元司書による読書備忘録ブログ。思ったことは全部書き、何様気取りの感想だったり平気でネタバレしたりします。
『終末のフール』  伊坂 幸太郎
2009-05-20 Wed 12:11
終末のフール終末のフール
伊坂 幸太郎

集英社 2006-03
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 8年後に小惑星が衝突し、地球は滅亡するという発表から5年が経った世界。一時期大変な混乱に陥った社会は諦めによる落ち着きを取り戻し、残る3年を静かに迎えようとしていた。そんな世界の、仙台市にあるマンション・「ヒルズタウン」の住人達を描く短編集。

「終末のフール」
 10年前、成績が良く器量も良かった娘・康子は父親である「私」と喧嘩して家を出ており、その2ヶ月後に成績が悪く不器用な息子・和也が自殺し、「私」は妻の静江と過ごしていた。しかしその日、康子が来ると言う。
 この「私」は家族に対して「馬鹿」というのが口癖なんだけど、私の父親と一緒だ。読んでてそれがすごく不快だった。私も康子みたいにブチ切れられたら少しはすっきりしたのかなぁ。でも私はあまり賢くないし体も弱かったしその他諸々で兄妹一金のかかる子だったから、その後ろめたさでやっぱブチ切れるのは無理だな。結婚して自分にとってのホームが配偶者と暮らす家になった時に初めて、そんな事を言われる筋合いのない人間になれた気がした。父親もそれを察してるのか私が結婚したからなのか、私に対してあんまり「馬鹿」とは言わなくなったかな。それか、結婚してからはそんなこと言われるような会話をしてないのかもしれない。
 とまあ、かなり私事を書いたけど。「私」は息子のことを「失敗作」と言うような男だ。静江さんはこんな男と結婚して生活を続けて、幸せなんだろうかと本気で思う。でも静江さんと和也にはこの父娘を仲直りさせるだけの物があったのは事実で、「私」と康子の方は今後の3年間は幸せなんじゃないかな。
 話としてはいいのかもしれないけど、どうしようもなく相当個人的な理由でモヤモヤくる話だった。 

「太陽のシール」
 世界が残り3年になって妻の美咲が妊娠した。子供は3歳までしか生きられない。産むべきか産まざるべきか、優柔不断な「僕」は悩む。そんな折、高校時代の友人と再会してサッカーに誘われた。約束の日に土屋と再会した「僕」は、土屋の子供が先天性で進行性の病気を持っている話を聞かされる。
 この話は産むか産まないかの選択が出た時点で、どうせ“産む”を選択するんだろってわかってしまったのが良くない。最終的に“産まない”を選択してくれたら凄いなと思いつつ読み進んだけど、案の定“産む”を選ぶし。だからラストにあまり感慨はなかった。オセロにはちょっと笑ったけど。

「籠城のビール」
 俺」と兄貴の妹の暁子はかつて人質事件の被害者となるも無事生還したが、その後執拗にマスコミに追いかけられるようになった。犯人が死んだこともあって何の罪もないはずの暁子が根も葉もない記事を書かれ、マスコミの対応を一手に引き受けていた兄もどんどん無表情になっていく。結局暁子は自殺し、その後母親も自殺した。杉田が司会をしていた番組は特に悪質だったため、「俺」と兄貴は小惑星に先を越される前に復讐しようと杉田の家に押し込みをした。
 うーん、いまいちリアリティに欠ける話だったかな。凶悪殺人の被害者ならともかく、強盗に人質に取られた程度の被害者をマスコミがいつまでも追うかなぁ。「俺」は妹の器量が良かったことも関係したと考えてるけど、それだけじゃこのマスコミの執拗さを描くにはちょっと弱い。
 起承転結の「起」の部分で引っかかっちゃうと、後々まで引きずってしまう。杉田一家が本当は自殺をしようとしていたという辺りになっても、ふーんとしか思えなくなっていた。ドアに耳を当てたくらいで警察の喋り声が聞こえるのも何だかなぁ。
 こういう物語は人の営みを見ればいいとわかっていても、リアリティがないと何か入り込めない。

