元司書による読書備忘録ブログ。思ったことは全部書き、何様気取りの感想だったり平気でネタバレしたりします。
『フライ,ダディ,フライ』  金城 一紀
2003-07-15 Tue 22:32
フライ,ダディ,フライフライ,ダディ,フライ
金城 一紀

講談社 2003-02
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 職場でMさんと本の話をしている時に「スカッとする本」と紹介された本。「(。・ω・。)さんは『世界の中心で愛を叫ぶ』とか嫌いでしょ」「はい。タイトルからして、気持ち悪いって感じです」とか話してる時にこれを教えてもらった。
 名前同様、平凡ながら幸せな人生を歩んでいた鈴木一。しかし一人娘の遥が殴られて怪我をした事件から、その「平凡」が壊れた。娘を殴ったのは近くの高校のボクシング部のエース・石原。石原の高校は学校ぐるみで事件をもみ消そうとし、鈴木は混乱のまま教頭の平沢の言うなりになってしまった。彼はそのことを激しく後悔し、石原を殺そうと出刃包丁を持ち出す。しかし高校を間違えてしまい、奇妙な4人組に出会った。彼らは鈴木が石原に復讐するための舞台を用意してやると言う。次の日から鈴木は、朴舜臣を師匠に体を鍛え始める。
 スカッとしましたよー、Mさん!!!すげー面白かったし、かっこよかった。朴君はもちろん、鈴木さんもかっこえー。高校生の朴君に40代後半のおっさんが、戦いだけでなく人生までも教えられていく。朴君は在日朝鮮人だけど、彼の人生はそんなに凄まじかったんだろうか。
 この本は鈴木さんと朴君メインで書かれていたけど、朴君の友達の3人にももっとスポット当てて欲しかったなぁ。これじゃ物足りない。特に山下君。些細な不幸を山のように引き寄せて、なおかつ無邪気な山下君がとてもかわいい。
 意外なところで応援している人達の存在も楽しい。ロープで木に登る訓練を応援する神社の人達、勝手にライバル視しているバスの「スタメン」乗客達が、成功した鈴木さんを大いに讃えるシーンで徐々に盛りあがってくる。
 そして決戦当日に集まった南方達の学校の人達。それぞれに役割を持った南方、板良敷、萱野、山下。山下の存在は、鈴木さんにとっても大きな存在になる。石原との決戦で竦んだ鈴木さんを最終的に突き動かしたのは、娘の遥でも朴君でもない。泣きそうな顔した山下君だ。もちろん根底にあるのは娘への愛と石原達への怒りだろう。山下君は最後の引き金に過ぎない。でも一見マヌケな山下君が引き金になった時、何だかぶわーっと感情が盛り上がってきた。
 鈴木さんの最後のモノローグ、とてもいいクールダウンでした。
 最初はダサいなぁと思ってた表紙も、読み終わってからは全然違って見える。皆が空を見上げているなんてシーンはないんだけど、これがイメージするものが何なのかがわかってしまうとこの表紙の良さがわかってきた。小さく書かれてる鷹とバスが何とも象徴的じゃあないですか。
 あー、面白かった。

 <後日記>
 『フライ,ダディ,フライ』は「ゾンビーズ」というシリーズの2巻目に当たるらしい。1巻目は『レヴォリューション№3』というタイトル。なんて共通性のない・・・。これもかなり面白いらしいんで、読むぞ!
別窓 | [か行の作家]金城 一紀 | コメント:0 | トラックバック:0 |
『半落ち』  横山 秀夫
2003-07-02 Wed 23:00
半落ち半落ち
横山 秀夫

講談社 2002-09
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 現役の警察官・梶警部が妻を殺したと自首してきた。アルツハイマー症に蝕まれつつあった妻自身から懇願されての嘱託殺人だった。自首は犯行の2日後だったが、その2日間にどこで何をしていたかについては一切口を閉ざしたまま。自宅には「人生五十年」という、書かれて間もない書があった。犯行を全面的に認めた梶が隠していることとは?その謎を、この事件に関わる機関の担当者それぞれの視点で追及していくストーリー。
 「半落ち」とは警察用語。自供することを意味する「落ちる」は昔から刑事ドラマとかでも使われてたけど、「半落ち」とは一部しか自供しないことだそうだ。
 取調官、検事、新聞記者、弁護士、裁判官、刑務官と、梶の身柄が移動されるごとに語り手もその組織内の担当者へと変わっていくが、梶は犯行は全面的に認めつつも事件後2日間の行動については絶対に口を割らない。
 担当者達は梶の空白の2日間に興味を持つけど、所属する組織のしがらみを捨てきれないままタイムオーバーになり事件は次の組織の手に委ねられる。それを繰り返しつつ担当者達の人生ドラマを垣間見ていくんだけど、空白の2日間についてはほとんど進展しない。あまりの進展のなさにちょっとダルくなってきたなと思った頃、謎がぱっと晴れた。
 もうね、この展開が見事。担当者達の人生はそれなりに濃厚だし、事件にはモヤモヤ感がずっと漂ってるんだけど、それが一瞬で霧散した。あとはもう滂沱だ。特に「お父さん」には、やられた。
 私はこの本、泣きながら何度も読んでしまった。2回目は1回目より泣いたし、3回目は2回目より泣いてしまう。そんな話だ。
 担当者達の話も良かった。短い中に、彼らそのものが詰まってる。私が特に印象的だったのは、検事が検察内の軋轢にぶつかって部下に責められたシーンで声には出さなかった言葉。正義感の強い息子のことを、「息子が正義の味方でな。俺の血を引いてるからだ。そう思っていたいんだ――。」という思い。何というか・・・ボキャブラリーが貧困で申し訳ないんだけど、かっこいいなって思った。平たく言うと男のプライドというか、そういうやつ。私には一生縁がない思いだろうから、何かいいなって思った。
 こういう「男のドラマ」って感じの話は、結構好きだ。
別窓 | [や行の作家]横山 秀夫 | コメント:0 | トラックバック:0 |
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