友人・本神。他の人には一度デートしただけの「僕」と付き合ってると言っている新川を気にしつつも、話しかけることはできないでいた。
 2話続けて美女転校生の話がくると、ちょっと「またか」って思う。「僕」の気持ちも曖昧だけど、新川の存在そのものが浅くて掴みどころがない。そのために話自体がただの夢オチになってもおかしくないぐらい淡い。

『ネコ・ノ・デコ』   山本 幸久
 真弓子が経営する「ネコ・ノ・デコ」はつっ気ごとにアーティストの作品を展示・販売をしている。その日は新しい客であるボンジュール野火止と会う予定になっていたが、実際会ってみると彼女は高校時代の同級生・藤枝美咲だった。彼女から高校の同級生が集まる飲み会の様子を聞いた真弓子は、数年前まで働いていたランジェリーパブに高校の同級生である橋本と大河原が来た時の事を思い出した。
 これまでの5話とは違う感じがした。生活のために働いていたランジェリーパブに高校の時に好きだった大河内が来てしまい、開き直った接客を始めた真弓子を見て彼は怒ったように帰っていく。大河内は真弓子を振ったはずだけど不愉快になってしまう彼の気持ち、男心は複雑だなぁ。空気を読めなさすぎの橋本には腹立つけど。

 祥伝社が 『I love you』 と同じような主旨で作った物だとは思うけど、執筆者のネームバリューだけじゃなく内容の充実度も随分劣るようだ。いいなと思える話もあったけど、大半はスカスカした妄想恋物語だと思う。
 
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