「冬眠のガール」
 両親が自殺して1人残された「わたし」は、「お父さんとお母さんを恨まない」「お父さんの本を全部読む」「死なない」を目標にしていた。4年かけて書斎にたくさんあった父親の本を全て読み終えた日、スーパーで会った中学時代の同級生から「彼氏なしのまま終わりなんて寂しい」と言われ、恋人を探しを新たな目標にする。
 この話は面白かった。恋人探しを始めた美智がビジネス書に書いてあった「新しいことをはじめるには、三人の人に意見を聞きなさい」を実行するんだけど、意見を聞きに行った先での会話が和やかで楽しい。最後にドラマチックな出会いを見付けられそうな辺りで終わるけど、これが出会いだといいなって素直に思えるような可愛い人だった。

「鋼鉄のウール」
 小学生の時に小惑星衝突の発表があり、自分の部屋から出てはならないと言われていた「ぼく」。あたふたと怯え切った父親を見るのがつらいまま、5年が過ぎて16歳になった。相変わらずの父親に自分の家は終わってると確信をして外出したところ、以前通っていたキックボクシングのジムで会長と苗場さんがトレーニングを続けているところを見かける。「ぼく」は再びジムに通い、苗場さんを見ながら5年前までの苗場さんの様子を思い出す。
 終末が来ても変わらないストイックな苗場さんもかっこいいし、死んだ富士岡とのタイトルマッチの対策を続ける会長もいい。けど、父親に「逃げるな」と言えた「ぼく」もかっこいいと思う。苗場さんとのスパーリングは、多分負けるだろう。けど、この終わり方になんだか充足感を感じた。

「天体のヨール」
 首を吊った時に学生時代の友人で天体オタク・二宮との会話が浮かび、そのままロープが切れて自殺に失敗した「俺」こと矢部。もう一度自殺をやり直そうとした時、その二宮から新しい小惑星を見つけたかもしれないと電話があった。「俺」は二宮に会って話しながら、学生時代の彼との会話や後に結婚する千鶴のことを思い出す。
 二宮が話す天体のことや恐竜の話なんかが意外に面白い。そんな中でぽつんと語られる千鶴の死が、そこだけ変に浮かび上がってくる。これまでの5話が変にまとまりがいい分、再び自殺することをほのめかす最後の一文新鮮でもある。直前に「冬眠ガール」の美智らしき女の子が彼氏ができた様子なんでこっちも喜んでたら、最後にふっと鎮めてくる感じ。

「演劇のオール」
 女優の夢を諦めて仙台に戻っていた「わたし」は、インド出身の俳優に感化されて他人の家族を演じていた。早乙女さんの孫、亜美ちゃんの姉、勇也と優希の母をそれらしく演じ、同じマンションの一郎と付き合っている。その日は犬を見付けたため、犬の飼い主も演じてみた。
 「わたし」が別々に接してた人達が最後にしゅっと集まる感じが楽しい。「わたし」が拾った犬が勇也と優希の飼い犬タマ、一郎が実は整体師で早乙女さんの腰を治し、亜美ちゃんが獣医の卵でタマの皮膚病を治そうとし、早乙女さんの家で見たかったビデオが見付かり・・・こういうごちゃごちゃしつつ繋がってる感って結構好きって気付いた。
 短編同士の繋がりが伊坂さんらしいと思いつつ読んでたけど、この話は単品でも伊坂さんらしさが詰め込まれている。

「深海のポール」
 レンタルビデオ屋を営業し続ける渡部の父親は、2年前に同居を始めた時からマンションの屋上に櫓を組み立てている。小惑星がぶつかった直後には洪水が起こると聞いて、人々が水に飲み込まれていくところを見物する予定なのだと言う。
 こういう話って、何かしながら昔のことを思い出すのがデフォなんだろうか。新興宗教にはまりかけてた母親を父親が連れ戻した話や、延滞ビデオを取りに行った蔦原が語る警察官だった父親の話なんかを読んで、この話も思い出満載かとちょっと食傷気味。
 でも、櫓を組み続けるお父さんはやっぱりちょっと愉快で楽しかった。

 同じマンションの住人達を描いてるから物語同士に繋がりがあって、さっきまで主人公だった人が通りかかったりする様子を読むって楽しい。こういう連鎖モノって好き。
 地球の終わりが発表されて荒れた時期を過ぎ、人々が運命を受け入れる心境になりつつある時代を描くというのは新しかった。でも、8人の主人公達全員が達観しててちょっとつまらなくも感じた。みんなして良い子ちゃんすぎだな~と。だから全部同じような雰囲気しか感じられなくて、途中で飽きた。できれば1~2人はっちゃけた人も見たかったな。地球滅亡発表直後に人を殺しまくった人とかさ。はっちゃけた人はみんな通りすがり程度の脇役でしかなかったのが、ちょっと物足りなかった。
 それにしても、8年後に地球滅亡ってなかなか早めの終了宣言だよなぁ。3日後に滅ぶとかだったら、私は閉じこもって家族と過ごしたいと思うところなんだけど。8年だと、滅亡まで生きるか今すぐ死ぬかを選ばないといけない。できるだけ長く家族が一緒にいることを選んだとしても、そのために日々の糧を得る努力が必要だ。そうして外に出て、誰かに殺されたりするとか嫌だし。自分がそうなるのも嫌だし、配偶者がそうなったのを知らないで家で待ち続けるのも嫌だ。だからと言って一緒に出掛けようものなら、いざという時に配偶者の足を引っ張るのは私になってしまって怒られそうだ。うーん、地球滅亡宣言はギリギリの間際まで国家機密でお願いします。
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『ゴールデンスランバー』  伊坂 幸太郎
2009-05-10 Sun 12:05
ゴールデンスランバーゴールデンスランバー
伊坂 幸太郎

新潮社 2007-11-29
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 青柳雅春は大学時代の友人・森田森吾に呼び出される。ファーストフード店では学生時代と変わらない様子だった森田森吾だったが、彼の車で移動後におかしなことを言い始めた。自分は何者からか青柳雅春を誘導するように命令されているから、逃げろと言う。
 仙台出身の金田首相が凱旋パレードを行う中、爆弾を取りつけたラジコンが飛んできて金田首相が暗殺された。森田森吾に言われるがまま逃げ出した青柳雅春は、自分が首相暗殺の容疑者として追われていると知る。
 学生時代に青柳雅春と付き合っていた樋口晴子はニュースを見て驚くが、次第に彼が犯人ではないと確信を深めて、些細な形ながら自分にできることをやっていく。しかしその行動は青柳雅春にとって大きな助けとなる。
 身に覚えのない罪で追われることとなった青柳雅春の3日間の逃亡生活と、逃亡しながら思い返す学生時代を描く。

 2008年の本屋大賞受賞作品。ケネディ暗殺事件の犯人にされたオズワルドをモチーフにした小説であり、同時に個人情報を監視されることになった社会というIFワールドも作りだしている。
 伊坂さんの作品って読み終えた直後にもう一度読みたくなる物が多いけど、これは違った。読んでる最中に最初から読みたくなったという不思議な小説。最初から読みたくなるけど、続きも気になるという物凄いジレンマだった。結局、とりあえず全部読むことを優先させたけど。
 仕組まれた出会い、予め捏造された数々の証拠、街中に設置されたセキュリティポッドからの情報監視により追ってくる警察と、まるでアメリカ映画にありそうなストーリーだった。でも絡んでくる人物達に深みがあるのは小説ならではだと思う。ちょっと展開が強引なところもあるけど、その強引さこそエンタメとして楽しめる箇所なんじゃないだろうか。
 面白いのは構成。最初にニュースを通した般市民の視線から入り、次に20年後にこの事件を調べたルポライターか何かの視線になり、それからやっと当事者・青柳雅春の視線になる。冒頭から引き込まれるという感じではないけど、「ん?何が起こるの?何が言いたいの?」というモヤモヤ感が青柳雅春の主観になった途端に一気に解放されていく。私は3章までをサクサクと流し読みしたから、4章に入って事件が起こった瞬間から最初から読み始めたくなったわけで。20年後の視点で事件の関係者達がどうなったかを先に説明されてるから、「この人は今後こうなっちゃうんだよね」と思いながら読むのは意外と快感だった。
 逃亡に関わっていく人達がなかなかクセがあって、その辺はやっぱ伊坂さんだなぁと思った。殺人鬼の「キルオ」なんか殺人鬼なのに憎めなし、私はむしろあの飄々とした感じは好きだ。コンビニにたむろしている若者達もピリピリした中で和んだし、保土ヶ谷さんの胡散臭さも面白い。ただ、偽青柳雅彦がいるという情報があった病院と、カズが殴られて入院した病院と、保土ヶ谷さんが入院している病院が一緒っていうのはちょっと強引すぎかなと。一緒の病院でないと話が繋がらないし、それまでの強引な展開は楽しめたんだけど、クライマックスにつながるシーンが強引だとちょっとだけ萎える。
 とはいえさすが伊坂さん。人間同士のつながりに、じんとくるものを残してくれる。樋口晴子だけじゃなく、2年前に強盗から助けたアイドル、学生時代にバイトをした花火屋の轟さん親子なんかの協力で見事逃げ切るわけだけど、そうやって助けてくれた人達の存在こそが青柳雅春の人生だったんじゃないだろうか。
 読み終わっていまいちスッキリしないのは、青柳雅春の逃亡が成功して終わりだという点。ケネディ暗殺事件同様、誰が仕組んだ陰謀だったのか等の真相がわからない。青柳雅春もオズワルドのように暗殺されるかと思ったけど、最終的には逃げ切れた。じゃあ真相究明に関しても違っていいじゃないか!誰が仕組んだのか知りたいんですけど!みたいな。
 自分の無事を知らせる方法は面白かったんだけど、できれば青柳雅春には大手を振って歩ける生活ができるようになってほしかった。でも敵は結構ビッグな存在だろうから、真相を暴いて世間に公表するような話となると伊坂ワールドじゃなくなるかな。悪い言い方をすると、伊坂さんの手には余るストーリーになってしまいそうだ。この辺は好みの問題で、ただ単に私が勧善懲悪が好きってだけなんだけど。悪い奴はちゃんとお仕置きされてほしい。
 事件が起こってからの疾走感は、さすが本屋大賞受賞作だけある。やっぱこの賞が一番ハズレがない。ていうか、この賞ができて以来ずっとノミネートされてる伊坂さんが凄いんですけど。今回ようやくの大賞受賞、おめでとうございます。
 余談だけど。ルポライターみたいな人がこの20年後にこの事件について調べたって設定のせいなのかな?登場人物がずっとフルネームで書かれてた。だから私もそれに合わせて感想書いたけど、なかなか面倒だった。あんまり親近感湧かないし。勝手に感想書いてる私の心情の問題なんだけど。
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『ラッシュライフ』  伊坂 幸太郎
2009-02-28 Sat 16:24
ラッシュライフ (新潮ミステリー倶楽部)ラッシュライフ (新潮ミステリー倶楽部)
伊坂 幸太郎

新潮社 2002-07
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 「金で買えないものはない」がモットーで、ビルのオーナーであり画商でもある戸田と、彼と共に仙台に向かう画家の志奈子。ポリシーに従って仕事をする、ちょっと変わった一匹狼の泥棒・黒澤。高橋を神だと崇める河原崎は、幹部の塚本に高橋を殺して解体しようと持ちかけられた。不倫関係にあるカウンセラーの京子とサッカー選手の青山はお互いの配偶者を殺そうと画策していたが、突然京子の夫の方から離婚を切り出される。豊田はリストラに遭い、家族にも去られ、再就職先を探すも40社連続で不採用となっていた。
 
 場面展開が多すぎて、最初はついていけなくてやや混乱する。とはいえフィクションである以上バラバラだった話がひとつにまとまるのはよくある手法で、いつかどこかで繋がるだろうと気にせずに読み進めていった。
 けど、よくある手法とか思ったのはとんだ大間違い。風景なんかが少しずつリンクしていたから何の疑問も抱かずに読んでたけど、時間軸まで操られていたことに気付かされるのはわりと後になってからだった。え?あれはここに繋がってたの?これはそうなってたの?というシーンがゴロゴロころがってている。リンクアイテムのひとつに「エッシャー展」があったけど、物語自体がエッシャーのだまし絵のようだった。進んでると思ったのに違う時間軸に乗せられてて、少し前に読んだシーンに引き戻される。
 それぞれがぶつかる出来事も、何とも奇妙だ。黒沢は盗みに入ったマンションの一室で大学時代の友人とばったり再会し、語り合う。河原崎は塚本に言われるがまま、解体されていく神・高橋の死体をスケッチしていく。車で人を撥ねて死なせてしまった京子と青山はその死体をトランクに積み込むが、死体は2度も勝手に落ちたうえに気が付くとバラバラになっている。豊田は女から鋏を向けられた犬を助けて共に行動しているうちに、拳銃を手に入れて郵便局に強盗に入った。
 彼らそれぞれに起こる降ってわいたような奇妙な出来事も、時間軸トリックの種が明かされると全てが必然だったと思わされる。この物語作りのセンスの良さは何なんだ。伊坂さんがデビューしてから2作目の作品みたいだけど、この頃から大物になる兆しがキラッキラに輝きまくってるじゃないか。
 『オーデュボンの祈り』の伊藤さんのことが話題に上がったりして、島を出てからそんな所でそんなことしてたのか~とちょっと嬉しくなる。しかしその経験ゆえに、やっぱ何だか変人扱いなんだな。
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『死神の精度』  伊坂 幸太郎
2008-07-21 Mon 00:00
死神の精度死神の精度
伊坂 幸太郎

文藝春秋 2005-06-28
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 寿命以外で死ぬ人間の前に人間の姿で現れ、7日間調査して「可」または「見送り」の判断をするのが調査部に属する死神の仕事。ほとんどの場合において「可」の決断が出るという儀式的というかお役所仕事的な調査でも、「私」は真面目に調査を行う。
 死神は調査対象に合わせた外観になることができ、ミュージックをこよなく愛し、素手で触られた人間は気絶し寿命が1年短くなる。食事や睡眠の必要はなく、電波に乗った音声を聞き取ることができる。調査対象の人間は調査中の7日間は死ぬことはない。
 これは雨男の死神「千葉」の仕事を描いた6編の短編集。

「死神の精度」
 大手電機メーカーの苦情処理をする二十二歳の藤木一恵に近付くことに成功した「私」。外見も性格も地味な彼女の仕事はただでさえつらいが、最近は特に変な人がいると言う。苦情の電話で自分を指名して文句を言うが、何度も謝らせたり何か喋れと言ったり、故障の原因を説明しろと言ったり、歌ってみろと言ったり、最終的には会いたいと言ったり。彼女はその仕事がつらいと、鬱々と死にたがる。しかしその男は実は音楽プロデューサーで、藤木一恵の声に才能を感じて電話をかけ続けていたらしい。ミュージックをこよなく愛する死神として「私」はしばらく悩んだが、この調査を「見送り」にした。
 死を扱う短編物語で、いきなり死なないはなしかい!とちょっとがっかり。何かちょっと物足りない気がするのは、藤木一恵自身の感情が沈みっぱなしで終わったからだろうか。

「死神と藤田」
 調査対象である藤田は、今時任侠のやくざらしい。栗木の組から命を狙われ、今は藤田を崇拝する阿久津に身の回りの世話をさせながらマンションに隠れている身だ。しかし上役が藤田を裏切り、彼を売ろうとしているらしい。組と藤田の板挟みになっていた阿久津だったが、やはり藤田が負けるのが許せないと「私」を連れて栗木を殺しに行った。しかしあっけなく捕まり、藤田を呼び出す人質にされてしまった。
 これは途中でオチがわかっちゃったなぁ。いちやくざに狙われたくらいで、幹部だか組長だかの栗木が用心棒を新しく雇うわけがない。鉄砲玉(表現古い?)はたくさんいるだろう。ということは話の流れ的に、栗木の横にいたのは死神か。とか冗談半分で思ってるとビンゴ。こういうの、当たってもあんまり嬉しくないなぁ。楽しめないじゃないか。
 でも、後日談好きな私がちょっと後日談を考えてみる。絶対絶命の藤田が生き残って栗木が死に、翌日に藤田が何らかの事故で死ぬとしたら、阿久津の中で藤田は神様になるだろうな。阿久津はきっと立派なやくざになるだろう。そう考えると、ちょっと楽しい。

「吹雪に死神」
 「私」の調査対象は田村聡江という中年女性。旅行ペアチケットが当たって夫婦で洋館に泊まっているが、その洋館の宿泊客の何人かは死神の調査対象になっており、既に「可」の報告が出ているらしい。他に権藤父子、女優の卵の真由子、童顔の料理人、が来ており、真由子の恋人が遅れてくることになっていた。
 調査部の話によると、雪の中の洋館で次々と人が死ぬことになるらしい。その言葉通り、まずは田村聡江の夫・幹夫が毒死し、次に権藤父が刺殺された。全員が沈み込む中、やってきた真由子の恋人は「私」の同僚だった。同僚によると、真由子が死ぬのは明日らしい。翌朝「私」は真由子が刺殺されたのを確認してから全員に報告し、自分が考えた真相を語る。
 いきなり定番ミステリーだけど、その死全てに死神が絡んでるっていうのが面白い。謎解きには死神でしか知り得ない事から得たヒントもあってずるい!と思う反面、死神という設定が活きたミステリーでもあった。

「恋愛で死神」
 調査対象の荻原は、毎朝バス停で会う古川朝見に恋をしていた。調査を始めた初日にその事を知った「私」だが、彼女は荻原のことを最近頻繁に電話してくるストーカーと勘違いしていた。詳しく聞くと、最初はマンション購入の勧誘から始まった電話がエスカレートしてきているらしい。その話を聞いた日から2人は急速に仲良くなっていった。
 外見がいいことがコンプレックスになってダサい眼鏡をかけ続ける青年が恋をするという話だけど、荻原が死んだシーンから始まってるから変な期待をせずにその死を受け入れられた。そして、恋愛ごときで死神が「見送り」を出さなかったことがむしろあっぱれ。1話目では最愛のミュージックのために「見送り」の判定を出したけど、重視されがちな恋愛では心を動かされることなく「可」にする。そういうクールな感じ、かなり好き。まあ、古川さんはかわいそうだけども。

「旅路を死神」
 調査対象の森岡耕介は、「私」が調査部に言われた通りに車を運転していると血の付いたナイフを見せて乗ってきた。彼は母親を刺し、街で若者を刺したという彼は、十和田湖の奥入瀬に行くと言う。「私」は彼に言われるがまま運転した。移動しながら森岡は、少しずつ自分のことを語った。幼少の頃に誘拐されたことがあったが、その犯人グループの一人と母親が繋がっていたことを知って母親を刺し、街で馬鹿笑いしていた若者に腹が立って刺した。短絡的思考の森岡はさらに電話の相手の居場所を調べ、犯人グループの一人だった深津を殺しに行こうとしていた。
 この話の中で、駐車場の壁に落書きをする青年が出てくる。吹き出しそうになるくらい驚いた。『重力ピエロ』の春くん?春くんがが落書きしてるとこじゃないか。あの作品は結構好きだから、春くんに思いがけず再会できたことは嬉しかった。でも同時に、あの幸福と不幸がごちゃまぜになった作品の切なさも思い出す。
 調べてみるとやっぱ春くんだった。あと、泊まったホテルも『重力ピエロ』で落書きされたホテルだったらしい。それは気付かなかった。『重力ピエロ』には『オーデュボンの祈り』の伊藤が出てきてたし、この著者はこういう作品同士のリンクをする人みたいだね。

「死神対老女」
 この話の調査対象である七十歳の美容師の老女は、「私」が彼女の死を見届けに来た事に気付いた。彼女の周囲では不慮の事故で亡くなる人が多いと言う。そのため、人が死ぬ時の空気に敏感になっているそうだ。
 街に出てCDショップに行こうとする「私」に老女は、街で若者を数人、明後日髪を切りに来るように声を掛けて来て欲しいと頼んだ。最初は苦戦したが、見かねたビラ配りの男が色々教えてくれて当日は自分が声を掛けた中から5人の若者が来ていた。
 翌日、老女が「私」に頼みごとをする時に居合わせた女性が、どうして客を呼びたくなったのかを聞きにきた。老女には息子が2人いたけど、長男が落雷で死んでから母親としての仕事を放棄した彼女に怒ったのか呆れたのか、次男は音信不通になっていた。しかし急に電話があり、孫の存在を教えた。孫は老女に会いたがってるが次男は会わせたくない。そのため、孫にはあくまで客として行くこと、余計な話はしないことを条件に出していた。老女は孫に会うのが怖いし緊張するし恥ずかしいと、老女は孫が来ることになっている日に何人か若者を呼び、どれが孫かわからないようにしたかったらしい。その日「私」は初めて晴天を見た。
 1話目の藤木一恵が歌手デビューしてて彼女のCDが「だいぶ前のCD」として出てくるし、終盤近くで老女が古川朝美だったことが判明する。なぜか美容師に職業換えしてるし。昔は映画の配給会社に勤めてるんじゃなかったっけ?古川さんはなかなか不幸な人生を送ったみたいだけど、50年くらい経ってこんなに素敵なおばあさんになってるとは。
 そうそう、「私」が最後にきれいな晴れを見ることができて良かった。

 死神て・・・・。淡々としてるくせにいきなりのファンタジーカラーにびっくりした。最初の数ページはかっこつけた導入だと思ってたら本当に「死神」だなんて、なかなか引き込ませられる導入じゃないか。そして寿命以外の不慮の死は全て死神が決めているという理不尽さと、「私」のクールさで妙なかっこよさがある。それなのにミュージックへの愛はとても深い。その設定が面白い。
 でも何でだろう、何か物足りないんだよなぁ。人気作者の人気作品なのに、楽しめない自分が不甲斐ない。天然風の死神「私」が他の登場人物と交わす会話は愉快だし、死を与える死神から見た人間模様も面白いけど、物足りない。結局物語の中では死なないからだろうか。ちゃんと死に様を描かれてたのは荻原だけだったからかな。死に様を描かない代わりにこちらの感情を揺さぶってくれるようなシーンがあったら良かったんだけど、とりあえず私の感情は揺さぶられなかった。
 うーん、やっぱこの作家さんとは相性悪いな。
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『重力ピエロ』  伊坂 幸太郎
2008-04-23 Wed 00:46
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伊坂 幸太郎

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 弟の春から「兄貴の会社が放火に遭うかもしれない」という電話を受けた翌日、実際に会社が放火された。春は、放火現場の共通点に気付いたと言う。
 主人公の「私」と弟の春は2歳違いだけど、血は半分しか繋がっていない。春は、母親は連続婦女暴行犯に襲われた時に出来た子供だった。父親は産み育てることを即決し、我が子として育てている。現在、母親は他界し、父親は癌のために入院。「私」は遺伝子情報を扱う会社に勤めていて、春はグラフィティアートを消すことを仕事にしている。
 春が父の病室で、放火現場の近くには必ず同一人物によって描かれたと思われる英単語のグラフィティアートがあると話した。初めは面白半分に聞いていた父と、何となく聞いていた「私」だったが、2人とも段々と興味を持ち、それぞれ自分なりに調べていく。

 春はとても魅力的な外見をしていたけど、その出生から性的な物をとても嫌悪している。「私」は春を大切な家族だと思う気持ちと、母親を暴行した男を憎む気持ちの間を彷徨っている。その男を憎むと春の存在を否定することになるという矛盾が時々「私」の中に生まれていた。
 序盤で読み始めたことを後悔したくなるようなすごく重い設定と、どうにも微笑ましく仲のいい家族とその思い出。このアンバランスと言うかナイスバランスと言うか、どっちにも偏ってない按配がとてもいい。放火事件の話であり、遺伝子の話であり、家族の話であり、最強の話だった。
 わかりやすい伏線が多かったから、かなり最初の方で物語の全体が何となく想像ついた。伊坂さんも伏線隠してなかったし。犯人も最終目標も思った通りの結末だったんだけど、でも全然がっかり感がない。結末に至るまでの「私」、春、父親、母親の関係が微笑ましいし羨ましい。両親が春を産むという決意は誰にでもできることではない。兄と分け隔てなく育てるなんてなおさらだ。だから「私」と春の関係はとても良好で、読んでいて幸せな気分になれる。だけど春は暴行犯の子供で、この幸せな気分は暴行事件の結果で・・・と私までこの矛盾の中に放り込まれた。
 だけど最後は、多少すっきりした。矛盾は解決しないけど、私は春の行動を讃えたい。ていうか、面倒な手順なんか踏まずにジョーダンバットでも良かったんだけど。でも、春の性格だったらそれはなかったんだろうな。だから伊坂さんは春の性格をこういうふうに作ったんだろうし、春の性格がこうだったら、やっぱりこの結末で良かった。春も「私」も、少しでも気持が楽になっただろうか。
 伊坂さんは相変わらず会話シーンがいまいちで、会話文も地の文も微妙になるんだな。でも今回は話がすごく面白かったから、あんまり気にならなかった。『オーデュボンの祈り』の伊藤さんがちらりと出てきて、「私」とほんのちょっと関わっていったのも良かった。こういう風に他の作品のキャラが出るのって、わりと好き。
別窓 | [あ行の作家]伊坂 幸太郎 | コメント:0 | トラックバック:0 |
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